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1.熊さんに一目惚れ

「健二君ってゲームに詳しいよね?」

「まぁ、そこそこは。姉ちゃん、どうしたの? やりたいゲームでもあるのか?」

「うん! あのね、『時告げの鐘』っていうゲームで――」

「ぶっ⁉ げほげほっ、げほっ!」

「だ、大丈夫? 健二君、しっかり」


 飲んでいたお茶が変な所に入ったのか、酷く咳込んでいる。背中を撫でつつ顔を覗き込む。治まってきたかな?


「ふぅおっ⁉」


 顔を上げた健二君は私を見るなり、変な叫びを上げて椅子の上で仰け反る。


「ごめんね。近付き過ぎだった?」

「だ、大丈夫。……そうだ、俺は大丈夫、大丈夫……」


 赤い顔で自分に言い聞かせている。よっぽど苦しかったんだなと思わず頭を撫でる。よしよし。


「――って、大丈夫な訳あるかっ! 姉ちゃん、俺、もう大人だから!」

「でも、健二君は幾つになっても私の従弟でしょう?」

「だーーーっ!」


 叫んで頭を抱える健二君を、おじちゃんとおばちゃんが笑いながら見ている。


「健二、ファイト!」

「母さん、お黙りになって!」


 がばっと顔を上げた健二君が叫ぶと、おばちゃん達のニヤニヤ笑いが深くなる。昔から仲良しなんだよね、羽田親子は。健二君は苦虫を噛み潰したような顔をしながら咳払いをし、手招いてくる。


「姉ちゃん、俺の部屋に行こうぜ。パソコンで調べてやるよ」

「ありがとう! 健二君ってやっぱり頼りになるね!」

「そ、そっか? なんか照れるな……」

「健二、部屋に二人きりだからって、変な気を起こしちゃ――」

「父さん、お黙りになって! ほら、姉ちゃん、早く行こうぜ」

「ふふっ、仲良しね」


 背中を押されながらお二人に手を振ると、楽し気な顔で「ごゆっくり~」と手を振り返してくれた。



☆= ☆= ☆=



「そんで、『時告げの鐘』だっけ? ゲームにほとんど興味の無い姉ちゃんがどうしたんだよ?」


「あのね、電車の中の広告で見たんだ。テディベアみたいな熊さんが凄く可愛くて、一目惚れしたの!」


「あー、あの熊ね。あれはモンスターで、『ロイヤルハニーベアー』って言うんだ」


「さすが、健二君! 詳しいね~」

「ま、まぁな。――ええと、これだろ?」


 健二君がささっとページを開いて、私に見やすいようにノートパソコンの画面を向けてくれる。そこには電車のドア上にある画面で見た映像が繰り返し流されていた。


「そうそう、これ! うわ~、何度見ても可愛い~。ねぇ、これを見るにはどうすればいいの?」


「これは公式HPだよ。今はβテストが終わった所だな」

「テスト? まだプレイ出来ないって事?」

「ああ。ゴールデンウィークからだな」

「そっか~。まだ先だね」


 画面の端っこにチラッとしか映らない熊さん。金の王冠と豪華な赤マントを身に着けている。見惚れていると、一緒に眺めていた健二君が背もたれから体を起こす。


「そうだ、姉ちゃん。これさ、VRスーツが必要なんだよ」

「なーに、それ?」


「ゲームするのに必要な機器だよ。結構高いんだけど、大丈夫か? 確か最新のだと二十万位したかな?」


「えっ、そんなに⁉ 他にも必要な物ってある?」


「ソフト予約しないと駄目だぞ。これ発売前から人気出てるからな。それに色々と設定しなきゃならないし」


 思わず悲しい顔になってしまう。私、そういうのを上手く出来た試しがない……。


「ね、姉ちゃん、そんなに落ち込むなって。俺がやってやるよ。な?」


「いいの? 健二君、忙しいでしょ? 最近ずっと帰ってくるのが遅いって聞いたよ」


「今はちょっと忙しいけどさ、それ位の時間は作れるよ。あっ、そうだ! ちょっと電話させて」


「うん、いいけど。部屋出てようか?」

「平気。むしろ居て」

「うん?」


 邪魔じゃないならいいかと、大人しく座って映像を見る。剣を手に戦ったり、魔法を撃ち出す男女。確か、アバターって言うんだっけ?


「――そう。まだある? あ、マジで? ちょっと待って」


 健二君が私の肩を叩いて来たので顔を向ける。


「どうしたの?」


「VRスーツなんだけどさ、俺の知り合いの女性が二、三回着ただけなら大丈夫? やっぱ新品じゃないと嫌か? 試作品だけど性能に問題は無いし、タダで貰えるんだけど」


「えっ⁉ いいの? 欲しい!」

「了解。――ははっ、聞こえた? つーことで、よろしく。――おう、またな」


 期待の籠った目で見つめると、ニカッと笑ってくれる。


「交渉成立。貰える事になったよ」

「やったーーー!」


 思わず抱き付くと、凄い勢いで引き剥がされる。


「ちょっ、姉ちゃん、慎みを持とうな⁉ 俺だから良いようなものの……ブツブツ……」


 途中から小声過ぎて良く聞こえない。俺だから良いなら、いいんじゃないの? もう、照れ屋さんなんだから。


「……はぁ~。俺、試されているのかな……」

「ん?」

「いや、何でもないよ。ソフトも俺の伝手で初回限定版ゲットしてやるよ」

「本当⁉ 嬉しい!」


 この喜びを伝える為に、もう一度抱き付かなくては!


「待った! 抱き付くのなし!」

「え~」


「え~じゃない! ったく。初回限定版はレアモンスターの遭遇率アップとレアアイテムプレゼント、SAP(スペシャルアビリティポイント)0でSA(スペシャルアビリティ)を一つ取得、所持金大幅アップだな」


「それって凄いの?」


「あー、姉ちゃんには良く分からないか。……そうだな、こう言えば分かるか? ロイヤルハニーベアーはレアモンスターなんだよ。だから、遭遇率アップすれば、テイム出来る確率が上がるだろ」


 テイム? と首を傾げる。ゲームをすれば熊さんに会えるんじゃないの?


「そこからか。見るだけじゃなくて触れ合いたいだろう? だったら、テイマーになって仲間にしないとな」


「モフモフと触れ合えるの⁉」


 衝撃のあまり健二君の腕をガシッと掴む。


「姉ちゃん、凄い食いつきだな……。どんだけ気に入ってるんだよ、熊」


「だって、だってね、夢みたいじゃない! あの可愛い熊さんを撫でたり出来ちゃうんだよ⁉ きゃーっ!」


 にやける頬を両手で押さえていると、呆れたように苦笑しながら、健二君が椅子に座り直す。


「姉ちゃんは体を動かすのって、あんまり得意じゃないよな?」

「うん、そうだけど。ゲームで必要なの?」

「大ありだよ。じゃあ、アクションパックじゃない方がいいな」


 画面を覗き込むと、アクションパックという物と、ターン制バトルパックという物がある。


「この二つは何が違うの?」


「自分で体を動かして敵を倒すかの違いだな。ターン制はド○クエみたいって言っても分からないか……。えーとな、選択肢を選ぶとキャラがその通りに動いて、次は敵が動く。どちらかが倒れるまで、それを繰り返す感じだな。姉ちゃんは武器持って敵と直接戦うのは嫌だろ?」


「うん。という事は、皆は直接戦ってるの? うわぁ~、凄いね!」


 格闘技やっている人とかは有利なのかな? 私は相手を攻撃した時に感じるであろう体の感触や罪悪感とかは遠慮したいなぁ。


「まぁ、それが醍醐味っつうか。楽しみ方は人それぞれだけどさ。食事を楽しみにしている人も居るんだぜ」


「ゲームの中で食べるの? ――んん? どうやって味が分かるの?」


「舌にある味蕾を刺激するんだよ。VRスーツには、それ用のパーツがあるからさ。あ、でも安心してくれよな。舌の上に載せるパーツは新品だからさ」


「うん、ありがとうね。でも、そこまで凄いとゲームっていう感じがしないよ。別世界で暮らしているみたいだね」


 人や様々な生物が居て、町があって。AIだって、それぞれに何かを考えたり感じながら過ごしているんだよね? 私がそこに飛び込んだら、同時に二つの人生を歩んでいるみたいに思うのかな?


「そうだな。現実では中々出来ない事を、思い切ってしてみるのもいいんじゃないか? 姉ちゃんは何かないのか? したい事」


「あのね、ミニスカートを履いてみたいんだ! 髪の毛も金髪にしちゃおうかな?」


 女の子なら普通にしていた事なのかもしれない。でも、私は自分の容姿に自信が無くて、結局一度も履かずに30歳を迎えてしまった。


「姉ちゃんのミニスカ……。うわぁ、超見てぇ。絶対可愛いだろ……。やっぱり俺もプレイしようかな? でもな、次のプロジェクトが動き出すし……あーっ、時間が足りねぇ!」


 自分の考えに没頭していたので、健二君の言葉を聞き逃してしまった。申し訳ない事をしたと慌てて聞き直す。


「ごめんね、聞いていなくて。もう一回言って貰える?」

「えっ⁉ あ、いや、寧ろ聞かれてなくて良かったっていうか……」

「あ、独り言だったんだ? はぁ、良かった~」


 無視していなかったのならいいのだ。お姉ちゃんだし、健二君は大事な従弟だ。悲しませるような事はしたくない。


「届いたら俺が全部設定とかしてやるからさ。楽しみに待っててくれよな」

「うん! やっぱり健二君は最高だよ!」


 嬉しさで我慢出来ずにガバッと抱き付くと、また高速で引き剥がされる。あ~、もう照れ屋さんなんだから~。


「だから、慎みを持てって言ってるだろ! はっ⁉ まさか、俺以外の男にもこんな事してるのか⁉」


「そんな訳ないじゃない。もっと若くて可愛い子ならいざ知らず、私だよ? 変態! 痴女! って叫ばれちゃうよ」


「はぁっ⁉ そんな事言う奴がいたら俺がぶっ飛ばす! それより、姉ちゃん無自覚過ぎだから! 目は大きいしスタイル良いし可愛いんだからな!」


「へ? ふふふ、ありがとう。健二君は昔から優しいよね~。よしよし」


 頭を撫でると、「駄目だ、こりゃ……」と言いながら項垂れる。この隙にいっぱい撫でちゃおう。照れてすぐ逃げるから、毎回撫で足りないのだ。うん、小さい頃から変わらない少し硬い髪の毛だ。幼く可愛い弟分だと思っていたのに、気付けば撫でる頭はだいぶ高い位置になっていた。今ではしっかりして頼りになって、まるで健二君の方がお兄さんのよう。今回もお世話になります、大事な従弟殿。


VRMMOを書きたいなぁと思って始めてみました。作者の息抜きというか、とにかく楽しく書きたいという欲求の元に書いているので、至らぬ点が多いかと思いますが、華麗にスルーをお願いします。それでも構わないよという方はまた覗きに来て下さると嬉しいです。更新は不定期鈍足の予定です。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] この従兄弟さんの人脈凄すぎるな、、、まさか運営の人?
[良い点] 面白そうです。頑張って下さい [一言] ロイヤルハニーベアー、まさか黄熊プゥ…?
感想一覧
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