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45.トニ子 ~ナダ視点~

「……どこまでも斜め上。それすらも可愛くてもっと聞いていたいとか、自分の変化が怖いな」


「何か言いました?」


「ううん、独り言。ほら、見てごらんよ、お菊ちゃん。あいつらがスクリーンに映し出されているよ」


 頬に感じる滑らかな肌と、撫でられる心地良さに浸りつつ、待合室のスクリーンを示す。さっきから、血涙を流しそうな目で男どもが俺を見ているのは無視だ。


「わぁ! あれがコースですか?」


「うん。いくつか雲海にコースが用意されているんだよ。あれはその内の一つで、風船を割った数で競うんだよ」


「クラウドボードに針でも付いているんですか?」


「ううん。針ではないけど、先が尖っているんだよ。あとはボードで踏み潰せば割れるね」


 俺の説明を興味深そうに聞き、ワクワクとした顔でスクリーンを見つめている。そうだ、始まる前に賭けないと。


「さっきの賭けだけど、お菊ちゃんはサムだっけ?」

「はい。お兄ちゃんの意地をみせて勝つかなぁと思って」

「どうかな? トニーもなかなか強いよ。賭けなおすなら今しかないよ?」

「いいえ。サムさんのままでいいです」


 悩むかと思ったら、きっぱりとした答えが返って来た。従弟と小さい頃から一緒に居たらしいから、兄としてのサムの気持ちや、気合の入りようが良く分かるのだろうか?


「了解。お菊ちゃんが負けたら、デートよろしくね」

「はい。ナダさんが負けたら、私のお買い物に付き合って下さいね」

「え? あ、うん」


 それもデートではないのだろうか? まぁ、本人がそう思ってなくても、俺にはデートだ。どっちに転んでも、俺には嬉しい展開だな。


 両者が位置につくと、ピ、ピ、ピーーーッと音が鳴り、信号が赤から青に変わる。それと同時に通せんぼしていた棒がガコンと上り、滑り台の様になっているスタート台から、両者が勢い良く飛び出した。装着したミラーレンズのゴーグルで目は見えないが、好戦的な笑みが浮かんでいるので、想像は容易い。


「いや~、良い勝負ですね~。両者一歩も引きません!」


 ふらりとやって来たサポートウサギが解説を始めた。お前、暇なのか?


 クラウドボードはスノーボードとよく似ているが、下と後ろから風が噴出する事で浮き、体重移動で進行方向を決める。


 風の調節は両手に持ったコントローラーで行う。形は自転車のグリップとブレーキレバーを組み合わせたようで、横でも縦でも好きな向きで使える。レバーを握る力加減で強弱を変えるので、調節が難しい下方向の風のコントローラーを利き手に握る事が多い。


 島の間などを行き来するボードは、自動飛行機能と安定装置がプラスされているので、立っているだけで目的地に行ける。ただ、どうしても重たくなってしまうのが難点だ。その点、二人が使っているのは競技用なので、必要最低限の物だけ残し、サイズも少し小さく軽量化されている。自分で細かく操作する必要はあるが、慣れるとこちらの方が使い勝手が良いと俺は思っている。


 競技で上位になるには、素早い操作と力加減、判断力が必須で多くの練習を積み重ねなければならない。だが、双子は天才と言える程のスピードで、あっさりと身に付けてしまった。あいつら、こういうことに関してはセンスがいいし、運動神経がずば抜けているよな。


 いま二人が滑っているのは、普通に滑り降りるだけでも難しい上級コースだ。下り坂のS字コースは雲の凸凹がカーブ以外にあるので、ジグザグにボードを操りながら風船を割って行く。簡単そうに見えるが、点々と配置されている青い風船は弾力があるし、風に揺られて予想外の動きをする。


「おっと、トニー選手が失敗してしまいました。悔しそうに舌打ちをしています」


 例えボードが当たったとしても、尖った部分でなければ割れない。踏み潰すにしても、下でするりと横に逸れたりするので、スピードに乗った状態で割るにはコツがいる。それに加え、制限時間内にゴールしなければならないので、技術とスピードを併せ持たないと勝てない。


「サム選手は流石ですね~。未だにミス一つせずに割っています。前大会一位なだけありますね~」


「えっ⁉ そんなに凄い人だったの⁉」

「はい。トニーさんも凄いんですよ。速さを争う競技では一位でした」


 お菊ちゃんが感心しながら、より身を乗り出してスクリーンを見つめる。双子が評価されているのは嬉しいが、少し苛立つ自分も居る。まさか、あの二人に嫉妬する日が来るとは思わなかったな。


「ねぇ、サポウサちゃん。ずっと気になっていたんだけど、雲海は体が沈まないの? 下まで沈んだとしたら、突き抜けて空から落ちちゃうの?」


「普通に沈みますけど、底なしなので突き抜けませんよ。それに、白イルカがすぐさま救助に駆け付けてくれるので大丈夫です。お菊さんは風船が沈まないのが不思議なんですよね? あれは競技用に作られた雲なので、マシュマロみたいに柔らかで弾力があるんですよ」


「へぇ、そうなんだ~。あ、もうすぐゴールだよ」


 ボードを横に滑らせながら斜めに傾け、ゴール直前の風船をパーン! と叩き潰して、先にトニーが到着する。やはり、速さではサムが負けるな。


 大きなカーブをあの速さで滑り降りるなんて、今の所はトニーしか出来ない。真似しようとする者が後を絶たないが、コースから飛び出して雲海へ真っ逆さま。救助の白イルカが、またかよという感じで『キューッ!』と鳴く姿も合わせて、お約束の光景となっている。


「――あーっ、くっそぉ。まーた、サムに負けたよ」

「ははは、やりぃ! でもさ、速さではいつも完敗だよ」


 肩を組んで戻って来た双子に、お菊ちゃんが拍手を贈る。


「お二人共、凄かったですよ!」


「「見直した?」」


「はい! お二人にこんな特技があったなんて、びっくりです。とっても素敵でしたよ」


「お菊ちゃん、やっぱり俺の彼女に――」


 素早く起きた俺は、銃口をトニーのこめかみに向ける。


「は、ははは。や、やだなぁ、ナダさん。本気にしちゃってぇ」


 両手を上げて冷や汗をダラダラと流すトニーを睨み付ける。サムとサポートウサギは「怖っ⁉」と言いながら部屋の端に逃げている。随分と逃げ足が速いな。


 お菊ちゃんはというと、急に膝から重みが消えてびっくりしている。不思議そうに俺と膝を見比べる姿に、怒気が急速に萎む。怖い顔はしまっておくか。


「膝枕ありがとうね。元気いっぱいになったよ」

「それは良かったです。でも、急に立つと危ないので、気を付けて下さいね」


「うん、心配してくれてありがとうね。そろそろ鐘の鳴る時間だから、はぐれないように手を繋いでおこうか」


「はい。サポウサちゃんも一緒に遊楽へ行く?」


「そうしたいのは山々なんですが、呼び出されてしまいました。お気を付けてお帰り下さいね」


「うん。またね~」


 見送ったお菊ちゃんが、隣に居たサムに手を差し出す。


「え、いいの?」

「うん。それとも、ナダさんと繋ぐ?」

「お菊ちゃんでお願いします!」


 ホクホクとした顔のサムに少し苛ついていると、トニーがニィヤアと笑って俺の手を掴む。


「きゃー、トニーこわ~い。はぐれないように、お・ね・が・い・ね♡」

「気持ち悪っ! こらっ、離せ! 俺は男と手を繋ぐ趣味は無い!」


 ブンブンと手を振るが、しぶとく掴んでくる。引き剥がしたいが、お菊ちゃんの手を離す訳にもいかない。


「ふふふ、トニ子ちゃんだ~」

「はははっ、いけてる! トニ子、イケメンと手を繋げて良かったな」

「うふふふ~。トニ子、ナダさんの事、だーい好き♡」


 胸に抱き付かれて、ぞわぞわっと鳥肌が立つ。衝動のままに、トニーの足をゲシゲシと蹴る。


「痛い痛い痛い! うっわ! まさかの頭突き⁉」


 トニーが大きく仰け反って避けた所で鐘が響き渡る。遊楽に着くと、海老のように跳ね起きたトニーが全力で走って行く。誰が逃がすか!


「その脳みそを交換してやる!」

「ぎゃあぁぁぁっ! トニ子、怖ぁぁぁいぃぃぃ!」


 まだその設定なのか。少し追い掛けたくないなという思いが頭をもたげるが、躾は必要だ。――よし、トッドさんに丸投げしよう。


「お菊ちゃーん、気を付けて帰るんだよー」

「はーい」


 走り出しながら手を振り、サムには任せたぞと目配せして、俺はトニ子をトッドさんの元へ誘導するのだった。





 役になりきる性質なのか、異様に速い女の子走りで駆けて行くトニー。視覚の暴力で精神的に限界を迎え、睡眠弾を撃ち込もうとした所で、トッドさんの姿が見えた。


「トッド様! 憐れなトニ子をお助けになって!」

「はぁ、トニ子だと? ――うわっ⁉ 気持ち悪っ!」

「へぶしっ⁉」


 お礼に熱い接吻を! と口を突き出しながら抱き付こうとした所為で、トッドさんの手加減を忘れた拳がトニーを襲う。久し振りに見たなぁ、トッドさんの連続必殺技。


「あ、やべっ」

「あー、星になりましたね」


 空高くに吹き飛ばされたトニ子は光の粒子に変わり、天使と共に去って行った。まずいな、明日の人手が足りなくなってしまった。


「はぁ、やっちまったな……。マハロさんに報告してくる」


 リボーンと共に、トニ子も綺麗さっぱり消滅したのか、二度と現れる事はなかった。お菊ちゃんが「もうやらないんだ……」と、ちょっと残念そうにしていたのは余談である。


トニ子ちゃんは、お菊ちゃんにはウケが良かったんですけどね~。男性陣には無理だったようです。

パール伯爵と遭遇していたら、問答無用で消し炭にされていそうですね。


お読み頂きありがとうございました。

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