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1 リアル人狼ゲーム

 本作は性被害を扱った非常にデリケートな作品となっております。直接的な描写はありませんが、物語の設定上、不快にさせる言葉が幾つも存在しています。目に触れないようにしている方や、少しでも抵抗のある方は、充分にご注意ください。

 その日、市民Aは焦っていた。それは暴力団の構成員によって組織された詐欺グループに警察のメスが入り、大切な仲間が摘発されたとの連絡を受けたからであった。


 これまでの半生は向かい風の連続であったが、それが裏社会では反作用し、結果的に順風満帆の船旅となっていた。


 女子高校生を拉致して、友人宅で監禁し、暴行を加えて死に至らしめたのが十七歳の時。懲役刑をくらったものの、司法は市民Aに社会生活の許可を与えた。


 獄中生活も快適そのものであった。犯罪内容によっては受刑者からイジメを受けるのだが、市民Aは暴力団の青年部に属していたため、後ろ盾を利用して上手に立ち回ることができたのである。


 しかしそれは個々人の性格に起因する部分が大きいというのも事実だ。市民Aのように明るくて世渡りが上手ければ、刑務所ですら人脈を広げる社交場へと変えることが可能だからである。


 その後も順調そのもので、犯罪者を支援する篤志家の養子縁組となり姓を変えることができたので、出所後に新しい人生をスタートすることができたのだった。


 それでも最初は慎重な行動を心掛けていたようだ。社会問題となった事件であり、用心深い性格でもあったので、世間から注目されるのではないかと考えていたからだ。


 しかし警察組織に監視されるわけでもなく、世間も興味を失っていることを知り、安心して暴力団の構成員として社会復帰を果たすのである。


「しばらく休むとするか」


 そう言ってマンションの高層階から東京湾の夜景を眺めるが、そこに女子高校生の遺体を遺棄したことは既に頭の片隅にすらなかった。


 詐欺で逮捕されたのは面識のない支部の構成員なので、自分のところまで捜査の手が回ることはないが、捜査員が増員されている期間だけはリゾート地で身を隠そうと考えるのであった。


(さて、どこに行こうかな)


 ソファに腰掛けて、年代物のブランデーを飲むが、マンションも、地下に停めてある外車も、宝飾時計も、すべて振り込め詐欺で稼いだ金で買ったものだ。


 被害者に対する罪悪感は一つも持ち合せていなかった。それは世の中が必ずしも平等に裁かれているわけではない、という現実を目にしてきたからだ。


 犯罪者かどうかは、捕まるか捕まらないかの違いでしかないのなら、捕まらない努力をするだけだと、そう自分に言い聞かせて生きてきたのである。


 そこでスマホにメールが入る。


(なんだ、これ?)


 典型的な詐欺メールだったので、普段なら読まずにゴミ箱に捨てるのだが、改姓前の苗字で送られてきたため、中身をあらためるのだった。


「賞金百億って」


 あまりのバカバカしさに笑うしかないといった感じだ。しかしそこは同業者でもあるので、どんな詐欺の手口か気になり、本文に添付してある直リンクをタップするのだった。


「ハハッ」


 サイトに飛ぶと、いきなり動画が自動再生されたものだから、ガキの小遣い稼ぎに利用されたと思って、乾いた笑いが出たわけだ。


「警察から逃げる前に百億の賞金を懸けてゲームをしないか?」

「え?」


 動画の中にいる狼男がオンライン通話のように語り掛けてくるものだから、市民Aが驚くのも無理はなかった。

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