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47.50回目のリボーン

「――はぁ……。こんにちは、50回目のリボーン……」


 ピッポーン!


「わぁっ⁉」


 しょんぼりしていた耳が驚きでピーンと立ち、毛まで逆立ってしまった。


「もう、なーに?」


 びっくりすると、怒りが湧く事があるから不思議だよね。動揺させられた事に苛立つのかな? なんて考えながら確認する。ええっと――、新しい称号か。詳細を確認っと。



+++++ +++++ +++++ +++++ +++++

『君には俺が付いているから!』 ~君のシリーズ~


獲得条件:


戦闘時の攻撃(状態異常含む)以外で50回死に戻ったプレイヤーに贈られる。


効果・プレゼント:


50,000タム。大回復薬×10。


◇パーティーの中で最もHPが高いメンバーの30%の数値がHPに加算される。ただし、ソロの時は効果なし。

※『君のシリーズ』の効果は重複せず、上位が適用される。

+++++ +++++ +++++ +++++ +++++



 何故だか、マハロさんの姿が脳裏に浮かぶ。ふふふ、俺が付いているからだなんて嬉しいな。しかも、50000タム! お給料が入る前に、だいぶ減ってしまったお金を補填出来た。


「――君、ここによく来るね」

「え?」


 ホクホクと始まりの鐘の前でステータス画面を眺めていたら、急に声を掛けられる。どうやら、声の主は階段に腰掛けている人のようだ。全身を黒のレザーで作られた服で包み、目深にフードを被っているので顔がよく見えない。身長からして子供だとは思うけど、この世界は成人していても小さい種族が居るので断定は出来ない。


 声の主が顔を上げ、針葉樹の葉のようなエメラルドグリーンの瞳が私を見据えると、スッと目が引き寄せられ喧騒が遠退いていく。その時の私は気付いていなかった。周りから人っ子一人居なくなっている事に。


「僕はハデス。君の名前を聞いてもいい?」

「私? 私はお菊と言います」


「お菊、か。ねぇ、死にたがりなの? リボーン出来るからって、命を粗末にしても良いと思っている?」


「え⁉ そんな訳ないじゃないですか! わ、私は――」

「私は?」


 はぁ、出来れば言いたくなかったなぁ。でも、変な誤解は解きたい。


「最大HPが2なんです……」

「…………え? もう一回言ってくれる?」


 長い沈黙の末に漏れ出た困惑の声。そうですよね、こんな理由だとは思わないですよね。


「だから、最大HPが2しかないんです! その所為で、転んだりしただけでリボーンしちゃうんですよ……」


 段々と声が小さくなって俯いてしまう。私だってもっとHP欲しいよ……。


「……くっ……あはは、そんな理由だったの? あははは、凄い勘違いしてた!」


 馬鹿にしているでもなく、自分の勘違いに笑っているようだ。拗ねるのを止めて顔を上げると、声の主のフードが外れて、収穫を待つばかりの垂れた稲穂のような色の髪が現れる。わぁ、凄い癖毛! あちこちにピョンピョンと跳ねていて、ちょっとだけでもいいから触りたい気持ちになる。柔らかそうに見えるけど、ツンツンした髪なのかな? あ~、撫でたい!


 中学に上がった位に見える少年は、顔立ちはまだ幼いけれど整っていて、将来はモテモテになりそうだ。来ている服は黒一色でゴシック系と言えばいいのだろうか? それを引き立てるシルバーアクセサリーも恰好良くて、とても似合っている。


「癖毛だからフードを被っているのかな?」


 思わず声に出してしまい、慌てて口を手で塞ぐ。そーっと少年を見ると、キョトンとした後に、また笑い出す。取り敢えず怒っていないようなので、楽しそうな様子を見守る。笑顔が可愛いなぁ。こんな弟が居たら毎日家に帰るのが楽しくて仕方ないだろう。


「――はぁ、笑った。いつぶりかな、こんなに笑ったの。お菊って隠し事が出来ないタイプ? 癖毛だねなんて僕に面と向かって言う人は珍しいよ」


「ご、ごめんね。あまりにも見事な跳ねっぷりだから――って、また失礼発言! あーっ、どうしよう⁉ もうっ、自分の馬鹿!」


 自分の間抜けさ加減をどうにかしたい。許して貰えるまで何度でも謝ろうとしていると、笑いながら首を横に振られる。


「いいよ。ただの感想でしょう? 自分でも凄いってよく思うよ。あのさ、お菊が嫌でなければステータスを見せてくれる? 口外しないと誓うよ。人払いもしてあるし」


「え? 人払い?」


 そこで初めて周りに誰も居ない事に気付く。こんな静かな町は見た事がない。綺麗さは変わらないのに、少し不気味さを感じてしまう。


「ど、どうなってるの? これをハデス君が?」

「うん。これは僕の能力だよ」

「プレイヤーなの?」


 何故か頭上に三角マークが無い。これがバグというものだろうか?


「ううん。NPCのようなものだと思ってくれればいいよ。それで、見せて貰えるのかな? 見せたくない所は隠してくれていいよ」


 信用してもいいかどうかが分からない。でも、悪い子には見えないんだよね。あっ、そうだ!


「気を悪くしないでね? あの、サポウサちゃんを呼んでもいい?」

「構わないよ。良かった、お菊に警戒心があって」


 クスクスと笑っている。もう、皆してそういう事を言うんだから。私だってしっかりした所があるんだからね!


 声を出しても届くか分からないので、ステータス画面のサポウサちゃんマークを押すと、すぐに来てくれた。


「はいはい、お菊さん。どうしましたかーっ⁉」


 来た途端に目を見開いて叫ぶ。えっ、何⁉ そんなに驚く事があったの⁉


「ちょ、ちょっと、お菊さん! これっ、どういう状況ですか!」

「え、えっと、リボーンしたらハデス君に声を掛けられて――」

「やっぱり、ハデス様⁉ お菊さん、今度は何をやらかしたんですか⁉」

「サポウサちゃん、酷い! 私は一生懸命にプレイしているだけだもん!」


「あーっ、もう! 無意識で色々とやらかし過ぎですよ! って、失礼致しました! 御前で騒ぎ立てまして――」


「いいよ、気にしないで」


 御前って、もしかして偉い人? 私ももっと畏まった方がいいのかな?


「ありがとうございます! それで、この状況は?」


「ちょっと確認したい事があってね。お菊のステータスを見たいと頼んでいた所なんだ」


「そうなの。それでね、サポウサちゃんに相談しようと思って」


「この方は大丈夫です。僕が保証します。お菊さんの害になる事は絶対にありえません」


 そこまで言い切るなら大丈夫なのだろう。ステータスの設定を変えて他の人にも見えるようにする。


「どうぞ、ハデス君」


「うん、ありがとう。――本当だ。HP2でバーが満タンだ。誰かの助けを借りてレベルを上げたら?」


「それがね、レベルを上げてもこれ以上にはならないの」


「それは……ひたすら始まりの鐘に戻って来る訳だ。僕はてっきり、町へ簡単に戻って来る為の手段にしているのかと思っていたよ」


「勘違いってそういう事だったの? 私、町の外なんてイベントの『マンドラゴラのかくれんぼ』と、ツカ平原に一回行っただけだよ。森の中でもいっぱい転んだけど、町中でリボーンした回数の方が多いんじゃないかな?」


「町中で⁉ そ、それは苦労しているね。所持金は大丈夫?」


「うん、なんとかね。お察しの通り結構厳しいから、住み込みで働かせて貰っているの。ほら、こんなんだから私はモンスターと戦えないでしょう。はぁ……」


 思っていた以上に深い溜息が出てしまった。だって、初回ボーナスで10万タム貰っていなかったら、ゲームを続けられなかったもの。リボーンする度に1000タムを失うのは辛い……。


「僕が聞いた所によると、時の旅人は能力を変化させる秘儀があるんでしょう?」


 キャラを作り直す事を言っているようだ。ゲーム内の人って色々と知っているよね。


「あのね、良い所もあるんだよ。ほら、テイムは100なの。それにね、ロイヤルハニーベアーちゃんが装備出来る王冠も手に入れたんだよ。だから、秘儀は使いたくないんだ」


「へぇ、レアばっかりだね。それに、他は酷い数値ではないんだ。――ん? 君、称号をいっぱい持ってるね」


「うん。でも、情けない理由ばかりで素直に喜べないっていうか……」


「そんな事ないよ。称号はそんな簡単に獲得出来るものじゃないからね。凄いな、君のシリーズが揃ってる。――やはり、間違いではなかったか」


 後半の内容は声が小さくて聞き取れない。それよりも、ハデス君の雰囲気が少し変わったように思える。


「顔つきが大人びたように見えたんだけど……。ん~、角度の問題?」

「光の加減じゃないかな? でも、大人びているって言われるのは嬉しい」


 背伸びしたいお年頃なんだね。微笑ましくなって、つい癖毛を撫でてしまった。


「あーーーっ! お菊さん、何て事を!」

「え? あっ、ご、ごめんね。思わず……」

「いいんだよ。僕は構わない」

「そう? 良かった~。思ったより柔らかい毛だね。ふふふ、可愛い」


 健二君の幼い頃もこうして撫でていたな。サポウサちゃんが何故かオロオロしているので、一緒に撫でてあげる。


「……ウチャ。もう諦めるウチャ。お菊さんはやらかすのが当たり前ウチャ」


 何かを悟ったような目で遠くを見つめ、ブツブツと呟いている。大丈夫かな? お腹でも空いているのだろうか?


「クッキー食べる? 食堂で貰ったの」

「食べる!」


 ハデス君が大きく反応したので、二枚渡してあげる。いっぱい食べて大きくなってね。


「はぁ……。僕、紅茶淹れます」


 サポウサちゃんが椅子と机も出してくれたので、三人でお茶会だ。


「さっき、ロイヤルハニーベアーって言っていたけど、テイムする為にこの世界へ来たの?」


「うん! 可愛くて一目惚れしたの。でも、正直どうすればいいか分からないんだよね。レベル上げしようにも、一撃受けただけでリボーンしちゃうし……。何か良い方法があればいいんだけど」


「それじゃあ、僕がお菊の仲間になって、レベル上げに協力してあげるよ」

「いいの⁉ でも、私とパーティーを組むと損しちゃうよ?」


「僕は上限レベルに達しているから、経験値が必要ないんだ。なんの損もないよ」


「でも、得もないでしょう? タムを多めに渡せばいい?」


「ううん、タムもいらない。お菊と一緒に居れば、退屈とは無縁の生活を送れる。僕にとってその権利は、タムや経験値よりも勝る。――あそこは孤独の国だからな……」


 最後にポツリと何か呟いたハデス君は、とても倦んでいるように見えた。この子は外見通りの年齢じゃないのかもと思いながら、とっておきのカップケーキを取り出す。一個しかないから大事に取ってあったけど、今が食べる時だ。


「じゃ~ん! 料理長渾身のベリーズ尽くしのカップケーキ! これ食べて元気出して」


「え? いいの?」


「うん。ハデス君、甘い物が好きみたいだし。私はまた頼んで作って貰えるから、遠慮なくどうぞ」


「ありがとう……。大事にちょっとずつ食べるよ」


 宝物を扱うようにアイテムボックスにしまうと、立ち上がるハデス君。


「今から行こう。手始めに、お菊には『家亀』をテイムして貰うからね」

「いえかめ?」

「うん。百聞は一見に如かずだよ。さぁ、僕の手を取って」



 ――何故だか、ここから運命が大きく変わる予感がする。



 ハデス君の綺麗な瞳には真摯さと懇願が宿っている。助けて貰うのは私の方なのにと不思議に思いながら、躊躇いがちに指先を伸ばすと、安堵と歓喜が新たに灯る。


「これから先、ずっと共に行こう。僕がお菊を守るよ」


 そんな言葉を掛けて貰えると思っていなかったので、驚きで目を見開いてしまう。私の反応に満足気に笑い、右手の甲に口付けがそっと落とされると、黒いザクロの実が浮かんで甲の中に消える。確認しようとハデス君を見ると、あまりにも妖艶な笑みが口元に浮かんでいたので、びっくりして思考が止まってしまう。


「サポートウサギ、先程の件の詫びとして、浮雲の『コクウ森』へ転移を」


「はい! お帰りの際もお呼び下さい」

「分かった。行って来る」


一人目のパーティーメンバー、ハデス君の登場です。モフモフを期待していた方は、ピョンピョン癖毛頭で許して下さい。手触り抜群です(笑)。

サポウサちゃん、マハロ親子の所為で心が休まりませんね。クッキーをやけ食いしてそうです。


お読み頂きありがとうございました。


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