75.静佇観光
土曜日の今日は、ウインダムさんが一緒にアキプ島に行ってくれる約束になっている。その前に、橋野さんが居るかチェックだ。
「あ、居るみたい。連絡してみよう」
黒い画面が出て、白い『・・・』が明滅している。戦闘中じゃないといいけど。
「――お菊さん? こんにちは、連絡ありがとう」
「こんにちは、ユウさん。昨日、何か言い掛けてましたよね? 気になって連絡しちゃいました」
「気にしてくれてたんだ。そっか……嬉しいな」
ふわりと優しく微笑まれて、何だか照れる。会社に居る時よりも表情が柔らかく感じるからだろうか?
「良かったら、波浪を案内しようかって言おうとしていたんだ。俺、ここ中心に動いているからさ、それなりに詳しいよ」
「そうだったんですね。私、今日そちらに行くので、良かったら一緒に行動しませんか? あ、ウインダムさんっていう方も一緒なんですけど」
「ウインダム? え、トッププレイヤーじゃない、その人?」
「はい。テイムに協力してくれているんですよ」
「凄いね、そんな人と知り合いだなんて。俺も会ってみたいな」
「でしたら、現実時間の10時に招涼の風鈴で待ち合わせなんですけど、大丈夫ですか?」
「うん、了解。じゃあ、また後でね」
手を振り合って画面を閉じる。よし、まずはお仕事頑張ろう!
☆= ☆= ☆=
「「お菊さん」」
波浪に着くと、綺麗に重なった声で呼ばれる。目を向けると、ウインダムさんとユウさんが顔を見合わせている。
「お待たせしました。ウインダムさん、こちらユウさんです。今日、一緒に行く事になりました」
「え、あ、そっか、今日はハデス君じゃないんだ。ウインダムです。よろしく」
「ユウです。トッププレイヤーの方に会えて光栄です」
「はは、どうも。レベルはいくつ?」
「38です」
「じゃあ、アキプ島は無理だね。お菊さん、悪いんだけど、パーティーから一人外して貰えるかな」
そっか、ハデス君みたいに一人で行けないもんね。
「タケちゃん、テイムボックスに入って貰っていい?」
「分かったのミュ」
ちょっと寂しそうな顔をしつつも、言う事を聞いてくれた。後でいっぱい撫でてあげよう。
「大丈夫なんですか? 俺達のレベルで付いて行って」
「ロイヤルハニーベアーにお菓子あげるだけだから。それに、俺一人で敵は倒せるしね。あ、それとも待ってる? お菓子あげたら、とんぼ返りだし」
「いいえ。興味あるので行きたいです」
「ふーん。じゃあ、チケット買いに行こうか」
なんかウインダムさんが、いつもより冷たいような? 気の所為かな?
☆= ☆= ☆=
今日も素っ気ないロイヤルハニーベアーちゃんでした……。早く仲良くなりたい。
アキプ島から戻って来て難破船に向かう道中、ユウさんは少し興奮気味だ。ウインダムさんの戦闘シーンを見れば当然だよね。
「やっぱり、トッププレイヤーは違うね。凄く鮮やかで目を奪われちゃったよ」
「ですよね~。私、絶対にあんな動き出来ませんよ」
「ああ、確かに。お菊さんのイメージじゃないな~」
「むぅ、ちょっとは否定して下さいよ」
「あははは、ごめん、ごめん」
ウサギさんといっても、俊敏ではないのです。残念……。
「仲良いみたいだけど、もしかして、現実で知り合い?」
「分かりますか? 会社の同僚なんですよ」
にこやかにユウさんが答えると、「同僚……」と呟いたきり、黙り込んでしまったウインダムさん。仲間外れみたいな気分になってしまったのかと、慌てて声を掛ける。
「難破船にもウインダムさんが付いて来てくれて、とっても心強いです。あそこ、お化け屋敷みたいで苦手なんです」
「そう言って貰えて嬉しいよ。あそこ、驚かしてくる一つ目居るよね。俺が倒してあげるよ」
「助かります! もう、あいつ嫌いなんです! ね?」
「そうなのミュ! こてんぱんにしちゃってほしいのミュ!」
「クー!」
プンプンしている二匹をウインダムさんが笑いながら撫でて宥める。
「任せてよ。ご要望通り、こてんぱんにするからな」
頼もしいお言葉です。タケちゃん達は嬉しそうに潜水艇乗り場に向かって走り出す。
「あ~、待って~」
「早くミュ~。きーちゃんの尻餅の仇を成敗ミュ!」
「クー!」
きゃ~⁉ それ大きい声で言っちゃ駄目なやつ! 口を塞ごうと慌てて追い掛けるも、タケちゃんの足の速さには敵わず、周りの人達にクスクス笑われてしまった。恥ずかしい……。
今日は驚かされる前に、ウインダムさんが一つ目モンスターを倒してくれたので、タケちゃん達はご機嫌。私も目標のLV15になったので、とってもご機嫌です。
「お昼が近いから、今日は静佇の方だけ案内するね」
「はい、お願いします」
平日は時間いっぱいレベル上げしたいから、エレベーターと潜水艇乗り場の移動だけで町は全然見ていないのだ。
町に入ると白いドーム型の家が並んでいる。形はみんな一緒だけれど、家によっては貝殻やガラスの欠片などで扉周りを飾っているので、見ていて飽きない。果物の木やお花も沢山植えられていて、町に彩と温かな雰囲気を与えている。
暫くメイン通りを行くと、マハロ商会発見。ここにも支店があるんだね。
「お菊さんて、可愛いもの好き? この町ね、ほら、白熊の像がいっぱいあるんだよ」
ユウさんの指さす方を見ると、二本足で立ち、ビシッと右腕を南に向けている像が。私の腰あたりの大きさなので、しゃがんでお顔を拝見。真っ黒な目と目を合わせると、右目の奥に『5』と数字が見えた。ん~? 製造番号かな?
「そんなに気に入った? 他のポーズしているのがこの先に居るよ」
行ってみると、今度は前へ倣えのポーズをしている。顔も違うのかなと覗き込むと、また数字が見えた。今度は『10』だから、やっぱり製造番号みたい。
「顔つきはさっきのと変わらないですね。ロイヤルハニーベアーちゃんより、リアルな感じです。動物園で見た白熊の赤ちゃんみたい」
「他の道にも居るよ。膝抱えて座ってるのとか」
ウインダムさんの言葉を聞いて、亀きっちゃんが私の腕にツンと鼻タッチしてくる。
「全部見に行きたいのかな?」
「クー!」
「ふふふ、私も見たいから今度行こうね」
何匹いるかなぁとワクワクした様子で話す亀きっちゃんとタケちゃん。私と同じ事に興味を持ってくれて嬉しいな。
「じゃあ、次はギルドに行こうか。きっと気に入るよ」
ユウさんの先導で歩き出すと、他の建物から飛び出た青いものが目に入る。目線を上げていくと、黄色いものも飛び出している。不思議な形……。
「ミュ⁉」
「クー⁉」
一緒に首を傾げていた二匹が何かに気付いたのか、急に走り出す。
「あ、ちょっと待って!」
急いで追い掛けると、はしゃぎながら「上、上」と指さされる。
「上? ――あーっ、ペンギン⁉」
ずずーんと存在感たっぷりのペンギンが立っていた。うわぁ~。
「ははは、良い反応。ねっ、気に入ったでしょう?」
ユウさんの目に、あんぐり口を開けている自分を見付けて慌てて閉じる。
「でもさ、強面のおっさんとかが入って行くと、似合わな過ぎて笑いそうになるんだよね」
「分かる! 俺もこの前、必死で笑うの堪えたよ」
私も目をやると、白いお腹にある扉から、ムキムキの大きい男の人が出て来た。うーん、違和感……。でも、意外と可愛いもの好きで、堂々と入れて喜んでいたりして。
「中もペンとかソファとか、色々ペンギングッズが置かれてるからさ、もっと視覚の暴力だよ。それに、俺も使うのちょっと恥ずかしい」
ウインダムさんの言葉にユウさんが頷いている。男の人はそういう風に思うのね。私は今度じっくり見に来て楽しもうっと。
「あと、この都市で変わっているのは海底散歩出来る事かな。どう? 行ってみる?」
「はい。亀きっちゃん達も一緒に行けますか?」
「うーん、係の人に聞かないと分からないな。駄目だったらごめんね」
二匹がシュンとしてしまったので、ユウさんが謝りながら頭を撫でてあげている。
「落ち込むのは早いぜ。ほら、行くぞ!」
ウインダムさんが二人を抱き上げて走り出したので、キャッキャと喜んでいる。立ち直り早い……。
メイン通りを少し戻って左へ歩いて行くと、町を囲む膜に辿り着く。ゲートがあるから、あそこから海底に出られるのだろう。
「次の方、どうぞ~」
少し並んで私達の番。タケちゃんが受付のお姉さんを見上げる。
「僕達もいいミュ? お散歩行きたいミュ」
「クー?」
「か、可愛い! 勿論、いいわよ! テイムされた子はタダだから、いっぱい遊びに来てね。はい、この腕輪を嵌めてね。そうすると、空気の膜が体を包んでくれるから、息も会話も出来て濡れないのよ」
体の大きさに合わせて伸縮するので、タケちゃん達もぴったりフィット。私も300タムを支払って、水色の透き通った石が嵌め込まれた、太めな金の腕輪をつける。
「係の者がお一人ずつにつきますので、手を繋いで下さい。楽しんで来てね~」
「クー♪」
「ンミュ!」
お姉さんに手を振り返して駆けて行き、二匹は躊躇いもなく入口である水の壁に突撃。海中にプカプカと仲良く浮かんでいる。息、出来てるんだよね? 早く行ってあげたいけど怖いよ~。
「大丈夫、私の手を掴んで」
海中にいる女性が水の壁から手を出してくれたので、覚悟を決めて掴む。
「人魚の海へようこそ」
軽く引っ張られたら、もう海の中。そして、目の前には絵本で見た通りの人魚さんが! 普通に息できるなんて事は頭から吹っ飛んでしまった。
「うわぁ、綺麗! 宝石みたいな鱗ですね」
「ふふ、ありがとう。さぁ、行きましょう」
くねらせるように下半身が動かされると、キラッと赤い鱗が光る。硬そうに見えるけど、滑らかに動くんだなぁ。
先に行っているタケちゃんは青。亀きっちゃんは緑の人魚さんと手を繋いでいる。潜水艇では遠目にしか見られなかったから、存分に見ておこう。
海底と言っても暗くなく、視界は良好。お魚の群れや林のように生える大きな珊瑚を見たり、白イルカと並んで泳いだり。お散歩の最後は、赤い人魚さんが一番好きな場所だそうだ。
「この岩で囲まれた中が綺麗なのよ」
岩の裂け目から入ると、暗い中をフワンフワンと黄色味を帯びた淡い光を発する泡が上へと昇って行く。幻想的だなぁと見入っていると、持って帰りたいのか、タケちゃんが両手で光を挟む。
「あーっ⁉ 割れちゃったミュ……」
「残念だけど、ある条件をクリアしないと、それは掴めないのよ。ほら、下を見て。あの光る貝から出ている泡なのよ」
シャコガイみたいな白い貝が並んで、合わせ目からオレンジ位の大きさの泡をコポリコポリと出している。
「掴めるって事は、これアイテムか。でも、俺が前に来た時はそんな説明なかったけど」
「だって、掴もうとした人にしか教えないもの」
人魚さんにあっさり返されて、ユウさんがガクッと項垂れる。
「どんな条件か教えてミュ。きーちゃんにアイテムあげたいのミュ」
「じゃあ、まずは冒険者ギルドで海底掃除の依頼を受けてね」
「まずはって事は何個も条件があるのかな?」
「私が教えてあげられるのは、ここまで。頑張ってね」
「はぁ、そんなに簡単には手に入らないか」
ユウさんは溜息を吐くと、人魚さんに手を引かれて戻って行く。海底掃除の依頼かぁ。私のレベルでも受けられるかな?
入口まで戻って来たら、ちょうど良い時間だ。タケちゃんと亀きっちゃんが、満足気な顔で受付のお姉さんに「バイバ~イ」と手を振っている。
「じゃあ、ここで解散ね。折角フレンドになったんだし、遠慮なく連絡して来てね」
「はい。今日はありがとうございました」
「え⁉ ちょっと待って。お菊さん、俺ともフレンドになってくれないかな?」
「はい、お願いします」
そう言えば、フレンド機能なんて知らなかったから、いつも帰り際に口頭で約束してたもんね。便利なものは使わないと。
「お菊さんて今、フレンド何人?」
「ユウさんとウインダムさんの二人ですよ」
「くっそ、先越された」
それを聞いたウインダムさんが、抱っこしていたタケちゃんの背中に顔を埋めて何か呟いている。独り言かな?
「くすぐったいミュ~」
「あ、ああ、ごめん。それじゃ、またね」
時告げの鐘が鳴ったので、タケちゃんを渡される。亀きっちゃんも抱っこしてっと。
「お二人共、今日はありがとうございました」
「「またね」」
二匹も手を振ってお別れのご挨拶。満足な一日でした。
静佇のギルドは可愛いもの好き男性の溜まり場です。
お読み頂きありがとうございました。




