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2.姉ちゃん ~健二視点~

 俺の従姉、角川菊枝。年齢は31歳で、俺より7つ上。俺はいつも『姉ちゃん』と呼んでいる。家が近所なので小さい頃から頻繁に行き来しており、お互いの家でご飯を食べるなんて日常だ。


 茶色く染めた髪は肩につくぐらいで、内側にふんわりとワンカールしている。おでこを隠す前髪のすぐ下にある大きな瞳が印象的だ。肌は白くて、色付いた唇はぷるっとしている。背は確か155cmだったはず。180cmを超える俺からしたら、子供の様な大きさに感じる。スタイルも出るところは出て、抱き付かれると理性が吹っ飛びそうになる。


 ほんわかしていて優しいが、天然というか鈍感さがあって心配になる。ここまで語れば分かるだろう。そう、モテるのだ。非常に。


 本人は鈍感で自分に自信が無いので、恋愛ごとには無縁だと思っているようだ。服装も地味目な感じだが、近付こうとする男は多い。俺は日々、そいつらを牽制し続けた。……非難の目で見られるのは覚悟している。姉ちゃんの可能性を潰しているのだろうから。


 情けないのは承知の上だ。でも、言わせてくれ。俺の初恋なんだよ! ずっと姉ちゃんだけを見て来て、他の女性は考えられないんだよ!


 だが、俺の想いは全く気付かれていない。うちの一族は美形の血でも流れているのか、俺自身もモデルみたいだと言われて、モテる方だと思う。女の子から菓子とかを貰って、甘い物が好きな姉ちゃんにあげると、「健二君、恰好良いもんね。彼女が出来たら紹介してよ?」と言われて凹む事がよくある。


 気持ちを伝えたいけれど、親戚でこれからも会うし、今の関係が壊れるのも嫌だ。悶々としている内に、姉ちゃんは30歳を過ぎてしまった。なので、見合い話が舞い込んで来そうで冷や冷やしている。だが、一応の救いもある。うちと向こうのおじちゃん達は、俺の気持ちを知っているから、待ったを掛けてくれる筈。というか、本当お願いします! 絶対に止めて下さい!


 こんな情けない俺だが、姉ちゃんは頼りになると言ってくれる。せめて、それには応えたい。



☆= ☆= ☆=



「うーっす、常盤さん」

「健二君、いらっしゃい。頼まれていたもの用意してあるわよ」


 この女性は、『時告げの鐘』で一緒に仕事することになった常盤透子(ときわ とうこ)さんだ。姉御と呼びたくなる、爽やかでハキハキした人である。


「口の中に入れるパーツは予備が三個あったから、全部入れといたわ。それで、これを渡す相手は彼女なのかしら?」


「違います。従姉ですよ」


 ドキッとしたが、顔には出さないように堪える。少し肩が跳ねたのは見逃してくれまいか?


「そうなんだ。……はっは~ん。お主、惚れているな?」

「なっ⁉」

「図星ね。ふふふ、乙女ゲームで鍛えた私を見くびって貰っちゃ困るわ」


 赤面するのを堪える俺をニマニマと見て来る常盤さんは、女性層を増やす為に、トップである内藤さんが意見を求めた人だ。普段は乙女ゲームを作るチームにおり、作るだけではなく、プレイするのも大好きだと語っていた。


 なので、『時告げの鐘』にはその意見が多いに反映されている。NPCや人型モンスターとの恋愛や協力も得られ、一人プレイを歓迎、応援している。また、課金を全くしなくても十分に楽しめる仕様だ。まぁ、その分ソフトはお高めだったり、利益を獲得できるようにはしてあるけどね。


 VRで必須のスーツもうちで作った物が売れ筋一位となっている。寝たり座ったままでも使えるが、スーツを着て実際に体を動かせる施設も作って好評を得ている。


 スーツは持ち運び可能なので、環境さえ整えば自宅以外でも再設定なしで楽しめる。ファン同士やクランの仲間で集まり、施設が貸し切りになる事も多い。まさか、リアルでの交流がここまで増えるとは思っていなかった。人は直接会って会話したいものなのかもしれない。施設限定のイベントを考えた方がいいな。


 話が逸れたが、今回貰えるのも女性用に何着か作った試作品の一つだ。だいぶ軽量化出来たので、長時間でも体の負担が少ない。


「揶揄わないで下さいよ。じゃあ、これ貰って行きますね」


「そんなに慌てなくても、もう揶揄わないわよ。それより聞きたい事があるの。少し時間を貰えないかしら?」


「はい、いいですけど」


 顔が真剣なものに変わったので立ち止まる。何か問題でも起きたか?


「ありがとう。健二君の従姉さんは、どうしてこのゲームをやろうと思ったのか聞きたいのよ。私の提案が役に立ったのか知りたいの」


「――それは俺も気になるな」


「「内藤さん、お疲れ様です」」


 我らがトップ内藤さんのお出ましだ。体を鍛えているので格闘家のような雰囲気がある。


「おう、お疲れ。それで、理由は?」

「ロイヤルハニーベアーに一目惚れしたそうです」

「ああ、ロハベか! 良かったな、常盤」


 内藤さんは長いから『ロハベ』と呼ぶようになってしまった。他の人達もそれに慣れて、正式な名前で呼ばなくなってきている。その内、姉ちゃんも『ロハベ』と呼ぶようになったりして。


「ええ! モフモフの可愛いモンスターを増やして貰った甲斐があったわ。それで、どこで見たのかしら? パソコンで?」


「いえ、電車の広告だそうです」


「それなら熊を前面に押し出した広告も作った方が良さそうだな。ちょっと行って来る。――ああ、そうだ。今後も報告頼む。女性プレイヤーの生の声を聞きたいからな」


「了解です。じゃあ、俺も行きますね」


「ええ。健二君、さっさと従姉さん口説き落としなさいよ! 横から掻っ攫われちゃうわよ!」


「ぐはっ⁉」


 背中をバシンと叩かれたのと動揺で足がもつれる。


「な、何を言ってるんですか⁉」

「あはははっ。若いっていいわね~」


 涙目の俺にヒラヒラと手を振ると颯爽と歩いて行ってしまう。悔しいが恰好良い女性だ。はぁ、全く勝てる気がしない……。


健二の恋心はバレバレです。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 嫁に行かれてから後悔するぞ~ 親は、当てにならない、年齢的にヤバいと思ったら、見合い進めるから、ヘタレてたら逃す(//∇//)甘い~
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