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65.リトモの防具屋

 防具屋さんの扉の前で、テイムボックスに入って貰っていた、亀きっちゃんとタケちゃんを外に出す。


「あれ~? もう夜ミュ?」

「ううん、夕方だよ」


 輝石の町は、巨大な鍾乳洞の中に作られているので暗い。でも、あちこちライトアップされているので、歩くのに不自由はない。


「こんにちは」

「らっしゃい。おぅ、ナダじゃねぇか」


 扉をナダさんが押さえていてくれるので、二匹まとめて抱っこして入る。


「らっしゃい。連れか?」

「はい。預モンで一緒に働いているお菊ちゃんです」


 二匹と一緒に「よろしくお願いします」と頭を下げる。


「俺はリトモだ。んで、こっちに居るのが弟子のロロだ」

「え? パッソさんとペッペちゃんにそっくり!」


 奥から出て来た二人を見てびっくりだ。毛の色が違わなかったら、パッソさん達だと思った所だ。因みに、パッソさんとペッペちゃんは茶色、リトモさんとロロ君は黒だ。


「兄貴に会ったのか。ペッペとロロは双子だ」


 ゲームって似た顔が多いのかな? 見分けられないと心配になる所だけど、名前を教えて貰うと、頭上に表示されるのだ。便利機能バンザイ。


「今日は嬢ちゃんの装備か?」

「いいえ。テクテクパンダの鞍が欲しいんです」

「そうなのミュ~」


 タケちゃんにキラキラした目で見られて、リトモさんが照れたように頬を掻く。


「あー、テイムしたばかりか?」

「はい」


「じゃあ、LV1の物しか装備出来ないな。防御力がプラス15されるぞ。付与枠は一つだが、どうする?」


「付与枠?」

「もしかして、装備品を買う事自体初めてか?」

「はい」


 フンフンと鎧の匂いを嗅いでいた、亀きっちゃんとタケちゃんもお勉強しなくちゃという感じで寄って来る。うん、一緒に聞こうね。


「武器はLV1~8まであるんだが、1、3、5、7の時に付与枠が1ずつ増えて、合計四つになる。そんで、付与可能なのは機能、属性、状態異常の三つ」


 機能って何だろうと首を傾げる。


「エフェクトガンで言うと、自動照準がそれにあたるね」

「ああ! ギルドの訓練所で、ナダさんから聞いた覚えがあります」


「そうそう、それだよ。もう少し詳しく説明すると、エフェクトガンは、ちょっとお得で、弾に付与枠がもう一つある。だから、機能で四つ埋めて、弾に属性や状態異常をなんて事が出来る。それでね、付与したものって、お店に行ってお金を払わないと変更できないんだ。その点、弾は空があれば、ある程度自分で好きに入れられるから、自由度が高い」


 マハロさんとナダさんが薦めてくれたのは、こういう理由もあったんだ。お金が掛からないのも、ありがたい。


「レアなもんだと、属性や状態異常が枠を使わずに付いている事がある」

「リトモさんは世界一腕が良いから、自分で作り出せちゃうけどね」


 兄弟そろって凄いのね。ナダさんの紹介がなければ、お近付きになれなかっただろう。亀きっちゃん達も凄いと思ったのか、さっきよりも熱い眼差しを送っている。


「ったく、お前らキラキラした目で見んな、照れんだろうが。続きを話すぞ。防具とアクセサリもLV1~8まであるんだが、レベルが上がっても付与枠一つのまんまだ。付与可能なのは三つ。一つ目が武器と一緒で機能。二つ目は属性の一つを無効化。レベルが低い内は半減な。三つ目は状態異常のどれかを無効化」


「頭・体・靴を合わせて三つに、アクセサリが一つ。武器と同じで四枠あるって覚えればいいよ。あと、アクセサリは防御力だけじゃなく運も上げてくれる。ただ、今の話はプレイヤーに関してで、テイムした子は装備出来ない子も居るし、付与出来るのは一つだったりする」


 亀きっちゃんとタケちゃんが顔を見合わせて、自分の事だと頷いている。


「装備出来る数が多い程、強いって事ですか?」


「そうでもないよ。タケノコ君のように強力な固有SAを持っている子もいるし、主に傷一つ付けさせない亀吉君のような子も居る。テイムした子の力をよく把握して、主が見せ場を作ってあげればいい」


 私次第か。二匹が頑張ろうねという感じで、私の靴に前足を重ねてくれる。


「その為に何を付与するか、よーく考えて決めな。鞍の値段は1000タム。別途で機能は500タム、属性と状態異常は250タムだ」


 もっと高いのかと思っていたけど、買ってあげられる値段で良かった。渡されたリストをスクロールさせる。――へぇ、時速を上げる機能なんてあるんだ。


「タケちゃんの希望はある?」

「スピード上げたいミュ。そしたら、攻撃の回数が増えると思うのミュ」


 か、賢い。そんな事、私は全然思い付かなかったよ。買う時は必ず皆で相談して決めた方がいいね。


「えーと、あるとしたら機能かな? ――あ、『速足・・・戦闘時、スピード×1.2』ってあるよ」

「これミュ! 僕にぴったりミュ」


 ステータスを見て計算してみようっと。――あれ? このパーティーだとタケちゃんのスピードが一番低かったんだ。これを付与すると46で、亀きっちゃんと同じ位のスピードになるのね。


「決まったかい?」

「はい。この『速足』というのを付与して下さい」

「あいよ。ちょいと時間が掛かるから、町の見物でもしててくれや」

「はーい」





 リトモさんの防具屋さんは輝石のメイン通り、町の真ん中辺りにある。取り敢えず、入口の方から見ようという事になり、ギザギザの歯を生やした鬼の口みたいな開口部から洞窟の外へ。


「ん? お花の匂い?」


 振り返ると、岩肌に沿うように薄紫の藤の花が幾房も垂れ、入口を華やかに彩っている。


「あまーい匂いミュ」

「輝石は藤の花で有名なんだよ。何か買っていく?」


 入り口付近には、蜜や花を使った商品を扱う店が並んでいる。タケちゃんと亀きっちゃんが物欲しそうな顔で花を見上げているので、蜂蜜を買ってあげよう。


 うわっ、大きい瓶だと5000タムもする。150gの瓶だと1500タムか。蜂蜜は高級品だね。


 小さいのを一瓶買ってアイテムボックスに入れると、二匹が悲しそうな顔をする。大丈夫、お預けじゃないよ。ソフトクリームを一つ買ってあげるからね。


「はい、あーん」

「あまーいのミュ~♪」

「クー♪」


 幸せそうな顔で食べるから、こちらまで笑顔になる。もう一口と食べさせていると、口が一つ増える。


「あーん」


 二匹を見ると、「いいよ」と頷くので入れてあげる。


「うん、おいしいね」


 満面の笑みを浮かべたナダさんが、私の手からスプーンを取る。


「はい、あーん」


 戸惑いながら口を開けようとして、すぐに閉じる。な、なんで周りの皆さんは、こっちを見てるの⁉


「どうしたの? おいしいよ?」

「そうなのミュ」

「クー」


 視線に気付いていないのか、食べて食べてと急かされて覚悟を決める。お菊、いきます!


「はむっ。――うん、おいしい!」


 花と同じ薄紫色のソフトクリームは冷たくて甘くて、香りが口中に広がる。次々と売れていくのも納得の味だ。


「今度は僕の番ミュ」

「クー」


 ナダさんが笑いながら、ちょっとずつ口に入れてあげている。ふふふ、皆で分けて食べると更に美味しく感じるね。





 洞窟は下に浅く水が溜まっているので、木の床が張り巡らされている。そこに、ピチョンピチョンと滴が垂れてくるので上を見ると、鍾乳石が剣山のように天井を埋め尽くし、長い物は地面まで柱のように伸びている。


「あの鍾乳石で出来た塔がギルドだよ」


 ライトアップされた白い円柱状の塔の外観は、各階毎にアーチ状の飾りがぐるっと一周囲んでいて、イタリアの斜塔みたいだ。と言っても、ここのは真っ直ぐだけどね。


 床面積が狭いのか、今まで見たギルドの中で一番縦に長い。えーと、1、2、3……8階かな。外から光を得られない為か、窓がない造りになっている。


 寄るのは今度にして、またリトモさんのお店の前を通り、右に曲がる。この通りを右へ行くと、推奨LV20のフィールド『ウス樹海』へ。左へ行くと、推奨LV50の『コユキ山』へ続く道があるそうだ。


「お菊ちゃん、あの洞窟の中に尊き宮があるよ」


 白い鍾乳石が天井から垂れており、ドーム型のケーキにホワイトチョコソースを掛けている途中のように見える。美味しそうな洞窟だなぁ。


 規模は遊楽と変わらなそうに見えたけど、カーテンやツララのような鍾乳石が上から垂れたり、大小の石筍が下から伸びているので、内部は思ったよりも狭く感じる。


 オレンジ色の温かい光が満ちる中を進んで行くと、木の形をした鍾乳石が有り、『良縁の木』と立て看板がある。ここにもあった! とすかさず手を合わせて祈る。どうか私に良縁を、良縁を下さい!


 満足して顔を上げると、他の皆もちょうど顔を上げる。


「良縁って何ミュ?」

「クー?」


 私の真似をしていただけで、分からずにやっていたのね。ふふふ、可愛い。


「お菊ちゃんと出会っているから、俺達はとっくに良縁を手に入れているよ」


「ミュ~、ずーっと一緒にいたい人と会えますようにってことミュね。会えて良かったミュ~」


「クー」


 安堵した様子の二匹が、私の足に抱き付いて頬擦りしている。うぅ、なんて嬉しい事を言ってくれるの。屈んで抱き上げようとしたけれど、後ろから抱き締められて叶わない。


「立候補しておいたから。お菊ちゃんにとっても俺が良縁となりますようにって」


 祈るように私の肩に顔を埋めるナダさん。会えて良かったと思っていますよじゃ軽い気がして、声を掛けられない。困って、そっとサラサラの髪に触れると、ナダさんが勢い良く顔を上げ、ニコッと笑って私を解放する。


「お参りしちゃおうか。亀吉君たち、行くよ」


 はしゃぐ二匹を抱っこして、ナダさんが先を歩く。さっき、笑顔ですぐに隠されてしまったけど、傷付いた目をしていた。また私が嫌な事をしてしまったんだ。


 点在している遊楽よりも小さいお社を巡り、事前に摘んであった花をお供えしながら最奥の本殿前へ。ここも遊楽に比べるとこじんまりしているけど、そのぶん手が込んだ彫刻と彩色で飾られている。


『久遠様、こんにちは。私はナダさんを傷付けてばかりです。どうやったら笑顔にしてあげられるのでしょうか?』


『お菊よ。何故、ナダが傷付いたか考えてみると良い』


「ひゃっ⁉」


 急に頭の中で音が広がって、肩がびくりと跳ね上がる。


「お菊ちゃん? 水滴落ちて来た?」


「あ、え、はい。お騒がせしてすみません。あの、もう少しお祈りしていてもいいですか?」


「うん。そっちで待ってるね」


 開けた場所にナダさん達が行くのを見送って、再度手を合わせる。


『久遠様ですか?』

『そうだ、我だ。驚かせてすまなかった。先程言った事、考えてみると良い』


 傷付いた理由か。良縁の木にお願いして、二匹が可愛かった。それ以外に何かあったかな? えーと、ナダさんが立候補したと言っていた。何に? 良縁に――って、そういう事⁉


『自分が隣に居るのに、他の男性との良縁をお願いするなんてって事ですか⁉』


『その通りだ。だが、自分に気持ちが向いていないのだから仕方ないと思い直したのだ』


 あぁぁぁ、なんて無神経な事をしてるの私は……。傷付いて当然じゃない。


『だが、お菊がナダとの縁を望まぬのも自由。正解は自分が知っている故、心に従って生きればよい。そなたは今、ナダの側に居たいと願うか?』


 それは当然、イエスだ。でも――。


『頭に浮かぶ、「でも」や「だけど」は放っておけ。今の自分を正直に伝えてやればよい。ではな』


 お礼を言って振り返ると、目が合ったナダさんが笑ってくれた。


亀きっちゃん達がすっかりナダさんに懐いていますね~。さすが、トップテイマー。と言いたい所ですが、モンスターが大好きな世話焼きお兄さんがメロメロになっているだけです(笑)。


お読み頂き、ありがとうございました。

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