44.デートとは?
メンテを終わらせたペッペ君に、約束通りモフモフタイムを提供したら、「ファンです!」と言われた。ウサ耳好き仲間が新たに増えました。
元気いっぱいになったペッペ君に見送られ、扱き使われたのか、少しぐったりしている双子のお兄さんと共に空港へ向かう。
「ナダさん、四人乗りの自転車はないから、じゃんけんで決めません?」
「するまでもないだろう。俺とお菊ちゃん。双子で解決だ」
「「ぶーぶー! 横暴!」」
「ふん、お前達みたいな危なっかしいのに任せられるか」
「――あ、トニー君!」
さっき約束していた女の子達かな? 行っていいよと促すと、少し考えた後に首を横に振る。
「ごめーん、また遊楽で遊ぼう?」
「えー、今遊ぼうよ。クラウドボードに乗る恰好良いトニー君を間近で見たいな~」
「本当にごめんねー。今日は職場の人が一緒だから、こっち優先させてね」
不機嫌そうに眉を顰めた女性達が、私を見付けて睨んで来る。お馴染みの視線だけれど、やっぱり辛い。私、ただの同僚ですよ? 邪魔する気はありません。
私が身を縮めると、ナダさんが前に立って視線を遮ってくれた。ホッとしていると、トニーさんが頭をポリポリと掻きながら、先程より少し低い声を出す。
「……あのさー、俺、もう君達とは遊ばない。じゃあね」
「え⁉ なんでよ? いっつも最高に楽しいって言ってくれたじゃない!」
「そうだったんだけどさー、俺が大事にしてるもん、大事にしてくれない人とは無理っしょ。つーことで、バイバーイ」
声を上げる女の子達を無視して、こちらに戻って来る。
「いいの? お友達でしょう?」
「いいの、いいの。それよりも、嫌な気分にさせてごめんね。大丈夫?」
「うん、私は大丈夫だよ。だけどね、トニーさんは本当に後悔しない? お友達は人生の宝なんでしょう?」
「お菊ちゃんってさー、本当に優しいよね。トニーさんはね、そういう子と長く付き合っていきたいの。俺が大事だっていうものが理解出来なくてもさ、一向に構わないんだよ。でも、傷付けるのは無しでしょう。俺、そういうの我慢出来ないんだよね」
笑って何でも受け入れちゃうような子に見えていたけど、ちゃんと線引きがされていたんだ。あの子達は、その超えてはいけない線を超えてしまったんだね。
「うん、分かったよ。もう何も言わない。行こう?」
私があっさり引くと思っていなかったのか、目を丸くした後に破顔する。小さな声で「ありがとう」って言ってくれたの、ちゃんと聞こえたよ。トニーさんって、意外と照れ屋さんだよね。
「よし、行こっか! サム、クラウドボードで競争しようよ」
「OK。風船割るコースにする?」
「いいねー。お菊ちゃん、俺の勇姿をご覧あれ!」
「待てい! お菊ちゃん、サムさんの方が見てて楽しいよ。トニーのヘロヘロ飛行なんて、見ていて欠伸が出ちゃうよ」
「はぁ? サムのうざいドヤ顔飛行の方が見る価値無しでしょう」
言い争ってはいても、その楽しそうな顔を見れば心配要らないのが分かる。
「俺達は待合室で、のんびり見物しようか」
「そうですね。どっちが勝つと思います?」
「うーん、毎回いい勝負なんだよね。――そうだ、お菊ちゃん。賭けをしない?」
「いいですよ。何を賭けますか?」
「お菊ちゃんと一日デートしたいな」
「いいですよ。私はサムさんに賭け――」
「えぇっ⁉ ちょっと待って、本当にいいの⁉」
「はい。お父さんや従弟ともよくしていますよ」
そう言うと、何故か首を傾げるナダさん。
「あのさ、お菊ちゃんにとって、デートってどういうもの?」
「どういうですか? 仲良しな男女がお出掛けするのをデートって言うんですよね?」
今度は頭を抱えるナダさん。頭が痛いのかな?
「……それ、誰に教わったの?」
「うちのお父さんです。休日になると、デートしよーって言って来るんですよ。おいしいスイーツ店巡りが最近のブームです!」
「……そう。楽しそうだね」
「はい!」
双子のお兄さんがナダさんの肩を叩いてあげている。肩凝ると頭が痛くなるものね。
「訂正しないんですか?」
「いや、あれはあれで間違っていないというか……。家族仲が良い家なんだな」
「そうですね。だから、あんなに良い子に育ったんですかね?」
「多分ね。――って、トニー⁉ 戻って来い!」
黙って二人のこそこそ話を聞いていたトニーさんが、一般的なデートを教えてくれると言うので、ありがたく耳を傾ける。私の認識と何が違うのかな?
「家族とか友達じゃなくて、恋心を抱く相手と行くのが一般的なデートだよ」
「じゃあ、私とナダさんは当てはまらないよね? 私、恋心を抱いていないもの」
背後でズシャッと音がする。ん? 誰か転んだ?
「ナダさん、しっかりして下さい! 膝ついている場合じゃないですよ!」
「は、ははは……。あんなにはっきり『無い』って言ったよ」
「い、いや、まだ始まったばかりじゃないですか! 諦めるには早いですって!」
サムさんが必死に応援している。そんなに頭が痛かったの⁉ と慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか⁉ そこの椅子で横になります? 私、膝枕しますよ!」
「何だろう……。天国と地獄を行き来しているような、この感覚……」
朦朧としているのだろうか? 顔を手で挟んで間近で覗き込む。
「私の事、分かりますか? 病院に行きます?」
「え、えっと、うん、大丈夫。色々なものが頭から吹っ飛んでいったよ」
治ったって事? 本当かな? とジッと見つめると、少し赤くなっていた顔が更に熱を持ち始める。
「熱があるんじゃないですか?」
「いや、熱は無いんだけど、ちょっと混乱気味というかね?」
「そ、そう! きっと疲れが出たんだよ! お菊ちゃん、膝枕してあげてよ。うるさい俺達が居ると落ち着かないだろうから、あっちで遊んでるよ」
「そう? じゃあ、私達はここで休んでいるね」
遠慮して座ったままのナダさんを、えいっ! と引っ張り、無理矢理に寝かせる。
「うわっ⁉ お、お菊ちゃん⁉」
「具合悪い時に遠慮は無しです。あ、私の膝が嫌――」
「そんな訳ないでしょう! ……一生こうしていたい」
後半は独り言かな? 辛いのが飛んで行くように、よしよしとサラサラで柔らかな髪を撫でる。ふふっ、良い手触り。でも、ショートパンツだから、少しくすぐったいな。
すると、位置が悪かったのか、ナダさんが私の足にスリスリと頬擦りするように頭を動かす。
「~~~っ、くすぐったい! ナダさん、頭を落としちゃいそうですよ~」
「ふふっ、ごめんね。滑らかで吸い付くような肌だね」
滑らか? 私、乾燥肌なんだけどな。クリームを塗らずとも、ゲーム内ではツルツルピチピチだなんて嬉しい。
今度はするりと膝を撫でられる。もしかして、私の肌がチェックされている⁉
「お菊ちゃんは、どこもかしこも綺麗だね」
やはり、チェックでした。容姿のように、いずれ知られてしまうだろうから、潔く自分から言ってしまおう。
「いいですか、ナダさん。それはゲーム内だからです。実際はですね、冬になると肌に粉がふくんですよ。しかも、子供の頃からですよ。クリームなしには過ごせないんですからね。現実は厳しいんです!」
「ぶふっ! そ、そっか、現実は厳しいね。じゃあ、俺がクリームを作って塗り込んであげるよ」
「ナダさん、クリームまで作れちゃうんですか⁉」
「うん。薬草を採ってきて調合すれば出来るよ」
「SAですね! 私も取得しようかな~」
手触りがいいから、つい髪の毛を触ってしまう。シャンプーも自作だったりして。そうだったら分けて貰えないか頼んでみよう。現実に反映されないのが残念だけど、こんなに良い手触りになるんだもんね。
マハロさんが居たら、「お菊にベタベタ触るな!」とナダさんを蹴落していそうですね。
お読み頂きありがとうございました。




