52.溺れるラッコ
亀きっちゃんと共にキヨ滝へやって来た。エリアの前半分は森で、奥にはテーブルマウンテンがあり、その湖から零れ落ちる滝が七本。それらが更に三つの湖を作り、森の中を流れる幾筋もの川へと姿を変える。
四から七ノ滝までの四本が流れ込んで作る大きな湖には、舟で行く事が出来る。滝からテーブルマウンテンの上に行くには、険しい道を通らなければならない上に、モンスターも強くなるそうなので、体力温存や時間短縮には良さそうだ。
私と亀きっちゃんは弱いから、森の浅い所でレベル上げである。ちょうど森の真ん中辺りにある川のほとりをテクテク歩いていると、上流から何かが近付いて来る。おかしいな、舟は隣の大きな川でしか使われていない筈だよね?
目を凝らすと、ラッコが二足で立って笹舟に乗っている。え、ラッコ⁉ と二度見したけど、目の前の光景は消えなかった。へぇ、この世界ではラッコって海だけじゃないんだ。
ラッコは私達を見付けると、ドヤ顔でずっとこちらを見てくる。ふふふ、よっぽど自慢の舟なのねと微笑ましく見ていると、流れが速くなったのか慌てて竹竿を握り締めている。大丈夫かなと少し心配になって、すぐに思い直す。ラッコだから泳ぎは得意だよね。
操縦技術が拙いのか、舟が大きく揺れている。更にまずい事に、その先には大きな岩が待ち構えていた。ハラハラしながら見守っていると、水が舟の中にバシャンと大量に入って、ラッコがバランスを崩して川に転落。舟は岩に当たって大破した。
「んぎゃっ! ふがごぼぼべ⁉ がぼぼぼっ!」
「嘘ぉっ⁉ 溺れてるじゃない!」
手を無茶苦茶に振り回しながら必死に顔を出している。ラッコに見えてラッコじゃなかったの⁉
「ごぼっ、た、助け、ふがっ」
「今助けるからね!」
手を伸ばしても川の真ん中に居るので届かない。慌てて何かないかと周りを見回していると、亀きっちゃんが棒を銜えてきてくれた。
「ありがとう! これに掴まって!」
走って追い掛けて棒を差し出すと、力尽きそうになっていたラッコが最後の力を振り絞って棒に飛び付く。脇の下に挟むように両腕を掛けたのを確認して、手繰り寄せていく。
「うっ、重い……」
水の力が強い所為なのか、自分の体まで持っていかれそうだ。
「クー!」
「亀きっちゃん! うん、一緒に頑張ろう!」
追い付いた亀きっちゃんが棒を銜えて後退って行く。私もそれに合わせて棒を引っ張る。
「よいしょ、よいしょ、――んーっ、そーれっ!」
手が届く位置にまで来たら、手首をガシッと掴んで一気に引き上げる。お、重い~~~っ!
ラッコと共に地面へドサッと倒れ込む。はぁ、はぁ、何とか岸に上げられた……。
「げほげほげほっ! は、はぁ、た、助かったぁぁぁ」
大の字になって荒い息を吐くラッコを覗き込む。
「大丈夫? 水いっぱい飲んじゃった?」
「はぁ、はぁ……大丈夫。ありがとう、お姉さん」
「どういたしまして。回復薬いる?」
「ううん、そこまでじゃないから大丈夫」
息が整ってきたから、本当に大丈夫そうだ。寒くないようにタオルで拭いてあげよう。うわぁ、毛の密度が高い! 言い表すなら、モッッッフって感じ?
「――よしっと。寒くない?」
「うん。何から何までありがとう、お姉さん」
「うん。私の名前はお菊だよ。あなたは?」
「私は――あっ! んんっ、我は久遠様の眷属、キヨである! 敬うがよい!」
「えっと、今まで通りの喋り方でいいよ?」
精いっぱい偉そうに振舞う姿に、背伸びしたいんだなと微笑ましく思う。でも、溺れている所を見ちゃったしね。
「え⁉ あ、うん、そうする。お菊ちゃん、ありがとう。よろしくね」
「うん、よろしくね。キヨちゃんはラッコなの?」
「そうだよ。森ラッコだから泳ぎは下手なの」
「そっか。私も苦手だから親近感が湧いちゃうな」
「えへへ、仲間だね。あ、そうだ! 亀さんも助けてくれて、ありがとう」
「クー」
「お礼させて! 何がいいかな? ――そうだ! 木の島とキヨ滝を行き来する時は、タダで私の笹舟に乗せてあげるよ。どうかな?」
お金を節約出来て嬉しいけど、あの笹舟なんだよね?
「え、えーと、遠慮しておこうかな」
「何で⁉ タダだよ? 人間ってタダが好きなんでしょう?」
「それはそうなんだけどね、目の前で大破したから……」
「うぐっ……。あ、あのね! 言い訳にしか聞こえないだろうけど、結構適当に作ったやつだったんだよ。お菊ちゃんが乗るのなら気合入れて作るから!」
気合を入れても笹が材料なんだよね。木の舟から比べると脆いんだろうな。
「そうだ! フィールドボスのバンブートレントを倒すと、大笹が貰えるんだよ。それを使えば岩にぶつかっても壊れない笹舟を作れるの。一緒に倒しに行かない?」
久遠様の眷属という位だから相当強いのだろう。でも、私達はレベル1だから、完全にお荷物だよね。
「私達、初めてレベル上げに来た所なの。キヨちゃんの邪魔になっちゃうよ」
「大丈夫! 私なら、ちょちょいのちょいよ。行きましょ、行きましょ♪」
シッポをフリフリ歩き出す。これはお断り出来なさそうだと亀きっちゃんと視線を交わし、大人しく付いて行く事にした。
「――静かに! 居たわ」
森の半分まで行かない辺り。川の分岐地点にそれは居た。茂った葉をわっさわっさ揺らしながら、私の背の三倍はありそうな竹が歩いている。長い手足は、バームクーヘンのようなお菓子『ガトー・ピレネー』のようだ。節が多く、一度攻撃されただけでボッコボコにされそうだ。まさか、初めてのレベル上げで、いきなりボスと戦うとは思わなかったな。
キヨちゃんのおまけみたいなものなので、亀きっちゃんには乗らない事にした。それに、戦う必要があった場合、私の方が亀きっちゃんより少しだけ攻撃力が上というのも理由の一つだ。
「準備はいい? 行くわよ!」
飛び出したキヨちゃんを追って、私と亀きっちゃんも急いでいると、バンブートレントが仲間を呼んだ。小さいのが更に二体も加わるなんて最悪だ。
モンスターに近付くにつれ、視界が透明感のある黄色、赤色の順に変わっていく。『CAUTION!』と最後の警告のような文字を体がすり抜けた途端、私は大画面のテレビを前に、インカムを装着し、コントローラーを手にしてソファーに座っていた。
「これがターン制バトルの開始?」
感心しながら画面を見ると、左にモンスターが居て、頭上にHPバーが出ている。右側には上からキヨちゃん、私、亀きっちゃんの順でミニキャラが表示されている。下半分には名前とHPとMPのバー、行動選択肢が出ている。それに加え、一番下の流れる白い帯は何だろう? まっ、いいか。追々分かるよね。
「くらえ!」
考えている間に、キヨちゃんの声がインカムから聞こえてくる。久遠様の眷属だもん、一撃で――。
「んぎゃぁぁぁっ!」
「えーーーっ⁉」
何て事だろう。一撃でやられたのはキヨちゃんの方だった。あんなに自信満々だったのに弱過ぎない⁉
残るは途方に暮れる私達。逃げてもいいかな? と選択肢の『逃げる』を押してみる。
「グガァァァ!」
失敗して次々に攻撃を受ける私達。でも、亀きっちゃんはダメージゼロ。うわぁ、家亀の防御力って本当に凄いのねぇ。私はそうもいかなかったけど、まだまだ余裕がある。そこで、ちょっと強気になる私。無理だって思っていたけど、私達でも倒せるんじゃない?
「よ~し、亀きっちゃんも私もひたすら攻撃!」
「クー!」
元気よく鳴く亀きっちゃんと共に、戦いが始まった。
――長かった……。攻撃力が低いから時間が掛かってしまったけれど、無事に倒す事が出来た。亀きっちゃんはダメージゼロのままで、私は小回復薬を二個消費しただけで済んだから、自分的には花丸だ。
戦闘が終了した合図なのか、『猫踏んじゃった』が流れる。なんか和むかもと思いながら報酬を確認し終わると、元の場所へ自動的に戻った。
「亀きっちゃん、いっぱい守ってくれてありがとうね」
「クー♪」
私があまりダメージを受けずに済んだのは、亀きっちゃんが何度も守ってくれたからだ。感謝を込めて撫でていると、急に一帯が暗くなる。えっ、何⁉ またモンスターが来たの⁉
警戒していると、木々の間から1m位の蛇? が出て来る。何で⁉ 苦手モンスターだから赤い四角の筈でしょう⁉
『お菊、我を蛇にするでない。久遠だ』
「久遠様⁉ し、失礼しました!」
やっちゃった! と慌てて頭を深く下げる。
『よいよい。それよりも、我の眷属が迷惑を掛けた。キヨ、参れ』
後ろから耳とシッポをへにゃんと垂らしたキヨちゃんが、おどおどした様子で歩いて来る。
「――ごめんなさい! 危険な目に遭わせて、本当にごめんなさい!」
涙声で謝られて、亀きっちゃんと顔を見合わせる。よっぽど気に病んじゃったのね。
「うん、謝罪は受け取ったよ。キヨちゃんがちゃんと反省すべき事だと分かってくれたのなら、私達が言う事はこれ以上ないよ。ね、亀きっちゃん?」
「クー」
頷くと、テクテクと歩いて行って、下げっぱなしの頭に鼻タッチしている。
「許してくれるの?」
「クー」
「勿論」
「う、うっ、良かったぁぁぁ~」
大泣きし始めてしまったので、私も慌てて駆け寄って手を握る。あ~、お願いだから泣き止んで~。二人で一生懸命慰めていると、久遠様がやれやれという感じで声を掛ける。
『キヨ、もう一つ伝えるべき事が残っているだろう?』
「はっ、はい、そうでした! これ、お詫び!」
バンブートレントの竹炭と、雪笹という山菜が差し出される。使い道が分からないけど、気持ちがこもったものなので、ありがたく受け取る。
「ありがとう。でも、本当に気にしないで。ちゃんと倒せたしね」
「で、でも、いつもそうとは限らないもの! 私、もっとちゃんと勉強して力も付ける!」
「うん、お互い頑張ろうね! あ、そうだ! はい、大笹。これが欲しかったんだよね?」
「えっ⁉ 受け取れないよ! お菊ちゃん達が命懸けで手に入れたアイテムだもの!」
「いいの。笹舟に乗せてくれるんでしょう?」
微笑んでみせると、また目を潤ませるので焦ってしまう。
「な、泣かないで。舟、楽しみにしてるから! ね?」
「な、なんて良い人なのぉ~。うわぁぁぁん!」
困り果てて抱き寄せると、しがみついてくる。こんな状態でなければ、なんて素晴らしいモフモフ! と喜んでいた事だろう。トントンと背中を優しく叩いてあげていると、久遠様がシッポでペシリとキヨちゃんの頭を叩く。
『更に迷惑を掛けてどうする。それでも、我の眷属か?』
「あ、あぅ、ぐずっ、ずみまぜん……」
鼻をチーンとかんで、何とかシャキッとしてみせるキヨちゃん。成程、ちょっとの厳しさを持って接するのが正解なのね。
『お菊、手間を取らせた。キヨ、帰るぞ』
「はい! ――あっ、少々お待ちを! 用がある時は、この『キヨの笛』を吹いてね。お菊ちゃん、またね!」
「うん、ありがとう。またね~」
亀きっちゃんと共に見送り、姿が完全に見えなくなった所で、ペタンと地面に座り込む。
「はぁ、力が抜けちゃった。倒せて良かったね~」
労わるように寄り添ってくれる亀きっちゃんに震える手を伸ばす。今頃、緊張や恐れがやって来るなんてね。必死過ぎて感覚が麻痺していたのだろう。
「どこも痛くない? 大丈夫?」
「クー」
安心してという様に、ぴょこんとジャンプしてみせる亀きっちゃん。
「凄い! 亀きっちゃんてジャンプまで出来ちゃうのね」
ひょうきんな仕草に思わず笑って拍手を贈る。何があっても、こうやって元気や優しさをくれる仲間が居るっていいなぁと、しみじみ思った。
お久し振りでございます。
体調不良で休止とさせて頂いておりましたが、更に悪化。倒れて入院する羽目になりました……。
他にも色々と重なって、フルコンボをくらった感じですが、『全て良きことに変わる』前振りだぜ! イェーイ(≧▽≦) というテンションで自分の未来を信じ抜きます。
まぁ、そうは言っても人間なんで落ち込む日もありますし、まだ思うように動けませんが、お菊ちゃんが見せてくれる世界は作者の楽しみなので、超スローリーですが、その世界を文章に変換していきます。それでもいいよという方は、また覗きに来て下さいね。変わり者な作者と時告げ一同がお待ちしております。
作者が言っても説得力があるんだかないんだか分かりませんが、お体大事にして下さいね! それでは、また(^_^)/~




