36.ガルーダスター1号機、発進!!
「久遠様って鐘が鳴る度に現れる訳じゃないんですね」
「ああ。姿を見る事の方が珍しいな」
着いた場所は巨大なウィンド・ベルの前。『風奏のベル』と呼ばれていて、浮雲でリボーンする時は此処へ戻って来るそうだ。
右から左へと長くなっていき、一番長い所では3m位ある。横一列に丸太からぶら下がるそれは、始まりの鐘と同じように支えもなく空中に浮いていた。直径15cm位の金属の棒なので、本当に風で奏でる事が出来るのかは疑問が残る。
「お菊はLV1だから、町がある島と、『キヨ滝』というエリアに行ける。どこへ行きたい?」
「ええと、五つの島があるくらいしか知らないので、マハロさんにお任せしていいですか?」
「ああ、分かった。じゃあ、俺の好きな『木の島』へ行くか?」
「はい! どうやって行くんですか?」
「方法は色々とあるんだが、今日はガルーダ便で行く。これだけは唯一ギルドが運営しているから、一番安くて時間も正確だぞ」
ガルーダっていう乗り物で行くんだ。飛行機や電車みたいな金属製の乗り物かな?
マハロさんの案内に従って、風奏のベルのすぐ近くに掛かる橋を渡り、発着所へと向かう。
あの背の高い建物って灯台? ううん、管制塔っぽいかな? 中へ進んで行くと幾本もの滑走路が目に映り、管制塔で大当たりだと心の中で拍手する。
マハロさんに聞いてみると、思っていたよりも大規模な施設で、道を挟んだ空港上の土地も厩舎や整備工場などがあるそうだ。島の半分を空港関連が占めているので、空の島に住む天使さんのほぼが此処で働いているらしい。
浮雲最大の空港である此処には、ガルーダ便だけでなく、国が運営している高級路線の『帆船便』、民間が運営している空飛ぶモンスターを集めた『天翔便』、スノーボードのようなクラウドボード、空飛ぶ自転車などにも乗れる。それと、個人所有しているモンスターに乗る場合も、ここから飛ぶ必要があるそうだ。
私があまりにもキョロキョロするので、「転ぶぞ」とマハロさんが声を掛けてくれる。ふふふ、チャーンス。手を繋いじゃえ~。
「――お菊。ほら、あれがガルーダだ」
「ひゃっ⁉」
指さされた方を見て、悲鳴が口から飛び出す。
「あ、あれが、ガルーダですか⁉」
「そうだぞ。鳥は苦手か?」
「あんな大きいのが鳥⁉ 飛行機と変わらないじゃないですか!」
「そうだな、30mはあるか。あの鳥が俺達を乗せた金属の箱を足に掴んで飛んでくれるぞ」
「足に掴んで⁉ 『あ~、足痒いわ~。嘴で突っついたろか? あっ、まずっ⁉』って落としたらどうするんですか!」
周りの人が「ぶふぅっ⁉」と口元を押さえながら、一斉に私から視線を逸らす。あれ? 怖がっているのって私だけ?
「ぶはっ⁉ ははっ、あはははっ!」
むぅ、マハロさんまで爆笑するなんて酷い。十分に有り得そうなシチュエーションだと思うんだけどな~。
「あ~、お菊と居ると退屈しないな。あのな、いいか? ガルーダの習性で一度足に掴んだものは、目的地に着くまで死んでも離さないっていうのがあるんだよ。だから、足が痒かろうが何だろうが絶対に大丈夫だ」
「本当に? 例外なく?」
「ああ、本当だとも。ガルーダ便で今まで事故があった事なんて無いぞ」
鳥さんの精神力は何にも負けないのね。私だったら簡単に音を上げていると思います。
色は茶色だけど、首の付け根に白い羽毛が帯状にあるので、コンドルっぽい見た目だ。頭部には炎のような装飾を施された、嘴までを覆う銀色のヘルメットを被っている。
三羽が滑走路に居て、右足に数字が書かれた布を巻いて待機している。私はどの子に運んで貰う事になるのかな?
「チケットを買いに行くぞ」
「はーい」
チケット売り場は入口すぐの所にあり、ガルーダ便乗り場にも近い。
「これは随分と混んでいるな」
「本当ですね。来られるようになったばかりだから、人が殺到しているんでしょうね」
チケット売り場は長蛇の列だ。これは買うまで時間が掛かりそうだ。
「そうだな。座っていろと言いたい所だが、チケットの裏に名前を書く必要があるんだ。……んんっ、ごほん。という事で腕を貸して貰おうか」
恥ずかしそうに出された腕に腕を絡ませる。ふふふ、お気遣いありがとうございます。にっこり笑って見せると、慌てたように前を向く。
「よ、よし、行くか! 転ぶなよ」
動揺していても、きちんと私の歩幅に合わせて歩いてくれるマハロさん。私、大事にして貰っているなぁと、しみじみ思った。
並ぶ事、15分。やったー! 順番が来たよ~。
「おっ、ガルーダスターに空きがあるな」
「はい。こちらになさいますか?」
「そうだな……。お菊、ちょっと高くなるがこれにしないか? 二人乗りで安全バーが付いているんだ。人目を気にせずにはしゃげるぞ」
それは魅力的だ。ええと、お幾らかな? 通常のガルーダ便だと、木の島までのチケットは片道200タムで30分程で着くそうだ。一方、ガルーダスターだと片道400タムで20分。お値段倍で早く着くのね。ちょっとお高いかなと思うけど、人数が少ないと割高になるものだよね。
「並んでいた時間も取り戻せますし、安全第一ですよね! これにしましょう」
「そうだな、安全バーは重要だ。すまんが、ガルーダスターのチケットを二枚頼む」
何だかマハロさんが楽しそうな顔をしている。空を飛ぶのが好きなのかな?
「畏まりました。――お待たせ致しました。800タムになります。あちらの机で裏面にお名前のご記入をお願い致します」
「ああ、ありがとう。ほら、お菊の分」
「ありがとうございます。あの、何で名前を書くんですか? 表に『お菊』って名前が印刷されていますよ?」
「武器や魔法などを使用出来ないようにする為の魔術が発動する。閉ざされた空間で悪さをされたら、堪ったもんじゃないだろう?」
ハイジャック防止の為だったのか。だけど、疑問が残る。
「偽名で書かれたらどうなるんですか?」
「そもそも出来ない仕様になっている。やろうとしただけで、警備員に取り押さえられるな」
「間違って書いちゃった場合もですか?」
「人が悪さをしようって時には、体に色々な変化が起きるもんだ。それを感じ取れる天使が、こんなに沢山居るんだぞ。親切に新たなチケットを発行してくれるだけさ」
それなら安心だ。凝った名前にしないで良かった。
マハロさんは沢山居るって言ったけど、私はまだ一人も見ていない。う~ん、背中に白い羽根を持つ天使さん、出て来て下さいな~。
「お菊、さっきから何を探しているんだ? 落とし物でもしたか?」
「いいえ。天使さんを探しているんです」
「天使? さっきの受付の女性も天使だし、今、目の前を通った男性も天使だぞ」
「え? でも、白い羽根が背中から生えていませんよ?」
「ああ、そうか。すまん、教えるのを忘れていたな。天使の羽根は聖なる力が具現化したもので、本当に羽根が背中から生えている訳じゃない。戦闘の時なんかは出しているが、普段は人間と大して外見は変わらん」
「そうなんですか……。見分ける方法はあるんですか?」
モフモフの羽根を期待していただけに、ちょっとショックだけど、聖なる力で出来た羽根はとてつもなく綺麗なんだろうなぁ。見る機会があるように祈っておこう。
「金髪で日に当たった事がなさそうな白い肌。そして、最も特徴的なのは目だ」
「目?」
「ああ。虹彩が七色なんだ」
好奇心にかられて近くの人の目を覗き込みそうになる。いけない、いけない。失礼な事をしないように気を付けないと。
「ちょっとすまない。連れは天使に会うのが初めてなんだ。少しだけ目を見せて貰ってもいいか?」
「うん、構わないよ。ふふふ、どうぞ。ウサギのお嬢さん」
マハロさんが近くを通り掛かった麗しい男性に声を掛けてくれた。この世界は美形だらけだけど、群を抜いている。きっと、神様が全てのパーツを極限まで磨き上げて配置したに違いない。その割に誰も見惚れていないのが不思議だ。皆さん、美形に慣れちゃったのかしら?
服は白で統一され、長身からは高貴さが溢れていて、とっても天使らしい感じがする人だ。戸惑いもあるけれど嬉しくて、マハロさんの手を握ってブンブンと振ってから、天使さんの目を見させて貰う。見やすいようにと屈んでくれるなんて良い人だ。
「わぁ、不思議な色! 宇宙から見た夜の地球みたいですね!」
ニュースで見たのだ。真っ暗な宇宙までを照らす都市の明かりや、地球の丸みに走るオーロラを。あれは綺麗だったなぁ。
「え?」
間近で驚きに目が見開かれるのを見てしまった。全然聞いた事がないことを捲くし立てられれば、そうなるよね。
「あ、あの、訳が分からない事を言ってごめんなさい……」
「違うよ、君の言っている事はちゃんと分かる。ただ、そんな綺麗なものに例えられるなん思わなかったから。ふふふ、こんなにも嬉しい褒め言葉は初めてだよ。どうもありがとう、ウサギのお嬢さん。君の瞳も新緑が閉じ込められたかのように綺麗な若葉色で、僕も楽しませて貰ったよ」
「へぁっ⁉ あ、ありがとうございますです、はい」
言われて初めて気付いた。見るという事は見られる事でもあるということに。あ~、こんな綺麗な目に私が映っていたなんて恥ずかしいよぉ。でも、この色を選んでくれたサポウサちゃんまで褒められているようで嬉しい。
「引き止めて悪かった。願いを聞いてくれて感謝する」
「どういたしまして。心躍る言葉に出会えた有意義な時間だったよ。また会うのを楽しみにしているよ、ウサギのお嬢さん」
「はい! あの、私はお菊って言います。お時間、ありがとうございました」
「お菊、か。また出会う事が出来たら僕の名前を教えるよ。楽しみに待っていてくれると嬉しいな。マハロ、またね」
「ああ。今度じっくり話そう」
「そうだね。良い旅を」
そう言い残して去った男性を見送った私は、マハロさんを肘で小突く。
「もうっ、知り合いならそうだと言って下さいよ。見知らぬ人に急に頼むからビックリしましたよ。でも、ありがとうございました。とっても綺麗でしたよ」
「喜んで貰えて何よりだ。お忍びで出歩いているようだから、名前を呼ぶ訳にもいかなくてな。結構古い付き合いなんだが、ここに居るのは初めて見た」
「天使さんは自分の羽根で移動出来ちゃうからですか?」
「出来るんだが、魔力を消費するからな。乗り物で移動するのが一般的だ。あいつがここに居たのは、きっと時の旅人さんがいっぱい集まっているから、興味が湧いたんだろうさ」
ふふふ、お互いに気になっていたのね。きっと、そんな私達なら再会もすぐに出来るだろう。名前を聞くのが楽しみだ。
機体へ乗り込むには、ガルーダ便乗り場の待合室から、下りのエスカレーターに乗って地下一階へ。そこからは動く歩道に乗って、建物前に広がる滑走路の下を進む。『ガルーダスターへは、こちら』という掲示板の指示に従って、上りのエスカレーターに乗れば、カプセルの先っちょが尖った形の機体とご対面だ。機体の上にバーがあるから、ガルーダはあれを掴むのだろう。
物珍しいのでまたキョロキョロしていると、ここの滑走路が他の所とちょっと違う事に気付く。マハロさんに「あれは――」と聞こうとした所で声を掛けられる。また後で聞けばいいか。
「ようこそ、お菊様、マハロ様。こちらの梯子を上って頂き、席へとお座りになって下さい。ベルトの装着などは、私がお手伝いさせて頂きます」
「頼むな。お菊は前に乗るといい。景色が見たいだろう?」
「はい! ありがとうございます」
ウキウキと乗り込むと、ツナギを来てインカムの付いたヘルメットを被ったお兄さんが、安全バーを下したり、ヘルメットを被せてくれたりと、何から何まで面倒を見てくれた。
「管制室へ。ガルーダスター1号機、お客様の準備が完了しました」
インカムでやり取りを終えると、「良い旅を」とカプセルの蓋が閉じられる。
「ガルーダスター1号機、ドッキング開始」
お兄さんにお礼を言いながら手を振っていると、機内に管制塔からの指示が流れる。窓に張り付いて様子を見ていると、滑走路の端から銀色の体と赤い目を持つ鳥がこちらに羽ばたいて来る。
「あの子がガルーダスターですか? 形はガルーダの子供みたいな感じですけど、色が全然違いますね」
「ああ。全身が金属で出来たモンスターだからな。お菊達の世界にある戦闘機くらいの大きさだぞ」
話している間にフワリと機体の上に降り立ち、僅かに機体が揺れる。ドシンっていうのを想像していたけど、繊細な動きが出来るようだ。
「――クエッ!」
「了解。離陸準備開始」
管制室の人には言葉が理解出来るのだろうか? なんて思っている間に、キーーーンという音が微かに響き始める。カプセルの蓋に外の映像が様々な角度で映っているので、何の音かなと目を向ける。
「あっ、尾羽と両方の羽根の先端が白く輝いていますよ!」
振り向いても見えないので、モニターの中の顔へと話し掛ける。あちらも同じようにモニターで顔を見られると、先程のお兄さんに教えて貰った。
「ああ。離陸せにゃならんからな」
羽ばたく為に力を溜めているのかな? でも、それだけじゃないような気がするのは何故だろう?
それを裏付けるかのように音は大きくなっていき――。
「マハロさーーーん! 凄い音になってませんかー⁉」
音に負けないように、インカムに向けて大声で話し掛けると、マハロさんも大声で返してくれる。
「あれはなー! 空気を圧縮しているんだー!」
ニヤリと悪い顔で笑うマハロさん。胸の中でムクムクと嫌な予感が膨れ上がっていく。……嘘、だよね? こんな予想は間違っている筈だよね⁉ 誰かそうだと言って~~~!
「――クエッ!」
「了解、離陸準備完了」
「え⁉ ちょ、ちょっと待――」
「お菊様、マハロ様、良き旅を。ガルーダスター1号機、発進!!」
「クエーーーッ!!!」
プレイヤーもNPCも美形だらけだと感覚が狂いそうですね。
ガルーダちゃん飛びます! お菊ちゃん、気を確かに!(笑)
お読み頂きありがとうございました。




