79.白熊像巡り
今日はロイヤルハニーベアーちゃんにカヌレをあげたら、静佇へ。レベル上げはお休みなのです。何故なら――。
「熊さん巡りに出発ミュ~」
「クー!」
「「おー!」」
ギルドに何体あるのか聞きに行ったら、依頼になっていますよとの事。おぉ、初めての依頼だ。頑張って探そう。
白熊像巡りのマップが貰えるので、どこにあったか印を付けて持って行けば、白熊キーホルダーが貰えるそうだ。面白そうだとハデス君も一緒に行く事になった。
「全部で20体あるんだって」
「結構あるね。メイン通りから行く?」
「そうだね。二体は前に来た時に見たから、場所を知っているよ」
マハロ商会のすぐ近くにあるのが『5』の熊さん。その先が『10』だったよね。丸で囲んで数字をマップに書いておこう。印は自分の好きなもので良いって言っていたからね。
「あ、ギルドの側にもあるよ」
「本当だ。片足立ちしてる~」
右足を北に向けて上げている。表情は先の二体と一緒だから、他のもポーズだけが違うのだろう。――番号は『4』か。
静佇は膜に囲まれているので、ほとんどの通りが行き止まりになる。南の行き止まり近くの十字路で二体発見。道を挟んで向き合い、指さし合うように右手を上げている。
「勝負だ! ってやってるように見えるよね」
「ンミュ。真似してくるミュ~」
亀きっちゃんも像の横に行って、器用に後ろ足で立ってタケちゃんに手を向けている。可愛いので撮影してから番号確認。
「お菊、見付ける度に至近距離で顔を見るよね。何かあるの?」
「うん。目の奥に製造番号っぽいのが見えるの。しゃがんで真っ正面から目を合わせると見えるんだよ」
どれどれとハデス君も目を合せている。
「本当だ。『6』って見える」
「僕の方は『11』って書いてあったミュ~」
「ありがとう。マップに書いておくね」
褒めてと足に抱き付くので頭をナデナデ。亀きっちゃんもして欲しそうにしているのでナデナデ。テイムした子は平等に可愛がらないとね。
「後は縦に通りが三本と横道か。手分けする?」
「全部見たいミュ」
「クー」
「今日は時間あるから大丈夫だよ」
大丈夫かとハデス君が私を見るので笑顔で答える。今日は日曜日だから自由時間が8時間あるのだ。
「それなら皆で行こうか。僕も全部見たいし」
「やったミュ~」
「ク~」
「じゃあ、左の通りへ出発!」
くまなく道を歩き、番号を書いていく。はぁ~、広いから四時間も掛かったよ。ハデス君が手分けする? って言うのも納得。
「疲れたでしょ。ギルドで依頼報告して一旦休もう」
「うん」
ギルドに入ると、ペン、クッション、ぬいぐるみ、壁紙など可愛いペンギングッズが迎えてくれる。これらはお店で売っているそうなので、サポウサちゃんの部屋用に買うのもいいかもしれない。
「依頼達成の報告に来ました」
「お疲れ様です。マップのご提出をお願い致します」
受付のお姉さんが確認している間は、カウンターにあるぬいぐるみをモフモフ。良い手触り……。
「お待たせ致しました。マップはお返し致しますね。こちら、報酬のキーホルダーになります」
「ありがとうございます。ハデス君の分もあるよ」
「人数分貰えるんだ。……あー、二人はお菊に持っていて貰えば?」
タケちゃんと亀きっちゃんは自分の体をキョロキョロ見て、着けられる所がないかと探している。
「私が預かるね。後で寮の部屋に飾ろうね」
「ンミュ」
「クー」
納得してくれて良かった。爪やシッポの先じゃ、すぐに落ちてしまう。
カフェで休憩しながら、返して貰ったマップを眺める。色んなポーズをしていて面白かったなぁ。どっかを手とか足で指しているのが多かったよね。
「……ん?」
「どうしたの、お菊?」
「もしかしてなんだけど、ポーズで方向を示しているのかなって」
「そう言えば、斜めっているのとかなくて、東西南北のどれかだったね」
「数字も、もしかして関係あったりして?」
二人で顔を見合わせて立ち上がる。
「気になるから確かめに行こう。時間短縮の為に、お菊はタケノコに乗って。亀吉は僕が抱っこする」
「え⁉ ハデス君、走るつもり?」
「ううん。ケルベロスを呼ぶ」
「ケルベロス?」
ハデス君が地面に手を翳すと、闇に満ちた穴が開き、真っ黒な犬が飛び出して来た。おぉ、調教された子かな? トワイフルちゃん並みの大きさでスラッとしていて、ボルゾイみたいだ。
タケちゃんと亀きっちゃんが鼻タッチでご挨拶。私も「よろしくね」と挨拶すると、ペロリと頬を舐められる。ツンと澄ました顔だけど、人懐っこいようだ。
「良かった、相性はいいみたいだね。ケルベロス、まずは右上端にある一番に行ってくれ」
「ワン」
後ろをタケちゃんが追って行く。面白い物が見付かるといいな。
数字と像のポーズや向きに合せて東西南北を走り回る。同じ道を行ったり来たりする回数も多いので、プレイヤーさん達の何しているんだという視線が痛い。ケルベロスちゃんが威嚇してくれなかったら、取り囲まれて質問攻めにされていそうだ。
「これが十三番だね。東は建物だから南かな? でも、そうすると十四番に行けないよね。行き止まりにヒントがあるとか?」
十三番の像は、大きい熊が両手を南に伸ばし、抱っこされている小さい熊が左手を東に伸ばしている。
「有り得そうだけど、無意味なポーズ取るかな? 今までは東を示していたら、ちゃんと真横に道があったよね」
もう一度、二人で地図を覗き込む。上か下の道なら東に行けるんだけどなぁ――って、そういうことか!
「十四番の位置的に南に行ってから東に向かうが正解なんじゃない?」
「あぁ、それなら、すんなり行けるね。でも、一応行き止まりにヒントがあるか確認しようか」
「そうだね。ここまで来て間違いたくないもんね」
確認した結果、何もなかったので予定通りに進む。その後は特に迷う指示がなかったので、最後の二十番は目前だ。
「ハデス君、ここ行き止まりじゃなかった?」
「うん、その筈。でも、像が示しているから行ってみないとね。――ほら、良い物発見」
ニヤリと笑ったハデス君が、無かった筈の両開きの巨大な白い扉を押して行く。あ~、ドキドキするよ~。
「――ようこそ、人魚の城へ。時の旅人殿」
漏れ出て来た白い光が眩しくて目を瞑った私の耳に、心地良い声が響いた。
迎えてくれた水色の髪の男性に案内されて、青やピンクに白の紫陽花が咲く庭を歩いて行く。空間全体がシャボン玉で覆われているような感じで、七色の光がゆらゆらとしている。
「ハデス君、この膜みたいの何かな? 綺麗だよね」
「これは結界だね。すぐ破れそうに見えるけど――ほら、平気みたいだよ」
きゃ~、タケちゃんがツンツンしてる⁉ すぐに止めないと!
「大丈夫ですよ。これを壊せるのは神に近い方々だけですから」
案内役の人の言葉に、ほっと胸を撫で下ろしかけて慌ててダッシュ。
「亀きっちゃん、ストーップ!」
「クゥ……」
残念そうにしているけど、ギュッと抱っこする。人様のお家の池に勝手に入っちゃいけません。
「ははは、池にも花が浮いていて綺麗だろう。俺も気に入っている」
東屋に居た男性が笑いながら手招いて来る。腰まである真っ赤な髪が印象的だ。
「煌来様、お連れ致しました」
「ご苦労。茶を頼めるか」
「畏まりました」
今、凄い方の名前が聞こえたような……。寄って来たタケちゃんも抱っこして、恐る恐る視線を向ける。
「久し振りだな、ハデス」
「そうだね。でも、メインはお菊の方だから」
ハデス君、知り合いが多いんだなぁと思っていると、そっと背を押されたので一歩前に出る。
「こ、こんにちは、お菊です」
「僕、タケノコ」
「クー」
「よく来たな。俺は波浪を治める人魚の煌来だ。ここへ辿り着いた時の旅人は、お菊が初めてだ。褒美をやらないとな」
うぅ、やっぱり偉い人だった。まさか、白熊像巡りからこうなるとは思わなかったな。
受け取った箱は玉手箱のようだし、亀きっちゃんがいるので、まるでおとぎ話みたいで、開けるのに勇気がいる。
「食べ物ミュ?」
「クー?」
フンフンと匂いを嗅いだ二匹が、結んだ紐を銜えて引っ張り始めた。
「わぁぁぁ、駄目だよ、おじいちゃんになっちゃうよ!」
「「くっ」」
噴き出す声に顔を上げると、ハデス君と煌来様が口元を押さえて肩を震わせている。二匹はキョトンとした顔だ。
「ふふふ。そういえば、時の旅人の方達にはそのような伝承があるのでしたね。ですが、それは安全ですよ。中身、素材ですし」
お茶を持って来てくれた先程の男性が、上品に笑いながら教えてくれる。私は赤面しながら、高々と持ち上げていた箱をそっと机に戻す。そうだよね、思い込みはいけません……。
「――ぱっかしミュ。丸い石? なのミュ」
「クー」
素早い。照れている間に開けている。一緒に覗き込んでみると、真珠が一粒。
「水色と赤色も入っていて、不思議な光沢ですね」
「ああ。それは風・水・火を無効化出来る素材だ。装備品に使うといい」
「えっ、すごくお高いんじゃ……」
「お菊、ご褒美なんだから気にしなくていいよ。というか、ケチケチし過ぎじゃない?」
「だろう? 俺も五色真珠にした方がいいんじゃないかと言ったんだが、却下された。バランスが大事なんだと」
んん? 波浪で一番偉い人の意見が通らなかったって事は、久遠様に反対されたのかな?
「警告。お菊さんだからいいものの、内情を話し過ぎです」
「おお、AIエイトじゃないか。悪い悪い。お菊、大人の事情だから、お口チャックな」
「は、はい」
出た、大人の事情。預モン以外でもあるのね。それにしても、煌来様って気さくな方だな。鍛え上げられた体躯で目つきは鋭いけど、笑うと雰囲気が一気に柔らかくなる。人魚の姿も見てみたいな。
「煌来様、そろそろ執務にお戻り下さい」
「ん、そうか。名残惜しいが、そろそろ静佇に戻さないとな。これからは、来た時の扉を開けば、いつでもここに来られる。好きな時においで」
「はい、ありがとうございます」
案内されて扉を出ると、ジャジャーン! と大きな音が響き渡って、体が飛び跳ねる。
『条件クリア。波浪の城が解放されました』
個人へのお知らせではなく皆に聞こえたようで、プレイヤーの人達がザワザワし始める。うわぁ、これって私の所為⁉




