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39.ラゴウ兄弟

「――おっと、呼び出しだ。お菊さん、僕はこれで失礼しますね。また何かありましたら、遠慮せずにじゃんじゃん呼んで下さい。それではまた」


「うん、ありがとう。またね~」


 高速で飛び去るサポウサちゃんを見送り、露店を覗く。あれ? 緑の逆三角形だからプレイヤーだよね? へぇ、プレイヤーでもお店を出せるんだ~。良い事を知ってしまった。


 プレイヤーのお店はまだ僅かで品数も少ないけど、気になるのか覗いて行く人が多い。武器とか防具だから、私はいいかな。


 武器と言えば、長く使っていないくて調整が必要だから、少しだけ時間を頂戴と言われて、ナダさんからエフェクトガンをまだ受け取っていない。あとで確認してみようかな。


 スープやお肉を焼く良い匂いと戦いながら進んで行く。お金をあまり使えない私には目の毒だ。あ~、塩が振られた魚の串焼き美味しそう……。こんがりとした焼き目から無理矢理に目を逸らし、スパイスなどを扱うお店に向かう。


「あ、雲海の結晶ありました!」

「お菊、マハロ商会で買わないか? 社員割引があるぞ」


「割引! そう言えば、契約書に書いてありましたね。マハロ商会って調味料も扱っているんですか?」


「ああ、あまり知られていないがな。テイムしたモンスターの為にご飯を作るテイマーも居るから、一通り揃えてある」


 私も色々と作ってあげたいなぁ。その前にテイムしなきゃだけど……。


 お店を眺めながら吊り橋を幾つか渡ると、空港の下方に位置する円柱状の木の上に、三階建て位の高さの切り株が見えて来た。


「あれがギルドだ。大きな切り株だろう? 直径20m以上はあるんだぞ」


 樹齢は気の遠くなる歳月に違いない。上部に登れるようなら年輪を見てみたいな。きっと数える気にもなれない程に、線がびっしりと刻まれているのだろう。


 外周には丸くくり抜かれた穴が並び、ガラスが嵌められているので内部は明るそうだ。皆がギルドに向かって歩いているので、吊り橋前で人だかりが出来ている。


「しばらくは近寄れなさそうだな。先にマハロ商会へ行くか」

「はい、そうしましょう」


 マハロ商会はギルドへ行く吊り橋のすぐ近くにあるので、空いてくれば分かるだろう。


「――よっ、お疲れさん」

「あ、マハロさん! お疲れ様です」

「こんにちは」

「いらっしゃいませ」

「あれ? 君って遊楽本店に居なかった?」


 あの爽やかで人懐っこい笑みはそうだよね? ガルーダ便で来たのかな?


「いえいえ、本店に居るのは弟なんですよ」


「あっ、そうなんだ。ごめんね、あまりにも良く似ていたから。双子かな?」


「いえ、一才違いなんですよ」


 それにしてもよく似ているなぁと見つめてしまう。


「そんな可愛い顔で見つめられたら照れますって~。大袈裟だと思っていたけど、弟の言っていた通りですね」


「え? 私の事を知っているの?」

「はい。全支店と支部に伝わっていますよ」

「えぇ⁉ もしかしてプレイヤーだから悪目立ちしてる?」

「違いますよ。うちの弟が興奮して全兄弟にメールして来たんです」


 見ても問題ないと言うので、内容を見させて貰うと――。


『可愛い! ものすごーーーく可愛いウサギ獣人さんが来たよ! 美形調整機能も真っ青の女神! 見なきゃ損だよ! お耳モフモフ、お目目大きい、綺麗な肌、性格二重丸! 仲良しのケン君から毎日お話聞かせて貰う約束したんだ! とにかく凄い新人さんが来たよ! 画像添付したから見てね~』


 べた褒め過ぎじゃないだろうか? 自分の事じゃないみたいだと思いながら画像を開くと、ケン君とのツーショットだった。「友達に見せていいですか?」と聞かれて承諾したやつだ。一人、二人が見るくらいだと思っていたけど、巡り巡って全兄弟……。聞きたいけど聞きたくないような気持ちでマハロさんを見る。


「ラゴウ兄弟に支店は任せているんだ。全員似た様な顔で、――ええと、十三人だったか。預モンの人間とも仲が良いから、ラゴウ兄弟が知ったら皆が知るという感じだな。言われたくない事は口止めすれば絶対に喋らないから安心してくれ」


 マハロさんが信用している兄弟ならば大丈夫だろう。ただ、知らぬ間に有名人みたいになっているのには驚いた。


「あの、画像は俺達兄弟しか見ていないです。嫌なら今すぐ削除しますよ」


 無言で考え事をしていたから、怒っていると思われたようだ。


「嫌じゃないよ。仕事を一緒にする人には知って貰っていた方がいいもの。ただ、あんまりにも可愛いと思われていると、会った時にがっかりされちゃうだろうなと――」


「ナダさんを落とすほどの女性が何言ってるんですか! 自信持って下さい!」


「ど、どこで聞いた情報なの⁉」


「ケン君情報です。ナダさんが恋に落ちたって聞いたんですけど、違いました?」


 聞かれるままに素直に答えるケン君の姿が目に浮かぶ。ラゴウ兄弟って話を引き出すのが上手そうだもんね。ここは正直に答えるしかないよね……。


「お、お友達から始める事になりました……」

「おぉ⁉ ナダさんに春が来た! イエーイ!」


 何故か我がことのように喜んでいる。首を傾げていると、マハロさんが苦笑しながら教えてくれた。


「皆、女性不信に陥っていたナダを心配していたんだよ。まだ若いのに全部悟ったような顔されちゃ敵わんからな」


 女性不信? そんな素振りした事――、あっ! パーティーに誘われた時に別人みたいな対応してたっけ。そっかぁ、ナダさんも色々と抱えていたんだね。


「んん? でも、いつ治ったんでしょうか?」

「お菊が特別なだけであって、他の女性への対応は変わらんぞ」

「そうだったんですか⁉ だって、預モンの女性とは仲良しですよね?」

「ああ。ちゃんと信頼関係があるからな。治るまでには時間が掛かるだろうさ」


 一部の女性だけか……。もっと仲良くなれば自然と治るのかな? そうだ! スキンシップを増やせば苦手意識が早く薄れるかもしれない。ウサ耳が好きみたいだから、触らせてあげようっと。


「お菊、雲海の結晶は一袋でいいのか?」

「はい。お幾らですか?」


 考え事をしている間に、500グラム入った袋がカウンターに置かれていた。


「300タムの二割引きだから、240タムだな」

「はーい」


 お安く買えて良かった。露店で見たのは、お土産用の可愛い袋に入っている所為か、400~500タムの間くらいだったもんね。


「まいどー。マハロさん、お菊さんにカウンターに立って貰ったら、すっごいお客さんが来ると思うんですよ。時々手伝って貰っちゃ駄目ですか?」


「うーん……確かに来るだろうが、良からぬ客まで来そうだからな。お菊にはあしらえないだろう」


「あー、そうですよね。触ろうとする奴が居たら、俺がブチギレちゃいそうですしね~」


 マハロ商会や預モンの人って、優し気に見える人ほど正反対の性格なのかな? 爽やか青年のイメージがガラガラと崩れていく。


「お前達兄弟は容赦ないからな。NPCの間じゃマハロ商会には手を出すなって有名だが、時の旅人さんは知らないからな」


「でも、一人やれば掲示板でブワーッと知れ渡りそうじゃないですか?」


 今、首を掻き斬る仕草をしたよね⁉ 爽やかな笑顔を浮かべているのに、言動が怖過ぎる……。


「お菊の前で紛らわしい事をするな。ドン引きしてるだろうが。そういうのはこっそり裏でやっとけ」


 マ、マハロさんまで物騒な事を言ってませんか⁉


「了解でーす。お菊さんに見えない所でさっくりやっときまーす」

「よし、頼んだぞ」

「ま、待って下さい! 犯罪に手を染めちゃ駄目です!」


 二人が「はい?」という感じで私を見る。あれ? 私が変なの?


「お菊、勘違いしてないか? 店にマナーの悪い時の旅人さんが来たら、GMコールする決まりなんだ。実際に何かする訳じゃないぞ。……たまに制裁するがな」


 最後にボソッと何か言わなかった? 気のせいかな?


「あ、あの、すみません。完全に勘違いしてました。えっと、それでですね、『GMコール』って何ですか?」


「あー、これも知らないか。GMってのはゲームマスターの略で、嫌がらせされたり困った事があると対処してくれる組織だ。コールするとすぐに担当者が駆け付けてくれるぞ。いざという時の為に、ちゃんと覚えておくんだぞ」


「はい! 困ったらGMコールですね!」


 警察みたいな感じかな? これだけ人が集まれば、そういう組織も必要だよね。


 設定の時に、『悪意を示す脳内物質が弊社の基準値を上回った場合、強制ログアウトとなり、再ログインは出来ません。新たにソフトをお買い上げ頂いてもログインは出来ませんので、ご了承下さい』っていうのに同意しないと、このゲームは始められないようになっている。何とかやろうとしても、同一人物だと見破られてしまうので、一生遊べなくなると健二君が説明してくれた。


 時告げは戦闘に重きを置くゲームではなく、あらゆる年代の人が、その人らしく楽しみながら過ごす事を目的としているので、PKは出来ないようになっている。説明を聞いた時には驚いたなぁ。プレイヤーがプレイヤーを襲うだなんて恐ろし過ぎる。私がそんな事をされたら、怖がって二度とゲームはしないだろう。


 私が押されてリボーンした件については、不慮の事故扱いになるらしい。PKは出来ない筈なのにと、あのプレイヤーの人達はさぞかし驚いた事だろう。でも、嫌がるナダさんを無理矢理連れて行こうとしたので、少ししか同情してあげないのだ。


「あ~あ~、可愛い売り子さんはゲットならずか。――あ、吊り橋が空いて来ましたよ」


「流れ出したか。お菊、ここでの買い物はもういいか?」

「はい。ギルドへ行きましょう」

「ああ。女手が欲しいなら、ラゴウ夫人を連れて来てやるぞ」


「うへぇ、うちの母さんならノーサンキューです。お疲れ様でした! 出口はこちらです!」


 ニヤリと笑うマハロさんを早く帰したいのか、慌てて扉を開けている。ふふふ、きっと肝っ玉母さんで頭が上がらないんだろうな。


「手が欲しいならいつでも言えよ。はははっ」

「くそ~、マハロさんの意地悪! お菊さん、また遊びに来てね~」

「はーい。またね」


 去り際に頭を撫でてあげたら、上機嫌でお店の中へ戻って行く。ふふふ、可愛らしい。


「お菊、あんまり甘やかすな。あいつらは見た目と違って強かだぞ」


 やはり、マハロさんの下で働いている人達は、見た目と中身がかけ離れているようだ。でも、マハロさんが信頼している子達なのだから、私を困らせるような事をするとは思えない。


「強かでいいじゃないですか。そういうのもマハロ商会には必要なんですよ、きっと。私はマハロさんが信頼する人達を大事にしたいだけです」


「……天使か、この子は……」


 天使かそうじゃないか分かり難い人が居たのかな? キョロキョロしていると、繋いでいた手がツンと引っ張られて、マハロさんの胸に抱き込まれて背中をポンポンと叩かれる。


「ありがとうな。お菊に恥ずかしくないように生きるからな」


 何のありがとう? と思っている間に、短い抱擁が終わる。


「マハロさん?」

「分からなくていいさ。行くぞ、お菊」


 首を傾げながらも付いて行く。よく分からないけど、幸せそうな横顔だからいっか。


ラゴウ兄弟は全ての町に居るので、情報通です。一癖も二癖もある従業員達を束ねるマハロさんが、実は一番怖いのかも?


お読み頂きありがとうございました。

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[一言] マハロさん基準はクリアしても、本人基準はオーバーするんじゃ無いかな
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