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40.良い飲みっぷり!

「うーん……やっぱり私の出来そうな依頼はないですね」

「そうだな。キヨ滝は道が険しいから、お菊には厳しいだろう」


 木の匂いに包まれながら依頼書を眺め終える。モンスターの討伐と採取がほぼを占め、飲食店でのお手伝いは時間的に無理だ。


「無理に依頼を受ける事もないさ。今日は観光だと割り切って、昼飯を食べに行こう」


「はい。――あ、そうだ。ギルドの上って行けるんですか?」

「ああ、行けるぞ。見に行くか?」

「はい!」


 階段を上ってドアを開けると、風が一気に流れ込んで来た。


「うわぁ、気持ちいい風! 解放感がありますね」


「ああ、そうだな。緊急着陸場があるだけだから、人でごった返していないのがいい」


「そうですね。ギルド内は人いきれでムンムンしてましたもんね」


 白い線で描かれた丸の中に『緊』と書かれている。年輪は問題無く見えるので数え始めてみたけれど、すぐにどこを数えているか分からなくなってしまう。うぅ~、難しいよぉ。


「さっきから足元を凝視しているが、どうしたんだ?」

「年輪を数えているんですけど、線が多過ぎて……」


「ははは、お菊は可愛らしい行動をするな。確か三万年は超えていたと思うから、数えるのは諦めた方がいいぞ?」


「そんなにですか⁉ 大人しく諦めます……」


 しょんぼりしていると、ドアの方から声がする。


「ありゃ、珍しい。ここに人が居るとは思わなかったわい」


 振り向くと、髭もじゃで120cm位の男性が瓶を持って立っている。髭があるから大人だよね?


「真っ昼間から酒か? パッソのおっさん」

「おお、マハロじゃねぇか。一緒に一杯どうだ?」


 どうやら、お知り合いのようだ。キュポンと栓が抜かれたので、匂いだけで酔いそうなお酒の匂いが漂ってくる。


「遠慮しておく。武器屋はどうしたんだ?」


「弟子が見ておるから大丈夫だわい。それよりも、そっちの嬢ちゃんは連れか?」


「ああ。新しく預モンに入ったお菊だ」

「お菊です。よろしくお願いします」

「おう、よろしくな。嬢ちゃんは酒好きか? 一緒に飲もうや」


 瓶を差し出されたけど、私はお酒に弱いんだよね。どうしよう? 断っても大丈夫かな? でも、こんなにも良い笑顔だと断りにくいよ~。


「え、えっと――」

「こら、お菊を巻き込むな。さっさと帰らないと、また弟子が泣くぞ」

「まったく、口うるさい男だわい。帰ればいいんだろう、帰れば」


 瓶に直接口を付けると、ゴクゴクと良い音をさせて飲み干してしまった。ひゃ~、良い飲みっぷり!


「ぷっはぁ~、うめぇっ! さーて、仕事するか。――あ、そうだ。ナダに調整終わったぞって伝えておいてくれ。じゃあな、お二人さん」


 片手を上げ、満足気な顔でのっしのっしと歩いて行ってしまう。あんなに飲んで、無事にお店へ帰れるのだろうか?


「心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。あいつはドワーフだから、あんなの水みたいなもんだ」


「ああ、ドワーフ! サポウサちゃんがお酒大好きな種族ですって説明してくれました」


「その様子だと、ドワーフに会うのは初めてだったんだな。ドワーフは鍛冶が得意で、ナダのエフェクトガンは、あのおっさんが作っているんだぞ」


「だから、伝言を頼まれたんですね。確か、特注品ばかりなんですよね?」


「ああ。あんな感じだが、時告げの中では一番腕が良い。ひっきりなしに注文が来るんだが、気に入った相手にしか作らない頑固者だ」


 そんな凄い人が作った武器を、私がお下がりで貰っていいのだろうか? 壊しちゃったらどうしよう……。


「お菊の事だから、壊したらとか考えているんだろう? そんなに心配しなくても、無闇に怒る奴じゃないから大丈夫だ。お菊は大事に使うだろう?」


「勿論です! 風が強くなってきたので、そろそろ下りましょうか。お昼はどこに行くんですか?」


 マハロさんは階段を下りながら、「あそこの店はクルミパンが美味い」とか、「あそこはフルーツパフェが最高だ」とお店の候補を教えてくれる。


「ふふふ、パフェにしましょうか?」

「そうだな。デザートはパフェで決まりだな。よし、行くぞ」


 甘い物が待ちきれないのか、いつもより速足だ。ふふふ、可愛いなんて言ったら顔を顰められちゃうだろうから、胸にそっとしまっておこう。私も浮き立つ心のままに足を速めるのだった。



☆= ☆= ☆=



 帰りはガルーダ便に乗り、空の島の上空までやって来た。


「お菊、空の島の中央にある建物が見えるか? あの中に『時告げの鐘』があるんだ」


 青々と茂る木々の四角い壁に囲まれて、モスクのような建物が建っている。ラピスラズリのように綺麗な青色の丸い屋根と、白壁のコントラストが目を射る。


「あの中に入れる日ってあるんですか?」


「いや、残念ながらないんだ。久遠様や国を治めている人達なら入れるんだろうがな」


「残念だなぁ。中も綺麗なんでしょうね……」


 きっと、始まりの鐘みたいに宙に浮いているんだろうなと想像してみる。ひとりでに鳴るのかな? あ~、気になる……。


「ほら、お菊。あれも綺麗だぞ」


 未練がましく見ている私の肩を、小さく笑いながらマハロさんが叩く。むぅ、子供みたいだって思ってますね? 私自身もそう思っているから反論出来ないけど……。


「――わぁ~、キラキラしてる! ガラスのピラミッドですか?」

「ああ。あれが空の島のギルドだ」


 外国の有名な美術館に、あんな感じのがあったよね。日の光が当たると、反射で凄く眩しい。


「夏は暑そうですね~」


「それが、そうでもないんだ。断熱加工と、中からは見えるのに外からは見えない加工がされている。それに、中級くらいのモンスターの攻撃までなら耐えられるぞ」


「へぇ、強度もバッチリなんですね。床も透明なんですか?」


 マハロさんも木の島で交わした会話を思い出したのか、いやいやと手を振る。


「床は黒い大理石だから安心してくれ。透明だったら、俺は入らんからな!」

「ふふふ。私も入らんからな!」


 二人で顔を見合わせて笑っていると、到着のアナウンスが流れる。


「時告げの鐘が鳴るまで散策するか?」

「はい!」


 空港で二人乗りの空飛ぶ自転車を借りて、空の島の外周をぐるっと回る。空の島周辺なら24時間以内は無料となっているので、のんびりお茶して、また散策なんて事も出来る。


 空の島は時告げの鐘を真ん中にして、大きな通りで四つに区切られている。右半分はほぼ空港関係で、左下はギルドやお店が並び、残りは天使さんの住居がほぼを占める。


 お店や住居は真っ白な壁で統一されていて、アクセントの様に窓枠や扉が青で塗られている。屋上や庭には赤やピンクの花が咲き乱れていて、とても華やかで明るい町だ。ギリシャの有名な島がモデルかな? 一回行ってみたいなぁと思っていたけど、思わぬ形で叶ってしまったような気分だ。


「素敵ですね~。プレイヤーもこの町に住めるんですか?」


「空きがあればな。NPCにも人気の町だし、引っ越す人も少ないから不可能に近いけどな。だが、ここはホテルが充実しているから、泊まり歩くのも楽しいと思うぞ」


「それもいいですね! でも、お高そうです」


 部屋にプールがあるホテルもあったもんね。ポーンと支払える未来がやって来るといいなぁ。


「全部じゃないぞ。ギルドが経営している宿は、どの国でも一泊100タムで統一されている」


「良かった~。それなら私も泊まれますね」


「ああ。それに、お菊はうちの寮に泊まるという選択肢もある。タダだから、好きなだけこの町を楽しめるぞ」


 そっか! その手があったじゃない。私って恵まれた環境に居るなぁと改めて思う。


「一通り見たし、そろそろ鐘が鳴る時間だから戻るか」

「はーい」


 漕ぐ息がバッチリ合っている私達は軽快に空港まで戻り、満ち足りた気分で遊楽へと帰るのだった。


マハロさんも観光をかなり楽しんでます。二人乗りの自転車は初めてな上に、娘のようなお菊ちゃんと一緒なので内心浮かれています。


お読み頂きありがとうございました。

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