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27 三日目 昼の追放会議

 生き残った六人がパソコンのモニターで生存状況を確認した時の反応はバラバラだった。大別すると、お姉さんが大袈裟に驚き、少年とフェミニンが残念がり、地味子とコドモが無反応で、リーダー一人が難しそうな顔をするのだった。


「ご覧の通りだ」


 ゲームマスターが現在の状況を伝える。


「昨日襲撃が行われたということは、『人狼』がまだ諸君らの中に潜んでいるということになる。よって、ゲームは続行だ!」


 会議が始まって一番に口を開いたのはリーダーだった。


「先に行っておくが、これは罠だ。俺が『人狼』だとして、昨日の会議で俺を疑っていたマジメを襲撃するか? するわけがない。そんなことすれば俺が投票される流れになるって決まってるからな。そこまで読めるんだから、そんなことするはずがないだろう? 遊びなら裏をかくことができるが、リアル版は命が懸かってんだ、やるわけがない」


 少年が突っかかる。


「その潔白アピールのために、わざとやったんじゃねぇの?」

「だったら、どうやってこの窮地を脱すりゃいいんだよ?」

「『人狼』仲間が助けるとか?」

「その仲間ってのはどこにいるんだ?」

「そのうち正体を現すだろ」

「解ってねぇな」


 絶体絶命なのでリーダーも必死だ。


「俺が仲間を信じて自分の命を犠牲にすると思うか? ねぇんだよ! 会ったばかりなんだぞ? それでどうして裏切りはないと思えるんだ? 身内を切れば賞金を独占できるのが、このリアル人狼ゲームだ。だから、犠牲作戦は、ない!」


 少年を論破したが、それでもリーダーの表情には余裕は生まれなかった。ここでお姉さんが会話に参加する。


「とりあえず、どういう状況?」

「リーダーに投票するだけだ」


 少年は何を言われても投票先を決めているようである。


「それで得をするのは人狼チームかもしれないのに?」

「あんたが仲間か」

「へぇ、こんな簡単に正体を現しちゃうんだ?」

「図星だろ?」

「短絡的」


 お姉さんには微笑むくらいの余裕があった。少年が黙ったので、ここでフェミニンも会話に参加する。


「でも正直、リーダーに票が集まる流れだから、僕たちは何も喋らない方がしのげるよね、あっ、チームが勝つか負けるかは分からないけど」


 少年が仲間を見つけたように嬉しそうな顔をする。


「じゃあもう投票まで休憩でいいか」

「勝手に抜けたらお前に票を集めるぞ」


 リーダーによる脅しだ。それに対して少年はニヤけ顔で応酬するのだった。


「俺に票を集められるかな?」

「やっぱり解ってねぇな」

「何が?」

「運ゲーなんだから、俺でもお前でも変わらないってことだ」

「そんなわけあるか」

「じゃあ、試しに抜けてみろよ」


 そこで地味子が手を上げたが、わざわざ話を振る人はいなかったので、恐る恐る会話に参加するのだった。


「お姉さんが質問していたので、状況をまとめてみました」


 メモを見ながら説明する。


「今回初めて『人狼』の襲撃を受けたので、ゲームが始まって、やっと初めて『市民』の一人が確定したんです。つまり死んだマジメさん以外、残り八人は依然として不明のままです」


 ゆっくりした喋り方だけど、時間はたっぷりあるので急かす者はいなかった。


「そこで確定したマジメさんを軸に考えたんですけど、彼が『占い師』ならばリーダーが『人狼』で間違いないと思います。しかし彼は『占い師』が名乗り出ることに消極的な立場でした。そう考えると、『人狼』を占えたのに名乗り出ないのは矛盾しているので、マジメさんは『占い師』ではなかったと思います」


 リーダーが申し訳なさそうに話を受ける。


「いや、否定してくれたから迎合したいところなんだけど、やっぱりこのゲームは理詰めでどうにかなるもんじゃないんだ。昨日の『占い師』企画だって、あの中に本物の『占い師』がいたとしても、実際に占った結果を公表したとは限らないからね? マジメが本物の『占い師』で別の誰かを占っていて、その上で俺を追放するために嘘の占い結果を発表した可能性もあるんだ。だから俺は依然として怪しいままだ」


 現状認識に優れているから、リーダーも追い込まれた顔をしているわけだ。そこでお姉さんが質問する。


「他に確定してることはないの?」


 地味子は自信をなくして黙ってしまったので、リーダーが答えるのだった。


「残念ながら、何もない。『人狼』は一人かもしれないし、二人かもしれない。一人だった場合は五対一だが、二人なら四対二だ。それで市民チームが勝とうと思ったら、連続して追放しなければならないということになる。その間に襲撃を受けなければならないから圧倒的に不利な状況だ」


 そこでフェミニンが笑う。


「これだけ僕たちが追い詰められているということは、ルール決めの段階で初期設定を間違えたってことなんだよ。これだけ人狼チームにとって潜伏しやすい状況になってるということは、最低でも『霊媒師』を加えるべきだったと思う」


 リーダーが否定する。


「それでも変わらなかっただろう。この中に『占い師』がいたとして、既に二回も占ったことになるが、だからといってカミングアウトするか? 俺ならしないね。無条件に『騎士』を信じることはできないからな」


 賞金の山分け制度がゲームの命運を左右させていることに気がついているようだ。それについてもオープンに話し合うのがリーダーだ。


「ただし、勝ち切るのが難しいのは市民チームだけじゃないんだ。『人狼』を引けば最低でも、その時点で賞金の半分を手にしたことになる。それを独り占めしようと思ったら、話の流れに乗じて裏切ることも考えられるからだ。同数決着がないという特殊ルールは、市民チームにとって限りなく有利に働いていると思う。『人狼』が二人も残っているなら、裏切るには丁度いいタイミングだからな」


 そそのかすように誘惑しているが、それが今できる精一杯の戦術なのだろう。


「だから昨夜の襲撃だけど、マジメを追放するなら昨日じゃないんだよ。なんで俺がわざわざ裏切られやすい状況を自分で作るんだって話だ。『人狼』は話し合ってターゲットを決めてるんだろう? 俺がそんなことするか?」


 少年が指摘する。


「それは『人狼』がリーダー一人だけになったからじゃね?」

「だとしてもマジメを襲撃するのは昨日じゃない」


 リーダーが諭すように説明する。


「何度でも言うが、リアル版は運ゲー以外の何物でもない。いかに遊び版が犠牲と命の軽さで成り立っているか分かったよ。遊び版の戦術なんて、リアル版ではクソほど役に立たないんだ。だからこそ初心者が最後に笑う可能性があるんだけどな」


 そこでお姉さんが思いつく。


「だったら、いっそのこと運を天に任せてみる?」

「じゃんけんはダメですよ、リアルじゃんけんゲームじゃないんで」


 お姉さんには笑うほどの余裕があった。


「そうじゃなくて、どうせ運で決まるなら単純に嫌いな人に投票すればいいんじゃない? 嫌な人に幸運を掴ませないようにするの」


 よほど自分に自信があるようだ。


「昨日のマジメ君は『市民』だったからピンチなんだけど、正直言うと、死んでも何とも思わなかった。むしろ、いい気味だと思ってる。だってアイツは女をバカにしてるんだもん。本人に自覚はなかったかもしれないけど、そういう人って言葉の端々で分かるんだよね。女の勘は好きな言葉だけど、アイツはバカにしたように使ってたから。だからそういう人は死んで良かった」


 それを聞いて少年が考え事を始めるのだった。誰も話を受けないので、リーダーが検討を始める。


「たっぷり時間があるのでやってもいいですけど、結局は俺になる気がするんだよな。そもそも嫌いの基準は何ですか? 喋ってない人や口数が少ない人がいるから、どう考えても俺か少年になりますよね?」


 お姉さんもそこまで深くは考えていなかったようである。


「だから、うーん、どうしようかな? 色々みんなで世間話をして、それから決めればいいんじゃない?」


 そこでフェミニンが思いつく。


「だったら初日のキモオヤジみたいに、罪の重さを比較して決めるっていうのはどうかな?」


 全員が固まった。


「ごめん、僕、言っちゃいけないこと言ったみたい」


 お姉さんが反応する。


「いや、そうしよっか」


 一瞬だけ考えたが、前向きなので、どうやら勝算があるみたいだ。


「ある意味、それが公平ともいえるな」


 窮地のリーダーにとって、否定する選択はなかったようである。


「他の者は?」


 様子を窺いつつ、誰も声を上げないので、地味子が発言する。


「私も、それで構いません。全員が『占い師』の振りをしても、もう決め手がありませんし、既に死んでるかもしれないので、新たな提案を採用した方がいいと思います」


 少年が長考した末、結論を出す。


「俺もいいよ。どうせ反対しても四人が賛成してるもんな。次の戦いは自己弁護バトルってわけだ。喋りが下手な奴が賛成してるけど、後悔すんなよな」


 最後にリーダーがコドモに意見を聞いたが、返事がないまま小休憩することになった。



   *   *   *



 十分後に会議を再開する予定だったが、全員が顔を揃えたのは、それから更に五分が経過した後だった。


「全員揃ったことだし、始めようか」


 回し役はリーダーが務めた。


「誰から行く?」

「それは言い出しっぺのフェミニンちゃんでしょう」


 お姉さんが裏回しをしているようなものであった。


「僕かぁ、いいけど、僕が喋った後に、やっぱり止めたってのはナシだからね」

「大丈夫だから」


 フェミニンが告白する。


「僕が犯した罪は、強盗殺人です」


 大きな声を出したので、お姉さんには意外だったようだ。


「よくそれで罪の重さで決めようって思ったね」

「違うの」


 可愛い顔と猫撫で声で否定するが、そのギャップにリーダーもドン引きしている様子であった。


「強盗を計画したのは友達で、僕はそれを手伝っただけ。ほら、身体が小さいでしょう? それで思いついちゃったみたい。でも、後悔してる。だって、殺すつもりなんかなかったんだもん。絶対に大丈夫だって言うから――」


 そこで首を振る。


「ごめん、嘘ついた。本当はお金が欲しかった。でも、そんな、人を殺してまで欲しかったわけじゃないよ? 盗む予定のお金だって数万円だって言ってたんだもん。でも、なぜかその日は金庫にたくさんのお金があって、だからだと思うけど、いるはずのないオジサンもいて、それで見つかって、近くにあった物を無我夢中で投げてたら、死んでたの」


 この場には犯罪者しかいないので、全員が無表情で映画を観ているような顔をしていた。特に反応もなく、リーダーもオッサンや少女の時のように激情のスイッチが入ることもなかった。


「早く話した方がいいと思うから、次は私が行くね」


 特に感想もなく、お姉さんが二番目に告白することとなった。


「私が犯した罪は、子供の虐待死」


 つらそうな顔をしながら説明する。


「本当に、どうかしてた。ちょっと悪い男と付き合ってた時期で、その頃は考え方もおかしくなってた。それまでちゃんと大事に育ててきたのに、ほんとね、その男と付き合ってた時だけ、男の子供嫌いの感情が、私まで移っちゃったんだよね。でも、今は子供が家の中で泣いてるだけで通報されちゃうでしょ? だから男の暴力からは絶対に守らないとダメだと思って、頑張ってたんだけど――」


 お姉さんが首を振る。


「違う。自分を守ってたんだ。子供を庇うと私を蹴飛ばしてくるでしょう? それがもう耐えられなくなって、子供がいなければって考えちゃったんだよね。なんで別れないのって思うかもしれないけど、その時は全ての言動が私のためだって思って、愛されてると思っちゃってて、子供を邪険にするのも、私のことが好きで仕方ないんだって。だから、ほんと頭がおかしかった」


 これを聞いても、リーダーに激情のスイッチが入ることはなかった。他の者からも反応がないので、地味子が様子を窺いながら発言する。


「次は、私が、行きましょうか?」


 返事をする者がいないので意を決する。


「私が犯した罪は、お婆さんの殺害です」


 朴訥な語り口なので、それだけで反省しているように見える。


「私は本当にダメで、仕事が続かなくて、ちゃんとした働き口が見つけられなくて、人に言えないような仕事もしました。そこで知り合った人から、稼げる仕事があるよって言われて、それが詐欺の受け子でした。でも、ほんと、最初は何をする仕事か分からなかったんです――」


 そこで首を振る。


「でも、結局はやっちゃったんだから、ダメですよね。今は電子マネーとかが多いみたいですけど、私がやったのは昔からあるお金をもってこさせるやつで、これだけ問題になってるけど、まだ引っ掛かる人がいて、そういう人はお金に余裕があるからって、その言葉を都合よく聞き入れちゃったんです。おばあちゃんが目の前で心臓を押さえて、そんなことになるなんて思わなかった」


 ここでもリーダーに激情のスイッチが入ることはなかった。しばらく無言が続いたので、少年が尋ねるのだった。


「次はどうする?」

「行かないのか?」


 リーダーが探りを入れた。


「俺は本当に殺してないからな」

「だったら俺が先に行くよ」


 リーダーが名乗りを上げた。


「俺が犯した罪は、ホームレス殺害だ」


 リーダーに対しても反応はなかった。


「ここで反省の弁を述べた方が同情を引くことができるだろうが、俺はそんなことはしたくない。なぜなら今も間違ったことをしたとは思っていないからだ。公共の場所を不法占拠していいはずがないからな。実際に俺が殺した後は、街が綺麗になった――」


 そこで首を縦に振る。


「家族で散歩したり、カップルがデートしたり、そういった安心を与えたのは役所じゃなくて、この俺だ。捕まってないから誰も知らないけどな。今後も出頭するつもりはない。奴らは自ら進んで法域の外に出たんだから、都合よく行き来するなって話だ」


 リーダーの太々しい態度は、絶対に論破されないという自信からくるのだろう。


「どっちがいい?」


 少年がコドモに尋ねるが、返答はなかった。


「ここでもダンマリかよ」


 仕方なくといった感じで告白する。


「俺は多分、中学生を強姦ってヤツだと思うんだけど、確かにヤッたけど、別に強姦じゃないし、中学生っていっても、俺もその時は高校に入る前だったから、それの何が悪いのって話なんだよな――」


 そこで首を捻る。


「そもそも殺してないんだよ。昨日死んだ少女と違ってイジメてもいないし、それだけは断言できる。自殺したけど、そんなの理由は本人にしか分からないだろ。強いて言えば恋愛関係のイザコザ? そんなのよくある話だし、ちゃんと同意もあったし、向こうも気持ちよくなってたし、ハハッ、これって誰がどう裁くんだよ?」


 敵対視されている少年に対しても、リーダーに激情のスイッチが入ることはなかった。しかし他の者にスイッチが入る。


「クズがっ!」


 お姉さんだ。


「はぁ?」

「同意ってなに?」

「拒まなかったんだから同意だろ?」

「拒めないようにしたんだろうが」

「それで何度も股を開くか?」

「廃人にした証拠だね」

「勝手に決めんなや」

「バイバイ」

「殺すぞ、ババア」


 お姉さんが他のプレイヤーに呼び掛ける。


「みんなでこの強姦魔に投票しよう!」


 少年が猛反発する。


「殺してないのに殺したヤツより罪が重いのかよ?」

「やっぱり大人が責任を持って子供を裁くって大事だね」


 その理論はリーダーのパクリだが、それを指摘する者は皆無であった。


「それでは皆さん、私は少年Aに投票するから、また夕方に会いましょう」


 そう言うと、お姉さんは一人で勝手に休憩を取ってしまうのだった。


「リーダー、あのオバサン怪しくねぇか?」


 少年が泣きついた。


「お前、さっき自己弁護バトルって言ってなかったか? だったら自分で考えろ」


 そう言って席を立ったので、助ける気はないようである。リーダーがいなくなったので、他の者も休憩を取り始めるのだった。そして、少年だけが画面に取り残されるのであった。

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