50.亀きっちゃんの好物
仕事を終えて始まりの鐘に行くと、既にハデス君が来ていた。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「ううん、今来たばっかりだよ。で、あの人達は?」
「あの人達?」
振り返ると、ナダさんとサムさんが、気まずそうに鐘の影から出て来た。
「ごめんね、お菊ちゃん。本当にハデス様なのか確かめたかったんだ」
「騙されているんじゃないかって心配になっちゃってさ。尾行してごめん!」
ナダさんが頭を下げ、サムさんが両手を合わせて謝って来るので、慌てて止める。
「全然怒ってないですよ。むしろ、嬉しいですから。私の事を心配してくれてありがとうございます」
ホッとしている二人をハデス君が見上げる。
「信じて貰えたかな?」
「「はい。疑ってすみませんでした」」
「じゃあ、お詫びとして手伝って貰おうかな」
お二人が顔を見合わせて困り顔になる。無茶な要求をされないか心配なのだろう。でも、私は何を頼むか分かっている。どうか、引き受けてくれますように。
「君達、預モンの人だからモンスターに詳しいでしょう? お菊に家亀の事を色々と説明してあげてよ」
「「喜んで」」
破顔したお二人が快く引き受けてくれた。やったー!
「まずはステータスを確認させて貰ってもいいかな?」
「はい。亀きっちゃん、おいで~」
「亀きっちゃん? 亀吉じゃなかったっけ?」
「そうなんですけど、名前を呼ぶ時に私があまりにも噛むので、『痛いのは駄目! 呼びやすいようにしないと返事しないからね!』って、パールさん伝手で怒られたんです」
三人が生温い笑みを浮かべる。うぅ、だってお口が回らないんだもの~。
「亀吉君、頼りになるね~。サムさん、安心だよ」
「クー!」
私より頼りになるって事ですか? そうなんですね⁉ と内心でいじける。お見通しだったのか、ナダさんが笑いながら頭を撫でてくれた。
「ほらほら、いじけない。お菊ちゃんにはお菊ちゃんの良さがあるんだからさ。ね?」
「……はーい。これが亀きっちゃんのステータスです」
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亀吉
LV5
HP:1684 MP:78
攻撃力:19 魔力:26
防御力:150 魔法防御:100
スピード:45 命中:107
回避:0 運:4
_____________________
SA:
・水魔法LV1 ・木魔法LV1 ・土魔法LV1
+++++ +++++ +++++ +++++ +++++
「子亀だからSAがシンプルだね。育てる楽しみがあるよ。それに、流石コクウ森のモンスター。HPが高いね」
「はい! それに、称号と亀きっちゃんのお蔭で、私のHPが507もあるんですよ! もう嬉しくて嬉しくて堪りません!」
亀きっちゃんを抱き上げてクルクル回っていると、三人が慌てたように私を囲み、口々に危ないと言って来る。
「むぅ、大丈夫ですよ。もう転んでもリボーンしないんですからね。あ、でも、亀きっちゃんが怪我したら大変ですよね」
反省して下ろそうとすると、ナダさんに止められる。
「そのまま抱っこしていて。詳しく説明する前に、テイマーギルドへ行こう」
「はい。でも、どうしてですか? テイムした子の報告義務はなかった筈ですよね?」
「そうなんだけどね、初めてテイムした子をパーティーに入れると、お祝いが貰えるんだよ」
「ん? 私の初はボールウサギですよね?」
「うん。でも、預モンでのテイムだって伝えれば申請が通るから大丈夫だよ」
なら行かない手はないよね。何が貰えるのかな? 楽しみ~。
☆= ☆= ☆=
「ようこそ、テイマーギルドへ」
「こんにちは。初テイムのお祝いの申請に来ました」
「それは、おめでとうございます。そちらの子ですか?」
「はい!」
受付の女性は大のモンスター好きだそうで、家亀の子亀が見られるなんてと非常に喜んでくれた。ひとしきり愛で終わると、ギルドカードを作る時に乗った銀色の板に、亀きっちゃんを誘導するよう頼まれる。
「亀きっちゃん、ここに乗ってね」
「クー?」
「痛くないよ。私も乗ったことがあるんだよ」
そう言うと、なら安心だという感じで歩き始める。亀さんなのに、意外と足が速いよね。
「ありがとうございます。――終了です。もう下りていいですよ」
二重に受け取る事が無いよう、私のギルドカードに亀きっちゃんの情報が書き込まれる。
「こちらがお祝い金の1000タムと小回復薬が三つ、モンスター用のご飯三日分です。ご飯はマハロ商会で販売されていますので、足りなくなったら訪ねてみて下さいね。それと、よく質問を頂きますが、手作りでも構いませんよ」
そうだった! これから毎日ご飯をあげなきゃいけないんだよね。
「亀きっちゃんの好物は何?」
「クー」
言葉が通じず見つめ合う私達。モンスターとの意思疎通はなかなか困難なのね……。
「ふふふ、お困りの様ですね。家亀はお野菜好きな子が多いですよ」
受付のお姉さんが良い事を教えてくれた。そうだよね、ギルドの人もモンスターに詳しいよね!
「じゃあさ、お店を見に行こうよ。一番反応の良い野菜が好物だよ」
「はい! ……ん? 個体ごとに好物って違うんですか?」
「そうだよ。でもね、大きな括りはあるかなぁ。野菜とか果物とか辛い物とか」
サムさんの説明を聞いて、好物を与えてテイムする事の難しさを知る。だから、弱らせてテイムするのが一般的なのね。
ギルドを出て、大通りを南へと進み、街道への出入り口直前で左へ。てくてくと真っ直ぐ進み、最初の角で曲がると、お目当ての八百屋『クラサト』があった。
「へい、らっしゃい。新鮮な果物と野菜が揃ってるよ。見てってくんな」
「失礼しまーす。亀きっちゃん、お世話になるからご挨拶しようね」
「クー」
「か、可愛いじゃねぇか! この子のご飯が欲しいんだな? よし、任せろ!」
厳つい顔のわりに可愛いもの好きだったおじさんが、カゴに何種類も入れて戻って来る。
「人参か?」
おじさんが差し出すと、首を横に振る亀きっちゃん。その後もナスに大根にキュウリと見せていくけれど、良い反応が返って来ない。
「うーむ……。柔らかいのが好きなのか?」
そう言えば、テイムした時に葉っぱをあむあむしていた。小松菜を見せると、今までよりも反応が良い。
「おっ、ちょっと反応したな。よーし、葉物だな。キャベツにほうれん草に春菊だろ――」
サムさんがカイワレ大根を見せると、ぷいっとそっぽを向く。
「これ嫌いみたいだね。ネギは?」
これまた嫌いらしく、そっぽを向く。青唐辛子に至っては視界に入った途端に、甲羅の中へ入ってしまった。辛い物が嫌いなのかしら?
「亀きっちゃん、出ておいで~。ほら、おいしそうなレタスだよ~」
みずみずしい黄緑色のレタスを近付けると、シュポンと音がしそうな勢いで、首や手足が飛び出て来た。
「クー! クー!」
「おぉっ⁉ これじゃねぇのかい?」
八百屋さんのおじさんが、外側の硬い葉を剥いで差し出すと、あむっとしようとしていたのに慌てて離れている。
「クー……」
「どうしたの? 食べていいんだよ」
「クー」
何かを訴えるようにして、首を横に振っている。
「もしかして、お金を払っていないからじゃないかな?」
ナダさんがそう言うと、その通りという感じで頷いている。か、賢い!
「硬くて人間は食べない所だから遠慮すんな。ほら」
私もいいよと促すと、目をキラキラさせて齧り付く。
「クー!」
嬉しくて堪らないという感じで一声鳴き、モシュモシュとゆっくり味わう姿を見て、ほっこりした気持ちになる。いっぱい買ってあげるからね!
「店主さん、レタスを五つ下さい」
「おうよ、毎度あり~」
400タムを支払っていると、『いいの?』と戸惑った感じで寄って来る。
「ふふふ、いいのよ。亀きっちゃんの好物だもの。私、頑張って稼ぐよ!」
僕も! とういう感じで私の靴に前足を重ね、見上げて来る亀きっちゃん。
「~~~っ! 可愛い!」
仕草の一つ一つが私の心を鷲掴む。抱き上げて頬擦りしたのは言うまでもない。
賢くて頼りになる亀きっちゃんの好物はレタスでした~。一日に丸々一個食べます。お菊ちゃん、頑張って稼ぐんだよ~。
お読みいただきありがとうございました。




