7.ギルド
大きなワンちゃんにはびっくりしたけど、親切なマハロさんに出会えたお蔭で、無事にギルドの建物へとやって来れた。
「うわぁ~、大きい建物ですね~」
「そうだろう。地上五階、地下二階だ。この建物内に冒険、商業、農業とか全てのギルドが入っている」
「なんだかお役所みたいですね」
「ああ。連携しているから手続きが早くて便利だぞ」
遊楽は城下町のような造りで、ギルドはまるで歌舞伎座のような堂々とした佇まいだ。白い壁が映えているな~。
「連れて来て下さってありがとうございます。とても助かりました」
「どういたしまして。それじゃあ、俺はこれで」
「はい。――きゃっ⁉」
入口に向かおうとすると、巨大な斧を背負った大きな男の人とぶつかる。樵さんかな?
たたらを踏んでいると、腕を掴んでくれた。
「――おっと。すまないね、嬢ちゃん」
「い、いえ。随分と混んでいますね」
「ああ。時の旅人たちが続々と来ているからね。すまなかったね、気を付けて」
「はい。こちらこそすみませんでした」
頭を下げて進もうとすると後ろから声を掛けられる。
「――お菊」
「あ、マハロさん。どうされたんですか?」
「帰ろうとしたら、ぶつかるのを見たからさ。本当に一人で平気か?」
「はい。――きゃっ!」
巨大な盾を持ったお兄さんが他の人を避けた際に、盾の側面が私にぶつかる。うっ、肩痛い……。
「あっ、すまないぃっ⁉」
……ああ、強めに二回ぶつかられると耐えられないんだ。びっくり顔のお兄さんを目に映しながら、視界が闇に閉ざされた。
☆= ☆= ☆=
また始まりの鐘に戻って来てしまった。もう一回ギルドまで無事に辿り着けるかな……。
「お菊ー!」
向こうからマハロさんとワンちゃんが走って来る。もしかして、迎えに来てくれたの⁉
「マハロさーん!」
腰掛けていた鐘つき堂の階段から立ち、手を振り返した所で見事に足を滑らせる。
「わっ⁉」
階段からズダダダッとお尻で滑り落ちる。「痛たたた……」と言う事は出来なかった。……そう、リボーンしたからです。
「……お菊」
「うぅ~、マハロさ~ん(涙)」
駄目だ、こりゃという感じで額に手を当てるマハロさん。それはまだいい。周りの目とヒソヒソ声が辛いです。
「あー、うん。取り敢えず、トワイフルに乗れ」
「えっ⁉ 潰れちゃいますよ!」
「大人二人を平気で乗せられるから大丈夫だ。トワイフル、いいだろう?」
「ワフ~ン♡」
シッポをバサバサ振りながら、私の前にしゃがんでくれる。こちらを振り返って「乗って! 乗って!」と言っているような感じがするのは、気のせいじゃないよね?
「滅茶苦茶喜んでるな。この女好きが!」
「ワフッ⁉ ワン、ワン、ワワン!」
「おっ、この、やるか⁉ うおりゃっ!」
巨大なワンちゃんと取っ組み合うマハロさん。耳を引っ張ったり、脳天にチョップを入れたりしている。でも、大して痛くないのか、ワンちゃんはゴスッとマハロさんのお腹に頭突きを入れる。
「ぐふっ⁉ ふ、ふふ、やるな、このワンワンが……」
「ワン!」
どうだ! と言わんばかりにワンちゃんが胸を張る。モフモフの白い毛に光が当たって綺麗だな。あー、飛び込みたい……。
「くそっ、今日はここまでにしてやろうじゃないか。覚えとけよ、トワイフル! 行くぞ、お菊」
悔しそうにしながらも、私に手を貸して乗せてくれる。いつもこんな感じでじゃれ合っているのかな?
「あの、お時間は大丈夫ですか?」
「ん? ああ、平気だ。それに、気になって仕事が手につかん」
「す、すみません」
「いや、俺が勝手にやっている事だからな。お菊が嫌でなければ付き合うよ」
「ありがとうございます! よろしくお願いしますね」
「ああ、任せてくれ。今日は時の旅人さんがギルドに殺到しているから、さっきのような事が起きやすい。トワイフルと一緒に居た方がいいだろう」
「はい! トワイフルちゃん、よろしくね」
首元の毛を撫でると、「クーン、クーン」と甘えたように鳴いて、足取りも軽やかに歩き出す。振り落とされないように、しっかりと掴まっておかなくちゃ。またリボーンはしたくない。
☆= ☆= ☆=
ギルドの総合受付へと無事に着くことが出来た。わぁ、綺麗なお姉さん! 纏め髪が素敵です。
「あら、マハロさん。表から来るなんて珍しいですね」
「ああ。時の旅人さんを案内して来たんでな。登録をお願い出来るかい? 名前はお菊だ」
「畏まりました。お菊様、ご職業は?」
「テイマーです」
「でしたら、テイマーと冒険者二つのギルドへのご登録でよろしいでしょうか?」
「あ、えっと――」
分からなくて思わずマハロさんを見てしまう。
「ん、どうした? 商業とかにも入りたいのか?」
「えっと、そうではなくてですね。――ギルドって何ですか?」
マハロさんを手招き、受付のお姉さんに聞こえないように物凄くひそめた声で尋ねる。サポウサちゃんに「まずは行って下さいね」と言われたから来たけど、なんの為なのかは知らない。
「すまん、超初心者なのを忘れていた。簡単に言うと同業者組合みたいな感じだな。ギルドで依頼を受けて、登録している者がこなして金銭などを受け取ったり、素材を売買したり、登録している者へ知識を教えたりと幅広いな。登録料は取られるが、絶対に損はしないから入っておくといい」
「そうなんですね。――お待たせしてすみません。先程の二つへ登録をお願いします」
働きやすい環境を提供してくれるって事かな? 信頼も実績もない新人が、自分で依頼を貰って来るなんて大変だもんね。
「畏まりました。初心者講習は予約制ですが、受講されますか?」
「はい、お願いします」
そういうものは是非参加しないと。私は知らない事ばかりだもんね。
「では、こちらの日程からお選び頂き、次の受付でお伝え下さい。こちらでは以上となりますので、この番号札をお持ち頂き、右手にある冒険者ギルドへとお進み下さい。番号が呼ばれた際にいらっしゃらないと、次の方が呼ばれて手続きが遅くなりますので、他への移動はご遠慮下さい」
「はい。ありがとうございました」
番号札を持って向かうと、待合用の席は埋まり、立っている人も多い。やっぱり、ゲームが開始されたばかりだから人が多いようだ。
「ここだとトワイフルが邪魔になるな。表に連れて行くから少し待っていてくれ」
「はい。ここで待っていますね」
「ああ。くれぐれも気を付けろよ?」
苦笑しながら頷く。壁際でじっとしていれば平気だよね? そうして待っていると――。
「おい、俺が取っておいた席だぞ。どけよ!」
「はぁ? なに勝手に決めているんだよ。座っている人間を無理矢理退かせるのかよ?」
「無理矢理じゃねぇよ。お前が俺の席を奪ったんだろう!」
ぎゃあぎゃあと言い合っていないで、仲良く交替で座ればいいのにと思う。――ん? 座っているから元気が余り過ぎて、イライラに繋がっていたりして。
すぐに収まるだろうと見ていたら、段々とヒートアップして来た。そして、とばっちりもやって来る。
「この野郎!」
「やりやがったな! ふざけんなよ!」
ドンと肩を押された方が周りの人にぶつかり、たたらを踏んだ前の人が私にぶつかって来る。
「あ、ごめんね」
「いえいえ。激しくなってきちゃいましたね」
「ねぇ。楽しいゲームの世界に来ているのに勿体無いよね」
「ですよね~」と相槌を打っていると、止めに入った男の人が突き飛ばされ、私にぶつかって来る。
「きゃっ⁉」
「悪い! 怪我ないか?」
「はい。――って、前!」
「え? うわっ⁉」
取っ組み合った二人が、私達二人を巻き込んで倒れる。あ、まずい気がすると思った時には闇に包まれていた。
お菊、ひたすらリボーンするの巻です。ギルドで登録する事すら大冒険ですね~。マハロさんが居なかったら辿り着けていなかったりして……。
お読み頂きありがとうございました。