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38.高所恐怖症対策

「お菊、見えて来たぞ。あれが木の島だ」


 交互に左右へずれて縦に並ぶ三つの円柱状の茶色と、それを囲うように散りばめられた大小のアーモンド型の緑。段々と近付いて来た光景に目を見開く。


「葉っぱの上に家が何軒も建ってますよ⁉ それに、あの円柱って木じゃないですか⁉」


「ああ、そうだ。丸太を玉切りにしたみたいだろう? 上部には空港とギルド、もう一つは中が丸々ホテルになってるぞ。ギルドの木の隣にある葉っぱに、マハロ商会の支店があるから寄って行くぞ」


「はーい……」


 マハロさんには慣れ親しんだ景色なのだろうけど、私は驚きでいっぱいだ。大人数人が手を繋いで囲える木の太さじゃない。まさに木の『島』だ。ここが名前通りという事は他の島も? う~ん、でも火の海の島とかは嫌だな。


 空港から青く光る点線が二本伸びて来ると、ガルーダスターはその間へと軌道を変えて降下していく。良かった~、下りる時はゆっくりだ。


 木の島の空港は巨大なウッドデッキという感じだ。管制塔はフクロウを何羽も積んだトーテムポールで、その他の建物はログハウス。滑走路はボウリングのレーンのように磨き抜かれた色なので、ガルーダがツルッと足を滑らせないか心配になってしまう。


 時々、ボッ、ボッと音をさせながらガルーダスターが滑走路に降り立つ。離陸時はどうしようかと思ったけど、無事に着いたよ~。


 マハロさんの言う通り、ガルーダはガッシリと機体を掴み続けてくれた。大変なお仕事をしてくれているのに、疑ってごめんねと心の中でガルーダに謝る。今度から安心してお任せします。


 機体に梯子が掛けられ、笑顔のお兄さんが迎えてくれる。


「木の島へようこそ。ヘルメットなどを外しますので、少々お待ち下さいね」


 お礼を言って慎重に梯子を下り、ガルーダスターを見上げる。


「お疲れ様。運んでくれてありがとうね」

「クエッ」


 首をちょこんと下げてくれたので、こちらもお辞儀する。この後、新たなお客さんを乗せて空の島へ戻るそうだ。空の島以外は基本折り返しなので、空港は小さめに出来ているらしい。


「お菊、行くぞー」

「はーい」


 少し先に居るマハロさんを追い掛ける。ガルーダスター、またね~。


「マハロさん、さっきの『ボッ』って何の音ですか?」

「風を噴射する音だな。衝撃を抑えているんだ」


「道理で着陸時に揺れが少ない訳ですね。それに、飛んでいる時も揺れがほとんどなかったです」


「ああ。そういう飛び方が出来る上に離さない習性があるから、ガルーダ以上に空便に向く鳥は居ないな。――そうだ、言い忘れていたが、ほとんどのガルーダはナダが捕まえて、トッドが調教したんだぞ」


「あんな大きな鳥を⁉ お二人共、凄過ぎませんか?」


「あの二人の実力なら当然だな。ほら、そんな気負った顔するな。お菊は出来る事を一つずつやっていこうな」


 頭をポンポンとされて力が抜ける。そうだよね、長くこの仕事につく人の背中は遥か先にあるのだ。私は毎日の積み重ねを大事にしていこう。


 空港の端にある吊り橋を渡り、横に浮かぶツヤツヤとした緑の葉っぱへと向かう。ガルーダ三羽位なら余裕で羽根を広げられそうな土地には、空港を利用するお客さん目当てなのか、軽食やお土産を扱う露店が所狭しと建っているのが見える。


 思っていたよりも揺れない吊り橋の隙間から見える雲海は、かなり下にあるようだ。結構な高さに圧倒されてしまったのか、前を行く女性プレイヤーさんは涙目でパーティーの人に手を引かれている。浮雲は高所恐怖症の人には辛い場所だよね。


「葉っぱに到着~。あ、思っていたよりも柔らかい踏み心地ですね」


「地面に落ち葉が沢山積もったみたいだよな。それよりも、お菊は普通に吊り橋を渡れたな。高い所は平気なのか?」


「はい、大丈夫ですよ。でも、透明な床とかは流石に怖いです」


 東京の電波塔にある透明な床は怖くて乗れなかった。健二君が笑いながら「大丈夫だって」と、そこに立ちながら手を差し出してくれたけど、無理無理とひたすらに拒否した覚えがある。


「俺も透明な床は嫌だな。それに、葉っぱの縁も遠慮したい」

「縁ですか? 柵は――無いですね。もしかして、滑ったら真っ逆さまですか⁉」


「いや、透明な壁があるから落ちはしないんだが、自分から近付こうとは思わないな」


「ですよね~」


 先程の女性プレイヤーさんは完全に腰が抜けたようで、パーティーの男性におんぶされている。


「設定でどうにかならないんでしょうか?」


「恐怖心を消す事は出来ないが、サポートウサギに頼めば、見えている景色を変える事は出来るぞ。ここだと高低差がなくなって、雲海が地面に見えるように出来る」


「そうなんですね! マハロさん、ありがとうございます。サポウサちゃーん」

「――はーい、お菊さん。どうされましたか?」

「あのね、あそこに居る女性を助けてあげて欲しいの。高い所が苦手みたい」


 長いお耳を貸して貰って、こしょこしょと伝える。直接教える方がいいのだろうけど、私は女性に嫌われやすいから、余計なお世話って言われるかもしれないもんね……。


「うーん、直接あの女性に呼ばれないと手助け出来ないんですよね。NPCに手伝って貰いましょうかね」


 腕組みを解いたサポウサちゃんが、近くに居る天使さんに話し掛けている。


「――分かりました。そちらの方、大丈夫ですか? お辛いようでしたら、サポートウサギを呼ぶといいですよ。見えている景色を刺激が少ないものに変えてくれます」


「本当ですか⁉ ありがとうございます!」


 女性はさっと空中に手を伸ばして慣れた手付きで操作している。いいな~、私もああやって出来ればなぁ。素早い動きは中々身に付かない。


「はい、お呼びですか?」

「あの、景色を変えてくれるって聞いたんですけど!」

「はい、少々お待ち下さいね。――完了です。いかがでしょうか?」

「あっ、凄い! 島や葉の周りが全部土になってるわ! ありがとう~」


 良かった、効果があったようだ。ニコニコと見守っていると、急にわしゃわしゃと頭を撫でられる。


「わっ! マハロさん、どうしたんですか⁉」

「お菊は優しくて良い子だな。俺の自慢だ」


 優しい目で見つめられて泣きそうになる。なんで、そうやっていつも欲しい言葉をくれるの?


「……私、何も出来ていませんよ。凄いのはサポウサちゃんですから」


「だが、お菊が俺に聞いたりした行動の結果だろう。そうでなければ、彼女は今も震えていた筈だ。怖がりながらも人の為に動けるお菊は凄いんだ。もっと自分を誇れ。な?」


 何で私から女性に教えてあげなかったのかも分かってしまっているんだ。直接言えよと言わずに見守ってくれる姿勢がありがたい。


「お菊さん、終わりましたよ」

「ありがとう。サポウサちゃんはとっても頼りになるね」


「えへへ、照れますね~。そうだ、お菊さんがして欲しい事はないんですか? 僕、張り切っちゃいますよ!」


「ふふふ、会えただけで嬉しいよ。今日も可愛いね」

「くっ、何て尊いんだ! 四六時中お菊さんだけをサポートしてあげたい!」


 照れたのか後ろを向いてしまった。よく聞こえないけど、独り言かな? シッポの毛が跳ねているから直してあげよう。


「――ウチャーッ⁉ お、おおおお菊さん⁉ なっ、ななな何をなさいますか⁉」

「え、あ、ごめんね? シッポの毛が跳ねていたから、つい……」


 こんなに動揺するとは思わなかった。申し訳なくて耳がしゅんと垂れる。


「あーっ、耳がー⁉ 大丈夫、怒ってないです! シッポを触られたのは初めてだったもので、ビックリしてしまっただけです――って、マハロさん! 笑い過ぎですよ!」


「ぶふっ、す、すまん……ぶくくくっ、お前は乙女か! はははっ!」


「きーーーっ! この感覚はシッポのある種族にしか分かりませんよーだ! ねっ、お菊さん!」


「う、う~ん? 私は触られた事がないから分からないけど、お尻を触られちゃったみたいな感じなのかな? ――あっ、ていう事はセクハラ⁉ ごめんなさい!」


 深々と頭を下げると、サポウサちゃんが慌てたように肩をタシタシと叩いて来る。


「セクハラじゃありませんとも! お菊さんならシッポでも耳でもお腹でも、いつでも触って下さい! さぁ、遠慮はいりませんよ!」


 腰に手を当てて仁王立ちする姿に思わず笑ってしまう。ふふふ、本当に可愛いんだから。


「嬉しいな。初めて会った時から素敵な毛並みだなぁって思ってたんだよ。――よいしょっと」


 抱き上げて頬擦りさせて貰う。はぁ、願いが叶っちゃった。柔らかくてフワフワ……。いつまでもこうしていたいなぁ。


「ウ、ウチャ……ここは天国ウチャか? なんて幸せ――って、痛てててっ⁉ マハロさん、頬をつねらないで下さい! 分かりましたよ、現実だと認めます! 痛っ、こら、離せーーーっ!」


 マハロさんにいいように揶揄われてしまっている。NPCとサポウサちゃんって、こんなに近しい関係なのね。


「サポウサちゃん、暴れると落としちゃうよ? マハロさん、やり過ぎは駄目です」


「そーだ、そーだ! 悪い大人めー!」

「ほぉ、良い態度だな。簀巻きにして吊り橋からぶら下げてやろうか?」

「ひぃっ⁉ お菊さん、あそこに悪魔が!」

「もうっ、二人共仲良くしないとお菓子を作ってあげませんよ!」


「「お菓子⁉」」


 え? そんなに食い付く所?


「仲良くします! だから、お菓子を下さい!」

「頼む、お菊!」


 二人に拝まれてしまった。初めて会った時もケーキを嬉しそうに食べていたから、甘党なのだろうか?


「言っておいてなんですが、私みたいな素人より、お店の方が美味しいと思いますよ?」


「店には店の良さがあるが、俺達はお菊だから貰いたいんだよ」

「私だから? 何か良い事でも起きるんですか?」


「それ目当てじゃないんだが、起きるぞ。NPCが好意を抱く時の旅人さんに手作りの食べ物を貰うと、四時間ステータスが上昇するんだ。俺とサポートウサギは甘い物に目がないだけだがな」


「そうなんです。それだけじゃなく、口に福と書いて口福度というものがNPCには設定されています。これが上がると、新しいレシピや食材などが解放されたり、お教えする事もあります」


「へぇ、良い事がいっぱいだね。でも、それって私にとってはじゃない?」


「俺には良い事だぞ。娘から手作りの菓子を貰えるだなんて夢のようじゃないか」


「僕だってそうですよ。大好きなお菊さんから貰えるだなんて、とーっても嬉しいです!」


 照れて自身の耳を手で折り曲げて顔を隠す。本心を隠さずに言って貰えて嬉しいけれど、今は恥ずかしさが上回る。


「うぅ、本当に大したものは作れませんよ?」

「構わんさ。絶対に美味いと俺の勘が言っている」

「僕もです。楽しみだな~」


 余計にハードルが上がった気がする……。でも、喜んで貰えるように気持ちを込めて作ろう。


高所恐怖症じゃなくても、木の島は足が竦みそうな気がしますね。

サポウサちゃん、乙女疑惑です。でも、男の子です。男の子。大事なことなので、二回言ってくれとサポウサちゃんに頼まれました(笑)。


お読み頂きありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] ナダ、これぐらいの近付き方が出来るとちゃんと側に居られるのに まぁ、恋愛ありきのAIじゃ、思考がそっちにしか行かないよね でも、感情が暴走してセクハラした場合、AIは、どう処理するつ…
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