42.パッソの武器屋
預モンでの仕事が終わってから、ナダさんと双子のお兄さんと共に、ガルーダ便で木の島へ向かう。
「ほら、あの店だよ」
ナダさんが指さす建物を見ると、軒先に黒鉄の剣が交差した看板が下がっている。あれ? ここって――。
「マハロ商会のすぐ近くだったんですね」
「うん。――こら、双子! 買い食いばかりしてないで早く来い」
「「ふふぉいふぃふぁふ」」
何て言ったんだろう? 走り寄って来たサムさんが、一口大のドーナツがどっさり入った袋を差し出してくれたので、ありがたく頂く。――うん、蜂蜜の甘さが良い感じだ。
「すぐ行きますって言っておいて、トニーはどこへ行ったんだ?」
「ああ、それなら可愛い女の子にフラフラ寄って行きましたよ」
ナダさん、さっきの言葉が分かるのね。長い付き合いだと分かるのかな?
「ったく、あいつは。おーい、トニー! 置いて行くぞ!」
「あとで遊ぼうね。バイバーイ。――お待たせしました~」
「トニー、もう仲良くなったの? 相変わらずだね~」
「ふっふっふ。可愛い女の子には声を掛けるってのが俺の流儀だからね~」
ナダさんは呆れた風に見やってから、私の手を握って歩き出す。頼まなくても、当たり前のように握ってくれるので、すっかり私の世話係の様だ。ご面倒をお掛けします……。
「お菊ちゃん、トニーは節操がないから要注意だよ」
「えぇー、ひどーい。皆、お友達ですよ~」
「はっ、どうだか。サムの方はね、ああ見えて奥手で一途な奴だから心配ないよ」
「へぇ~、正反対なんですね」
感心していると、トニーさんが拍子抜けしたような顔で私を見ている。
「……なーんだ。『最低!』とか『不潔! 嫌いよ!』って言うかと思ったのに」
「ん? 何で罵らなくちゃいけないんですか? 社交的でどんどん声を掛けるようにしているから、女性のお友達も多いって事ですよね? トニーさんって寂しがり屋さんなんですね」
「……ぷっ、あははは! すげぇ! お菊ちゃん、マジ凄! あはははっ」
目を丸くしたかと思ったら、トニーさんが爆笑し始めた。私、変な事を言ったのかな?
「お菊ちゃんって凄いね。本当のトニーに気付く人なんて稀だよ。トニーって女好きとか色々言われているけど、本当に友達ばっかりで、付き合ってる子は居ないんだよ。それに、お菊ちゃんの言うように物凄い寂しがり屋でさ、常に誰かと居たいってタイプなんだよ」
「そうそう。だけど、サムは一人の時間が無いと嫌なタイプだから、俺と四六時中一緒に居てくれないわけ。だから、友達いっぱいつくってんの。人生の宝だね~」
どこまでも正反対なのね。面白いなぁと思っていると、ナダさんが戸惑った風に声を掛けている。
「本当に友達だったのか。すまない、今まで不快な思いをさせた」
「わっ、ちょ、止めて下さいよ! 頭を上げて下さいって! そう思わせとくのも面白いかなぁなんて、誤解をそのままにしてたのは俺ですから」
「そうですよ。モテる男っぽいじゃんとか言ってたんですから、気にしないで下さいよ」
「そう言って貰えるのはありがたいが、お前達は本当にモテているだろう?」
私もそう思う。ここに来るまでにも、声を掛けたそうにしている女の子がいっぱい居たもの。
「うわぁ、超モテ男のナダさんに言われた~。どう思うよ、兄弟?」
「これは自信を持ってもいいのではないか? 兄弟」
「「……ふふ……ふふふ……」」
ニマニマと笑い合っていて、ちょっと不気味。ナダさんもそう思ったのか、顔を顰めて一歩後ろに距離を取っている。
「お前ら、人の店の前でいつまで突っ立っている気だ? さっさと入れ。――ん? この前の嬢ちゃんじゃないか。買いに来てくれたのか? ほら、遠慮せずに入ってくれ」
扉を開けてくれたので、お礼を言いながら入らせて貰う。その途端に聞こえてくる金属を叩く音。赤く染まった炉が店の奥にあり、お弟子さんと思われるドワーフさんが、顔を赤くしながら槌を振るっている。
ドワーフだからって、どっしりした体格で髭が必ずある訳じゃないのね。十代前半と思われる純朴そうな少年が、額の汗を袖でグイッと拭う。そうだよね、火の側に居ての力仕事は汗が止まらない事だろう。
「キリが良いなら休憩して水分摂れよ」
「はーい。――あっ、ウサギさんだ!」
小声だったけど、バッチリ聞こえてしまった。こちらをチラチラと見ながらお水を飲んでいるので手招きすると、気まずいのと嬉しさが混ざったような顔で近付いて来る。
「塩分も摂った方が良いよ。これね、お塩の粒々が入ったチョコレートなの。貰い物で申し訳ないんだけど、どうぞ」
「え⁉ あ、えっと……」
「ありがたく貰っとけ。ありがとうな、嬢ちゃん」
「いえ。パッソさんも良かったら、どうぞ」
「いや、儂は甘い物が苦手なんで気持ちだけ貰っとくわ。ペッペ、美味いか?」
「はい! あっ、ナダさん、いらっしゃいませ! 調整終わったの持って来ますね」
「いいから、お前は休憩してろ。ナダ、言われた通りに色の変更と軽量化しといたぞ。預かった素材はちょっとしか余らなかったから、貰っちまうぞ」
「はい、構いませんよ。――おぉ、軽いですね! お菊ちゃんも持ってごらんよ」
ピンクと金色の配色に変わったエフェクトガンは、片手で楽々と振り回せる程に軽い。単行本一冊くらいの重さだろうか?
「誰が使うのかと思っていたが、嬢ちゃんが使うのか?」
「はい」
「それなら、ちょうどいい。細かい調整するから、手のサイズだのを測らせてくれや」
パッソさんが背を向けている隙に、カウンターに自分の武器を置き、こっそり扉へ向かう双子のお兄さん。抜き足、差し足、忍びあ――。
「待てや、そこの双子。また約束破りやがって、ふざけてんのか? あぁっ⁉」
「「ひぃぃぃっ! すんません!」」
振り返ったパッソさんの怒声に震え上がるお兄さん達。顔を見てブルブル震えているので、般若みたいになっているのだろう。
「素材は持って来たのか? えぇ?」
「「は、はい! 持って来ました!」」
「ペッペ、受け取って先に作業始めてくれや」
「はーい。――ウサギさん、モフモフしたかったな……」
呟きがまたしても聞こえてしまった。肩を落として仕方なさそうに素材を受け取る姿が切ない。
「ちょっと、ペッペちゃん? なんでそんなに嫌そうなのさ!」
「そんな事ありませんよ? トニーさんも早く出して下さい。はぁぁぁ~~~……」
「待って、待って! すぐに出すから! そんな深い溜息吐かないでよ~」
気になってソワソワしていると、パッソさんに腕を優しく叩かれる。
「あとでちょいとその耳を触らしてやってくれねぇか? あいつ、モフモフ好きなんだわ」
勿論だと頷くと、ペッペちゃんが顔を輝かせ、キビキビと動き始める。
「トニーさん、早く、早く! モフモフタイムがなくなっちゃうよ!」
「急にどうしたのさ~? わっ、そんなズボン引っ張ったら脱げちゃうよ!」
変わりようを見て、皆が笑うのを堪える。ふふふ、可愛いなぁ。
「――よし、終わったぞ。嬢ちゃんが使うなら、弾も軽量化しときゃ良かったな。定期メンテナンスまでに作っといてやるわ」
「ありがとうございます。えっと、素材っていうのが必要なんですよね?」
「気にせんでええわ。ナダがやる気満々のようだからな」
「任せて、お菊ちゃん。必要な物は全部集めるよ。軽量化されれば、俺にも恩恵があるしね」
不服だけど、今の私は買う事も集める事も出来ない。でも、絶対に後で返しますからね!
「お願いします。お手伝い出来る事があれば、どんどん言って下さい」
「うん、頼りにしているよ。双子の武器のメンテナンスが終わるまで、使い方を教えてあげる。パッソさん、ギルドに行って来ます」
「分かった。――おい、双子。お前らは罰として、ここで作業手伝えや」
「「うっそーーー⁉ お菊ちゃぁぁぁん!」」
助けを求めて手を伸ばすお兄さん達に、合掌して頭を垂れる。どうか頑張って下さい。
双子の真面目な部分でした。残念さですぐ吹き飛んじゃいますけどね(笑)。
お読み頂きありがとうございました。




