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28.状態異常『ショート』

「ただいま、お菊ちゃん」

「ナダさん、お帰りなさい。サムさん――」

「ああ、その二人には言わなくていいよ。それよりも夕飯を一緒にどうかな?」

「え、ええと――」


「「ちょっと待ったぁぁぁ! ナダさんのこんにゃろう!」」


「うるさいな。俺は忙しいんだ」


 不機嫌な顔で返していたのに、私に向いた顔は優しい笑みを浮かべている。表情筋、鍛えていますね。


「俺がおごるから美味しいもの食べよう。お肉がいい? それとも――」

「はい、そこまで。お菊はマンドラゴラと遊ぶ約束をしている。皆、今日の報告を頼む」


 良かった、マハロさんが来てくれた。ナダさんと双子のお兄さんが、タイミングを合わせたように舌打ちする。


「はい、今日の報告は『ちっ』だな。反省文は何枚がいい? ん?」


「「「すみませんでした!」」」


 素直に頭を下げる三人を見て、トッドさんとケン君が笑うのを堪えている。


「ったく、お菊に迷惑を掛けるんじゃない。トッドは何かあるか?」

「ああ。パール伯爵がお菊を気に入った」

「それは喜ばしいが、会わせる予定はもっと先だったんじゃないか?」

「お菊に興味津々なモンスターばかりだから、検証しようと思ってな」

「そうか。もしかして、テイム100の影響か?」


「ご名答。パール伯爵が言うには、人柄の良さを前面に出す効果があるんだと。自分をテイムしてくれて構わないとまで言ってだぞ」


「ほぉ、初見でそう言わせるとは驚きだな。お菊は会ってみてどうだった?」

「とっても可愛かったです!」


 サムさんとトニーさんがずっこけた。威嚇し合う仲だもんね。


「あいつが可愛い⁉ 見た目に騙されちゃ駄目だよ! サムさんがあいつの真実を語ってあげるから!」


「トニーさんなんて、腕に噛み付かれた事もあるんだよ!」


 あの小さいお口で、カプッと甘噛みでもしたのだろうか? 腕にプラーンとぶら下がっている姿を想像して和む。


「今度はガリッといくように指示しておこう」


「「酷っ⁉」」


「えー、次はケンから報告頼む」


「「無視⁉」」


「はーい」


「「ケンまで⁉」」


 ここまでスルーされるのね。日頃の行いって大事。


「寝藁の交換は終了しています。あとは、お菊さんが8回リボーンしました。主な原因はモンスターに小突き回された事です」


「…………」


 元気良く大きな声で報告される内容が悲しすぎる所為か、辺りが静寂に包まれる。通り過ぎる人まで痛ましげに目を逸らすのはやめて下さい……。


「あ、あー……報告ありがとう」

「はい!」

「えーと、お菊も報告するか?」

「今ので全てです……。うぅっ(泣)」

「あ~、泣くなら俺の胸を貸してあげる。ほら、おいで」


「「俺がやりたい!」」


「お前ら引っ込め!」


 トッドさんの拳が三人の頭に「ゴン、ガン、ゲシッ!」とめり込む。ついでとばかりに、双子のお兄さんの首を両腕に抱えて少し絞めている。


「「ぐえっ⁉」」


 えーと、少しじゃなかったようです……。でも、マハロさんが何も言わずに見ているから、大丈夫なのだと思いたい。


「ワフ?」


 遅れて来たトワイフルちゃんが、そっと身を寄せて来る。


「慰めてくれるの? ありがとう」

「ワフ!」


 本当に優しいワンちゃんだ。お返しに頬をモフモフと撫でる。これじゃあ私のご褒美だよね。


「最後に俺からの報告だ。明日は一日居ないから、皆でちゃんとお菊の事を見てやるんだぞ。あ、訂正する。トッドとケンだけでいい」


「「えーーーっ⁉ 俺らだってちゃんと面倒見られますぅ」」


「なんで俺まで双子と同枠なんですか」


「お菊の事となるとポンコツだからだ。信頼を回復したかったら、適度な距離を保て。以上」


 不満そうな顔のナダさんを置いて、マハロさんは「おっと、忘れていた」と言いながら足早に去って行く。忙しそうだから、相談はまた今度にしようかな。他の人も「お疲れ様」と去って行く中で、ナダさんだけが残る。


「どうかしたの? 困っている事があるなら相談に乗るよ」

「ナダさん……。ありがとうございます」


 気付いてくれた。私が思っているよりも、ずっと気に掛けてくれているんだなぁ。


「どういたしまして。俺でも解決出来そうな事かな?」

「えーと、多分? 私、武器をどうしようかなって迷っていて……」

「腰に付けている鞭じゃないの?」

「これは鞭とナイフしか選択肢がなかったので、これにしただけなんです」


「あー、思い出した。もっと選択肢をくれって不満に思った覚えがあるよ。自分が初心者だったのが、かなり前だから忘れていたよ。これにしたいって候補は決めてあるの?」


 私は残念ながらと首を横に振る。


「私の居る世界は、武器なんて持たずに一生を過ごせる場所だから、どれを見ても使いこなせる気がしないんです」


「それは平和な世界だね。そうか、そんな場所から来たら強い抵抗を覚えるよね。SAを取れば動きに困らない筈なんだけど、良かったら俺が指導してあげようか? 色々と手を出しているから、期待に応えられると思うよ」


「助かります! ナダさんって万能ですね」


「そう? 好奇心旺盛なだけだと思うよ。気になると手を出さずにはいられないというか……。そうだ! ちょっと待っていて。すぐに戻るから」


 何かを思い付いたナダさんが駆け出そうとすると、マハロさんが木箱を抱えて走って来る。


「おっ、間に合ったみたいだな。ナダも居るなら都合がいい」

「俺ですか? あ、それ! 今、持ちに行こうとしていたやつですよ」


「思う事は一緒だな。鞭はお菊に向かないだろうと思ったから持って来た。ナダのお古だ」


 箱の中には、大小のエフェクトガンが詰め込まれていた。


 マハロさんは凄い。私よりも私の未来を見通している気がする。感激のままに手を差し出すと、照れながらも握手してくれた。


「これなら遠くからでも狙えるから、ダメージを受けずにモンスターを倒せると思ってな。一応、弓やスリングショットも持って来たが、どうする?」


「エフェクトガンにします。状態異常にしたり、魔法が使えるんですよね?」


「ああ。だけど、他のもある程度は出来るぞ。矢じりに塗ったり、弾に魔法込めたりとかな。ただ、エフェクトガンは込められる量が多いから、効果が高いけどな」


「そうなんですか。一番の理由は操作が簡単そうかなと思って」


「ははは、基準はそこなんだな。確かにお菊は矢をつがえるだけでも一苦労しそうだ」


「むぅ、反論出来ない……」


 自分でも、「出来ない!」と苛立って叫ぶ姿を容易に想像出来る。


「俺はお揃いで嬉しいよ。長年使っていて、かなり詳しいから色々と聞いてね」

「はい!」


「じゃあ、後は任せた。俺は用事があるから行くな。――お菊、頼むからそんな顔しないでくれ」


 そんな顔? 鏡が無いので手で触ってみるけど、よく分からない。


「寂しいって顔に書いてあるよ。妬けるな」


 ナダさんに頬をツンと突かれて赤面する。私、子供みたいだよね……。


「『妬けるな』はスルーなんだ……」

「ははは! 頑張れよ、色男。お菊は手強いぞ」

「嫌な励ましをしないで下さいよ、まったく」


 笑っていたマハロさんが、私の顔を覗き込む。


「明後日にまた会おうな。トワイフルは置いて行くから、好きなだけモフモフしていいぞ」


「それは嬉しいですけど、マハロさんは一人で代わりは居ないんです。ウサギは寂しがり屋なので、早く会いに来て下さいね」


 開き直って告げると、目をまん丸くしている。うわぁ、失敗しちゃったかな……。でも、寂しいのは本当ですよ?


「お菊ちゃん、名前をナダにして今のを言って欲しいな。そうしたら、片時も離さないと誓うよ。ね?」


「こんの野郎っ、俺の感動をぶち壊すんじゃない! お菊、用事を終わらせてすぐ帰ってくるからな。その時は一番にお菊の所へ行くから、『お帰り』って言ってくれるか?」


「はい! ふふふ、約束ですよ?」

「ああ、勿論だ。それじゃあ、行って来るからな」

「はーい。いってらっしゃーい」


 私の頭をわしゃわしゃと撫でて去って行く。後ろ姿を目で追っていると、体がグルンと回される。わわわっ、何⁉


「お菊ちゃん、隠さずに答えて。マハロさんとはどういう関係?」


「へ? どういうって、雇用主であり、この世界でのお父さんみたいな感じですけど」


「お父さん? 本当の本当に?」

「はい」

「そっか。ああ、良かった……。もしかして、年上好き?」


「どうでしょうか? 恥ずかしながら、お付き合いをした事が一度もないんです。恋愛にはとことん疎いというか、縁がないというか……」


 とほほ、と眉を下げていると、ナダさんの顔が輝き、後ろを向いてしまう。あれ、どうしたの? あ、私が恥ずかしがっているから気遣ってくれているのかな。


「俺が初めての恋人になるって事か⁉ うわっ、奇跡の様じゃないか! 本当にまっさらな子なんだな。――だが、これだけの子を世の男どもが放っておくのか? これは誰かが手を回しているとしか思えない……」


 何かを言いながらガッツポーズをしているかと思ったら、真剣な顔でこちらを向く。


「ねぇ、お菊ちゃん。故郷ではいつも誰かと一緒に行動している?」


 そんなに真剣に聞く事なのかな? 痛くはないけれど、両肩に置かれた手に少し力が入っている。別の世界に興味深々ですか?


「そうですね。従弟とよく一緒に居ますよ」

「男?」


「はい、そうです。背が高くて恰好良くて、女性にモテモテなんですよ。それに、優しくて頼りになる自慢の従弟です」


「へぇ、そうなんだ。教えてくれてありがとう。――そいつのお蔭って訳か。下心ありまくりだろうけどな」


 ナダさんが私から手を放して、俯きながら何かを言う。健二君に興味が出ましたよっていう内容かな?


「すみません、よく聞こえなかったです」

「ああ、ごめんね。俺も会ってみたいなぁって言ったんだよ」


「やっぱり! ふふふ、きっと仲良くなれますよ。でも、忙しいから暫くは無理だと思います。でも、ナダさんが会いたいって言っていたって伝えますね。きっと、遊びに来てくれますよ」


「それは待ち遠しいな。――潰すのがな」


 楽しみだなって言ったのかな? ナダさんって時々呟く位の声になるから、ウサ耳をもってしても聞こえないんだよね。……ん? 独り言なら小さくて当たり前か。やだ、私ったら。


「脱線させちゃってごめんね。俺のお薦めは、この小さいやつかな。二発しか弾丸を入れられないんだけど、軽くて使いやすいと思うよ」


 試しにナダさんが使っている位の大きさと持ち比べてみる。


「大きいのは思っていたより重いですね。これを軽々と扱うなんて、ナダさんは凄いです」


「ありがとう。重たい物を運ぶ時は扱き使ってくれていいよ。それで、どうする? 小さいのにする?」


「はい、小さいのにします。弾丸はどこで買えばいいですか?」


「これは使い回し出来るから、俺の在庫をあげるよ。何発かは魔法を込めてあげる。何がいい?」


「うーん、ナダさんはいつも何を使っているんですか?」


「俺は『HP吸収』だね。ただ、弾丸一つにつき、吸収出来るのが1000なんだ。この辺の敵なら一発あれば十分だけど、他の場所に行く時は、もっと大きい銃が必要だね。それに効かないのも居るから、状態異常と普通の弾丸も常に持っておいた方がいいかな」


 頷いて思い出す。私、良い物持っているじゃない!


「これ、マンドラゴラちゃんに貰ったんです。中に込められますか?」


「うん? これは凄いな。麻痺に毒に――、あ、マンドラゴラの悲鳴がある! しかも三本も⁉ お菊ちゃん、よくこんなレアアイテム手に入れたね」


「はい。イベントで貰ったんです。今日も一緒に遊ぶので貰えるかもしれません」


「いいな、俺も付いて行こうかな。あ、でもイベントだから、時の旅人さん限定か。手に入れたら俺に売って貰えない? 相場が一本1000タムだから、おまけして1200。どうかな?」


「ありがたいですけど、テイムするなら即死攻撃は駄目ですよね?」


「お目当てのモンスターまでに障害がいっぱい居るんだよ。だから、高レベルのエリアでは、あると非常に助かるんだ」


 何て恥ずかしい質問をしているんだと顔を覆う。そりゃそうだよね。エリア内にモンスターが一体だけな訳ないじゃない。


「恥ずかしがらなくてもいいよ? お菊ちゃんは戦闘した事がないから、どんな状況か良く分からなくて当然なんだから。俺はお菊ちゃんを馬鹿にしたりしないよ」


 頭を撫でてくれる優しい手のお蔭で、気持ちが落ち着いて来る。


「ありがとうございます。今日はいっぱい遊んで、お薬貰って来ますね」

「うん。帰ってくるまでに一通り用意しておくよ」


「何でそこまで良くしてくれるんですか? 私、ナダさんに迷惑掛けてばかりですよ?」


「理由なんているの? 好きな子の為に何かしてあげたくなるのって普通じゃない?」


 ス、ストレート……。恋愛経験値が無い私には対応がさっぱり分かりません……。


「寧ろ、もっと頼ってよ。それが俺の喜びに繋がるからさ。ね?」


 手で頬を挟まれ、吐息を感じる程の至近距離で囁かれた為に、私の脳みそはショートした。


「お菊ちゃん、好きだよって、あれ? お菊ちゃん⁉ ねぇ、どうしたの⁉ 何で状態異常マークが出てるの⁉ 『ショート』って何⁉ 初めて見るんだけど⁉」


「…………」


 矢継ぎ早に発せられる言葉が耳を素通りしていく。ゆさゆさ揺すられても反応出来ません。悪しからず……。


お菊ちゃん、ナダさんの猛攻撃にとうとう耐えられなくなりました。町中で状態異常を経験する羽目になるとは……。頑張れ、ウサギさん。


お読み頂きありがとうございました。

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[一言] こ これは 体調の変化による強制ログアウト(笑)?
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