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66.育つ気持ち ~ナダ視点~

 輝石の町の最奥は、鍾乳石が棚田のように広がっており、上から流れて来た水が湛えられている。町の下に広がっている水は、これが溢れたものなのだろう。町の一番の見どころなのか、プレイヤーが柵の前に大勢居る。お菊ちゃんが爪先立ちしているので、手を貸してあげた方がいいかな。


「見える? 持ち上げようか?」

「大丈夫です。それよりも亀きっちゃん達が!」


 見えないなぁと首を左右に動かしていた二匹は焦れたのか、プレイヤーの足の間に首をズボッと入れている。


「うわぁっ⁉」

「くすぐった⁉」

「見えたミュ~」

「クー♪」

「ご、ごめんなさい。こっちにおいで」


 やっと見えた二匹は嬉しそうに体を揺らし、ご機嫌で聞いていない。


「いいって、気にしないで。綺麗だよな~」

「ミュ~」

「クー」

「泳ぎたいのミュ? レッツゴーミュ~!」

「クー!」

「いやいや、立入禁止だから。その代りに、お兄さんが抱っこしてあげよう」


 あっという間に人気者になった二匹は、抱き上げて貰って特等席をゲットしている。


「ははっ、心配いらないみたいだよ」

「そうみたいですね。人懐っこいんでしょうか?」

「うん、テクテクパンダは特に人慣れしているからね」


 さっきからお菊ちゃんがソワソワしながら俺を見ている。何か話したい事でもあるのだろうか? 二匹が見える位置にある、人気のないベンチに促す。


「あの、さっきはごめんなさい」

「え? もう怒ってないよ。さっき仲直りしたよね?」

「そっちじゃなくて、良縁祈願の方です。無神経な事をしてごめんなさい」


 気付くとは思わなかったな。俺が無意識に辛い顔でもしたのだろうか?


「言い訳になっちゃいますけど、良縁祈願はほぼ条件反射みたいになっていて、神社に行くとしちゃうんです。沢山頼めば一つくらいは実るかなと思って。それ程に縁がないんですよ! 私だって幸せな恋がしたいんですよ!」


 拳を握って涙目で迫って来るので、思わず仰け反る。大分切羽詰まっているようだ。


「祈るのも最終的に誰を選ぶかもお菊ちゃんの自由だから、責めるつもりはないよ」


 これは頭で分かっている事。心では俺だけを見て欲しいし、誰にも渡したくないと思っている。


「選ぶのに迷う程、現れると思うんですか?」

「まあね」


 現に今もライバルだらけだという言葉を呑み込んでいると、お菊ちゃんの表情が曇る。いっぱい居ると言っているのに、なんで喜ばないんだ?


「……ナダさんしか目に入らないぐらいに想いを向けてはくれないのかな?」


 唇を見ていなければ声が小さ過ぎて分からなかった。表に出る筈のない言葉だったのか、本人も「あれ? 今、何を思ったんだっけ?」という顔をしている。じわじわと歓喜が湧き上がってきて、思わず抱き締める。


「え? わっ⁉ ナダさん⁉」


 構わずに、そっと力を込める。顔が曇ったのは、無意識にモヤモヤしたのだろう。俺が居るのに、他の男を選ばなければいけない状況になるという事に。


 お菊ちゃん自身すら気付いていない俺への気持ちが育っている。忙しく跳ねるお菊ちゃんの鼓動が体に響いて、声を上げて笑い出したくなる。あぁ、なんて可愛いんだ。絶対に何があっても諦めない。迷いなんて生まれないぐらいに、俺で満たしてあげよう。





「よう、お帰り。出来てるぞ」


 タケノコ君が嬉しそうに小走りで向かう。亀吉君も興味があるのか、お菊ちゃんの腕の中から、しきりに首を伸ばしている。


「ありがとうございます。装備の仕方を教えて頂けますか?」

「ああ。アイテムボックスに仕舞って、この子の装備欄から選べばいい」


 お菊ちゃんが選択し終わったのか、タケノコ君の背に鞍が載っている。しきりに振り向く仕草が可愛らしい。


「どうミュ? 似合ってるミュ?」


「うん、大きさもぴったりだよ。――ん? タケちゃんが大きくなったら付けられないって事ですか?」


「いや、体の大きさに合わせて変化するから大丈夫だ」


 代金を受け取ったロロ君が、お菊ちゃんの袖をクイクイッと引く。


「お耳、触らせて下さい。ペッペが自慢してて羨ましい」


 破顔したお菊ちゃんがしゃがみ込むと、そーっと触っている。


「うわぁ、フワフワだ。やっぱり、僕も団員になろう」

「団員?」


 うさ姫騎士団を知らないお菊ちゃんは首を傾げている。


「ロロ、その為には腕上げてバッジ作れるようにならんとな」

「はい、師匠。ペッペには負けない」


 団員バッジはパッソさんに頼んでいたが、急速に団員が増えているので、リトモさんのお店でも作る事になったらしい。


 お菊ちゃんは仕事で必要な資格? あっ、獣人用の装備! と一人で納得しているので、誤解のままにしておく。うさ姫騎士団は本人には内緒だからな。


「鞍のレベルが上がったら、また来な。それに、お菊はまだ初期装備のままだろ。いつでも相談に乗るぜ」


「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」

「おう、またな」


 店から出ると、トワイフルがお座りして待っていた。


「あれ? トワイフルちゃん?」

「クーン。ワフワフ」


 生憎、俺もお菊ちゃんもトワイフルが何を言っているか分からない。なんでこんな所に居るんだ?


「きーちゃんに会いたくて来たって言ってるミュ」

「マハロさんが居ないから寂しくなっちゃった?」


 預モンで俺達が話していたのを聞いていたのか? だが、輝石に行くとは言わなかった筈だ。尾行している気配も感じなかった。だとすると、俺がいつも行く防具屋の場所を知っていたという事だ。誰も教えたりしていないのに、何故か色々な事を知っているトワイフルは、やはり侮れない。いや、使役しているマハロさんがというべきか。


 トワイフルは俺の視線に気付いているだろうに、お菊ちゃんに撫でられて、デレッとした顔をしている。ようやくこちらを見たと思ったら、フフンと鼻を鳴らす。なんかムカツク。


「ちょうどいいから、乗って帰ろうか」


 タケノコ君は二人乗り出来ないから転移陣を使おうと思っていたが、トワイフルが居れば並走出来る。初めての走行は戸惑う事も多いだろうから、一緒に居てあげたい。


 ワクワクした顔の皆を連れて外に出ると、トワイフルがお菊ちゃんの前にシッポを振りながらしゃがむ。


「え? あ、そっか。ごめんね、誤解させちゃったね。私はタケちゃんに乗せて貰うの。ほら、鞍を買ったんだよ」


「クーン……」


 トワイフルのシッポが力なく地面に落ち、ウルウルした目でお菊ちゃんを見つめる。


「うっ、本当にごめんね。ナダさんが乗ってくれるから、元気出して」


 『えー、こいつぅ?』と目が語っている。やっぱりムカツクと思いながら、小さく顎でタケノコ君を指す。


「きーちゃん、僕に乗らないミュ? フミュ~……」

「ワ、ワフ、ワフワフ」


 慌てて何か言っている。そうだ、幼い子を悲しませるな。


「ンミュ♪ 大きくなるミュ~」


 譲ったようで、タケノコ君が嬉しそうにお菊ちゃんの前に屈む。


「ふふっ、トワイフルちゃん、ありがとうね。タケちゃん、乗せて貰うね」


 俺も乗ろうとするが、しゃがみもしないので、横腹をバシバシ叩く。「ワフ~……」と溜息を盛大につくのはやめろ。俺だって、お菊ちゃんに触れていたいに決まっているだろう。


「よし、行こうか。徐々にスピードを上げるから付いて来てね。辛かったら声を掛けて」


「はい」


 問題なさそうなので、最後に競争させてみると、街道に居る人達が興味津々で道端に寄って眺めている。


「は、速い、わっ、わっ⁉」

「ミュー!」


 お菊ちゃんが必死に鞍の縁を掴んでいる。まだ、トワイフルのように少ない揺れで走る事は出来ないから、きちんと練習させた方がいいな。一方のトワイフルは余裕たっぷりだ。本気で走ったら、どれだけのスピードが出るんだろうな? 一度見てみたいものだ。


 お菊ちゃんが力尽きる前に、穏やかな速度に戻して遊楽に向かう。こうして一緒に走らせるのもいいな。今日は色々あったけれど楽しかった。


 お菊ちゃんを知るほどに、近付くほどに、俺の日々が鮮やかに色付いていく。君の世界は今、何色だろう? 俺が見付けた小さな欠片が、どうか君を染め上げますように――。


トワイフルも亀きっちゃんとタケちゃんには敵いません。幼さ+可愛い=最強なのです。


お読み頂き、ありがとうございました。

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