26 毒物混入殺害事件
十九歳の渡辺正志(仮名)は礼儀正しく、仲間と冗談を言い合うのが好きな明るい性格の持ち主だった。
勤務態度も真面目で、高校を卒業してから働き出した工場での仕事では、これまで一度も問題を起こしたことがないのであった。
小学生の頃から野球をやっており、将来を嘱望されていたが、大怪我をして大学の進学を諦めたという過去もある。
それでも地元の草野球大会では存在感を発揮して、リトルリーグのコーチを打診されたこともあったのだが、その夢は本人の意思とは別に絶たれたのだった。
「いつも、ありがとうございます!」
球場に差し入れられた飲食物の中に毒物が混入していて、それで重傷者多数、うち四人が中毒死してしまったのだった。
数か月後に同種の毒物を扱う経営者の男が逮捕されたが、動機がなく、一貫して無罪を主張していたが、死刑が確定した。
結審後も否認を続けており、再審請求も行ったが、地裁はこれを棄却したのであった。さらに即時抗告するも、高裁も同様の判断を下すのであった。
真相は不明だが、検察側にシナリオの創作があったことが明らかとなっており、一部の人間による杜撰な裁判によって、司法制度を根底から揺るがしてしまうという、別の意味でも大事件となった。