人型モスキートのモス
なんでこんなものを書こうと思ったのか。
「悪い、こんなこと言いたくなかったし言う日が来るとは思わなかったよ」
「え?」
切なそうなその声を聞くと胸が張り裂けそうになる。
けれど、言わなきゃいけないのだ。
「お前と暮らしてきて早2年。もう限界なんだ、出て行ってくれ!」
「…………いやいや、ちょっと待てや。ワイの何がダメだって言うんや」
この期に及んで分からないなんて。どう考えてもお前と生活していくのは無理だろう。
だって、
「だってお前……蚊じゃん」
「…………」
真っ黒な人型に羽が生え、顔面にはくりくりした目玉と細長い管状の器官。お尻からは丸っこい尻尾がついているそのバケモノ。
そいつは何食わぬ顔で答える。
「蚊ァやで、文句あんのか」
あるから出てって欲しいんですけど。
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俺こと小坂壮介は2年前、大学1年の夏にちょっとした発見をした。俺ってば痒みが好きなタチだったらしい。
それからは見かけたら親の仇の様に手のひらで挟んで潰していた蚊を部屋の中で見かけても放置、それどころか露出を増やしてわざと血を吸わせていた。
そして痒みという名の快感を貪って半年、冬になった頃に疑問をもつ。なぜこの部屋に住む蚊は死んでいないのか。かれこれ半年間もこの部屋の中を「プーン」というモスキート音を響かせて飛び回っている。というかむしろ巨大化して拳程の大きさになっているのだ。
それだけではない。
「オウ、ゲンキカ?」
なんて話しかけてきやがったのだ。
これには流石の俺も引いたし、潰してやろうかと思ったが痒みとはかえられない。
なんだかんだと放置しているうちに、巨大化し続け人型になり今に至る。
ちなみに名前はモスキートのモスだ。
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「いやだって、おかしいだろ? うちにお前みたいなのがいるって。友達も彼女も呼べないしさ」
「彼女なんかおらへんくせに。お前がワイを育て上げたんや、責任とって養えや!」
「無理無理、声がでかい蚊のバケモンなんか養えるか」
「逆にええんか?バケモンやぞワシ。お前はワイが巨大化してドン引きかも知れへんけどな、ワイが一歩外に出たらドン引きどころじゃないんやぞ。パニックやパニック」
問題はそこである。この際、なぜ巨大化したかとかなぜ喋るかとかは置いておくとして、どうやってこいつを民衆の目に晒されない場所に放り出すかだ。
「悪いけど、やっぱ山奥に隠れ住んでもらうしか」
「嫌や!ヤブ蚊とかどーすんねん!」
「同類じゃねーか!!」
そう、文明に染まりきった蚊のバケモノは原始的な生活ができないと主張する。
「今更ネットもアニメも見れないとこに住めへん!せやからソウスケはワイを養え!」
「うるせぇバケモン!勝手なことばっかり言いやがって、出てけよ!」
「……おうおう、わかったわこの甲斐性無しが。そこまで言うなら出てったるわこのクソ」
窓を開けベランダに出るモス。少しだけ振り返ると、
「でも、今まで楽しかったやで、ソウスケ」
「……モス」
プーン、と音を響かせ夕闇に沈む街へ飛び立ちすぐに見えなくなる。
これで良かったのか、わからない。きっと良かったのだ。だってこれで友達と家でゲームができる。モスとばかりやっていたが。折角一人暮らしをしているのだ、彼女が出来たら一緒に料理作ったり……これも、モスとやっていた。
俺は、大事な友達を追い出してしまったのだろうか?
わからない。とりあえず、親に連絡を……??
「あいつスマホ持って行きやがったァァ!」
続き、書く日が来るのだろうか?