25.尊き宮
イベントの『マンドラゴラのかくれんぼ』はゲーム開始の4月27日から5月1日まで行われる。また明日も遊ぼうねと約束して、沢山のお薬を貰って帰って来た私は、始まりの鐘の前で話すプレイヤーの会話に立ち止まる。
「このイベントってさ、必要な物資を無料である程度手に入れられるようにって感じだよな」
「ああ、そんな感じだよな。俺はもうちょい小回復薬が欲しいから、毎日参加しようかな」
「俺はマンドラゴラの悲鳴が欲しいんだよ。即死率50なんてアイテムが序盤で手に入るなんて凄いよな」
「でもさ、普通にリッシュの森へ行って倒せば落とすんじゃないの?」
「お前知らないの? マンドラゴラってレアモンスターでリッシュの森で最強のモンスターなんだぜ。動きは素早いし、攻撃力・防御力も高い。それに加えて即死攻撃だぞ。今の俺達じゃ無理無理」
「だって、一番最初に行けるエリアじゃん。設定おかしくない?」
「それなら問題無い。逃亡が100%成功するようになっているんだと」
「へぇ、それなら安心だな。じゃあ、イベントで手に入れるしかないか」
「ああ。でもさ、合計100匹も見付けたのに、一つも手に入らないんだぜ。結構厳しいよな」
「1%切ってるって事か。何か良い方法ないのかね」
余計なお世話かなと思ったけど、話し掛けてみる事にする。
「あの、立ち聞きしちゃってすみません。今のお話なんですけど」
「え? わっ、可愛い! ウサギ獣人だ」
「もしかして噂になっている子か⁉」
驚いたのか、二人で興奮しながら小声で話している。悪口じゃないといいな~。
「あ、えっと、ごめんね。それで、どんな用なの?」
「私、良い方法知っていますよ」
「え、マジ⁉ 教えて! あ、タダでとは言わない! リッシュの森で採取した茸あげる。ちゃんと食用だから安心して」
「わぁ、いいんですか? ありがとうございます! あ、貰う前にお教えしますね。リッシュの森へ行く途中に落ちているタンポポのような花を拾って下さい。そうすると、20匹に一本の確率でマンドラゴラの悲鳴が貰えます。私がそうだっただけで、確率は断言出来ないんですけど……」
「ううん、凄く助かる! 俺、早速行ってみる!」
「あ、待てよ! ごめん、これ茸ね。本当にありがとう」
「どういたしまして。貰えるといいですね」
「ああ。じゃあね~」
二人を見送って手の中の茸を見る。
「シメジにマイタケ、エリンギか。茸ご飯、食べたいな~」
得したなぁとアイテムボックスに大事にしまい、当初の目的地である気になっていたお寺? へと向かう。
ちょっと変わった造りで、山門にあたる場所に始まりの鐘があり、広い敷地の真ん中を走る石畳を行くと、奥に本堂がある。健二君一家と一緒に旅行へ行った、長野県の『牛に引かれて』で有名な善光寺と似ている、檜皮葺の屋根を持つ木造建築だ。
石畳を歩いて行くと、小さなお社が両脇に沢山並んでいる。
「お寺じゃなくて神社なのかな? どなたを祀っているんだろう?」
「お姉ちゃん、ここへ来るのは初めてかい?」
NPCのエプロンを付けたおばちゃんが声を掛けてくれる。
「はい。ここってお寺ですか?」
「ここは竜神、久遠様を祀っているから、時の旅人さん風に言うと神社かね。私達は『尊き宮』と呼んでいるよ。小さいお社は、久遠様をお助けしている天使や人魚、魔人の方々をお祀りしているよ」
「世界を治めている清白様達ですか?」
「そうそう。他にも有名な方々を合わせて12社だったかね? 私も毎日お花を持って来ているんだよ。ここだけの話、お気に入りの方にしか持って来てないんだけどね」
最後をヒソヒソ声で教えてくれる。ふふふ、分かります。ちょっと気まずいですよね。
「私もお花持って来ようかな」
「ああ、そうしなよ。きっと喜んで下さるよ。凄い花じゃなくてもいいのさ。そこらに咲いている野花で十分だよ」
お礼を言ってリッシュの森の方へ向かう。タンポポにしようかな? それともシロツメクサがいいかな? 野花ならタダだから、毎日持って行ける。落ち着く良い場所だったから、仕事帰りに立ち寄って一息吐きながらお供えしようかな。
「よし。これだけあればいいでしょう」
結局、目についた綺麗な花を色々と摘んでみた。――うん、良い香り。転ばないように戻ろう。
☆= ☆= ☆=
左右に六つずつ等間隔で並んでいるお社は、高床式のようになっていて、五段の階段が付いている。小さいと言っても私の背よりも大きく、黒の扉には金の装飾が施され、両脇に二本の灯籠も置いてあって立派な造りだ。
階段の前に賽銭箱は無く、代わりにお供え物の台がある。左側の列から順にお供えし、右側の列、本堂寄りにある清白様のお社がラストだ。ここ凄いなぁ。一番人気かも。お花が台から零れ落ちそうに積まれているので、そーっと天辺に載せる。よし、これで12本だね。
清白様の社の後ろには、ご神木と思われる大きな木があるので見に行ってみる。立て看板を見ると、『良縁の木』と書かれている。即座に私は合掌し、頭を垂れる。
どうか、私に良縁を。良縁を! 大事なことだからもう一度。私に良縁を下さい!!! よろしくお願いします!
木を熱く見つめていると、横を通るおじいちゃんに、「きっと来るさ。良縁」と言われた。顔から火が出る思いがしました……。
顔の熱さが消えたので本堂に向かおうとすると、清白様の社の裏側、高床の下の地面が一部だけ色が違う事に気付く。何だろうと近付いてみると、食パン一枚程の大きさと形をした灰色の石だった。この四角い石もお社の一部かな? それとも、ただの石? でも、それにしては綺麗にカットされているんだよね。
う~ん……。清白様の子分? みたいな位置にあるからお供えしちゃおうかな。踏み潰されない場所だから大丈夫だよね? 萎れたら私が回収すればいいんだし。
清白様のお社の一部だとしても花が一本増えるだけ。別物だとしたら、一人だけ貰えなくて悲しいもんね。多めにお花を摘んでおいて良かったと思いながら、石の真ん中にそっとシロツメクサを置く。明日からは一本多めにお花を摘まないとね。
「本堂でお参りしたらログアウトしようかな。お夕飯は何かな?」
立ち上がって独りごちながら空を見ると、竜のような形の雲が浮かんでいた。ふふふ。久遠様、お空のお散歩かな? 空想上の生き物がここには本当に居るんだもんね。いつか会う日も来るのだろうか?
本堂に行くと格子で遮られていて、中には入れなかった。特別な日じゃないと開かないのかもしれない。皆がお花を置いている台に私も置き、手を合わせる。
久遠様、お菊は良き人達と出会えましたよ~。HPは2しかないけど、日々楽しんで過ごして行きます。見守っていて下さいね。
深々と礼をして顔を上げると、ピカッと一瞬辺りが輝いたような気がした。何が光ったのだろうと本堂内部に目を凝らすと、長い胴体をS字のようにくねらせた巨大な竜の像が私を見下ろしている。全身が黄金で作られているから、きっとこれだろう。
また明日も来ますね。神々様、おやすみなさい。
お菊ちゃん、どんだけ良縁が欲しいのか丸わかりですね。おじいちゃん、励まさずにはいられなかったのでしょうね。
もう一話いける筈。
お読み頂きありがとうございました。




