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18 一日目 昼の投票

 監禁場所である廃業したラブホテルの部屋は全て窓が塞がれているため、日が傾いても部屋の明るさが変わることはなかった。


 プレイヤー九人は追放会議が早めに終わったこともあり、午後二時から休憩を取り、投票予定時刻の三十分前まで思い思いに過ごしたのだった。


 会議中は三十分刻みで残り時間を報せるシステムなので参加者に遅れが出ることもなく、滞りなく投票が行われた。普段は時間にルーズな者も、大金が懸かっていれば素直に従うというわけだ。


「マスター、ちょっといいか?」


 休憩が明けて九人がパソコンの前に顔を揃えた時、開口一番、オッサンが主催者の狼男に呼び掛けるのだった。


「どうした? 今さら俺に泣き付いたって無駄だぞ」


 他のプレイヤーは静観している様子だ。


「いや、そうじゃなくて、どう考えたっておかしいだろう。こんなのは人狼ゲームじゃない。おたくは俺たち九人にリアルな人狼ゲームをやらせたかったんじゃなかったのか? だったら他の奴にゲームのルールを守らせるべきだ」


 表情が変わらないので、狼男の感情を読むことはできない。


「特にルールから逸脱しているとは思わないが?」


 ゲームマスターからも見放されてしまったようだ。


「なぁ、マジメさんよ、いや、学士様」


 オッサンが懇願する。


「おたくは今の状況が危険だって理解しているはずだ。市民チームが勝つには、この初日で『人狼』を追放しなくちゃならないって知ってるはずだぞ? まだ三十分近く時間があるんだ。だから、ちゃんと話し合って『人狼』を炙り出すべきなんじゃないのか?」


 マジメが問う。


「その炙り出す方法は?」

「だから、それをみんなで話し合ってだな」


 リーダーが口を挟む。


「結局、丸投げかよ」

「お前は黙ってろ」

「みんなで話し合うんじゃなかったのか?」

「いいから引っ込んでろ」


 リーダーもそれ以上は相手にしなかった。その代わりに少年がニヤニヤしながら話し合いに加わる。


「で? オッサンは誰が怪しいと思ったの?」

「カードをめくった時、リーダーだけ表情が変わったな」

「それ、バイアス掛かってんだろ」

「いや、俺は見逃さなかった」

「因縁のつけ方がヤクザそのものだな」


 少年もそれ以上は相手にしなかった。その代わりにお姉さんが興味津々といった感じで話し合いに加わる。


「『人狼』は二人なんだけど、リーダー以外に怪しいと思った人はいる?」

「嬢ちゃん、いや、少女が怪しいな」

「ハア?」


 名指しされた少女が声を上げるが、お姉さんが手を振って制止させてから尋ねる。


「怪しいと思った理由は?」


 オッサンが思い出すように説明する。


「俺たちは前日に夜中まで何度も練習試合をしたよな? その時に何らかの役職を引いた時と引かない時で反応が変わる者がいた。他の奴は反応がバラバラだったけど、少女だけは画面の隅を見ながら固まって考える間を作るんだよ。それが『市民』以外の九分の四を引いた時だった。だから今回も間違いなく『市民』以外を引いている。それが役職持ちか『人狼』かは分からんけどな」


 お姉さんが首を傾げる。


「さっきは『怪しいのはリーダーだけ』って言ってなかった?」

「いや、聞かれて思い出した。そういうことってあるだろう?」


 お姉さんが相手にするのを止めたのを見て、ここで少女が反論する。


「私はド『市民』だから」

「俺も普通の『市民』だぞ?」

「一緒にしないで」

「いや、仲間だって言ってんだ」

「ハァ? 疑われたばかりなんだけど?」


 少女もそれ以上は相手にしないのだった。代わりにマジメが総括するように話し合いに加わる。


「正直、言ってることがコロコロ変わるので、怪しいのはリーダーだけって言ってたのに、少女も怪しいと言ったり、その怪しんでた少女に対して同じ『市民』だと言ったり、自分に都合よく生きている犯罪者の頭の中って、常にこんな感じなんだろうな。こんなのを相手にしなければならないんだから、警察も苦労するよ」


 辛抱強く相手にしていたマジメまで匙を投げてしまった。


「ちょっと、ちょっと、ちょっと待ってくれ!」


 オッサンも必死だ。


「俺は完全なる安パイだ。もちろん、お前らにとってな? 殺そうと思えばいつでも殺せる。だけど俺が追放されて喜ぶのは二匹の『人狼』なんだぞ? こうしている間にも心の中で笑ってる奴がいるんだよ!」


 プレイヤーの中に笑顔を浮かべている者は一人もいなかった。


「本当に怪しいのは話し合いにすら参加しない連中じゃないのか? オカマとか、地味な姉ちゃんとか、ガキとか、そいつらの中に『人狼』がいるんだ。だったらそいつらから始末した方がいい! 俺のことは後回しにしてもいいんだからな!」


 フェミニンが反応する。


「なんで僕なの? 僕を疑うっていうことは、オジサンが『人狼』なの? なんか怪しく見えてきた」


 地味子も頷きながら追随する。


「私も『市民』なので、なんで疑われたんだろうって、そう考えると、オジサンが『人狼』?」


 オッサンが慌てる。


「ごめんごめん、今のは無しだ。取り消す。君たち二人は『人狼』じゃない。俺と同じ『市民』だ。だから一緒にガキに投票しようぜ。昨日から一言も喋らずに黙りこってるって怪しいだろう? 君たち二人は否定したけど、このガキは一切否定しようとしないもんな。図星なんだよ、だから否定できないんだ」


 そこで他のプレイヤーにも呼び掛ける。


「な? だからみんなでコドモに投票しよう! 俺に投票するのは明日でいい。それからでも遅くないから」


 それから追放会議が終了するまでコドモに投票するように呼び掛けたが、その間にオッサンの相手をする者は一人もいなかった。こうして投票時間を迎えたのだった。



   *   *   *



「それでは運命の時間だ」


 表情に変化はないが、狼男の声の感じは嬉しそうであった。


「全員、テーブルの下にあるマジックとフリップを用意してくれ」


 不備はないようである。


「それでは追放したい者の名前を書いてもらおう」


 全員がマジックを走らせる。


「一斉に行くぞ。カメラに向かってフリップを見せてくれ」


 用意ができたようだ。


「一日目に追放したいのは誰だ⁉」


 結果はオッサンが八票、コドモが一票であった。


「一日目の追放者はオッサンで決まりだ」


 決まった瞬間、オッサンがパソコンを持ち上げて床に叩きつけたので、画面の中でオッサンの窓だけ回線が途絶えて真っ黒になるのだった。


「まだ『人狼』が諸君らの中に潜んでいるので、残りの者は夜の襲撃に備えてもらおう」



    *   *   *



 同じラブホテルの別の階の別の部屋。催眠ガスによって眠らされたオッサンが目を覚ました時、身動きが取れない状態になっていた。それは部屋の中に一脚だけ置かれた電気椅子に座らされて、全身七か所をゴム製の固定具で締めつけられていたからだ。


 目を覚まして、すぐに状況を理解したようだが、舌を噛み切らないように猿轡さるぐつわを噛まされていたので、「んんっ」といった唸り声しか出せないのであった。逃れようと身体を揺さぶるが、椅子が床に固定されているので、グラグラすることもなかった。


 コードが伸びたヘルメットを被らされているが、やはり固定されているので、抵抗を試みるものの、為す術がないといった感じで、泣き声のような喚き声を上げることしかできないのであった。


「お目覚めか」

「んん、んんっ」


 部屋の中にはゲームマスターを務める白毛の狼男と、今まで姿を見せてこなかった黒毛の狼男がいて、二人でオッサンを見下ろしているのだった。


「紹介がまだだったな、コイツが処刑人だ」

「んんんっ」


 黒狼男が挨拶する。


「お前のために特別に電気椅子を用意してやったぞ」

「んんん、んんんっ」

「そうか、嬉しいか」

「んんんんんっ!」


 白狼男が不安そうに尋ねる。


「火事になったりしないだろうな?」

「一応、消火器は用意してある」

「燃えんのかよ」

「いや、焦げるだけって話だ」

「んんんんん、んんんんんっ」


 白狼男が不安げに尋ねる。


「大丈夫かよ」

「何かあったら消火器をぶっ放してくれ」

「んんんんんっ!」


 黒狼男がテーブルの上の操作盤を点検している間、白狼男は消火器を手に取ってオッサンに放出口を向けるのだった。


「二人とも初めてでよ、失敗したら、ごめんな」

「んん、んんっ」


 黒狼男が笑う。


「どうせ死ぬのに、失敗もクソもねぇだろう」

「んんんっ、んんんっ!」

「確かにそうだな」


 白狼男も笑うのだった。


「よしっ、始めっぞ」

「おう」

「んんんん、んんんんっ」


 黒狼男が電流を流す。


「んがあああああああああっ」


 叫びながらジタバタするが、身体の表面には特に目立った反応は見られなかった。


「なんか、大したことなさそうだな」


 白狼男は物足りない様子であった。


「まずは低電圧で試しただけだからな」

「じゃあ、まだ死ぬほどじゃないわけか」

「ああ、しばらく楽しもうと思ってな」

「大袈裟な奴だな」

「んがあああああああああああああああ!」


 白狼男が異変に気が付く。


「あっ、コイツ、ションベンとクソを同時に漏らしやがったぞ!」

「チッ、ほんとだ」

「もう、いいや、さっさと始末しちまおうぜ」

「ああ」


 そこで高電圧が加えられると、髪と皮膚が焦げ、断末魔の叫びを上げることなく、痙攣した状態で絶命するのだった。


「煙が出てるよ」

「消せ、消せ」


 こうしてオッサンは電気椅子に座らされて泡まみれの状態で追放されたのであった。

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