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61.タケノコ

 連休最後の日。始まりの鐘の前で、ハデス師匠に「LV5にしてまいれ!」と指令を貰ったので、亀きっちゃんと共に敬礼し、キヨ滝でレベル上げする事に。


 空港でキヨの笛をピィーと吹いて待つ事暫し。笹舟と思われる緑色が近付いて来て、個人所有しているモンスターが乗り降りする滑走路へと止まる。


「――お菊ちゃーん、お待たせー」

「キヨちゃん、ありがとう。凄く立派な舟だね」

「そうでしょう! お菊ちゃん達のお蔭だよ」


 キヨちゃんが自慢気に舟をバシバシ叩いてみせるけれど、きっちり折られた笹は綺麗な形を保ったままだ。


「これなら岩にぶつかってもへっちゃらだよ。ささっ、乗って乗って」


 私と亀きっちゃんが乗っても、まだまだ余裕がある。1パーティーなら乗れちゃいそうだ。


「行くよ~」


 竹さおを動かすとフワリと浮き、滑走路上を滑るように進んで行く。水が無くても動くなんて不思議だな~。


「どれくらいで着くの?」

「三分も掛からないと思うよ」

「えっ、そんなに早く⁉」


 空飛ぶ自転車で30分位は掛かる距離だった筈だ。


「うん。神様や眷属が通る道だから、距離や時間の流れが違うんだよ」


 雲海にぽっかりと開いた穴に入ると、淡く光る通路がまっすぐに続いている。振り返ると既に穴がない。


「ほら、出口が見えてきたよ。お菊ちゃん達、どのモンスターと戦うの? いっぱい居る所まで乗せてってあげるよ」


「じゃあ、バンブートレントの所までお願い出来る?」

「うん、任せてよ」


 ダメージをさほど受けずに倒せたと話したら、「多少時間が掛かっても経験値が良いから、バンブートレントね」と、ハデス君に言われたのだ。


「――到着! 頑張って来てね!」

「うん。送ってくれてありがとう」


 亀きっちゃんと手を振って見送り、気を引き締める。


「目指せ、LV5!」

「クー!」





 多少攻撃力が上がっていたので、前回よりも少し早く倒せた。――よしっ! 亀きっちゃんもLV6になった!


「お菊、レベルアップ、おめでとう」

「あれ、ハデス君⁉ いつ来たの?」


「ついさっきだよ。亀吉も上がったことだし、これから浮雲にある推奨LV5のタナダ峡谷へ行くよ」


「じゃあ、一度戻って乗り物を借りないといけないね」

「乗り物ならあるじゃない。ほら」

「え?」


 上流から笹舟がやって来て止まる。え、キヨちゃん? 私、笛を吹いていないよ?


「お菊ちゃん、行くよ~」

「ハデス君が頼んだの?」

「うん。さっき、頼んだ。ほら、手を出して」


 乗り込むのを手伝って貰い、手渡された亀きっちゃんを抱っこする。二人はお友達なのかな?


「ハデス様、タナダ峡谷でよろしいんですよね?」

「うん。あいつを捕まえに行くからね」

「あいつ?」


 楽しそうに笑うハデス君は、「まだ秘密」と言って教えてくれない。むぅ、気になる~と、私と亀きっちゃんは口を尖らせたのだった。





「いってらっしゃーい。気を付けてね」

「キヨちゃん、ありがとう」


 手を振って見送っていると、周りのプレイヤーさん達から、「ラッコ⁉」、「笹舟⁉ あんな移動手段あったか?」という声が聞こえてくる。久遠様の眷属だから有名なのかと思っていたけど、知名度が低いらしい。眷属になって日が浅いのかな?


「お菊、行くよ」

「はーい」


 ハデス君に手招かれて、お寺のような立派な木の門を潜ると、轟音と共に水気を含んだ風が吹き付けて来る。


 タナダ峡谷の最上部は遥か彼方で、所々が雲に覆われていて、はっきりと見る事は出来ない。それを支える左右の柱とも言える巨石の島々は、だるま落としをしている途中のように、絶妙なバランスで左右にずれて互いを支えている。そして、更に圧倒的なのが、背後に流れ落ちる世界三大瀑布級の滝だ。


「うわぁ、虹がいくつも出ているよ」


「背後だけじゃなくて、島の手前にも左側に一本、右側に二本の滝があるからね」


 亀きっちゃんは私の腕の中から首を伸ばして、落ちてくる滝を一生懸命に見上げている。


「あの巨大な滝ってどこから流れ出ているの?」

「最上部の島の更に上。空から溢れ出しているんだよ」

「空っ⁉ はぁ~、ゲームの世界って凄いんだね……」


 ハデス君に手を引いて貰いながら、上を見たまま歩く。


「くくっ、お菊も亀吉も口が開いてるよ。ほら、僕達は右側の島のルートを行くからね」


 近くに居たNPCさんにも小さく笑われて我に返る。は、恥ずかしい! と二人で慌てて口を閉じる。


「ゴツゴツした岩や、水気を含んだ植物で足場が悪いから気を付けてね」

「うん。あんな上まで行くんでしょう? こんな軽装で大丈夫かな?」


「平気だよ。僕らは一番上まで行かないしね。あ、もしかして、設定変えてない?」


 教えて貰った所、痛みだけじゃなく、暑さや寒さ、水に濡れないまで設定出来た。なんて快適世界。道理で皆さん、滝の飛沫でびしょ濡れになっていない訳だ。


 石の階段を上がり、一つ上の島へ。島の中程でハデス君がピタッと足を止める。


「お菊、敵だ。亀吉と二人で倒せる相手だから、やってごらん」

「了解」


 バスケットボール大の茶色い物が、鉄パイプを肩に担いでタラタラと三匹歩いて来る。見た目はもっふりした冬の雀のようで可愛らしいが、目は三角で怒りマークが額にある。


「あの、凄く怒っているみたいだけど……」

「うん。チョイワルチュンだから」

「ちょい悪……」


 鳥の世界にも居るのね、ヤンキー。





「見かけによらず弱かったね」

「クー」


 私のHP吸収弾を使ったら一撃で倒せたし、亀きっちゃんもダメージを受けずに倒してしまった。


「うん、思った通り余裕だね。この調子で倒していこう」


 その後もだるそうに歩くチョイワルチュンを倒しつつ歩いていると、ハデス君が立ち止まる。


「お菊、自動昇降機が見えて来たよ」


 指さす方を見ると、トロッコを縦に走らせたようなエレベーターが岩壁に設置されている。


「良かった~。全部自力で登らなきゃいけないかと思ってたよ」


「ははっ、安心して。乗る場所はあちこちに散らばっているけど、ちゃんと上まで設置されているから」


 スイッチを押すと、ガタゴトと音を立てて、ゆっくりと昇って行く。胸から上が出る位の深さの箱なので、景色が良く見える。左右どちらを見ても滝が流れ落ち、マイナスイオンたっぷりだ。きっと現実だったら、雨合羽を着込んで長靴じゃなきゃ来られない場所だろうな。


 上の岩は湖が有り、それが川となり滝に変わる。遠くから見る分にはいいけれど、渡るには勇気がいる。濁流にかかるのは立派な橋ではなく、板を二枚置いただけ。渡された太いワイヤーが手すり替わりだ。


「ここ渡らないと駄目?」

「ごめんね。ここしか道がなくて」


 がっくりと俯いた私は、おずおずと小さな一歩を踏み出した。


「お菊、ほら、あと一歩だよ」

「やっと、着いた……」

「クー♪」


 私はハデス君に片手を握って貰い、もう片手でワイヤーをしっかり握って、そろそろと歩いていたのに、亀きっちゃんは一人でスタスタと歩いて向こう岸に行き、頑張れ! という感じで「クー、クー!」と鳴いて応援してくれていたのだ。


「家亀は水が好きだからね。こういう場所は楽しいんじゃないかな」


 家亀、強し。亀きっちゃんにとっては遊び場みたいなものなのね。


 石の階段を、えっちらおっちら上る亀きっちゃんに合わせてゆっくり歩いていると、サラサラという音が聞こえてくる。


「ここが今日のお目当ての竹林だよ」


 強い風が吹いてザーッと葉が音を立て、香りが身を包む。舞い落ちた葉を目で追っていると、地面が僅かに盛り上がっているのに気付く。


「あっ、タケノコ!」

「クー♪」

「でも、掘る道具が無いね。残念……」

「タケノコは触るだけで採取出来るよ」

「えっ、そうなの⁉ ていっ!」


 亀きっちゃんと一緒にタッチすると、地面には穴が開き、その横に大きなタケノコが転がっている。


「ゲットー!」


 掲げてみせると、亀きっちゃんがジャンプして喜んでいる。タケノコも好物なのかな? 私も好きだし、もっといっぱい欲しいな。


「タケノコ採りする前に、今日の目的である『テクテクパンダ』をテイムするよ」


「は、はい!」


 危ない危ない。タケノコが嬉しくて肝心な事が頭から抜けてしまった。ハッとした顔の私達に苦笑しながら、ハデス君が手を出す。


「お菊、そのタケノコ頂戴」


 どうするのかなと思いながら見ていると、地面に置いて後ろに下がるように指示される。


「もっと身を低くして」


 言われた通りにして数分。ガサゴソと音が近付いて来る。


「――来た。しかも、レアな赤がいる!」


 一匹は白黒の見慣れた姿だけど、もう一匹は黒の部分が赤になっているパンダさんだ。


「赤だと何が違うの?」


「カウンター攻撃をするんだ。簡単に言うと、やられたら、即やり返す。必ず成功する訳じゃないけどね」


 好戦的なパンダさんなのね。私、面倒見られるかな?


「性格は? 気が短いの?」


「うーん、個体ごとに性格って違うからね。テクテクパンダはフレンドリーで穏やかな子が多いよとしか言えないかな。もうちょっと観察してみようか」


 パンダさん二匹はフンフンとタケノコの匂いを嗅いでから、赤パンダさんがタケノコを手に取る。独り占め? と思ったら、両端を持ってバキッと折り、「あ、あれ? 半分こじゃない……」という感じで交互に見やり、大きい方を白黒パンダさんに渡している。決定。あの子、絶対に良い子。


「ははっ、決まりだね。テイムして参れ!」


 ビシッと敬礼して、亀きっちゃんと共に、いざ戦闘へ!





 ハデス君の説明によると、主な攻撃は噛み付き、爪、体当たり。たまに石つぶてを飛ばしてきたりするらしい。そして、侮れないカウンター。攻撃回数が増えるから、私はダメージを多く受けてしまうだろう。マンドラゴラちゃんに貰った小回復薬の出番だ。


 最初の攻撃。HP吸収が効かなかったので、次は通常弾にしようと思ったけど、魔法ならカウンター攻撃されないかもと思い付き、試してみる事に。


「予想的中だね。あ、風の魔法がダメージ大きい。もしかして、弱点?」


 でも、魔法弾は火の一発しか残っていない。この知識は次の戦いに生かそう。


 パンダさんの残りHPは半分を切っているので、カウンター覚悟で亀きっちゃんと共にじわじわとダメージを与えていると、選択肢の中に新たに『テイム』と出た。


「へぇ、戦闘中はこうなるんだ。――テイム選択っと」


 私のミニキャラから黄色い光が飛び出し、パンダさんをグルグル巻きにしていく。


『テイム成功です。モンスターの名前を入力して下さい』


 キーボード画面が現れたので打ち込む。今回は即決です。これしか浮かばないでしょう。


 戦闘終了合図の猫踏んじゃったが流れたけれど、今回は何も貰えなかった。テイムするとタムやアイテムは無いのね。


「亀きっちゃん、お疲れ様」

「クー!」

「お疲れ様。無事テイム出来たね。この子の名前は?」

「タケノコ!」

「ぶっ⁉」


 ハデス君が噴いた。またしても駄目なの? 私のネーミングセンス。


「あ、あー……、うん、いっか。お菊が満足ならそれで」


 慰めるようにタケノコちゃんを撫でている。いいじゃない、タケノコちゃん。グングン大きく強くなりそうじゃない。愛称は『タケちゃん』にしようっと。


「タケちゃん、私はお菊です。よろしくね」

「うんっ。僕、タケちゃん。きーちゃん、よろしくミュ」


 しゃ、喋った⁉ 『ミュ』って可愛い! しかも、私の事も愛称で呼んでくれるのね!


「この子は仲間の亀吉ちゃんだよ。仲良くしてね」

「ンミュ。よろしくミュ~」

「クー!」


 タケちゃんが亀きっちゃんを抱っこして、頭を撫でている。な、なんて可愛いの⁉ 目に焼き付けようと頑張っていると、ハデス君に袖をクイクイッと引かれる。


「スクリーンショットか動画で残せば? ――あー、うん、サポートウサギを呼ぼうか」


 分からない時はサポウサちゃん。はてなを大量に飛ばしていた私は、すぐに空へ向けて声を出す。大分、この行動が体に染み付いた気がするな~。


「――はいはいっと。僕が来たからには即解決ですよ~。あっ、パンダ!」


 全てを察したのか、「おめでとうございます~」と私の手を握ってくれる。やり方を教えて貰って、サポウサちゃんとツーショットを撮ろうとした所で、呼び出しを受けて悔しそうに帰って行った。サポウサちゃん、いつもありがとう! 次こそ一緒に撮ろうね!


「これで攻撃力をゲットだね。お菊が一目惚れしたロイヤルハニーベアーが入ると、かなり良いバランスになるよ」


 でも、推奨LV50に居るモンスターだから、一枠空けてテイム出来る様な相手じゃないよね。


「次に入れるとしたら、どんな子がいいの?」


「そうだね。オールラウンダーな子か、魔法が得意な子。出来れば亀吉が持っていない魔法を持っている子がいいかな。でも、そういう子をテイムする為に、今はひたすらレベル上げだね」


 だよね~と亀きっちゃん達と顔を見合わせる。人数が増えたから、経験値の分配も少なくなるんだよね。頑張らないと!


「取り敢えず、今日の目的は達成したし、タケノコ掘りといこうか」

「賛成!」


 蹲って地面をじーっと見つめる私達に、テクテクパンダが時々加わる。攻撃をしない限り襲って来ないので、可愛いモフモフに囲まれて、楽しく幸せな連休最終日となった。


ついにモフモフが仲間に!

パンダと触れ合える竹林。プレイヤーの癒しスポットとなってます。


お読み頂きありがとうございました。


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