4.どたばたキャラメイク2
暫くして笑いを収めたサポウサちゃんが、目尻の涙を拭う。AIって涙も流せちゃうんだ。新しい発見をしてしまった。
「大変失礼致しました。僕が消費してしまった時間は、きちんと延長致しますのでご安心下さい」
「うん。それはいいんだけど、笑いのポイントはどこだったの?」
ピキッと固まったサポウサちゃんが、また身を震わせ始める。あ、駄目だ。これを聞くとエンドレスに笑いの発作が起きるらしい。
「ご、ごめんね。先に進もっか」
「そ、そうさせて下さい。笑う自信しかありません」
そこまで? いつの間に笑いの神が私に降臨していたのだろうか?
「髪や目の色などを決めて行きましょう。こちらが色のリストになります」
絵の具のチューブからブニュッと飛び出す色たち。グラデーションのように、下に行くほど濃い色に変わっている。リストをスクロールさせると、青だけでも凄い数ある。
「筆とパレットもあるので、好みの色が作れますよ」
これは拘って作ったら二時間じゃ全然足りないよね。これからランダムでステータスも決めなきゃいけないし、決めていた色が合うか試してみよう。
「髪の毛は金髪で、目はアクアマリンでお願いしてもいい?」
「はい。――如何でしょうか? お人形さんのようで可愛らしいですよ」
鏡を覗き込むと外人さんみたいな自分が映っていた。うーん、でも思っていたのと違うかな。
「何かしっくりこないな。サポウサちゃん、お薦めの色はある?」
「そうですね……。お名前が和風ですから、このような感じは如何でしょうか?」
キラキラの粉が身を包み、現れた姿を一瞬で気に入る。
「うん、これいい! 凄くいいよ!」
「ふふふ、お喜び頂けて嬉しいです」
桜色の髪の毛に若葉色の目。フワフワの白い耳と合わさって優しい色合いだ。
「他の部分は変更なさいますか?」
私の容姿そのままはよろしくない。でも、自分でいじると変になりそうだから、システムに頼ろう。
「サポウサちゃん、確か美形度を上げられるんだよね?」
「はい。自動調整でよろしいですか?」
「うん、お任せでお願いします」
サポウサちゃんが何かを呟きながら杖を振る。もしかして、綺麗になれる呪文⁉
「――出来ました。もう少し細かく調整しますか?」
顔の丸みが少し消え、鼻も少し高くなっている。わぁ、嬉しいな。鼻が低めなのがコンプレックスだったんだよね。
「気に入ったよ! 鼻が高いって素晴らしい!」
「ふふふ、それは良かったです。髪の毛の長さはそのままでよろしいですか?」
「うん。慣れている長さの方が動きやすそうだから」
これから戦闘とかもあるんだろうし、長い髪の毛が敵にバッサリ切られでもしたらショックが大きすぎるもの。……ん? ターン制っていうのだから関係ないのかな? まっ、いいか。今の髪型は気に入っているしね。
「では、背の大きさもそのままでよろしいでしょうか?」
「うん。急に長い足になったら転んじゃいそうだよ。でも、憧れるよね~。あっ、足は細くして欲しいな!」
サポウサちゃんはクスクスと笑いながらパネルを操作している。女性にとって足の細さは重要なのよ!
「調整出来ました。ご確認をお願いします」
「はーい」
最終確認をして、『OK』ボタンを押す。これで私の容姿は課金しないと変更出来ないようになった。
「職業は何になさいますか?」
「テイマー!」
「おぉ、即答ですね」
「ロイヤルハニーベアーちゃんをね、絶対仲間にするの!」
目を丸くしたサポウサちゃんに、ニンマリと笑い掛けてピースする。
「成程。それが目的でここへいらっしゃったんですね。僕も応援します」
「ありがとう。頑張るからね!」
「はい、ご活躍を楽しみにしております。では、テイマーの初期装備をお渡ししますね」
真っ白なパジャマみたいだった服が自動的に変わった。紺色のサファリハット、ジーンズのショートパンツ、白いタンクトップ、黒皮のジャケット、黒のショートブーツだ。
「カッコイイね。私、こういう恰好するのは初めてだよ。それに帽子がサポウサちゃんとお揃いだね」
これも素敵だけど、してみたい恰好があるんだよね~。頑張って着られるようになろう。その時にはサポウサちゃんにも服をプレゼントして、お揃いの恰好が出来たらいいな。
「えへへ、僕もお揃いになれて嬉しいです。色はそのままでよろしいですか? 女性はスカートも選べますよ」
「このままでいいよ。とっても動きやすそう」
頷いたサポウサちゃんが、透明の球に入った鞭とナイフを取り出す。
「どちらかをお選び下さい。初期装備限定となりますが、SAP(スペシャルアビリティポイント)0でSA(スペシャルアビリティ)が取得されます」
正直どちらも使いこなせる気がしない。でも、SAがあるこの世界なら、何とかなる筈……だよね? それに、これはアクションパックじゃないから、私が直接戦う訳じゃないらしいし。
「ん~……じゃあ、鞭にする」
「承知致しました。鞭装備のSAを取得します」
いつの間にか腰に鞭が装備されている。この世界では武器を手に入れて、SAを取得して、ようやく使えるようだ。でも、これでロイヤルハニーベアーちゃんを叩くなんて出来そうにない。きっと、私みたいな人も多いから二つのパックを作ったんだろうな。
「お気に召しましたなら、いよいよステータスを決めていきましょう。まずは初回限定版の特典であるSA取得とアイテムをお選び下さい」
SAが書かれたリストがスロットみたいに回っている。速すぎて止めたい所で止めるのは出来そうにないので、運にお任せしよう。ボタンを握り込み、親指で押す。これって何かに似ていると思ったけど、ナースコールする時のボタンだ。思い出せてすっきりである。
「お菊さん、良い物が出ましたよ! テイム100です!」
「テイム100? そんなに凄い物なの?」
「はい、それはもう! テイム出来る条件下にあれば100%成功します。普通はモンスターが抵抗するので、何回も試さないといけないんですよ。それに、回数が増えれば魔力が底を尽いてしまう事もありますし、モンスターに逃げられてしまう事もあります。なのに、これはたった一回の魔力消費で確実にテイム出来る、テイマー垂涎のSAですよ。これは初回限定版でしか手に入らない超レアSAです」
そこまで説明されて、ようやく頭が理解し始める。何だか物凄く良い事が起きたようだ。
「じゃあ、これで決定だね! 因みに、通常はテイムいくつが最高なの?」
「80です。『旅人の書』というものを最後にお渡ししますが、そこのSAリストに載っていますよ。後でじっくりとご覧下さいね」
サポウサちゃんは素早くパネルをタッチし、アイテムのスロットを回す。
「どうぞ、お菊さん」
「うん。――えいっ。ん? 斧だ。テイマーは装備出来るの?」
「はい。SAさえ取得すれば何でも装備出来ますよ。炎属性の武器ですが、こちらになさいますか?」
「ううん。やり直しで」
「はい。では、スロットを回します」
これと思う武器やアイテムなどが出ないので、15回ほどやり直す。次こそは良い物が出ますように。
「ん? これは!」
「もしかして良い物⁉」
「はい! これはロイヤルハニーベアーが装備可能な物です。かなりのレアアイテムですよ!」
「ほ、本当⁉ これ! この王冠にする!」
思わずサポウサちゃんとハイタッチする。うわぁ、柔らかい毛並み。許されるなら頬擦りしたい……。
「こんなに良い物を連続で手に入れるなんて、お菊さんは凄いですね」
「えへへ、そうかな? 幸先いいよね」
「はい! この調子でどんどん決めていきましょう。攻撃力、魔力、防御力、魔法防御、スピード、命中、回避、運、MP、HPの順で決めていきます」
サポウサちゃんの口から飛び出て来る用語は、きっと普段からゲームしている人には当たり前のものだろう。でも、残念ながら私の耳には呪文のように聞こえる。ええと、一つ目が攻撃力で……二つ目は……魔……魔法だっけ?
「お菊さん、どうされましたか?」
「……サポウサちゃん、今さらで本当にごめんね。あのね、MPって何? ステータスって何かな? 用語が全然分からないの……」
縋る様な目で見つめると、ぽかーんとした顔で私を見つめ返して来るサポウサちゃん。すみません、ごめんなさい! 私みたいの初めてよね⁉ 言いづらくて、もう少し後で後でと先送りしていました……。
「ウ、ウチャ……。質問が多めだなとは思っていたけど、ここまでの初心者だったとは……。これはサポートウサギの名に懸けて教えて差し上げなくては! 燃えて来たぞーっ!」
ウチャって可愛いなんて思っていると、目の中に炎を宿したサポウサちゃんが私の手を取って握る。あぁ、また素敵なモフモフが……。
「お菊さん、僕が一からお教えします! 今は時間が限られているので簡易な説明になってしまう部分もあるかと思いますが、二人で頑張って乗り切りましょう!」
「うん! サポウサちゃん、よろしくお願いします!」
ガッチリと手を握り返し、大きく頷き合う。嫌われてしまうかもという予想は外れ、お仕事魂に火をつけてしまったようだ。その後、怒涛の説明を受けて、短い残り時間の中でスロットを回し、止めるのを繰り返す。
初期値を聞いて、プラス1になればいいやという軽い気持ちでやってみたけど、思ったよりも狙った数値が出て来ない。
焦る私が集中出来るようにと、サポウサちゃんは現在居ない。片っ端から用語の説明を頼んだのに、嫌な顔一つせずに教えてくれたサポウサちゃん。ありがとうだけじゃ気持ちが治まらないから、ゲーム内でプレゼントを探そうと思う。
気分が落ち着くようにと置いて行ってくれた紅茶のお替りを飲みながら、なんとかここまで決まった。
+++++ +++++ +++++ +++++ +++++
参考初期値
LV1
HP:100 MP:30
攻撃力:15 魔力:15
防御力:15 魔法防御:15
スピード:50 命中:100
回避:5 運:10
+++++ +++++ +++++ +++++ +++++
+++++ +++++ +++++ +++++ +++++
お菊
LV1
HP:- MP:-
攻撃力:21 魔力:20
防御力:16 魔法防御:23
スピード:57 命中:103
回避:7 運:80
+++++ +++++ +++++ +++++ +++++
HPとMP以外の最高値は255だそうだから、運は良い値が出たと言えるだろう。後はMPとHPを決めれば終わりだ。そう言えば、残り時間はどれくらいあるのだろう? 時計を見ようとした所で、サポウサちゃんが部屋に現れる。
「お菊さん、終わりましたか?」
「まだなの。後はMPとHPだよ」
それを聞いたサポウサちゃんの毛が水色に変わる。これは血の気が引いたって事かな? 中々作りが細かいと感心する。
「お、お菊さん、急いで! 残り時間3分です!」
「……へ? きゃーっ⁉ は、早く決めないと! スロット、スロットを!」
「お、落ち着いて! はい、深呼吸!」
二人でスーハーと肺の隅々にまで酸素を取り込む。落ち着け、落ち着け~、自分。
「よし! まずはMP!」
「お菊さん、その意気です!」
サポウサちゃんの応援を受けてスロットを回す。――25か。よし、もう一回!
三度目の正直で38が出た。
「38で決定! 次はHP! サポウサちゃん、あと何分?」
「あと二分あります!」
「ありがとう! 目指せ100以上!」
だけど、そういう時に限って悪い数値しか出て来ない。80や90でもいいから出て!
願いも虚しく、残り30秒を切っても「62⁉ そんなぁ~」とか叫んでいる私。あぁぁ、どうしよう⁉ これで決めちゃう? ええと、残り時間は? あと20秒……。うーん……う~……ええい、もう一回!
「えーっ⁉ 33⁉ サポウサちゃ~ん(涙)」
「お、お菊さん! あと10秒あります! まだいけます!」
わぁぁぁん、スロット早く回れ~! 見えやしないけど、目を細めて100を狙う。来い! 来い!
「「来いっ!」」
サポウサちゃんが共に叫んでくれたと同時に、ボタンをボチッと最奥まで押し、息を呑んで速度を落としていくスロットを見守る私達。
――58――99――101
「「き、来たーっ!」」
ブーーーッ!!!!
望みの数値で止まりそうな瞬間、大きなブザー音が鳴り響き、スロットが再び勢い良く回り始める。そして、機械の抑揚のない冷たい声が淡々と喋り始める。
「制限時間を超えました。これより、こちらでランダム作成を行います」
「……え? えぇ? えーーーっ⁉」
私が混乱して声を上げると、サポウサちゃんも声を張り上げる。
「ちょ、AIエイト待って下さい! 101で止まりましたよね? そうでしょう?」
「サポートウサギ、あれは完全停止をしていませんでした。よって、制限時間を超えたと判断」
「そ、そんな……」
そして、目の前で止まるスロット。それが示した数値は――。
『2』
目の前が真っ暗になった。
幸先は良かったんですけどね。焦るとろくな事が起きません。
AIエイト、超クールですね~。HP2ですが、文句でも? ペナルティがあるって言いましたよねって思ってそうです。
お読み頂きありがとうございました。