74.フレンド
ロイヤルハニーベアーちゃんにカヌレを渡して六日目。未だにあげるとすぐに逃げてしまう。道程は長い……。
難破船・ハルケでのレベル上げは順調。昨日、LV14になった。
いつものように往復一人200タムを支払い、六人乗りの小さな潜水艇に乗り込む。クジラを模したもので、青と白でカラーリングされていて可愛らしい。
自動運行なので、タッチパネルで行先を押せば、後はお任せ。窓から見える色とりどりのサンゴや魚を眺めながら過ごす。時々、人魚さんが居て手を振ってくれる事もあるので、タケちゃんと亀きっちゃんはずっと窓に張り付いている。
ハデス君は今日用事があるそうで、アキプ島でお別れ。初めて私とテイムした子だけで挑戦するので、ちょっと緊張してきた……。私も綺麗な景色を見て落ち着こう。
マストが折れ、横っ腹に大穴が開いたボロボロの船が見えて来た。間近に止まり、『降りますか?』と眼前にスクリーンが出るので、『YES』を押せば甲板に立っている。帰りは甲板に出るか、1・5・10階にある転移陣を使えば、潜水艇の中に一瞬で戻れちゃうのだ。
このエリア内は水がないし、空気もあるので普通に行動できる。でも、薄暗く、じめっとした空気と陰鬱さが有り、お化け屋敷みたいで苦手だ。軋む階段を下りて廊下に立つと、背筋が寒くなる。頼もしいハデス君の背中が恋しい……。
「きーちゃん、怖いミュ? 僕と手を繋ぐミュ」
大きくなったタケちゃんが二足で立ち、私をモフッと抱き締めてから手を握ってくれた。あぁ、すっごく心が癒された……。
「クー」
亀きっちゃんも怖くないよというように、足にスリスリと頬擦りしてくれる。なんて良い子達!
「ありがとう。二人のお蔭で頑張れるよ」
笑顔にしてくれた二人をナデナデして元気よく一歩。怖いけど今日もいっぱい倒すよ!
船は全長300mで15階ある。中もボロボロで床に穴が開いたり、蜘蛛の巣がそこら中にある。
モンスターを倒しながら通路を行くと、たまに入れる部屋がある。中は埃を被った調度品があり、その脇や上に、ひっそりといつの間にかアンデッドが現れている。それだけでもビクッとしてしまうのだから、リアルで見たら二度と来られなさそう。亀きっちゃん達は、そのままで見えているのに平気らしく、えーいっと飛び掛かって行く。うちの子、強い。
「次、行くミュ。足元の瓶にご注意ミュ~」
「はーい」
通路を端から端まで行くと階段があるので、下へ下へと進んでいく。
――シュバッ!
「ひぇっ⁉」
「ケケケッ(笑)」
居るのだ、驚かすのが大好きなモンスター『目玉お化け』が。大きさはバスケットボール位。コウモリの翼が生えた黒くて丸い体に、大きな一つ目とニヤリと笑う口が付いているらしい。攻撃はしてこないけど、目の前に急に出て来るので、心臓に悪くて仕方が無い。
「ムキーッ、ミュ!」
「もうっ、あいつ嫌い!」
「クー!」
あれは相手にするなとハデス君に言われているので、皆で我慢だ。1・5・10階に一回ずつ出て来るのだけれど、LV40ないと倒せないらしい。どの階か分かっても、出る場所が違うので回避できないんだよね。
気を取り直してダンスホールの中へ。9階にある、この船の中で一番広い部屋だ。
三歩ほど進むと、モンスターがホール中に浮かぶ。ここは経験値がいっぱい稼げる、ありがたい部屋なのだ。このホールに出るのは、スズランの花に、丸い円らな目と半円の口を付けた可愛らしい見た目のアンデッドだけ。名前はランラン。アンデッドのわりに陽気な名前だよね。
ノイズの混じったようなワルツが流れ始めると、一斉に向かって来る。ここから50匹の連戦になるけど、聖水の弾丸なら一撃。ありがたく経験値5000を頂きます!
「これで最後!」
猫ふんじゃったが流れて戦闘終了。ランランに攻撃されると、HPではなく、MPが1ずつ減っていく。このエリアでは魔法を使わないので回復させる必要もなくて助かる。
ランランは他のモンスターと違って、ゲーム内時間で一日一回しか出現しないそうだ。別の階に行ったらという条件だったら良かったのになぁ……。残念だけど、地道に次の階を回ろう。
一階の船尾に行くとボスが居るので、その前で引き返す。最初に来た時に倒したけど、高さ2m位の大きなハロウィンのカボチャは、攻撃力はそこまでじゃないけど、HPが多くて時間が掛かる。経験値なども良くないので、今後は倒さないことになったのだ。
「今日はここまでだね。また明日頑張ろうね」
「ンミュ!」
「クー!」
――シュバッ!
床の穴を跨ごうと足を上げた所で、例のモンスターが目の前に現れたので、バランスを崩して尻餅をついてしまった。
「び、びっくりした……」
「ケケケッ(笑)」
うぅ、腹立つ~。戦えるようになったら、目薬を振りかけてやりたい!
「きーちゃんに何するミュ! 馬鹿、馬鹿! あっちいけミュ!」
「クー!」
タケちゃんが攻撃を当てないように腕を振り回して追い払ってくれる。私よりも怒ってくれているので、怒りが薄れた。
「大丈夫ミュ? 早くレベルを上げて倒してやるのミュ!」
「クー!」
二人に起こして貰いながら反省する。出て来ない時もあるんだと油断したのがいけなかった。でも、最後の最後で出て来るなんて、やっぱり嫌な奴。明日はもっと気合を入れてのぞむぞー!
☆= ☆= ☆=
「あっ⁉ ねぇ、君、待って貰える?」
潜水艇に乗って戻り、超高速水中エレベーター乗り場に向かっていると、すれ違った人に声を掛けられる。ん? 何か落としたかな?
「角川さん、だよね?」
じっと私の顔を見た後、耳元で囁かれる。びっくりして相手の顔を見ると、どこかで見た顔、聞いたことのある声。んー? と考えていると、またもや耳元で囁かれる。
「橋野なんだけど。ごめん、人違いかな?」
「あっ!」
名前を呼びそうになって慌てて口を手で覆う。そうだ、毎日会っている橋野さんだ。道理で見た顔だと思う訳だ。
「その様子だと合ってる?」
「はい! 偶然ですね~」
「あぁ、良かった。ちょっと、焦っちゃったよ。そんなに顔は変えてないんだけど、やっぱ違う?」
「言われると、『ああ!』って思いますけど、銀髪に青い目なので、雰囲気が大分違います。ふふふ、似合いますね」
「そう? 君も似合ってるよ。獣人にしたんだね。あ、ここでの名前教えて貰える?」
「はい。お菊って名乗っています」
「そっか、覚えやすくていいね。俺はユウだよ」
優介だからかな? 橋野さんも覚えやすい名前だ。
「ユウさんですね。種族は人間ですか?」
剣を持っているから、ウインダムさんと一緒の剣士かな。この世界で一番よく見る職業だ。
「うん。これからどこかに行くの?」
「遊楽に帰る所なんです」
「そっか。じゃあ、時間ないね。良かったら、フレンドになってくれない?」
フレンド? お友達になろうねって事かな?
「――僕の出番ですね!」
目の前には腰に手を当てて胸を反らしたサポウサちゃんが。なんて良いタイミング。
「通り掛かりのサポートウサギです。そちらの方、失礼しますね~」
「え、あ、うん」
橋野さんが目をパチパチさせながら頷いている。すみません、少々お時間を下さい。
「フレンドになると、相手がログインしているかが分かったり、連絡も出来たりして便利ですよ。後は協力してプレイすると良い物が貰えたりなんて事もありますね」
「へぇ、そうなんだ。色んな機能があるんだね~」
「お菊さんがいいなら、今から一緒にやってみましょう」
「お願いしまーす」
向き合って立って、お互いにステータス画面を開き、申請する側が『フレンド申請』をタッチすると、光の線が伸びて、ステータス画面同士が繋がる。後は、受ける方が『フレンド申請を受けますか?』という問いに『YES』と答えれば完了。
「フレンドの項目を開くと、先程の申請の他にリストや連絡のボタンがありますよ。分からなければ、どんどん聞いて下さいね。それでは失礼しました~」
亀きっちゃん達と一緒に手を振って見送る。今日も可愛くて頼りになります、サポウサちゃん。
「仲が良いんだね」
「はい! サポウサちゃん大好きです」
「そっか。俺とも仲良くしてくれると嬉しいよ。今度――ああ、いや、じゃあ、またね」
時告げの鐘が鳴り始めたので、橋野さんが言葉を切って見送ってくれる。何て言おうとしていたんだろう? 明日居たら、早速フレンド機能を使って聞いてみようかな。
出番を逃さないサポウサちゃん。説明する役は渡しませんよ~(笑)。
お読み頂きありがとうございました。




