87.友好度100
待ちに待った日が来た。称号のお蔭で友好度の初期値が20からだったから、これをあげれば友好度100だ。
「どうぞ」
「……」
いつものように、ぺこっと頭を下げて受け取ってくれるロイヤルハニーベアーちゃん。目がカヌレに釘付けだ。
「もぐもぐ……。あーあー、こんな弱い女に使われるなんてツイてないわ。強くて俺に付いて来いみたいなタイプが良かったんやけどな~」
……聞き間違いだよね? だが、そんな思いを打ち砕く言葉は続く。
「美味いもんをタダで食わせてくれるから、付きまとわれるのも我慢しとったのに。あー、ほんま嫌や、最悪や」
これは……。かなり性格が悪いようだ。今まで一言も喋らないから、言葉は話せないのだと思っていた。友好度が100になった影響だろうか?
「主、どうする? やるか?」
その『やる』は『殺る』ですね? 鼻面に皺を寄せていて、コンちゃんはかなり頭に来ているようだ。
「駄目だよ。ちょっと考えるから待っていてね」
「――おい、駄クマ。黙れ」
突如響いたハデス君の低音ボイスに、ロイヤルハニーベアーちゃんがビクッと口を閉ざす。うん、人を嫌な気持ちにさせる言葉はこれ以上喋らない方がいいよ。
「う~ん……」
沢山の人の助力、あげる為の食べ物代、費やした時間など。天秤の片方はずしりと重い。だけど……。
さぁ、お菊、良く考えて。この子と楽しい生活は送れる? ずっと一緒に居たいと思う? 私の偽りの無い気持ちは? 心の奥底まで覗いて確認する。
「――――よし、決めた! SA『手懐ける』は解除。君はテイムしないし、二度と追い掛けたりしない。今までごめんなさい!」
私の欲を押し付けただけの結果だ。迷惑だと思っている、この子の気持ちに気付いてあげられなかった。
「はぁ⁉ なに言うてんの? 本気?」
「うん。不快な気持ちにさせてごめんね」
確認するように周りを見て、私を見る。訝し気に凝視されて穴が開きそうだ。
「……変な奴。まぁ、ええわ。あんたの気が変わらない内に退散や。二度と来んといて!」
「うん、約束する。さようなら」
「ああ、さよなら」
姿が見えなくなった所でしゃがみ込む。
「きーちゃん⁉ 大丈夫ミュ?」
「うん。でもね、はぁ~……」
溜息しか出て来ない。この日を心待ちにしていた私の心は見事に砕け散った。こんな結末なんて、ちらとも予想していなかったなぁ……。
「主、また一からになるが、ロイヤルハニーベアーは他にも居る。俺が付き合ってやる」
コンちゃんの優しい言葉に慰められる。いつもは恥ずかしそうにそっぽを向いているけど、今は真剣な顔で私を見つめてくれている。嬉しくて、鼻面を撫でながら感謝を伝える。
「クー、クー」
「今日は取り敢えず帰ろうって言っているミュ」
「そうだね。そうしよう、お菊」
ハデス君が心配そうな顔で私の背に手を当ててくれる。その手の暖かさにちょっと涙腺が緩みそうになったので、慌てて瞬きする。
「うん、預モンに帰ろう」
預モンに帰ると、ちょうどAチームの皆が厩舎前に居た。
「あれ、ロイヤルハニーベアーは?」
サムさんが私の周りをキョロキョロと見回して聞いてくれる。
「協力してもらったのにごめんなさい。実は――」
話をした後に申し訳なくて顔を上げられない私の肩に、手がポンと置かれる。
「テイマーしているとな時々あるんだ、こういう事が」
「トッドさん……」
「そうだよ、俺も経験あるよ。超性格悪かったよ、あいつ」
サムさんや他の人も次々と経験を教えてくれる。
「だから、気にしなくていいんだよ。また、いくらでも協力するよ、お菊ちゃん。諦めないでしょう? ね?」
ナダさんが答えはもう分かっているという顔で聞いてくる。
「――はい」
私が静かに頷くと、皆が次々と頭を撫でてくれた。
「俺達も力になると約束する」
コンちゃん達が力強く頷きながら、私の足をポンポンと叩いてくれる。
「皆……ありがとう」
涙ぐみながら皆の顔を見渡すと、ニコッと笑ってくれる。ああ、私、恵まれているな。
「倒すのは難しいから、また好物をあげるしかないよね」
「そうだねぇ。また、アキプ島に通わないとね」
トニーさんとサムさんが話している所に近付く。
「ここだけの秘密にして下さいね。実はギルドで聞いたんですけど、コクウ森にも現れるそうなんです」
「ああ、噂で聞いた事あるよ」
ナダさんがそう言うのに頷く。
「花畑によく居るそうです。遭遇率はかなり下がってしまうそうですけど、コクウ森なら私のレベルで行ける場所なので、今度からそこに通おうかと思っているんです」
これなら他の人達の迷惑にもならないしね。
「迷惑なんて思わないからね」
ナダさんの言葉に全員が頷いている。私の考えている事なんてお見通しだったらしい。
「まっ、推奨LVに合った場所に行ってくれる方が安心はできるがな」
トッドさんが頭をポンポンしながら肯定してくれる。
「ゆっくり探すといいよ。きっと、今度はお菊ちゃんにピッタリの子と出会えるよ」
「そうそう。悪い事の後には良い事が起きるってもんでしょ」
「だな、兄弟」
優しい言葉を沢山貰って、萎んでいた心が膨らみ、「また、やってみます」と笑顔で言う事が出来た。諦めないんだからね、絶対。




