24 幼児虐待死事件
四歳の伊藤友宏くん(仮名)は行儀がよく、人の言う事をしっかり聞くことができる、手の掛からない子だった。
また、絵を描くのが大好きな子でもあった。褒めてもらったのが嬉しかったようで、喜んでくれるような絵を何枚も書き残したのだった。
幼児期でありながら一人でお留守番をすることが多かったのだが、親が不在でも問題を起こすようなことは一度もなかった。
新しいオモチャを欲しがることもなく、食事やお出掛けの際にも駄々をこねることはないので、傍目からは可哀想なくらい健気な子供に映っていたのであった。
「いってらっしゃい」
そう言ってお見送りする子の笑顔は、実の親によって奪われたのだった。死因は入浴時における事故と判断された。
容疑者の周りで過去に似たような事故が起こっていたので、親が逮捕されて取り調べを受けたのだが、完全否認を貫き、拘留期間中に自供させることができなかったため、立件が見送られたのだった。
捜査員を悩ませたのは虐待の有無だった。身体に痣や骨折痕がなく、周辺の人物からも虐待が疑われる話を聞き出すことができなかったため、決め手を欠いたというわけだ。
情報化社会とは、知恵をつけた犯罪者との戦いでもある。閉ざされた家庭内で被害者を生み出さないためには、積極的に関わって、日常的に証拠を記録していくしかないのである。