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23.イベント 『マンドラゴラのかくれんぼ』

 モンスターが出ないと聞いて意気揚々と森に来た私は、木の棒を拾って茂みをガサゴソと探りながら進む。


「――う~ん、見付からないなぁ。この辺りには居ないのかな?」


 独りごちた直後に木の根に躓き、地面に倒れる。


「痛たたた……」


 森の中は油断ならないな。ちょっとよそ見しただけで足を引掻ける。


「多分、あと一回転んだらリボーンだよね。気を付けないと」


 なんて思っていた私が甘かった。敵はそればかりではない。蔦や飛び出した木の枝、地面の窪みなどが至る所にある。コンクリートの平らな道ばかりを歩き慣れた私は、ものの見事に転んでばかりだ。


「はぁ~、リボーンばっかりで疲れちゃった……。所持金も大分減っちゃったよ」


 近いとはいえ、いちいちリッシュの森まで戻って来るのは大変なのだ。転ばないように神経を使っているのが一番の理由かもしれないけど……。


 横着だけど木の根に座り込み、目だけで探す。手掛かりは揺れる黄色い花……黄色い花……。


「――そんな簡単に見付からないか。お水飲もう……」


 腰の後ろに付けたホルダーに手を伸ばして固まる。ひえっ! う、後ろに何か居る⁉ そーっと目線を動かすが、やはり茶色いっぽい何かがワラワラと居る。


 バッと視線を前に戻し、心の中で「嘘でしょう⁉」と叫ぶ。モンスターは出ないんじゃなかったの⁉


 怖いもの見たさというか、正体を確認しなければという使命感に突き動かされ、もう一度ゆっくり振り返る。


「ち、近っ⁉」


 まん丸の黒くてつぶらな瞳が至近距離で私を見つめていた。慌てて体を引くと、向こうもテテッと二歩下がる。その子も含め、楽し気に体を揺らすのは五匹。


 ま、まずい。囲まれた……。冷汗が背を伝い落ちていく。


「ドラ~♪」


 攻撃する気はないのか、仲間同士で顔を見合わせたり、手というか枝? を動かして会話らしきものをしている。


 その隙にそろりと立ち上がろうとすると、一斉に距離を詰めて来る。ひっ⁉ 逃がすものかという事⁉ 仕方なくもう一度座ろうとすると、ポケットから折り畳んだ紙が落ちる。あ、ギルドで貰ったやつだ。


 広げると、『WANTED!』と書かれた下に絵が描かれている。……ん? これと似ている気がする。


 目の前のモンスターと見比べていると、向こうも紙を覗き込んで来て、ご丁寧に同じファイティングポーズを取ってくれた。どうもありがとうございます。


 もう一匹も見比べながら「ドラドラ~」と言うと、真似している子が目を細める。あっ、睨んでいるような顔だからか! 凝り性だねぇ~。


 ええと、背は60センチくらい。足は二股になった木の根。腕は枝。頭にはタンポポらしき植物の葉がもっさりと茂り、花も三つ咲いている。


 ――うん、そっくり! これは決定でしょう。


「君達がかくれんぼしているマンドラゴラちゃん達かな?」

「ドラ~♪」


 正解と言うように一斉に頷いてくれた。もっさりと茂るタンポポが落ちる事はなかったので、しっかりと頭から生えているのだろう。……すみません。かつらを想像してました……。


「ドラドラ~」


 更に次から次へと森から出て来るマンドラゴラちゃん達。えっ、何匹居るの?


 最終的に総勢20匹が私の周りに集まった。その中から、タンポポの花ではなく綿毛のマンドラゴラちゃんが、瓶を捧げ持って出て来る。


「ド~ラ~ラ、ド~ラ~ラ、ドラドラドララ~♪」


 他の子達は表彰式に流れる、ヘンデルの『見よ、勇者は帰る』を口ずさんでいる。指揮をしている子も居て非常に楽しそうだ。


「ドラ~♪」

「え? 私にくれるの?」

「ドラ」


 い、いいのかな? ここまで盛り上げて貰って断るのも何だし、ありがたく受け取っておこう。


「ありがとう。大事にするね」

「ドラ!」


 満足気に頷くマンドラゴラちゃん達。最初はどうしようかと思ったけど、可愛くて良い子達だ。見回すと頭に生えているものが三種類ある事に気付く。タンポポの花、綿毛、マイクロトマトのような赤い実だ。


 実が食べられるかも気になるけど、それよりも心奪われるのは綿毛だ。ふーってしたい! 綿毛をお空に飛ばしたーい! でも、頭に生えているのなら髪の毛のようなものだろう。ハゲにしてしまう訳にはいかない。グッと堪えて話し掛ける。


「贈り物のお返しがしたいな。良かったら私とかくれんぼしない?」


 皆が一斉に両手を上げて飛び跳ね始める。


「うわっ⁉ え、えーと、喜んでくれているのかな?」


 ガクガクと激しく頷く。あーっ、実が、綿毛が! 落ちる、落ちちゃうよ!


「わ、分かったから! 落ち着いて!」


 何とか落ち着かせて、木に顔を伏せて数え始める。


「いーち、にー、さーん……」

「ドラ~~~!」


 それ行け~! とばかりに叫んで走り去って行く音がする。う~ん、全員捕まえられるか心配になってきた……。


「もういいかーい?」

「ド~ラララ~」


 まずい、どちらか分からない。そう思って顔を上げると、視界の中に信号機のような物があり、赤から青に変わった。それに、『0/20』の表示もある。


「うわぁ、便利~。さすが、ゲームの世界だね! よし、行くよ~!」


 気合は十分だけど、リボーンしてマンドラゴラちゃん達をお待たせする訳にはいかないので、慎重に歩いて探す。


「どこかな~? ――うん?」


 見間違いだろうか……。あれって隠れているのかな?


「え、ええと、みーつけた?」

「ドラッ⁉ ドラ~♪」


 びっくりした後に、『やるな』という感じで私の足を軽く叩くマンドラゴラちゃん。だ、だってね、木に擬態しているつもりだったんだろうけど、全身晒していたからね⁉ 突っ込みたいけど突っ込めないもどかしさ。あ~、「隠れていませんから!」って叫びたい!


 その後も心配する必要などなかったという位に次々と見付ける。ゲームが始まったばかりだから難易度が低いのかな? 皆、「ここだよ~」っていう感じでアピールしてくるんだよね。


「はい、最後の子も見付けたよ~」

「ド~ラ~」


 綿毛をピコピコ揺らしてアピール? していた子を捕まえる。私の後ろをゾロゾロと付いて来た子達が嬉しそうに飛び跳ねてから、私の前に一列に並ぶ。


「どうしたの?」


 すると、次々と瓶を渡される。えっ、またお礼⁉ 流石に受け取れないので、そっと押し返すと涙目になって葉が萎れる。


「そ、そんなに落ち込まないで。ね? あ~、どうしよう……サポウサちゃーん!」


 困った時のサポウサちゃん頼み。思わず天に向かって声を上げると、空から飛行物体がグングン迫って来る。


「はーい。お菊さん、どうされましたか?」

「サポウサちゃん! 助けて~」


 あらましを説明すると、メールについて教えてくれた。一斉メールでイベントの詳細などが届くらしい。この世界でアドレスを交換したのはマハロさんだけだったので、怪しいメールだと決めつけて見ていなかったのだ。


「お菊さん、添付された画像も開いて下さいね。その紙のようにモンスターの絵があったりしますから。今日は口頭でご説明させて頂きますね。『マンドラゴラのかくれんぼ』は、見つけ出すと睡眠薬、毒薬、麻痺薬、小回復薬、またはレアアイテムのマンドラゴラの悲鳴のいずれかが貰えるんです。ですから、遠慮せずに受け取ってあげて下さい」


「あ、あはは、お騒がせしました……。ありがたく頂きます」


 受け取ってアイテムボックスにしまっていると、サポウサちゃんが呟くのが聞こえる。


「これは条件をクリアしている?」


 条件? なんの事だろう? でも、必要な事だったら教えてくれるだろうと受け取りに集中する。陶器とかガラスの入れ物だから慎重さが必要なのだ。


 20本目はまた表彰式だった。表彰状を貰うように左手、右手の順に出して受け取ってみた。こんな風にするのは学生以来だよね~。懐かしい。


「お菊さん、ちょっといいですか?」

「うん。どうしたの?」

「道でタンポポのような花を拾いませんでしたか?」


「タンポポ? うん、森に来る途中で拾ったよ。摘んだのを誰かが落としたのかなぁと思って。――ほら、これ」


 取り敢えずアイテムボックスに入れておいたのを取り出す。


「やっぱり。これはマンドラゴラの花です」

「そうなの⁉ 大変! ハゲちゃった子が!」


 慌てて近くの子達を見回すと、彼等も自分の頭を慌てて触って確認している。


「よ、よかった。みんな三本あるよ」


 安堵の溜息を皆と一緒に「ほ~」と吐いていると、サポウサちゃんがいつかのように蹲って震えている。そうだよね、ハゲちゃった子の事を考えたら心が痛むよね。


 しゃがんでそっと背に手を当てると、「ぶくくっ、ぶ、ぶはっ」と聞こえてくる。あれ? まさかの爆笑?


「あ、あはは、苦しい! ハ、ハゲ。マンドラゴラがハゲ! ぶはっ、あははは!」


 ツボを刺激してしまったようだ。マンドラゴラちゃん達は、ゆさゆさ揺れながらサポウサちゃんを見ている。怒っていないようだけど、これは非常にデリケートな問題だから注意しとかないと。


「もうっ、一大事でしょう。植毛? 植花? 出来るかな?」

「植毛! あ、あははっ、お腹痛いっ」


 更に刺激してしまったようだ。サポウサちゃん、この手の話題がツボなのかな?


「他の子は? 森の奥かな?」

「ドラ? ドララ~」


 首を横に振られる。奥じゃないってことかな? うーん、言葉が分からない。


「ぜ、ぜはぁ……ふ~……。お菊さん、マンドラゴラはこれで全部ですよ」


 息切れ状態になるまで笑ったサポウサちゃんが教えてくれた。マンドラゴラちゃんが背中を撫でてあげているので、本当に怒っていないようだ。


「え、でも全員三本あるよ?」


「はい。それはイベント用に用意されたもので、彼等のものではありません。道に落ちているマンドラゴラの花を拾うかで彼等の対応が変わります。通常ですと、一匹見付けたタイミングで薬が貰えます。揃って順番に渡す事はしません。それと、レアアイテムを貰えるかの確率もアップするんです」


「そうなんだ。踏まれたら可哀想だから拾っただけなんだけどね」


 私って運がいいなぁと花を見つめる。すると、タンポポとの違いを見付けた。がくと花びらの間に赤い線が走っている。えへへ、一つ学んじゃった。


「そうだ、お菊さん。綿毛に息を吹き掛けたいと思いませんでしたか?」


 サポウサちゃんが悪戯っぽい表情で聞いてくる。


「うっ、お見通しなんだね。でもね、グッと堪えたよ。ハゲちゃうもん」

「ぶふーっ! そ、そうですね、ハゲ、ぶくくっ、ますもんね……」


 何とか笑いを収めても、まだおかしそうに私を見て来る。


「お菊さんは髪の毛だと思っているんですね。彼等にとってはただの体の一部ですよ。果実が出来て落ちると、一旦全て抜け落ちます」


「す、全てっ⁉ マンドラゴラちゃん……」


 ツルツルになっちゃうの? と目の前に居る果実の子をジッと見つめると、「いやん」という感じで自分の体を抱き締める。いや、そこは頭を隠すべきなんじゃ……。


「はい。お菊さん流に言うと丸ハゲ状態が三日続き、新芽が出ますよ」

「よ、良かった~。ばんざーい!」


 マンドラゴラちゃん達も一緒に万歳だ。皆、ノリが良いね。だけど、次の言葉で凍りつく。


「吹いていたらリボーンしていましたよ」

「……へ?」


 中途半端に手を上げたまま、強張った顔でサポウサちゃんを見ると深く頷かれる。


「綿毛が飛ぶと人が、いえ、マンドラゴラが変わったように凶暴になります。そして、即死攻撃のマンドラゴラの悲鳴を使ってきます。今回はその効果を付与した薬がレアアイテムになっていますね」


 無言でアイテムボックスを確認する。――あった。しかも、二本も……。


「ええと、返却は受付――」

「ドラ~」


 言葉に被せるように首を横に振られる。うぅっ、こんなに可愛いのに即死攻撃……。しかも、怖い薬を普通に渡してきたのよね? 二本も。


「――ん、二本? ……まさか、表彰式⁉」

「はい、そのまさかです。二本も貰えるなんて凄いですね、お菊さん」


 にっこりと笑うサポウサちゃんに引き攣った笑顔を返しつつ、脳裏に蘇った自分の行動に内心で悲鳴を上げる。


 うわぁぁぁん(涙)、私も誇らし気に受け取ってたぁぁぁ!


初イベントです。可愛いけど危険な子! とお菊ちゃんの頭に刻まれた事でしょう。

サポウサちゃん、マンドラゴラを見る度に笑っちゃいそうですね。頑張って耐えるんだよ!


今日の連続投稿はこれで終了です。お付き合い下さった皆様、ありがとうございました。お菊ちゃんと共に、この世界を楽しんで頂けたのなら嬉しい限りです。


お読み頂きありがとうございました。



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