31.お金の匂い
途中から、商業ギルド長の視点に変わります。
通勤する時に使う通路でギルドへ向かい、扉を出てすぐのカウンターに行ってベルをチーンと鳴らす。
「――はい、はいっと。おっ、噂の新人さん!」
「へ? 私ですか?」
「そうそう。商業ギルド長がベタ惚れって、ギルド内で大騒ぎだよ」
「えーーーっ⁉ 違いますよ! あれは揶揄われているだけです!」
「いやー、あれは本気だと思うんだけどね。ははは、ごめんって。そんな困った顔しないでよ。お仕事で来たんだよね? ケン君、後輩入って良かったね」
「はい! 買い取りお願いします」
「了解。あっ! ピヨピヨの羽根がある! これ欲しかったんだよ~。良いお値段付けさせて貰うよ」
「わーい、ありがとうございます!」
カウンターに居るお兄さんは、オレンジに近い茶色い毛の先が、そこら中ぴょこぴょこと跳ねている。寝癖なのか癖毛なのかは分からないけど、自由で活発そうな感じが出ている。黒縁の四角い眼鏡を掛けていて、アイテムを楽し気に見る瞳は、オレンジのキャンディみたい。
さっきまではただの球だったのに、彼が手に取ると、弾けてアイテムが姿を現す。どういう仕組み?
「あれって、どうなっているの?」
「ええと、『そんな細かく作り込んでいられるか! 大人の事情だ!』って言ってました」
マハロさんに聞いたのね。ゲームの世界はどうやら大人の事情が溢れているようだ。
「いいね、いいね♪ 状態良いよ。今日の買い取り額は50万300タムだよ。いつも通り、口座にお金入れとくね。これ明細」
50万⁉ 抜け毛や羽根がそんなにするの⁉
「驚いているみたいだけど、Aチームって珍しいモンスターが揃っているからね。パール伯爵の涙なんて高いよ~。なんせ全属性魔法のダメージを無効化する七色真珠だからね。確かこの前、百年ぶりにオークションに出た時は、一億タム超えてたよ」
一億タム⁉ 誰がそんなにお金を持っているの! と叫びたい。リボーンで悲鳴を上げている自分が悲しい……。思わず自分の残金を見て溜息を吐く。
「――へぇ、パール伯爵がくれないかなぁとか思わないんだ?」
「思いませんよ。涙って悲しいとか辛い時に出ますよね。私はパール伯爵には笑っていて欲しいです。でも、嬉し涙が出たなら、ちょっと見せて欲しいな~。虹みたいなのか、オパールみたいなのか気になるじゃないですか」
「……良かったね、ケン君。モンスターを大事に想ってくれる人が来て。パール伯爵も今のを聞いたら凄く喜ぶよ」
「はい! でも、自分をテイムしてくれて構わないって、既にパール伯爵が言っていますよ」
「はぁ⁉ 『私を使うだと? 笑わせるな、この愚民が!』って言いそうな、あの伯爵が? うっそ、何、このお嬢ちゃん……」
そんなイメージなの? 可愛いくて気さくな感じだったけどなぁ。あ、双子のお二人と一緒で威嚇し合う仲なのかもしれない。
「ああ、良かった、間に合って。お会い出来て嬉しいですよ、お菊さん」
「げっ、ギルド長⁉」
「『げっ』とは失礼ですね。ちゃんと査定したのでしょうね?」
「当ったり前じゃないですか! 良い状態だったので、お高めにしましたよ」
「よろしい。トッドさんからピヨピヨの羽根をお二人に持って行かせるからと連絡を貰いましてね。急いで駆け付けたのですよ」
「そうだったんですか。あの大きな黄色いヒヨコの羽根は、そんなに人気があるんですか?」
「はい。運の数値を上げてくれる素材なのですよ。それを使ったお守りが、時の旅人に飛ぶように売れているので、また手に入った際はギルドへお願いしますね。高価買取させて頂きますから」
頷きながら考える。戦わなくても、ピヨピヨが居るエリアに行って羽根を拾えば良い収入になるっていう事じゃない⁉
「お菊さん、期待させてすみません。浮雲のコクウ森という推奨LV20の森に居るのですが、竜神久遠様のお許しが出るまで、時の旅人は他の国へは行けません」
「そ、そうなんですか。LV20……」
どう考えても森に入った途端に瞬殺される気がする。楽に一獲千金は狙えないらしい。
「お菊さん、そろそろ帰りましょうか」
「うん。ナルキさん、買い取りのお兄さん、お邪魔しました」
「あ、名前言ってなかったっけ? 俺はトールだよ。この買い取りカウンターには大体俺が居るから、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
今日のナルキさんは普通だったなと思っていたら呼び止められる。
「はい? ――きゃっ⁉」
「ふふふ、ではまた」
ほっぺにチューされた! ほっぺに! 普通だと思ったのは誰だ⁉ 私だ、馬鹿ーーーっ!
もうっ! 挨拶にチューするなんて誰が考えたのよ! 真っ赤になっているであろう顔を手で隠し、転んでリボーンしたらその時だと腹を括って走り出す。
「もうっ、ナルキさん! さようなら!」
「わっ、お菊さん待って下さい! 失礼します!」
☆= ☆= ☆=
パタパタと走り去る姿を可愛らしいなと見送っていると、トールに声を掛けられる。
「そんなに気に入ったんですか? 彼女の事」
「そうですね。反応が楽しくて堪りません」
「うわぁ、サドだ」
楽し気に私を見ているという事は、あなたこそ、そういう所があるのではないですか、副ギルド長殿?
「違いますよ。私は好きな人を構いたくて仕方がないタチなんです」
「どっちにしろ迷惑じゃないですか。あんまりやると嫌われますよ」
「そこはちゃんと見極めますよ。理由はそれだけではなく、勘の様なものですが、彼女はお金の匂いがします」
「お金の匂い? どういう事ですか?」
「私がお金の匂いがすると思った人物は、有名な冒険者になったり、商人になったりなどして、ギルドを儲けさせてくれます。言うなれば、この世界の経済を動かす存在になるのですよ」
「そんな凄い子には見えませんでしたけどね。むしろ、お金が欲しい! って感じでしたよ。なのに、パール伯爵の涙は欲しいって言わないなんて面白いと思いますけどね」
人柄の良さか。そういう人物は今までも沢山会っているが、大抵お金とは縁が薄い。現に今の彼女もそうだが、何かしてくれるのではないかという期待が止まらない。何なのでしょうね、これは。きっと、マハロさんも同じように感じたから、預モンへと誘ったのでしょう。彼はただのお人好しではありませんからね。
「誤解が無いように言っておきますが、儲けの為ではなく、女性として好ましく思っていますからね。彼女に手出ししたら地獄を見せてあげますよ」
「怖っ! それは俺じゃなくてナダ君に言って下さいよ。猛アタックしているって預モンの人達が言ってましたよ」
「ほぉ。私もうかうかしていられませんね。もっと意識して貰えるように頑張るとしましょう」
「はぁ?」
本気で理解出来ないと思っていますね? 商人がそんなに顔へ出したら駄目でしょうに。と言っても、私しかここに居ないからでしょうが。いつものトールなら一分の隙もありませんからね。使えない男を副ギルド長になどしません。
「女性の趣味変わりました? 前はもっと色気ムンムンの――」
無言で頭を引っ叩いて去ると、「超痛い!」という叫びが後ろから聞こえてきた。指輪が上手い具合にヒットしましたからね。口には気を付けないと毛髪の寿命が縮みますよ? ふふふ……。
パール伯爵は泣かないだろうな。いつも不敵に笑っていそうです。
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