30.アイテム回収
パールさんに送って貰ったリッシュの森の入口で、切り株に座りながらぼーっと過ごす。鳥の鳴き声や風でざわめく木々の葉の音。癒し効果抜群の中で過ごしたお蔭か、頭がはっきりしてくる。
ステータス画面で確認しても状態異常を示す表示は出ていない。時間が経てば自然と治るようだ。
それにしても、ナダさんて距離が近いよね。それだけ受け入れて貰えたという事なんだろうけど、心臓に悪い。
でも、これって美形度を上げて貰えたからだよね。そのままの自分だったら、近寄ろうなんて思われなかった筈だ。
男性は可愛いねと気遣って言ってくれる人が多いけど、同性は歯に衣着せぬものだ。今まで散々ブスやキモイと言われたり、「この子が? ぷぷっ、有り得ないんだけど」って失笑されて来たんだもん。
ナダさんの甘い言動に勘違いしそうになるけれど、ちゃんと自覚しなきゃね。きっと本当の私を見たら、二度と息が掛かる程の近くには来てくれないのだから。
チクンと痛む胸に手を置いて深呼吸する。折角自由な世界に来たのだ。とことん楽しまなきゃと勢い良く立ち上がった。
胸の内のモヤモヤした感情を散らすように、マンドラゴラちゃんとたっぷり遊び、マンドラゴラの悲鳴を三本手に入れた。ふふふ、やったね!
翌朝、少し余所余所しく感じるナダさんに瓶を渡す。
「三本貰えたんですよ。どうぞ」
「あ、うん。ありがとう」
ん? 何で後退るの? 一歩寄るとまた後退る。もしかして――。
「私、臭いですか? ゲーム内でもお風呂に入らないと駄目なのかな?」
そう言いながら、自分の腕をクンクンと嗅いでみる。
「……はい? 臭くなんてないよ! 寧ろ良い匂、ごふっ!」
「ナーダー君? 離れようか」
トッドさんが『君』って言った! しかも、口調もなんだかいつもと違う。
「トッドさん、襟引っ張り過ぎ! 首が絞まったじゃないですか!」
「パール伯爵の方が良かったか? 丸焦げにする気満々だぞ」
パールさんが笑顔で炎の玉を杖先に掲げている。わぁ、魔法だ! 凄い、凄い!
「パールさん、近寄ってもいい? いいかな?」
そわそわとしながら声を掛けると、笑われてしまった。
「ふふふ、どうぞ。でも、近寄り過ぎないで下さいね。火傷したら大変ですよ」
「はーい」
わぁ、ボォォォッって炎が唸ってる! 綺麗な円形だなぁ。
「ねぇねぇ、これって私にも出来るかな⁉」
「SAを取って、お店で魔法を買えば使えますよ」
「本当⁉ 他の魔法も?」
「はい。例えば、氷とか風とか――」
そう言って次々と杖先の魔法が変わっていく。
「きゃーっ! パールさん、いえ、パール師匠! 私に教えて下さい!」
「ふふふ、師匠ですか? 照れてしまいますね。ですが、お菊さんの為になら一肌脱ぎましょう。一緒に楽しくお勉強しましょうね」
「うん!」
「ずるい、ずるい! 僕だって弟子になりたいです!」
「おや、ケンもですか? あなたも魔法が習いたいのですか?」
「いいえ! 師匠と呼びたいだけです!」
思わず全員で噴き出す。あー、もう! ケン君て可愛いな。
「ははは、ケンはいいですね。伯爵でも師匠でも好きに呼んで下さい」
「やったー! お菊さん、僕も弟子ですよ!」
「うん。良かったね~」
頭を撫でてあげると嬉しそうにニコニコしている。あ~、和む。
「「「……羨ましい」」」
ボソッと聞こえた声に振り返ると、双子のお兄さんとナダさんが、ケン君をジト目で見ている。
「皆さんも弟子になりたいんですか?」
「「「ちっがーう!」」」
びっくりして耳とシッポがビンと立つ。じゃあ、何が羨ましいの?
「お菊は気にしなくていい。さぁ、皆、今日も頼むぞ。解散!」
不満顔の三人をトッドさんが追い立てる。不機嫌の理由は良く分からないけれど、お見送りしてあげないとね。
「皆さん、いってらっしゃーい」
「「「!! いってきまーす」」」
途端に笑顔で手を振り返してくれたのを見て、「げんきんな奴等だ」とトッドさんが苦笑していた。機嫌がコロコロ変わるお年頃なのかしら?
本日の業務はまず体温測定から。教えて貰った事はきちんとメモしなければ。
「全てのモンスターの基礎体温は35度です。この体温計を翳して記録して下さいね。プラスマイナス0.5度は大丈夫です。そうでない子が居たら教えて下さい」
「うん。ねぇ、ケン君。火や氷のモンスターも35度なの?」
「はい。やっぱり気になりますよね。僕も不思議に思ってマハロさんに聞いたら、『テイムして触れないと困るだろう。ご飯もあげられないし、武器だの服だの装備させるんだぞ。いちいち燃えたり凍ったりされてたまるか』って言ってました」
確かにそうだよね。テイムした子が側に居て火傷や凍傷を負いましたじゃ、いくらHPがあっても足りない。
「僕は寝藁を持って来ますね」
「うん。いってらっしゃい」
右端の子からやっていこうかな。ドライヤーの風の出る部分を半分切り落としたような形の体温計だ。グリップにあるボタンを押すと、画面に『35.0』と出る。ぴったりだね。次の子は――。
「お菊さん、終わりました?」
「うん。みんな問題無しだよ」
「それなら良かったです。次は落ちているものを回収します」
「排泄物?」
「いいえ。モンスターは排泄しないんですよ」
「えっ、そうなの⁉」
「はい。ははっ、お菊さんも僕と同じだ。これもマハロさんに聞いたら、『エリアがモンスターのフンや尿だらけだったら、臭いし踏みまくって大変だろうが。大人の事情だ』って言ってました」
プレイヤーとしても、そんなリアリティーは要らない。ゲームを作った人たちの正しき判断である。
「そうなんだ。じゃあ、何を拾うの?」
「落ちている羽根や牙、鱗などです」
「アイテム?」
「はい。ギルドで買い取って貰えるんですよ」
「へぇ。毎日落ちているの?」
「そうですね。さすがに牙は毎日落ちていませんけど、羽根や毛はいっぱい落ちていますよ。――はい、このカゴに入れて下さいね。アイテムボックスと同じで、いっぱい入りますよ」
「了解。私は右の列でいい?」
「はい。困ったら遠慮せずに声を掛けて下さいね」
「うん。ありがとう」
よーし、張り切って回収するよ~。お邪魔しまーす。
寝藁の上を見ると、野球ボールくらいの黄水晶の球がある。近寄ると、『ピヨピヨの羽根×5』という表示が飛び出てくる。現物が落ちている訳じゃないらしい。入れるカゴはスーパーのカゴと同じだ。気分は球拾いをする野球部マネージャーである。
その後もくまなく寝藁の上を確認していく。時々、モンスターの体の下から表示が飛び出ているので、声を掛けて回収させて貰う。皆、素直で協力的な子で助かるな~。
「ケン君、回収終わったよ」
「お菊さん、早いですね。僕はこの子が最後なのですが、中々動いてくれないので苦戦中です」
ナマケモノとよく似たモンスターだ。動きがとってもスローリー。お腹の下にあるので、二人でしゃがみこんで見守る。よし、頑張れ! あと一歩!
「――あ~、やっと回収出来ました。動いてくれて、ありがとうね」
ナマケモノはケン君に撫でられて目を細めている。ふふふ、嬉しそう。
「回収終わったか?」
「はい。トッドさん、今日はいっぱい集まりましたよ」
「おっ、ピヨピヨの羽根があるじゃねぇか。ギルドで欲しがっていたから早めに届けた方がいいな。お菊に教えがてら、二人で納品してこい」
「はい。他のも全部納品しちゃっていいですか?」
「ちょっと待てよ、確認する。――ああ、全部していいぞ」
「了解です。行きましょう、お菊さん」
「うん。行って来まーす」
「おう。気を付けてな」
ナダさんの暴走は未然に防がれました。止めたのがトッドさんで良かったですね~。
ケン君、和みます。Aチームの癒し要員ですね。
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