34.称号が続々
時告げの鐘は現実時間で1時間毎に3分間鳴り、その間だけ、浮雲、波浪、森羅の間を行き来できる。どうやら、時告げの鐘でしか三国間は移動出来ないようだ。
鐘が鳴ると選択肢が出て、今居る国に留まるか、別の国に行くかを選べる。よく考えて移動しないと、素材を採取して納品しようにも帰れないなど、困った事態になりかねない。信用問題にも関わるので、『移動は計画的にするんだぞ』とマハロさんに念を押された。
昨日の帰り道で教えて貰った事を反芻しながらログインすると、お知らせ音が次々と鳴り響く。
「わっ、何々⁉」
確認すると、新たな称号を得たようだ。えっと、押せば詳しい内容を見られたんだっけ? ポチッと。
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『囁きルーザー』
獲得条件:
稀有な状態異常『ショート』になったプレイヤーに贈られる。
効果・プレゼント:
1500タム
◇愛の囁きに負けちゃったのかしら? 『状態異常無効』をあげるから、今度は最後までしっかりと聞くのよ。いいわね? 絶対よ⁉ 健闘を祈る!
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これ、ショートしていたから気付かなかったんだ。無効ってことは、即死攻撃のマンドラゴラの悲鳴も効かないって事でしょう? 凄いじゃない!
でも、愛ではなくとも囁きに負けて貰ったというのが、ちょっと悔しいかな。私ばかりあたふたして、ナダさんは余裕なんだもん。モテるイケメンはずるいよね~。
そうだ! もうショートになりませんよってナダさんに自慢しよう。囁きに負けてばかりのお菊ではなくなったのだ。ちょっとは悔しがるかな? なんてね。
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『平和主義者』
獲得条件:
ゲーム内時間で一週間、モンスターを攻撃しなかったプレイヤーに贈られる。
効果・プレゼント:
3000タム。(※テイマーに限り、タムではなく『モンスター初期友好度上昇』をプレゼント。SA『手懐ける』使用時と、テイム時の初期値が20から始まる)
◇戦うだけが全てじゃないよね! ショッピングや散策も楽しんでね! 一見さんお断りの店へ入れるようにしちゃうよ☆
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そうか、もう一週間経つんだ。家事をこなしている時間もあるから、全ての日に居る訳じゃないもんね。
モンスターがいつも側に居るけど、お世話する為だから真逆を行っている気がする。でも、書いてあるように戦うだけが全てじゃない筈だ。称号を貰えたという事は、今の私を肯定してくれているのだろうし、自分なりに進んで行こうと気持ちを新たにする。
確認し終えてA厩舎の前に行くと、ナダさんが先に来ていた。
「ナダさん、おはようございます」
「おはよう、お菊ちゃん」
そうだ! 早速、自慢しちゃおうっと。
「ナダさん、聞いて下さい! 私、称号のお蔭で状態異常無効になったから、もうショートしないんですよ。ふふふ、凄いでしょ~。囁きにも負けませんからね!」
「それ本当⁉ 神は俺を見捨てなかった! お菊ちゃん、俺――」
熱のこもった目で私を見て距離を詰めて来る。わわわっ、早速、試す気ですか⁉ ま、負けませんよ!
「はい、そこまで」
足早にやって来たマハロさんが、ナダさんの手首に細いシルバーの腕輪を三本付ける。
「俺! 君の事が……ん? 何したんですか?」
「リミッターを元に戻す事は出来ないから、代わりの役割をする腕輪を急遽作った。腕輪1個がリミッター1レベルに相当するからな。3レベル封じたから普通に話せるだろう?」
「……はい」
「何でそんなに残念そうなんだ? ナダが困ったって相談して来たんだろうが」
「そうなんですけど、そうなんですけどね! はぁぁ~……」
何やら落ち込んでいるようだ。溜息が非常に深い。
「あの、体の具合が悪いんですか? ちょっと失礼しますね」
おでこに手を当てるが、熱はないようだ。おっとっと、背伸びしたからバランスが――。
「わっ、ごめんなさい! 体重掛けちゃった。すぐ離れ――」
力強い腕に抱き締められて、最後まで言えずに終わる。そして、聞こえてくるパキーンという澄んだ音。
「うわっ、マジか⁉ 腕輪が全部壊れたじゃねぇか! ナダ、離れろ!」
「嫌です。もう離したくない」
「ナダさん? しがみ付かなくちゃ立てない程に具合が悪いんですか?」
「うん。お菊ちゃんなしじゃ生きられないんだ」
「えっ⁉ 輸血が必要とか? それとも――」
胸にギュウッと抱き込まれて顔を上げられない。うわ~ん、せめて状態を確認させて~。
「「は・な・れ・ろ!」」
トッドさんとマハロさんの二人掛かりで引き剥がしてくれる。あ~、息苦しさからの解放感。すーはー、すーはー……。
「もう一組用意しといて良かったぜ。それ、さっきのよりも強力だからな。絶対に外すなよ」
「はい」
さっきより幾分か力強い返事だ。あの腕輪には病状を軽減させる効果があるのかな?
「お菊の優しい気持ちは嬉しいが、あんまりナダに近付くな。症状が悪化する」
「ええっ⁉ ナダさんは一体何の病気なんですか⁉」
「一人では治せない病気なんだ。お菊ちゃん、力を貸してくれる?」
「は――」
はい、勿論! と言おうとしたら、マハロさんが慌てたように私の口を手で覆う。
「ちっ」
あれ? 今何か聞こえた気が。まっ、いいか。それよりも、この状況の方が疑問だ。
「ふぁふぁふぉふぁん? (マハロさん?)」
「わっ⁉ こら、喋るな。くすぐったいだろう」
「む~」
そんな私達の様子を睨むようにして見ているナダさん。ほら~、返事が遅いから怒っちゃったじゃないですか~。
「マハロさん、早く放して下さい」
「そんなに怖い声を出すな。腕輪は本当に効いているのか? 顔見知り程度のレベルになっている筈なんだがな」
「そうですね。効いてはいますが、俺の気持ちが大きく育ち過ぎていますから、狙った効果は出ていないと思います。それはそうと、マハロさん? 随分と親し気ですね」
ニコリと笑っているのに怖いのは何故だろう? そして、何の話をしているのかな?
「ったく、そんな事ばっかり言っていると、パール伯爵を監視員として四六時中付けてやるからな。覚悟しとけよ」
「うわっ、止めて下さいよ! 丸焦げ確定じゃないですか!」
「自分で抑えられないならそうするしかないだろう? それとも他に手があるなら言ってみろ」
ナダさんが私を凝視してくる。ん? 私に名案はありませんよ? それよりも、一番大事なのはナダさんの状態だとマハロさんの手に指を掛ける。
「――ぷはっ。結局、何の病気なんですか? プレイヤーが近付くと悪化するんですよね?」
その場に居た人達が、「はぁっ⁉」という感じで私を見て来る。あれ、違うの?
「お菊ちゃん限定だよ。他の人じゃこうはならないよ」
私、病原菌扱いですか? 悲しくなって握っていたマハロさんの手で目を覆う。
「あのー、皆さん。朝礼しないんですか? ちょっと前から聞かせて貰っていましたけど、ナダさんの病気って恋の病ですよね?」
ケン君がサクッと話しに入って来た。そう言えば、そんな時間よね。そして、答えを教えてくれてありがとう。
「あぁ、恋の病! 成程、私に橋渡しして欲しいって事ですね! いいですよ、お相手は誰ですか? お手紙を渡しますか? それとも呼んでくればいいですか?」
どうしましょう? とナダさんを見上げると、唖然とした顔のまま固まってしまい、他の人も口を開けて私を見ている。ふふふ、大胆だなぁって思っていますね? でも、モヤモヤしている位なら、さっさと告白した方が良いよね。ナダさんは素敵な人だから、絶対に承諾して貰える筈だ。
「……俺、お菊ちゃん限定だって言いましたよね?」
「あ、ああ。大事な所をさらっとスルーするよな、お菊って。――いや、待てよ。自分=プレイヤーって思っている可能性も……」
あれ? 何だか責められている気がする。やっぱり、いきなり告白は難易度が高過ぎるか。
「じゃあ、お友達から始めればいいですよ。一緒に居ればナダさんの良さは必ず伝わりますから」
「へぇ、お菊ちゃんはそう思うんだ。じゃあ、まずは友達として俺の事をよく知って貰おうかな。よろしくね、お菊ちゃん」
「はい! それで、お相手の女性はどこに?」
「ここに」
「はい?」
「だから、俺の目の前。君だよ、お菊ちゃん」
聞き間違いだよね。でも一応確認しておこう。私? と自分を指さすと頷かれる。
「本当に私ですか⁉ 人違いじゃなくて?」
「うん。俺の病はお菊ちゃんという唯一人にしか治せないんだ。友達から始めてくれるんでしょう? さっき、『はい!』って元気よく返事してくれたものね。マハロさん達も聞きましたよね?」
マハロさんが悔しそうに顔を歪めて、私を背に庇ってくれる。
「……騙し討ちみたいなものじゃねぇか」
「そうですね。でも、これぐらいしないと駄目なんですよ。俺、お菊ちゃんに好きだって言った事あるのに、こんな感じですからね」
えぇっ⁉ そんな事言われたっけ……。思い出せ、私の脳みそ!
「……すみません。言われた記憶がないのですが……」
「嘘でしょう⁉ お菊ちゃんが迷惑掛けてばかりでって言った時に、『好きな子の為に何かしてあげたくなるのって普通じゃない?』って返したでしょう! それに、その後も『お菊ちゃん、好きだよ』って言ったよ! 本当に覚えて無いの?」
そんな会話したっけ? まったく覚えがない。
「お菊、ショートの前後の記憶が少し消えているんじゃないか?」
マハロさんに言われてポンと手を打つ。
「ああ! 記憶が切れ切れなんですけど、私の記憶力の問題じゃなかったんですね! ふぅ、良かった」
「良かったじゃないよ! ことごとくスルーなの⁉ 俺の気持ちを弄んでいないよね⁉」
流石にカチンときた。恋心なんていう尊いものを弄ぶ訳ないじゃない!
「そんな人でなしな事する訳ありません! 恋心なんて生まれてこの方、いっっっかいも受け取った事がないんですよ! そんな凄いものを受け取った日には、ありがたく矯めつ眇めつ飾って拝みますよ!」
一気にまくし立てたので、はぁはぁと肩で息をしながら、ナダさんを睨み付ける。健二君には睨んでいる様に見えないって、いつも言われちゃうから、もっと目を細めておこう。
「……ぷっ、はは、はははっ! 凄いね、拝んでくれるの?」
「そう言ったじゃないですか! 真剣な話をしているのに何で笑うんですか!」
他の人も肩を震わせているので笑っているのだろう。もうっ、失礼しちゃうよね!
「だ、だって、そんな答えが返って来るなんて思わないって。そうか~、そんなに大事にしてくれるんだ」
「当たり前です! あ、でも、私が恋心をお渡しできるかは、また別問題なんですけど。こんな私が贅沢な事を言ってすみません……」
「俺の好きになった人が『こんな』な訳ないでしょう。そうやって言う事で俺も貶しているって分かってる?」
「え? そ、そんなつもりは!」
そんな可能性を考えた事がなかった。道理で健二君や親しい人が「こんなって言うな!」って怒るか分かった。
「うん。でも、自分を貶すということは、大事に想ってくれている人をも貶しているって覚えておいてね。でも、正直な心を聞かせてくれて、ありがとう。友達として俺をもっと知ってよ。そうしたら、改めてもう一度渡すからさ。ちゃんと飾ってくれる?」
「勿論です!」
でも、その時はナダさんも私の事に詳しくなっているから、好きでいてくれる可能性はとても低いだろう。現実で誰にも告白された事がないのが良い証拠だ。
「なぁ、お菊。何か隠していないか?」
暗い顔になっていたのか、マハロさんに指摘されて目を大きく見開いてしまう。あぁ、これじゃ有ると言っているようなものだ。
「やっぱりな。言えることなら、今吐き出しちまえ。そうやって胸の中に溜めておくから変な風に凝り固まるんだ。いいか、もし、もしもだぞ! ナダと恋人になってから言おうとしたら、もっときつくなるんだぞ」
「そんなに『もし』を強調しなくてもいいじゃないですか」
「うっせぇ。大事な娘をリミッターホイホイ野郎に渡すなんて業腹なんだよ」
「酷っ! 俺が操作している訳じゃないですよ!」
こんな時なのに何故か笑えてしまう。その事でストンと気持ちが決まった。うん、マハロさんの言う通りだ。親しくなればなる程に言い出せなくなる。嫌われるのなら、離れられる決心がつく今がいい。
「お仕事は大丈夫ですか?」
「ああ、構わん。今、お菊以上に大事なことなんてない」
「マハロさん……。分かりました、お話します」
お菊ちゃんは疎すぎて天然なので、勘違いに勘違いを重ねています。いや~、手強い子ですね~。ナダ君が報われる日は来るのだろうか……。
お読み頂きありがとうございました。




