飽きた死と再生
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僕に纏わりついた黒い流体は、窒素と酸素が組成の大部分を占めているにはあまりに粘度が高かった。大したものが入っていないこの鞄を地面にたたきつけてやろうかと思い振りかぶってみたものの、所々にある水たまりを目にして手を降ろす。僕の決死の行動は愛着のないボロボロの鞄すら濡らしたくないといった理由でどこかへ。そんなくだらない理由で。
そんなくだらない理由で。街灯が道路を暗くしていく。少し歩きづらい。何者かと肩がぶつかり僕はしゃがみ込んでしまった。天から降ってくる舌打ちを味わっていただく。立ち上がろうか悩む。それでもここで止まってしゃがみ込むよりは家に帰ってソファに寝転んだほうが幾分かはましだろう。人生を時間を自由をそう使って今まで生きてきた。今までソファに寝転んで幸せを感じたことなんてない。死んでしまえばどこだって一緒だった。
死んでしまえばどこだって一緒だった。ベッドだって、ソファだって、駅だって。その先にあるのは確かに感じる死と、それ以上に圧力のある再生だった。目に見えない死の暗黒と目に見える再生の暗黒のどちらがましかなんて猿でもわかってしまう。ただ彼らを評価する意味を見出すことができない。あなたは林檎が赤いことに対してどう思いますか。
あなたは林檎が赤いことに対してどう思いますか。それは血が赤いことだと思います。やっとのことでたどり着いた今日の寝床はどこか綺麗な色をしている気がしていた。エレベータのボタンを押す。この世界が僕を必要としていないことはわかっている。重要なのはあの世界が僕を必要としているかだった。すぐに開く。肩の力が抜けていく。エレベータが発する光に思わず目を細めた。足を出す。
足を出す。やはり今日の寝床は綺麗な暗黒。さわやかな風に吹かれている。両手を広げるとその風は僕のために道をあけた。そこから鞄を投げると羽根を生やして空を飛び、どこまでも飛んで行ってしまった。
どこまでも飛んで行ってしまった。今日はここで死のう。そしてたくさん夢を見よう。明るい暗黒の先にある再生に至るまでには少し時間がかかるかもしれない。死と再生自体には飽きてしまっているが今晩のそれは少し変わったものになるだろう。
僕の死と再生に幸あれ。
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