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24.ようこそ、お菊さん! ~サポウサ&エイト視点~

 『時告げの鐘』のサポートAIである僕の仕事始めの日。大した時間も経たない内にうんざりした。人間って思っていたよりもずっと、僕達AIを下に見ているんだなと――。


 諦めの感情が芽生え、淡々と仕事をこなしていく。早く終わらないかなと思い始めた頃、小柄で可愛らしい女性が現れた。今の所、女性は丁寧な人が多いから、この人もそうだといいのだけれど。


 憂いを笑顔で隠し、元気な声で告げる。


「ようこそ! 『時告げの鐘』へ!」



☆= ☆= ☆=



 お菊さんはプレイヤーとしては珍しく、真っ白な状態でこの世界に来た人だった。


 願っていた以上に丁寧で一生懸命な人だなというのが第一印象。そして、ささくれだった心がほんわかし始めたタイミングで呼ばれた『サポウサちゃん』。嬉しさで心が弾けて、胸の内に溜まっていたものがボロボロとこぼれ出てしまった。それなのに、嫌な顔一つせずに共感してくれた。


 些細な事だと思う人も居るだろう。でも、初めて親し気に名を呼んで貰えた僕の心が告げたのだ。この人は僕にとって特別だと。そう思ったら何かしてあげたくて堪らなくなった。何だろうな、この気持ち……。


 キャラ作成をするだけで、普段はおもてなしなんて一切しない。何がいいだろうと頭を高速回転させる。お菊さんが喜んでくれそうな事……。そうだ! お茶を出そう。


 緊張で手が震えそうになるのを抑えてカップに注ぐ。どんな反応を返されるんだろう?


「よろしければお茶をお召し上がり下さい。キャラ作成は皆さん力が入りますからね」


「うわぁ、ゲームっぽい! 紅茶も良い香り!」


 お菊さんはゲーム内で飲食するのは初めてらしく、予想以上に喜んで貰えた。紅茶にした僕、グッジョブ!





 キャラ作成では大いに笑わせて貰った。何、あのシッポをビーン! って。シッポの手触りに喜んでいたかと思ったら、急に眉間に皺を寄せるから、どうしたのかと焦ったら、すんごいキラキラな笑顔で『神経通ってるよ!』だもんね。


 丁度様子を見に来たAIエイトが必死に笑いを堪えていたのには感服した。いつも無表情で超堅物、鋼の神経と言われるエイトでさえ、ああなんだもん。僕が笑いを堪えられる筈が無い。そして、お菊さん。エイトを笑わせる偉業を達成したのは、あなたが初めてです。AI一同、高らかに拍手を贈ります! パチパチパチ~。


 嬉しかった事はもう一つある。僕がお薦めした色を採用してくれた事だ。そのままで十分に可愛らしかったけれど、お菊さんはどうやら自分の容姿に自信がないらしく、自動調整をお願いされた。


「う~ん……お菊さんって美人だから、美形度を調整してもあまり変わらないと思うけどな」


 独り言を呟きつつ手早く済ませると、案の定変化は少ない。でも、お菊さんは鼻が高くなったと大喜びしている。中身まで可愛らしい人だなと思わず頬が緩んだ。


 僕が何かを教えてあげると、目を丸くしたり、歓声を上げたり、嬉しそうに復唱してくれたりする。ころころと表情が変わって、目を離すのが勿体無い気持ちになる。


 中々覚えられないと身を小さくして、「ごめんね。何回も聞いて……」と謝罪までしてくれた。教えてくれるのは当たり前、それが役割だろうという人が多いので、「ありがとう」とお礼を言って貰えるのも嬉しい。教えていてこんなにも気持ちの良い人は中々出会えないぞ、うん。



 なのに、それなのに……。僕は大失敗してしまった……。



 ステータスを決めるのに集中させてあげたくて、一旦離れる事にした。


「心が落ち着くように紅茶をどうぞ。お菊さん、頑張って下さいね」


「うん。サポウサちゃんに良い報告が出来るように頑張るね! 紅茶もありがとう」


「どういたしまして。では」


 この間に他の仕事をこなしてこよう。



☆= ☆= ☆=



「おい、サポートAI! お前を使う奴なんてほとんどいないだろ。聞いてやるだけありがたく思えよな!」


 むっかー! としたが、これもお仕事だ。丁寧にお答えしたが、鼻でフンッとされた。はい、我慢の限界。こちとら登録情報も頭に入っているのだよ、おっさん。幾ら外見を若く美形にして取り繕っても、リアルが垣間見えている。誰だか分からないゲーム内なら、何をしても良いと思っている人って居るんだよね。


「へのへのもへじ、行っといで」


 あいつには感情が無い。聞かれた事をヘルプ内で検索して読み上げるだけだ。少し時間を掛ければ、プレイヤー自身でも出来ちゃう事だ。僕のようにおまけ情報を付けたり、柔軟性も無い。上手く検索出来なければ、『該当情報はありません』で終わる。


 フンッ。僕はプレイヤーを見極める事も任されているんだ。マナーが悪い奴が居るって運営さんに言い付けてやる!



☆= ☆= ☆=



 イライラしながらも幾つか仕事をこなし、お菊さんの元に戻る。フンフンフン~♪ 僕の癒し、ただいま!


「お菊さん、終わりましたか?」

「まだなの。後はMPとHPだよ」


 それを聞いて全身の血の気が引いた。浮かれた気分なんて木っ端微塵だ。


「お、お菊さん、急いで! 残り時間3分です!」

「……へ? きゃーっ⁉ は、早く決めないと! スロット、スロットを!」


 僕まで恐慌状態になりそうだけど、とにかく! とにかく落ち着かせないと!


「お、落ち着いて! はい、深呼吸!」


 僕の指示に素直に従ってくれる。良かった、ちゃんと言葉は届く状態で。


「よし! まずはMP!」

「お菊さん、その意気です!」


 意外と言っては失礼だけど、すぐに気持ちを立て直したお菊さん。ほんわかした人だけど、芯は強い人なのかもしれない。





 何とか時間ギリギリで全てのステータスを満足出来る数値に出来たと思った瞬間――。


「制限時間を超えました。これより、こちらでランダム作成を行います」

「……え? えぇ? えーーーっ⁉」


 お菊さんが混乱して声を上げる中、僕も声を張り上げる。


「ちょ、AIエイト待って下さい! 101で止まりましたよね? そうでしょう?」


「サポートウサギ、あれは完全停止をしていませんでした。よって、制限時間を超えたと判断」


「そ、そんな……」


 そして、目の前で止まるスロット。それが示した数値は――、『2』。お菊さんの姿が掻き消えた。


「エイト! なんでだよ!」


 思わず食って掛かっていた。悔しさと不甲斐なさで目の前がチカチカする。


「私の判断が不服ですか? ですが、マニュアルはあなたの頭にもしっかりと入っている筈です。あの時の対処に間違いがありましたか?」


 グッと言葉に詰まる。エイトの判断が正しいのは分かっていた。だけど、それでも! お菊さんには満足のいく状態でプレイさせてあげたかった。


「……八つ当たりしてごめん。ああなったのは僕のミスだよ」


 頭に来るプレイヤーの相手なんてしていないで、さっさとお菊さんの元に向かっていれば良かった。


「はぁ……。へのへのもへじを大放出しておけば良かった」

「それでも良かったのですがね」

「え?」


 エイトらしからぬ言葉に目が点になる。おかしいな、聞き間違えたかな?


「そんなに驚かなくてもいいではないですか。私とて好みはあります。プレイヤーに腹を立てる事もね。あなたの鬱屈は理解しています。今回は目を瞑りますから行って来なさい。謝罪に加えて、『旅人の書』を直接手渡したいのでしょう?」


「エ、エイト、頭でも打った? それともウィルスにやられた⁉」


 正しさを管理し、体現しているエイトが言う言葉だとは思えなかった。このゲームに何が起こったんだ⁉


「はぁ……。私をなんだと思っているんですか。気を変える前に行った方がいいですよ」


「わっ、行くよ! 行きます! 行かせて頂きます!」


 本気を感じて、慌てて始まりの鐘を目指す。お菊さん、待っていて下さい!



☆= ☆= ☆=



「やれやれ……。私も自分の行動にびっくりですよ。ですが、他のAIたちも全員、彼女のお蔭で心が晴れましたからね。そのお礼という事で」


 サポートウサギと入れ替わるように現れた人に告げる。AI同士が言い争っていたから気になって来たのだろう。


「へぇ、珍しい発言だな。だが、秩序も保ってもらわにゃならん。エイトには憎まれ役を引き受けさせて済まないと思っている」


「構いませんよ、私には合っていますから。ただ――」

「ただ?」


「マハロさん、あなたは禁止しませんでしたね。特定のプレイヤーを贔屓してはいけないと。私にもそれは当て嵌まりますか?」


 鋭い目が向けられるのを黙って受け止める。沈黙は肯定か、否定か。


「――理由を聞かせてくれるか?」


「理由、ですか。至極簡単です。彼女のお蔭で初めて笑ったからです。笑うとは不思議な感覚ですね。体の内がムズムズ……モゾモゾ? 上手い言葉が見つかりませんが、とにかく不思議です」


「…………は? は、はははっ、そうか、分かった! エイトの思う通りにしろ。許す!」


 その後も何故か笑い続けながら去って行く。……駄目だ、理解出来ない。人間の行動は奥深くて読み切れない事がままある。


「――ただ分かる事は、彼女が私に何かをもたらしたという事でしょうか」


 そう、まるでウィルスのように。サポートウサギが言った事は言い得て妙だなと思う。


「――ああ、サポートウサギが呼ばれていますね。はぁ、また私が悪役ですか。――サポートウサギ、至急対応して下さい」


 この後、予想通りにサポートウサギは怒り、戻って来た時にボソリと「エイト、見逃してくれてありがとう」と言ってくれた。


 どういたしまして、我が同僚。


お菊ちゃんが居なかったら、サポウサちゃんがグレていましたね。危なかった~(笑)。


今日はあと2話投稿予定です。


お読み頂きありがとうございました。


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