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73.手懐けに行きます

「マハロさーん!」

「うわっ、なんだ、どうした?」


 昨日の事を言いたくて言いたくて仕方なかった私は、マハロさんを見付けてダッシュ。勢い良く飛びついてまくし立てる。もう昨日の夜から、そわそわしちゃったよ。


「ロイヤルハニーベアーちゃんが、ロイヤルハニーベアーちゃんが!」

「お、おぅ、なんだ、ロハベがどうした?」

「SAの『手懐ける』が成功したんです!」


「はぁっ⁉ いやいや、どんだけ奇跡起こしてんだよ。推奨LV50だと他エリアよりレアモンスターの遭遇率が更に下がるんだぞ。しかも、お菊はSA取得していなかったよな?」


「はい! 『おむすびころりん』ならぬ『カヌレころりん』のお蔭です!」


 それを聞いたマハロさんが脱力する。「なんだそりゃ……」と呟きながら、頭をガシガシ掻いて理解しようとしてくれている。


「お菊ちゃん、興奮してどうしたの?」

「あっ、ナダさん! ロイヤルハニーベアーちゃんが!」

「あー、待て待て、落ち着け。ナダに突進しようとするんじゃない」

「もうっ、私は猪じゃありませんよ!」

「お菊ちゃんなら、いくらでも受け止めてあげるよ。ほら、おいで」


 手を広げながら振り撒かれた、キラキラ笑顔の威力が凄まじくて思考が止まる。そのお蔭か冷静さが帰って来た。


「えっと、ロイヤルハニーベアーちゃんに、SAの『手懐ける』が成功したんです」


「え?」


 ナダさんが笑顔でピシッと固まり、後からやって来たトッドさんも動きを止めた。


「あー、俺は今、あり得ない言葉を聞いた気がしたんだが……」


 いち早く立ち直ったトッドさんが、先程のマハロさんのように頭をガシガシと掻く。


「まぁ、なんだ。お菊はやらかすのが当たり前だからな」

「あー、そうか。真実なんだな、うん」


 辺りに諦めの空気が漂う。え、なんで? 良い事が起きた筈だよね?


「ええと、これから毎日会いに行くのかな?」


「はい! ハデス君にも頼んだんですけど、皆さんも空いているようだったら、私と一緒に行ってくれませんか? 頼ってばかりで申し訳ないんですけど、私のレベルじゃ行けなくて……」


「うん、任せて。お菊ちゃんの為なら、いくらでも時間を空けるよ」


 やったー! とバンザイして喜んでいると、ナダさんが首を傾げる。


「昨日は誰と行ったの? ハデス様?」


「はい。あ、それと、ナダさんと一緒に輝石へ行った時に会った、男性プレイヤーと再会して、一緒に行かないかって話になったんです」


「へぇ、彼ね。名前はなんていうの?」

「ウインダムさんですよ」


 それを聞いたマハロさんとナダさんが、揃ってピクリと反応している。私でも知っている位だから、NPCの間でも有名なんだろうな。


「あぁ、最近話題になっている時の旅人だね。今日も約束しているの?」


「いいえ。基本的にはハデス君が付いて来てくれるそうです。でも、それだと私のレベル上げにならないので、好物をあげたら移動するって言っていました」


「そっか。マハロさん、うちにお菊ちゃんと仲が良くて、LV50くらいの人って居ましたっけ?」


「いや、居ないな。ケンもこの前60になったし、お菊と仲が良いのは大体LV70以上だ。それに預モンは交代制だから、一緒に行くのは難しいだろう」


 え? あのBチームのひょろひょろした男性も? お昼でよく一緒になる管理センターの女の子も⁉ この世界は見た目じゃ強さを測れないのね。


「うーん、楽に一気にレベルアップさせてあげたかったんだけど、そう都合よくはいかないか。まぁ、いろんなレベルのモンスターと戦った方が知識も深まるし、ゆっくり行こうか」


「はい。お世話になります」

「こちらこそよろしく。一緒に居られる時間が増えて嬉しいよ」


 ウィンクを飛ばされて言葉に詰まる。ナダさんに動揺させられてばかりで悔しい。私もパチンとウィンクを返そうとしたら、両眼を瞑ってしまった。は、恥ずかしい……。


「ぐっ……なんて可愛いんだ!」


 赤面して俯いていると、ナダさんに抱き締められて頭に頬擦りされる。うひゃぁぁぁ~⁉


「許可なく何してくれてんだ、この野郎!」


 どうやったのか、マハロさんの背に庇われている。はぁ、助かった。やっぱり安心できるお父さんの側が一番だ。


「可愛さのあまり体が勝手に動きました。もっと愛でたいので腕輪を外したいのですが」


「んなもん却下に決まってんだろう! ほら、昼休憩は終わりだ。さっさと仕事行って来い」


 バシンと背中を叩かれて、ナダさんが仕方ないなぁという感じで歩き始める。私もポンと背を叩いて「頑張りましょうね」と声を掛けると、パッと笑顔を浮かべて足取り軽く去って行った。


「なんだ、あの態度の違いは」

「ふふふ、照れているだけですよ。Aチームの皆さんは仲良しですから」


「あれが? ったく、反抗的な仲良しさんだぜ。まぁ、それはいいとして、お菊、トワイフルの歯磨きとブラッシングを頼んでもいいか?」


「はい。おしゃれしてお出掛けですか?」

「ああ。知り合いに会いに行くんだ。クビにリボンでも結んでみるか?」

「ふふふ、赤にしましょうか? きっと似合いますよ」


 自分の名前を聞いて近付いて来たトワイフルちゃんが「クーン?」と首を傾げる。そう、リボンだよ。可愛くしてあげるからね~。



☆= ☆= ☆=



「ハデス君、お待たせ」

「お疲れ様、お菊。行こうか」

「うん」


 アキプ島に確実に行けるように、マハロさんが30分の早引けを提案してくれたので、ありがたく受ける事にした。ハデス君と行く時は、始まりの鐘を集合場所にしているから、カヌレを買って歩いて来ると丁度良い時間だ。


 時告げの鐘によってアキプ島に着くと、早速マップを開く。


「ロイヤルハニーベアーちゃん、どこかな?」

「――お菊、花畑に星マークが出てるよ」

「ありがとう。この離れた所にある大きな建物は何か知ってる?」

「それは遺跡だね。大分ボロボロで確か地下もあったんじゃなかったかな」

「へぇ、強い敵がわんさかいそうだよね。私は近付かないでおこう」

「でも、ロイヤルハニーベアーがそこに居たら行かなきゃいけないよ?」


 ハデス君が笑うのを堪えながら、私の顔を覗き込む。分かってます、物凄く情けない顔をしているのは……。


「はぁ……。敵が出ないようになるアイテムってないかな?」

「あるけど高いよ」

「うっ……。ハデス君、守って下さい」

「はははっ、任せてよ、お菊」


 深々と頭を下げると、元気づけるように肩を叩かれる。本当、頼りにしてます、お師匠様。


 麻痺や眠りを使うか、蹴りで彼方に吹き飛ばすかして進んで行く、ハデス君。モンスターが見えなくなっても、木がバキバキと折れる音がするって、どれだけの威力⁉


「あ、あの、ハデス君。大丈夫?」


「ん? 今の奴は物理耐性高いし、手加減しているから、モンスターは生きているよ。安心して」


 足が大丈夫なのか聞いたつもりだったのに、モンスターと私を気遣われてしまった。亀きっちゃんをテイムした時の事を覚えていてくれたんだね。私もハデス君の心に寄り添えるように、よく見ていようと思う。


 そんなハデス君のお蔭で無事に着いた花畑。きょろきょろとロイヤルハニーベアーちゃんを探すと、花を摘んで蜜を吸っている。ふふっ、甘い物が好きなのね。


「こんにちは。今日もカヌレを持って来たんだけど、受け取ってくれるかな?」


 じーっと私を見た後に、スッと右手を出すので載せてあげる。一口だけ齧ると、今度は左手がスッと差し出される。


「えっ、逃げないの⁉」


 あげられるのは一日二回。食べ物を一個渡すと逃げちゃうと聞いていたけど、この子は反応が違うよね。


 昨日は駄目だったけど、今度こそ触っていいよの合図かもと期待して手を伸ばすと、勢い良く首が横に振られてしまう。ま、またもや違ったのね……。


「はい、どうぞ」


 カヌレをもう一個あげると、口角がキュキュ~と上がっていく。か、可愛い!


 もっと見ていたいと思ったら、くるんと回れ右して走って行ってしまった。


「あぁっ、ロイヤルハニーベアーちゃん⁉」


 なんて呆気ないんだろう……。もう背中も見えない。


「テイムする前はこんなもんだよ。でも、好物が分かっていて良かったよね。50回探せば済むんだから。しかも、あの子の様子だともっと少なくて良さそうだ」


「そうだよね。そうじゃなきゃ、百回以上は確実かも。はぁ、私って欲張りだなぁ」


 会うだけで良いなんて思っていたけど、会ったら欲が増してしまった。果てしない道程ではなくなったのだから、喜んでおくところだよね。


「お菊って、欲はいけないものだと思ってる? それは違うと思うよ。確かに行き過ぎると身を亡ぼすけど、当たり前の欲は原動力になるからね」


「これが当たり前? あっていいの?」

「うん。寧ろ、お菊はもっと前面に出していいと思うよ」


 そっか、いいんだ。確かに私はいつも自分を押し殺している所があると親しい人達からも言われる。この世界では好きな相手にぐらい、欲を出してみようかな?


「さて、今日の分は渡せたし、レベル上げに行こうか」

「うん! 目指せ、LV10!」





 レベル上げをする『難破船・ハルケ』は、陽揺から超高速水中エレベーターに乗り、海底都市『静佇』にまず向かう。


「うわぁ、お魚がいっぱい泳いでるね~」

「クー!」

「美味しそうミュ」


 私が水族館でつい言っちゃう台詞だ。タケちゃんと私の感性って似ているのかも。


「あっちにジンベイザメも居るよ」


 ハデス君の指す方を見ると、灰色の皮膚に白い水玉模様の巨体が、大きな口を開けて、ゆったりと泳いでいる。その頭上をマンタがヒレをはためかせながら付いて行く。


「透明な筒状のエレベーターだから見られる光景だよね」

「そうだね。町も透明な膜で覆われているから、同じように見られるよ」

「お水が無いって事? 呼吸は普通に出来るの?」


「うん。水が入り込まない造りだから酸素があるよ。町は時間がある時に見て回ろうね」


 そうなんだよね。アキプ島と難破船は正反対の位置にあるから、移動するのに時間が掛かる。LV15になれば近くの島で出来るんだけどね。


「経験値が良い敵って居る?」


「倒し方さえ分かったら全部かな。あそこは数も居るし、アンデッドばっかりだからね」


「えっ、アンデッド⁉ 無理無理無理!」


「大丈夫だよ。全部赤枠で見えるし、さっき弾にいっぱい聖水こめたでしょう」


「その為だったの⁉ うぅ、何で気付かなかったの私……」


 尊き宮でお水貰っておいでって言われて、井戸から汲んで来たのだ。てっきり、水が弱点の敵が居るんだと思っていたけど、ただの水じゃなかったのね。


「一発で倒せて爽快だよ。いっぱい倒そうね」


 笑顔のハデス君に引き攣った笑みを返す。いくら赤枠でも、周り中に居るって怖いから!


お読み頂きありがとうございました。

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