57.イベント 『タッチ、タッチ、鯉にタッチ!』
途中からパール伯爵視点になっています。
新イベント『タッチ、タッチ、鯉にタッチ!』は5/2~5/5まで行われる。
神出鬼没のミニ鯉のぼりにタッチするとタムなどが貰え、イベント終了時には、タッチした総数に合わせてアイテムが貰えるらしい。
「黒色のお父さんがMP小回復薬で、赤色のお母さんが2SAP、青色の子供が50タムか。よーし、いっぱいタッチするよ~」
「クー!」
頑張るぞーと亀きっちゃんと気合を入れる。
「どこへ行くのですか?」
「あ、パールさん。イベントへ参加しに行くんだよ」
「町で行われるのですか? 私もご一緒してもいいですか?」
「うん、勿論。あ、でも、プレイヤーじゃないと駄目かもしれないよ?」
「私の目的は人を見に行く事なので、お気になさらず」
「そっか。じゃあ、改めてしゅっぱーつ!」
足元をトコトコと可愛い二人が歩いているので、そちらに気を取られてしまう。
「お菊さん、あちらに」
「え、あっ、消えちゃった……」
「ふふふ。鯉のぼりに集中して下さいね」
「だってね、二人が可愛いんだもん!」
パールさんとお出掛けするのは初めてだし、円らな瞳で見上げられると堪らないのだ。思わず二人をギュッと抱き締める。
「うわぁ、羨ましい……」
「ずりぃ。役得だろう」
あちこちから呟きが聞こえる。私と同じで可愛いモンスター好きが多いらしい。意外にも男性の声ばっかりだ。
「ひっ⁉」
「ぎゃっ⁉」
今度は次々と小さな叫びが聞こえる。
「どうしたのかな?」
「鯉のぼりが目の前に現れたのではないですか?」
「ああ、成程。神出鬼没だもんね」
☆= ☆= ☆=
まったく、どいつもこいつも。護衛として付いて来て良かった。ナダさん達が心配する訳だ。お菊さんは今までの経験から、自分がモテないと思っているので、非常に無防備だ。
亀吉君と私が睨んでも迫力が足りないので、私の風魔法で髪を巻き上げたり、亀吉君の土魔法で小さな窪みを作って躓かせたりする。少しだけびっくりさせて、それでも駄目なら――。
「ワン!」
「うわぁっ⁉」
トワイフル君の出番である。マハロさんに抜かりはない。
「トワイフルちゃん! 遊びに来たの?」
「ワン! クーン♡」
「よしよし。一緒に探そうね」
恐れをなして人が離れて行く。これで、本腰を入れてイベントに参加出来る。
「あ、居た!」
路地の間に居た20cm位の鯉のぼりにポスッと触る。
「やった、お父さんだ。MP小回復薬ゲットだよ」
「瓶が落ちていませんよ?」
「視界の中にね、『お父さん:1匹』って出てるんだよ。アイテムとかは、最終日にまとめて貰えるらしいよ」
そういう仕組みか。参加は出来ないから、見付けて教えてあげよう。
「お菊さん、あちらに」
「ありがとう! えいっ」
ジャンプする姿に、ドキッとしてしまう。亀吉君のお蔭でリボーンしにくくなっているが、前の感覚が残っているので、ついつい心配になってしまう。
「クー!」
「あっちね。了解!」
四人で探すので次々と見付けられる。だが、参加人数が多いので、先にタッチされてしまう事が多い。
「あ~、残念。私がもっと足が速ければいいのに」
既に息が上がっているお菊さんが、小休憩しながら嘆いている。
「ワン、ワン」
「ああ、その手がありましたね」
不思議そうにしているお菊さんに説明をしてあげる。
「トワイフル君の背に乗ればいいのですよ。体は私が風の魔法で固定します」
「え、いいのかな? ルール違反にならない?」
「どうなんでしょうね? サポートウサギに聞いてみましょう」
「そっか、そうしよう。サポウサちゃーん」
「――はーい。どうされましたか?」
呼ばれるのが相当嬉しいらしく、ニッコニッコでやって来た。この子もすっかり、お菊さんのファンですね。
「トワイフルちゃんの背に乗ってイベントに参加しても、ズルにならない?」
「はい、構いませんよ。トワイフル君に乗るなら、町を出た方がいいかもしれませんね」
「鯉のぼりが出るのって町だけじゃないの?」
「はい、モンスターが居ない場所なら出現しますよ。僕のお薦めは雲海です。ここだけの話、穴場ですよ」
こそっと耳元で囁いてニヤリとしている。こうやって他のプレイヤーの方々も、サポートウサギに聞けば有益な情報を教えてくれるのに、ほとんど呼ばないのだから勿体無い事です。
「明日、行ってみるね! あ、でも、乗り物どうしよう? 私、クラウドボードは無理そうなんだよね」
「でしたら、空飛ぶモンスターを集めた『天翔便』はいかがですか? トワイフル君のように機動性に優れて、頭も良い子達ですからね」
「うん、そうする! ありがとう、サポウサちゃん」
「どういたしまして。あっ、鯉のぼり! うおりゃー!」
気合十分でモフモフハンドを振り下ろしている。気持ちはとてもよく分かる。ここに居る全員も同じ行動をした仲間だ。
「ありゃ、すり抜けた。やっぱり、僕達じゃ駄目か」
「ふふふ、皆も参加したいよね」
お菊さんが消える前にさっとタッチしている。大分慣れて来たようですね。
「お菊さんのお役に立ちたかったんですけどね~。残念です」
「気持ちだけ貰うね。はい、参加賞。クッキーあげる」
手ずから食べさせて貰って、ホクホク顔で帰って行った。見ていたこちらも微笑ましい。やはり、お菊さんの側は居心地が良いですね。
翌日。トワイフル君を除く昨日のメンバーで行こうとしたら、いつの間にやら大所帯になっていた。
「わぁ、天翔便、最高じゃないですか! モフモフ天国!」
ケンがどの子にしようと目をキラキラさせて選んでいる。
「俺は白虎にしようかな」
「サム、象にしよう! 二人乗れるってさ」
「いいね。俺、象は初めてだよ」
肝心のお菊さんはというと、天翔便の子達に囲まれてスリスリ、ペロペロとされて、嬉しさと困惑が混じった顔をしている。
「ははは、お菊ちゃんはモンスターにもモテモテだね」
「ナダさーん、笑い事じゃないですよぉ。助けて下さーい」
ダチョウに頭をツツツと突かれて、とうとう助けを求めている。
「こんな事、初めてだよ。ほら、皆、散った散った」
係の人によって、やっと包囲網が解かれた。髪の毛がグチャグチャで頬も涎まみれだ。丸ごと洗浄してあげなければ。
「お菊さん、じっとしていて下さい」
「――はぁ、すっきり。ありがとう、パールさん」
「どういたしまして。熱烈歓迎でしたが、どの子にしますか?」
またジリジリと近付いて来ている。天翔便は白いモンスターが多いので、密集すると雲のようだ。取り敢えず、この中では私が最強なので、牽制の為に間に立つ。
「うーんと、狐さんにしようかな」
狐が跳ねて喜び、他の子達はズーンと落ち込んで座り込む。
「えっ、どうしよう⁉ ごめんね?」
係の人がなんとか宥めて房に戻している。テイム100の影響は凄いな。
垂れ耳の犬を選んだケンが先頭、次がお菊さんと私、隣をナダさんが並走し、最後尾は双子だ。
「象さんも速いね」
「そうですね。天翔便で働くモンスターは風の魔法が得意ですから、脚力以上のスピードが出ますよ」
「パールさんって、もしかして自分で飛べちゃうの?」
「はい、可能ですよ。お見せしましょうか?」
「うん、見たい!」
風の球体で身を包み、一気に加速してケンを追い抜く。
「わぁ、流石、師匠です!」
嬉しそうな顔のケンに手を振り、今度は最後尾まで加速していく。
「げっ、伯爵弾が来た!」
「パオーン、迎撃準備だ!」
「『げっ』とは失礼ですね。見てご覧なさい、この子も呆れた顔をしていますよ」
「そんなっ、パオーン、お前は俺達の味方だと思っていたのにぃ」
相変わらずお馬鹿ですね。これ以上言うと、雲海に置いて行かれますよ。
「一つ教えて差し上げましょう。この子は女の子で、名前はハナちゃんです。随分と怒っているので、謝った方がいいですよ」
「えぇっ⁉」
荒い鼻息と叫び声を聞きながら、お菊さんの所に戻る。
「お帰り、パールさん。象さん、暴れているけど大丈夫かな?」
「大丈夫だと思いますよ。今頃、必死に謝っているんじゃないですかね。それよりも、お菊さん。前方に鯉のぼりの大群が居ます」
「へ? わっ、大量! 狐さん、よろしくね」
任せろという感じで速度を上げ、群れに突っ込んで行く。その後も、あちこちに群れが出現し、ヘロヘロになるまでタッチし続けたのだった。
☆= ☆= ☆=
結果発表の日。イベントの間中、行動を共にしていたので、手応えをバッチリ感じている。
「結果発表、来たよ!」
メールを共に覗き込む。お菊さんの順位は……。
「嘘っ⁉ 五位だって! 私、ずっと居た訳じゃないのに」
「雲海で大量にタッチ出来たからではないですか?」
「やっぱり、そう思う? サポウサちゃんにお礼しなくちゃ」
ピッポーン!
「あ、アイテムが届いたよ」
+++++ +++++ +++++ +++++ +++++
1~99匹・・・薬玉×3個/効果:割ると小回復薬×5が出て来る
100~199匹・・・柏餅×1個/効果:食べればHP1000回復
200~299匹・・・菖蒲の葉×1個/効果:勝負に勝つ! 攻撃力2倍
300~399匹・・・菖蒲の弓×1個/効果:アンデッド系の敵には、ダメージ2倍
400~499匹・・・菖蒲の刀×1個/効果:悪魔系の敵には、ダメージ2倍
500匹以上・・・菖蒲の鎧一式×1個/効果:毒、麻痺、混乱を防ぐ
+++++ +++++ +++++ +++++ +++++
「わぁ、凄い。私、全部貰えたよ」
「おめでとうございます。お菊さんは全部で693匹ですか。一位の方は1000匹超えとはやりますね」
「ねぇ。きっと俊敏な人なんだよ」
お父さん鯉のぼりが192匹でMP小回復薬も同数。お母さん鯉のぼりが275匹で550SAP、子供鯉のぼりが226匹で11300タムか。
「良い成果が出ましたね。SAPを多く貰えましたし、そろそろSAを取得してもいいかもしれませんね」
「そうなんだけどね、気になっているSAがあって迷ってるの」
「数が多いのですか?」
「ううん。一つなんだけど、1000も必要なの」
「それはまた、べらぼうな数字ですね。よっぽど強力なSAなのですか?」
「うーん、戦闘には役立たなさそうなんだ。『日本の伝統』っていうSAなんだよ」
見せて貰っても、説明書きには『日本の伝統をあなたに』というふざけた説明しかない。
「これに1000とは賭けのようなものですね。お菊さんの欲しい能力がこの中に有ると?」
「うん、多分。これじゃないとすると、服飾、防具、アクセサリ辺りかなと思うけど、染色とか他にも色々といりそうだから」
振り分けてSAを取得しても低レベルでは無理なのか、そもそも関係ないのか。レベルを上げる為に、複数にSAPと時間を注ぎ続けるよりも、可能性が一番高そうなものに全て注ぐべきか。お菊さんが迷うのも無理はない。
「1000にはあとちょっと届かないし、それまでによく考えてみるね」
「ええ。SA取得は慎重にいくべきです。膨大な量のSAがここにはありますからね」
「そうだよね~。旅人の書の後半にSAがびっしり載っていて、びっくりしたもの」
魔法関係なら私も詳しいが、それ以外となると情報が乏しい。マハロさんでさえ、把握しきれていないのではないだろうか?
「ギルドでも聞いてみたんだけど、旅人の書の説明以上は聞けなかったんだ。取ってからのお楽しみですって言われちゃったんだよね」
そういう方針ですか。プレイヤー同士で情報交換していくように誘導しているのでしょう。
「取り敢えず、SAPを得る為にもレベル上げ頑張るよ。ロイヤルハニーベアーちゃんとも早く会いたいしね!」
亀吉君と共に「エイエイオー!」と腕を上げている。気合十分なお菊さんの為に、約束した魔法を教えてあげましょう。私も彼女の一助になってあげたいですからね。
パール伯爵は危なっかしいお菊ちゃんから目が離せません。
マハロさんがお父さんなら、面倒見の良いパール伯爵はお母さんみたいな感じですかね?
今日は、あと何話か投稿予定です。
お読み頂きありがとうございました。




