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16.初テイム

「到着だね。お菊ちゃん、おんぶがいい? それともこのままがいいかな?」

「え、あ、は――」

「あー、放すのは却下ね。またリボーンしたら大変だよ」

「うっ……」


 痛い所を突かれて考える。う~ん、おんぶの方がマシかな? いやいや、両手が塞がるからナダさんが危険じゃない!


「ははは、嬉しいな。じゃあ、手を繋いで歩こうか」

「はい――って、内心を読みました⁉」

「ううん、口に出ていたよ。お菊ちゃんは正直者だね」


 本当は手を繋ぐのも断りたい所だ。私はただ始まりの鐘に戻れば済む事だけど、NPCの人はリボーンするのだろうか? 大変な事に気付いて血の気が引く。は、早く確認しなきゃ!


「NPCの方はリボーンするんですか?」


「うん? 寿命が訪れるまでは、HPがゼロになると一日この世界から消えて、翌日にはしれっといつも通りにしているよ。HPが尽きた時の記憶は戻って来るとすぐに消えちゃうから、俺達的には日々が繋がっている気がするんだけどね」


 寿命か……。親しくなったNPCの人達が急に居なくなっちゃう日が来るのか。そう思ったら、歩みが止まってしまった。


「どうしたの?」

「……ナダさんも急に居なくなっちゃうの?」


「え? ――大丈夫、消えないよ。きっと俺達は旅人さんより、うんと長生きするから。大丈夫、大丈夫」


 抱き締められて背をポンポンと叩かれる。……良かった。ちゃんと温もりのある体を持つ人達が消えてしまうのは辛いし怖い。


「――安心した?」

「はい。行きましょうか」


 そっと腕が外され心配そうに顔を覗き込まれたので、「ありがとうございます」という思いを込めて微笑むと、ナダさんが目を逸らして口元を手の平で覆っている。ん? 具合悪くなっちゃったのかな?


「……あんまりにも無防備過ぎる。群がる虫共は全力で排除しないと」

「群がる虫⁉ 私、苦手なんです! ど、どこに居るんですか⁉」

「大丈夫。俺が全てを排除するから。守るよ、お菊ちゃん」

「ありがとうございます!」


 虫のモンスターなんて怖すぎる。キョロキョロと辺りを警戒していると、「うーん、手強いな。徐々に距離を縮めるしかないか」と呟いている。え、嘘でしょう? こっちから近付かなくちゃならないの⁉ 怖さのあまりナダさんの服の裾を握ると、手をそっと開かれてしまった。うぅ、皺になるし嫌ですよね(泣)。ごめんなさい……。


「これもいいけど、――こっちの方が安心じゃない?」


 繋いだ手を掲げて悪戯っぽい笑みを浮かべるので、驚きは薄れて感謝に変わる。「ありがとう、ナダさん」と伝え、キュッと握った手に力を込めた。


 そのまま手にしがみつくように平原を進んだけれど、虫モンスターは別の方へ向かったのか遭遇せずに済んだ。だけど、いつの間にか肩を抱かれて密着していたので、別のパニックに襲われたのは余談である。



☆= ☆= ☆=



「――居た。あそこの木の下に居るのが、探していたボールウサギだよ」


 ボールという名前通りに丸くて弾力がありそうな白い体から、銀色の硬そうな二本の耳が生えている。手足が無いけど、あの子どうやって移動するんだろう? 転がるのかな……。


「俺が三日通っても見つからなかったのに、こんなあっさり見つかるとはね。お菊ちゃん、何かSA持ってる?」


「SAですか? ……あっ! 多分、初回特典でレアモンスターとの遭遇率がアップしているお蔭かもしれません」


「あぁ、成程。テイム100といい、お菊ちゃんは凄いね」

「運が良かったんですよ。あの子をどうやって捕まえるんですか?」

「これだよ」


 トワイフルちゃんを攻撃しようとした銃を背中から下ろす。銃身が随分と太い大型の銃だ。ん~……そう、あれだ! ウォーターガンに似ている。赤と黒で構成されていてカッコイイ見た目だ。


「普通の銃とは違うんですか?」


「うん。エフェクトガンって呼ばれていて、魔法や状態異常を起こす薬などを弾丸に込める事が出来るんだよ。勿論、ただの弾丸も撃てるけど、俺はあまり使わないかな」


 説明を聞いて、はたと気付く。も、もしかして⁉


「トワイフルちゃんに撃とうとしていたのって――」


「うん。あの時は睡眠状態になるのを準備していたよ。トワイフルは耐性があるから動きが鈍くなる位だと思うけどね」


 完全に誤解していた。あんなに恥ずかしい思いをしたのに、私の行動って無意味じゃない! 「いーやーっ!」って叫びながらジタバタしたい気分だ。


「ナダさん、誤解してごめんなさい……」


「気にしないで。それだけトワイフルを大事に想ってくれているって事でしょう。俺はそれを知る事が出来たから、あの一件があって寧ろ良かったと思っているよ。――よっと」


 ジーンとしている私に微笑んでくれたナダさんは、会話の片手間に銃を撃つ。物凄くナチュラル過ぎて普通に眺めてしまった。


 ちゃんと当たったようで、ボールウサギの耳が力なく垂れている。……寝ているのかな? って、スルーしちゃ駄目じゃない!


「ナダさん、今モンスター見ていなかったですよね⁉」


「うん。場所は把握していたし、あれだけ的が大きいんだから外す訳がないよ。折角お菊ちゃんのお蔭で見付けられたんだから、逃して堪るかってね」


 確かにバレーボールくらいの大きさだけど、距離もそれなりにある。ナダさんって、もしかして物凄く強い?


「あいつは高速で転がって耳の刃で攻撃してくるんだけど、それが雑草や作物とかを刈るのにうってつけなんだよ。一体でかなりの広さをカバー出来るから、結構注文が来てね。これでようやく農業ギルドからせっつかれなくなるよ。ありがとうね、お菊ちゃん」


「いえ、私は何も。あとはテイムすればいいんですか?」

「うん。お菊ちゃんは初テイムかな?」

「はい。どうやればいいんでしょうか?」


「手の甲を上にしてピースを出してくれる? そうそう。それで、指の隙間を閉じて対象をさし、『テイム』と言ってごらん。――あ、いや、待って!」


 慌てて腕を掴まれて首を傾げる。私、間違えていたかな? お寿司を握る時みたいにすればいいんだよね?


「初めてなんだよね? それなら自分の選んだモンスターをテイムしたいかなと思って」


「ああ、そういう事でしたか。お気遣いありがとうございます。でも、私はそういうのにこだわりがないですし、預モンの役に立てる方が嬉しいです」


「そっか。じゃあ、お願いしちゃおうかな」

「はい、任せて下さい!」


 テイム100の効果は如何に? ビシッと指さして――。


「テイム!」


 アニメの様に自分が技の名前を言う日が来るとは思わなかった。ちょっと恥ずかしいけど、大きめの声で言ってみる。ゲーム内って開き直れるから、自分の殻を壊すのに役立つかもしれない。


 言った直後に指から縄のような黄色い光が飛び出ると、ボールウサギをぐるぐる巻きにしていく。う、うわぁ……。何だかとても罪悪感を刺激される光景だ。縛り上げてごめんなさい。


「うん、成功だね。失敗すると、光が弾け飛んじゃうんだよ。抵抗は感じなかった?」


「はい、全く」


「そっか。俺はテイム80を持っているんだけど、強さやレア度が上がる程、激しい抵抗に合う。お菊ちゃんのテイム100だとどうなるのか、凄く気になるよ。依頼が来たら、またよろしくね」


 頷きたい所だけど、私は自分を守る事すら出来ない。今回は弱いモンスターだから何とかなったけど、ナダさんのお荷物になるのは嫌だ。


「……俺と一緒は嫌かな? そうだよね、セクハラ野郎だもんね……」


 答えられないでいると、ズーンという音が聞こえそうな程に落ち込んでしまった。お、おかしいな。私、セクハラされた覚えはないんだけどな。


「あの、違うんです! ナダさんは優しいから私を守ろうとしてくれるでしょう? でも、それはよりナダさんを危険に晒す事になるから……。だから、もっと頼りになる人と一緒の方がいいです」


「俺はお菊ちゃんがいいな。こう見えて俺、現状では人間の中で五指に入る強さだよ。テイマーの中ではトップだし、ただ頼りになる奴より、俺を心配してくれて寄り添ってくれる人の方が何倍も有り難いんだけどな。俺の経験上、そっちの方が上手くいくよ」


「……本当に私でいいんですか? ものすごーくお荷物ですよ?」

「俺はそうは思わないよ。側に居てよ、お菊ちゃん。駄目?」


 ここで嫌と言ったら、ナダさんを嫌いと言っているのも同然な気がする。う~~~、よし、開き直っちゃえ!


「分かりました。全部ナダさんの責任ですからね。どれだけ後悔しても、文句は受け付けませんよ!」


「勿論だよ。あ~、これからより仕事が楽しくなりそうだな。いや、なる。断定だよ」


 ニコニコで私の手を取るナダさん。直後に手の甲に落ちた柔らかな感触に棒立ちになる。い、今、「ちゅっ」ってしましたよね⁉ 「ちゅっ」って!


「よろしく、お菊ちゃん。俺の隣へようこそ」


 蕩けそうな笑顔まで見せられて、ボフンと赤面した私は声を出す事もできず、心の中で「ひゃ~~~っ⁉」と悲鳴を上げる。が、外人さんめ。甘い台詞と行動を次々と繰り出して来る。日本人がどれだけ恥ずかしがり屋か分かっていない! もうっ、こうしてやる!


「あはは。お菊ちゃん、じゃれているの? 可愛いなぁ」


 ペチペチ腕を叩く位じゃ痛くないらしい。防御力が憎い……。


「もう少し二人の時間を味わいたい所だけど、そろそろ帰ろうか。あの子に触れて名前を付けると一緒に行けるようになるからね」


 またもや出た甘い台詞にジト目になりつつ、名前を考える。すぐに他の人に引き渡されるのだろうから、凝った名前はやめよう。


「『ボール1球』にします」

「ぶはっ⁉ お、思い切った名前だね。俺にはない発想だな」


 笑われてしまった。モンスター名の一部と数字で良いと思ったんだけどな。


「ナダさんは普段どうしているんですか?」

「俺? A~Zを使い回しているよ。あとは数字とか」

「似た様なものじゃないですか。笑うなんて酷いです」

「そんな事ないよ。生き物に『球』だなんて中々思い付かないって」


 その後も、ああでもないこうでもないと言い合いながら、楽しく帰路についた。


ナダさん浮かれていますね。完全にセクハラ野郎だ! と脳内をよぎった方も多いかと思います(笑)。トワイフルがこれを知ったら意地でも付いてきそうですね~。噛まれないように自重してくれるといいのですが。


お読み頂きありがとうございました。

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