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14 ルール作り

 ラブホテルの監禁部屋で九人それぞれが晩ご飯を食べた後、『人狼』の数を一枚にしたり三枚に増やしたりして練習を行い、夜が更けたところでルール作りが行われることとなった。


 この時もリーダーが会議の進行を務めたのだが、手元のメモ用紙にはびっしりと細かい文字が書き込まれており、それを見ながら分かりやすく丁寧に説明していくのだった。


「ルールを決める上で大事なことは、市民チームと人狼チーム、そのどちらに選ばれても平等に勝つチャンスがなきゃいけないということだ」


 練習ゲームでは笑顔も見られたが、この場では誰もが怖いくらい真剣な顔つきで話を聞いていた。


「人狼が一匹の場合、見つけるのが難しいから序盤は生き残るんだけど、『占い師』と『騎士』の連携が上手くいくとあっさりと勝負がつく。ニセ『占い師』としてフェイク・カミングアウトする方法もあるけど、九人制だと容疑者扱いになるから結局は数の前に敗北を喫してしまう」


 室内がムーディなせいか、一段と色っぽく見えるお姉さんが捕捉する。


「たった一匹だと、初日に追放されるラッキーパンチがあるのよね」


 ゲームでは物静かなマジメがルール作りには積極的になる。


「しかし『占い師』がアグレッシブに動けるのは遊びだからであって、命が懸かっていたら練習のように上手くいくとは限らないんだ」


 リーダーが尋ねる。


「では、『人狼』一枚に賛成ですか?」

「そんなことは一言も言ってないだろう」


 カップ麺を二個も食べたオッサンが明確に反対する。


「一匹は止めようぜ。運が良ければ生き残るかもしれないが、初日にラッキーパンチをお見舞いしたら、市民チームが八人も生き残るんだよな? 賞金を山分けするにしても八人は多すぎねぇか?」


 ゲーム中にも喧嘩をしていた少年が突っかかる。


「どうしようもねぇ、クズだな」

「おめぇも同じだろうよ」

「一緒にすんなや、カスが」

「ああ、一緒じゃなかったわ、俺はガキを犯す変質者じゃねぇからよ」

「殺すぞ、コラ」

「やってみろよ」


 こういったやり取りがゲーム中にも行われていたので、もう誰も止めに入る者はいなかった。


「リーダー、わたし眠いんだけど」


 うんざりした様子の少女にせっつかれる形で話し合いを再開させる。


「実際に『人狼』を一匹にしても勝った人はいなかったので、俺は反対しますが、賛成の方はいますか? よかったら見えるように手を上げてもらえますか?」


 誰も手を上げなかった。


「それでは『人狼』を一枚にするのは止めましょう。次に『人狼』が三匹の場合ですが、これだと人狼チームが強くなりすぎるので、俺は反対します。これは検討する必要もないと思いますが、念のため、賛成の方はいますか?」


 誰も手を上げなかった。


「それでは『人狼』は二枚で決まりですね。次に『裏切り者』と『霊媒師』はどうしますか? 個人的には反対しますが、議論の余地はあると思うんです。賛成の方がいるのなら、意見をどうぞ」


 部屋の照明をピンクにしたゴスロリのフェミニンが口を開く。


「『裏切り者』がいれば『占い師』に成りすますこともできるし、そうなったら『占い師』も黙ってはいられなくなるし、単純に面白いと思う」


 リーダーが苦笑いを浮かべる。


「他に賛成の方はいますか?」


 誰も手を上げなかった。


「え? 僕だけ?」

「誰が好き好んで貧乏クジを引きたがるんだよ?」


 オッサンの言葉だが、それが総意でもあった。



   *   *   *



 それからリーダーが代表してルールの作成案をゲームマスターに提出して、それを狼男が了承して、最終確認を行うのだった。


「ご苦労だったな。結局『人狼』が二枚、『占い師』が一枚、『騎士』が一枚、『市民』が五枚で落ち着いたわけだな。『裏切り者』と『霊媒師』も見てみたかったが、ヘタクソだから仕方ない。それは別の機会にでも試すとしよう」


 人狼チーム二人と市民チーム七人の戦いとなる。


「そちらの提案を受けて、こちらも相棒と二人で話し合って決めたことがあるので、それを今から発表する。通常は『人狼』が二匹の場合、市民チームと同数になった時点で人狼チームの勝利となるのだが、リアル人狼ゲームでは試合を続行させてもらうことにする。なぜなら『市民』を生かしておく理由はないからな」


 これに異議を唱えたのがリーダーではなく、マジメだった。


「それではゲームが成立しない。二対二で残った場合、偶数なので多数決で追放者を決めることができなくなるからだ。決選投票になってしまったら、何度やっても結果が変わることはないだろう。それは一対一でも同じこと。つまり同数決着も有り得るということか?」


 狼男が否定する。


「ドローでの幕引きはない。勝利条件は敵営の全滅だ。それが出来ないようじゃ、リアルとは呼べないからな。『人狼』が一匹になった場合に限り、一対一の状況まで持ち込むことができれば人狼チームの勝利としよう。市民チームとしては、そうなる前に相手を全滅させろって話だ」


 マジメが再反論する。


「質問に答えていない。一対一のケースは理解できたが、二対二の場合はどうすればいい? 偶数では結論を出すことができないんだぞ?」


 狼男にとっては想定内の反論のようだ。


「そうなったらゲームは一旦中止だ。プレイヤーを補充してから、後日改めてセカンド・バトルを行う。俺たちは引き分けが見たいんじゃなく、どちらが勝つのか見たいんだから当然だよな? 金を払うんだから、それくらいは好きにさせてもらうぞ」


 反論を受け付けないように高圧的な態度で続ける。


「っていうかな、今日一日、お前らのヘタクソな試合を何度も見せられて、こちとらガッカリしてるんだ。ハッキリ言うが、あまりにもレベルが低すぎて賞金を払うのがバカらしく感じている。まぁ、それでも、この中で誰が生き残るのか興味があるから続けるけどよ、これ以上、立場を理解していない勘違いした発言を続けるなら、まとめて今すぐ殺しちまうから、言葉には気をつけてくれよな」


 流石に誰一人として異形に歯向かう者はいなかった。


「ゲーム開始は明日の正午だ。練習と違って話し合う時間はたっぷりあるから、せいぜい楽しませてくれや」


 全員、何も言えず黙ったまま散会するのだった。

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