49.牧モン犬
テイムしたモンスターの連れ歩き方は三つある。一つ、そのままの大きさ。二つ、アイテムボックス内にある『テイムボックス』に入って貰う。そして、今の亀吉ちゃんのように小さい姿で。
モンスターは元の大きさ以内であれば、自由自在に大きさが変更できる。ただ、あんまり小さいと踏み潰されてしまう事も有り得るので、10cm以内にする時は二回確認文が出て、自己責任でお願いしますと注意が出る。
朝礼に向かう為、クッションサイズに縮んで貰い、両手で抱えて運ぶ。思ったよりもずっと軽いから不思議だ。
「わぁ~、どうしたんですか? その可愛い子!」
「えへへ、テイムしたの~」
地面に亀吉ちゃんを置いて、ケン君にピースしてみせる。
「凄いじゃないですか! 触ってもいいですか?」
「うん、いいよ。ね? 亀吉ちゃん」
「クー!」
パッと顔を輝かせたケン君がわしゃわしゃと甲羅や頭を撫でる。
「わぁ、甲羅もフカフカだ~。僕はケンだよ。よろしくね~」
微笑ましく見守っていると、次々とAチームの皆がやってくる。
「あっれ~? A厩舎に亀っていたっけ?」
「サムさん、お菊さんがテイムしたんですよ!」
「えっ、一人で⁉ いやいや、無理だよね? この子、コクウ森に居る家亀でしょう? お菊ちゃんのレベルじゃ行けないよね?」
「はい。ハデス君に――」
「はぁっ⁉ ハデス様⁉」
最後にやって来たマハロさんを除いた全員に叫ばれて、思わず耳を押さえる。あー、キーンとするよ~。
「お前ら、落ち着け。お菊、もしかして称号の『君のシリーズ』を三つ取得していないか?」
「凄い! マハロさんは何でもお見通しなんですね。そうなんです、50回もリボーンしちゃったんですよ」
叫んだ皆が絶句している。こんな短期間で有り得ないですよね~、と私も遠い目をしたくなる。
「やはりな。仕事が終わったら合流するのか?」
「はい。始まりの鐘で待っていてくれるそうです。あの、皆さんはお知り合いなんですか?」
「ああ。NPCの間では有名人だからな」
「へぇ、そうなんですか~。何をしている子なんですか?」
「冥か――」
皆が揃っていて遅れたと思ったのか、慌てたように走って来たトワイフルちゃんが、答えてくれようとしたサムさんに突っ込んだ。犬も急には止まれませんなのかしら?
「ぐほぁっ⁉」
吹き飛ばされたサムさんが、パールさんの風魔法で受け止められる。誰も慌てていないから、私も呑気に眺めてしまった。
「――よっと。おや、家亀が居ますね。しかも、子亀とは珍しい」
サムさんがプンスカしながら、珍しくお説教をしている。ツーンとしているトワイフルちゃんは聞いていない気が……。そう言えば、何を聞こうとしていたか忘れてしまった。まぁ、いっか。
「ふふふ、私がテイムしたんだよ」
「それは素晴らしい! 君、お名前は?」
「クー」
「そうですか、亀吉ですか。良い名前を付けて貰えましたね」
「クー♪」
何、この可愛い組み合わせ! ケン君も同じ思いなのか、撮影に余念がない。
「いいなぁ、言葉が分かるの?」
「ええ。ですが、仕草をよく見ていれば、お菊さんにも段々と何が言いたいか分かってくると思いますよ」
早くそうなりたいなぁと思いながら、顎をちょいちょいと指先で撫でる。
「クー♪」
はぁ、可愛い。今の鳴き声は『嬉しい』かな? そう思っていると、私もマハロさんにわしゃわしゃと頭を撫でられる。ふふふ、嬉しい。
「よし、朝礼するぞ。トニーは体調不良で休みだ。代わりにBチームの人間が来るから、サムは一緒に頼むな」
「了解です」
大変だ。あとでお見舞いに行こう。
「あ、お菊ちゃん。お見舞いはいらないから」
「え? どうしてですか?」
「え⁉ えーとね~……そうっ! ひたすら眠りたいんだってさ」
サムさんの申し訳なさそうな様子に頷く。そっとしておいてあげた方が今はいいのだろう。
「今日は放牧場にモンスター達を出すぞ。トッドとトワイフルで外に出して、お菊とケンはアイテム回収とギルドへの納品、寝藁の交換を頼むな」
「はい!」
放牧場かぁ。時間があったら見に行こうっと。
A~Z厩舎共通の放牧場なので、とにかく広いとケン君に教えて貰う。遠くには山まであって、飛行系のモンスターはそこまで飛んで行ったりするので、戻って来ない子を集めるのは機動力があって、匂いや気配に敏感なトワイフルちゃんの仕事らしい。
トッドさんが、厩舎奥にある巨大な扉をトワイフルちゃんと共に押していくと――。
光が射し込み、爽やかな風が一気に厩舎内を駆け巡る。広大な草の絨毯が見渡す限り広がって、解放感抜群だ。走り出したいという思いに駆られていると、モンスター達も同じなのか、ソワソワとし始める。
「ワン、ワン!」
トッドさんが房の柵を開けると、トワイフルちゃんが先導してあげている。今日のトワイフルちゃんは牧畜犬? ううん、牧モン犬ね。
最後にゆっくりと、今日はオーバーオールを着ているパールさんが、亀吉ちゃんと共に歩いて行く。ありがたい事に、お仕事中は面倒を見ますよと申し出てくれたのだ。ふふふ、お散歩楽しんで来てね。
「さぁ、お菊さん。一気にやっちゃいましょう!」
「うん!」
皆が戻って来る前に片付けないとね。ファイトー! と私とケン君は拳を突き上げるのだった。
トワイフルちゃんのお仕事の一つです。自由なワンワンですが、お仕事はちゃんとしてますよ~。
理由が情けなさ過ぎるという事で、トニーがリボーンしたのは、お菊ちゃんには内緒です。NPCがリボーンすると一日居なくなるので、病欠扱いです。
お読み頂きありがとうございました。




