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5.始まりの鐘

 ショックで気を失うような可憐乙女ではないので、「はぁ……」と深い溜息を吐いて目を開ける。すると、世界が様変わりしていた。


「……ここ、どこ?」


 呆然とする私に向かって、遠くから飛行物体がグングン迫って来る。え⁉ モ、モンスター⁉ 慌てて立ち上がり、使えもしない鞭に手を伸ばして右往左往する。きゃーっ、どうすればいいの⁉


「無事ですかぁぁっ⁉ お菊さーーーん!」


 怖過ぎて閉じる事すら出来なかった目が、眼前で急停止した相手をいっぱいに写す。


「サ、サ、サポウサちゃんだ~。うわ~ん、モンスターかと思った~(涙)」


「モンスター⁉ お菊さん酷いですよぉ。それに、町中にモンスターなんて滅多に出ませんよ」


 へなへなと地面に座り込んだ私の手をサポウサちゃんが引っ張る。


「汚れちゃいますよ。取り敢えず、階段に座りましょう」

「階段?」


 後ろを振り返ると、お寺にあるような鐘つき堂がある。でも、その大きな鐘は、なんの支えもなく宙に浮いている。


「……え? どうなってるの? 透明なワイヤーか何か?」


「いえ、そのような物は一切ありません。あれは正真正銘、宙に浮いているんです」


 階段を登ってまじまじと見つめる。はぁ~、本当にゲームの世界に来たんだ……。しみじみと実感していると、次々とプレイヤーが鐘つき堂の前に現れる。


 何故分かるのかというと、緑の逆三角形が頭上に出ているからだ。因みにNPCは白、モンスターは赤、テイムしたモンスターは青だ。


 知ったかぶりしてすみません……。皆さんお分かりと思いますが、サポウサちゃんに教えて貰いました……。


「うわぁ、マジで来たんだ! よし、早速ギルドへ行こうぜ!」

「ああ! 楽しみだな~」


 彼等はすぐに順応して足早に去って行く。ギルドの場所まで知っているって普通ですか? と胸の内で呟いて凹む。くすん、どうせ私はサポウサちゃん頼みですよ……。


「お菊さん、すみませんでした……」


 急に謝られて目をぱちくりさせてしまう。


「え? サポウサちゃんが謝るような事は何もなかったよね? 寧ろ、私が多大なご迷惑を――」


「いえ、僕が!」

「えー、私でしょう」

「いーえ! 僕です!」

「私!」


 新たに来たプレイヤーさんに「何してるの?」的な視線を向けられて、サポウサちゃんと苦笑し合う。不毛な言い合いは止めましょう。


「僕がもっと早く戻っていれば、このような事態にはなりませんでした。僕はサポートウサギ失格です……」


 落ち込むサポウサちゃんを見ていられなくて、思わず抱き締める。


「そんな訳ないでしょう! 無知な私にとことん付き合ってくれたじゃない! 時間配分を誤ったのは私だよ。サポウサちゃんは立派にサポートしてくれたよ。ね?」


 腕を少し緩めると、サポウサちゃんの毛が淡いピンクに染まり、動きが止まっている。これはよっぽど怒らせてしまったようだ。


「あ、あの、勝手に抱き締めてごめんね。気持ち悪いよね。あぁぁぁ、どうしよう、セクハラしちゃった……」


 慌てて下ろし、「ごめんね」を繰り返す。どうか許して~。


「……お菊さん、慎みを持ちましょう。……照れます」


 健二君みたいだな。視線を合わせないように俯き、耳の毛を整える仕草が可愛い。


「むぅ、私だって誰でも抱き付く訳じゃないよ。サポウサちゃんは特別なの。だって、苦難を乗り越えた仲間でしょう。私が巻き込んだとも言うけど」


「それは構いませんが、仲間ですか? サポートAIの僕が?」

「うん。嫌、かな?」


 あくまでも私の言い分だ。サポウサちゃんの心は聞いてみないと分からない。


「いえ、嬉しいです! 僕を仲間だって言ってくれる人なんて今まで居ませんでしたから。一緒に戦える訳でもありませんし、質問にちょっと答える事ぐらいしか出来ませんから」


 あれ? サポウサちゃんって優秀なのに自己評価が低いな。ここはビシッと言っておかないと。


「サポウサちゃんが居てくれたから、私はゲームを始められるんだよ。それに、今だって心配して来てくれたじゃない。私ね、とっても嬉しかったよ」


 階段に腰掛けて視線を合わすと、サポウサちゃんが不安気に目を見つめてくる。大丈夫、偽りは言わない。本当の気持ちを伝えるからね。


「一緒に戦うだけが仲間じゃないよ。手を差し伸べてくれたり、一緒に悩んだり喜びあったり、知っている事を惜しみもせずに教えてくれる。他の人の基準は分からないし押し付ける気も無いけど、こんなにも優しく手を引いてくれるサポウサちゃんは、私にとっては仲間なの。ただのサポートな訳がないじゃない。分かってくれたかな?」


 首を傾げてみせると、サポウサちゃんは無言で私の隣にピタッと寄り添って座る。


「……お菊さんは変わっています」

「そう? いいじゃない、素敵な変わり者でしょう?」


「ふふっ、反応が僕の予想の斜め上を行きます。なのに、心地良いから不思議です」


 寄り添って目の前の景色を眺めながら、町の名前や目に付くものを教えて貰う。ここはプレイヤーが最初に訪れる町、『遊楽(ユラ)』。そして、鐘は『始まりの鐘』と言うらしい。


 リボーン(死に戻りとも言うらしいけど、時告げの鐘では『死』という言葉に抵抗がある人も居るので、『リボーン』を薦めているらしい)で戻って来る場所もここだけど、その時はプレイヤーが青い光に包まれて現れるそうだ。私はリボーンの回数が多そうだから、あまり派手な演出じゃないといいな。


 暗かったサポウサちゃんの表情が明るくなってきた。安堵した所でサポウサちゃんが一瞬動きを止める。


「――ああ、呼び出しだ。お菊さん、これが『旅人の書』です。本当はキャラメイクの最後にお渡しする筈だったのですが、遅れて申し訳ありません」


「気にしないでいいよ。届けてくれてありがとう」


 百科事典のように分厚くて重いけど、アイテムボックスにしまうと、電子書籍みたいにタッチパネル上で捲れる。おぉ、便利。


「はい。ギルドまでご案内したかったのですが、出来なくて残念です……。ギルドの場所は地図に印を――」


「サポートウサギ、至急対応して下さい」


 言葉の途中で半透明の小さな画面がサポウサちゃんの前に現れた。この機械音声は聞き覚えが。名前は確かAI……いくつだっけ?


「あーっ、もう、分かったよ! AIエイトの意地悪!」

「何とでも。これでも見て見ぬふりをしました」


 ん? 何を見て見ぬふりしたんだろう? AI同士で色々とあるのかな? サポウサちゃんの言葉が砕けているから仲は良いのだろうけど。


「それは感謝してるけどさ。はぁ~あ~……。お菊さん、大変申し訳ございませんが、ギルドの場所は住人の方々に教えて貰って下さい。僕はこれで失礼しますね」


「うん。忙しいのに来てくれてありがとう。またね」

「はい、また」


 はにかんで去って行く姿を見送り、ギルドへ行くと言っていたプレイヤーさんが去った方へと足を向ける。お店を覗きつつ、場所を聞いてみようかな。


サポウサちゃんはモンスター扱いに結構傷付いています(笑)。お菊じゃなかったら、「こんな可愛いウサギをつかまえて!」と食って掛かっていそうです。


お読み頂きありがとうございました。

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