カッとなって書いた逆ざまぁ
・逆ハー&断罪イベント達成済み。
・悪役令嬢処刑から始まる災害によるざまぁ
カッとなって殴り書いたのでガバガバです。
すみません><;
どうしてこうなったのだろう。
ぼんやりと考える。
私は何も間違えていない。
イベントどおり全てを行っただけ。
ではなぜ、こんなことになったんだろう?
迫りくる死を前に、ぼんやりと考える。
◆◇◆◇◆◇◆◇
私には前世の記憶がある。
前世の『私』は日本人。
『私』はチビでデブでブスの三重苦。
『私』は彼氏いない歴=年齢。
『私』は人とかかわるのが苦手で、友達もいなかった。
『私』は一つの乙女ゲームにはまっていて、それの為だけに働いていた。
『私』はゲームの男の子たちを心から愛していた。
『私』のこよなく愛したゲームは、悪役ヒロイン、という変わった乙女ゲームだった。
星の数のように存在する乙女ゲーム。その主人公のテンプレと言ったら、純粋で、元気で素直。可愛らしい。それでいて芯があって、まるで男の妄想の中でしか存在しない女。
『私』はそんなヒロインが大嫌い。だから乙女ゲームもちょっと微妙。そんな『私』が気に入ったのは、ヒロインが悪役だったから。
この乙女ゲームはライバルがいても、ライバルがヒロインに意地悪をするわけではない。実に正当な事を、正当な方法で注意するだけ。『私』が嫌いなタイプの女達ばかり。
凛として気高く、男にも女にも人気があって、仕事もできる女だったり、しっかりものの姉御肌系だったり、ゆるふわで守ってあげたい可愛らしい系だったり……とにかく、作品が違えばヒロインになりそうな、見ただけで吐き気がする系。
現実にそんな女がいるか!
このゲームは、そんなライバル達をヒロインが罠にはめ、ヒーローを強奪する、いわゆる略奪愛のゲーム。タイトルだって『奪って攫って恋戦 ~待ってるだけがヒロインじゃない~』などという不穏さ。
吐き気がするほどいらだつ女を貶めて、無様に這いつくばらせられた時の爽快感といったら!
一番楽しいのは逆ハー達成したうえで、ライバルキャラ全員を婚約破棄させ、最大ライバルキャラである女を断頭台に送るというもの。
選択肢は一つのミスも許されない。あまりの難しさに攻略掲示板にも悲鳴の嵐。『私』も初めは髪を振り乱し、無意味に叫びながらプレイしていた。
甲斐あって、最終的には目を閉じて諳んじれる程何度もクリアできるようになっていたのは、今の私から思えばドン引きである。自分の前世だけど。
この最大ライバルキャラ、王様の次に偉い公爵家のお嬢様で、攻略キャラクターで難易度悪夢の王子様の婚約者。
王子様は第一王子で王太子。王族貴族の在り方をしっかり学んでいるので、男爵令嬢のヒロインなんて見向きもしない。普通の乙女ゲームのようになれなれしく話しかけたら、即座に不敬罪で捕らわれてしまう。しかもその後まったなしで修道院にGOときた。
なんで無駄にリアルをとりいれた!
ついでにいうと婚約者であるライバルキャラとの仲は良好である。むしろ理想の女性と本気で思っている。
そりゃあそうだろう。
ライバルキャラのお嬢様は、容姿端麗頭脳明晰。おまけに淑女としての立ち振る舞いは、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花である。おまけに微笑みは大輪の薔薇より美しいときた。揚句、せっせと孤児院に通い、領地視察をしては下々の話に耳を傾け、分け隔てなく優しく、人を見下すこともない。どこの聖人だ。ぺっ!
大っ嫌い!
まぁこんな超人様を婚約者にもっている、やっぱり完璧貴公子な王太子様が難易度高いのは仕方ない。でも正統派王子様なので絶対にはずせない。落とすとうっとりするほど完璧なエスコートと、流麗な言葉での甘い愛の言葉をくれる。『私』が一時期目覚ましを彼のボイスにしていたほどだ。
ほかの攻略者はテンプレどおりに王太子のとりまき。
一、宰相の子息。伯爵家の嫡男。メガネインテリ系。こいつは良くいるコンプレックスの塊。王子様の婚約者がめっちゃできる女なせいで、女とくらべられ続け、失敗をすることを許されない雰囲気の中育ったせいか、実に捻くれた性格をしている。それをヒロインが愚痴を聞き、励まして励まして励まして、結果ころりと行く。難易度地獄。
ころりといった宰相子息は、甘えたになる。ヒロインにべたべた甘えてこっちの母性本能をぐいぐい刺激してくる。
二、騎士団長の子息。侯爵家嫡男。ちょっと俺様よりで頼れる兄貴系。綺麗系ではなく、男らしい系の見た目。テンプレ脳筋枠。女は守られてりゃいいんだ、という思考の持ち主だけど、ヒロインにがつんと言い返され、たてつかれ、ころり。難易度普通。
ころりといった騎士団長子息は、ちょっとぶっきらぼうだけどヒロインを気遣う硬派な男系になる。乙女心をくすぐるタイプだ。
三、王子の従者で双子の忌子。宰相とは違う伯爵家の子息達。こいつらは二個一。まとめて攻略になる。難易度易しい。
双子というだけで忌み嫌われていて、人の優しさに触れたことがない。王子様に拾われていなければ伯爵家でいびり殺されていたかもしれない。王子様至上主義なので、一緒に王子様をほめつつ、貴方たちも素敵よ! と言うだけでころり。
ころりといった彼らは、ヤンデレ系になり、ヒロインの言動を縛ろうとする。最終的にこいつらでエンディングを迎えると、ヒロインは伯爵家当主を毒殺し、のっとった双子に軟禁される。ただめちゃくちゃに甘やかしてもくれるので、彼らになら軟禁されたいというお嬢様方がネットでたぎっていらっしゃった。
四、最後はチョロ男。ライバルとは別の公爵家嫡男。色男として十四歳ながら浮名を流す、とかいうナンパキャラ。難易度最低。
目があったらその瞬間にヒロインに落ちる。彼は避ける方がナイトメアモード。
謎すぎる。
そんなナンパな男っている?
耳が腐り落ちそうなほど美辞麗句をぺらぺらぺらりーにょと語るその姿は、ネットのお嬢様の笑いを誘うらしい。いや、まぁ、確かに『私』も大笑いしていた。鳥肌立てて。
いろんな意味で癒しキャラだと思う。
と、まぁこんな個性豊かな攻略対象には双子以外全員婚約者がいて、その婚約者はヒロインがこれからすることを全てやっているのにもかかわらず、なぜか攻略者様達に邪険にされている。
意味わからん。
で、全員ライバルキャラの取り巻きで、彼女たちのうち、誰か一人でも婚約破棄されると、ライバルキャラが取り巻きを取り締まれなかった、とケチをつけられて婚約破棄される。ちなみに、チョロ男がすぐに婚約破棄するから、ヒロインが誰とも恋愛しなくても婚約破棄される。ざまぁみろ。
完璧聖人女なんて信用ならないし、当然のことだよね。
で、今生の私は、そんな『奪って攫って恋戦 ~待ってるだけがヒロインじゃない~』のヒロインとして生まれ育っていた。
酷く興奮した。
だって、ヒロインだよ?
これから顔良し身分良しの男どもを全員取り込んで、大嫌いなあの女を断罪できるの!
リアルざまぁでスカッとしてやる。
ゲーム中で正論は言うわ、噂で聞けば聖母のようなことをしているわ、見た目も立ち振る舞いも綺麗で、男にモテるから女に嫌われてるかと言えばそんなことないわ、逆に『淑女の鏡』とか言われて慕われてるわ、本当に苛立つ存在だった。そんな女が冤罪で、しかも今まで愛し合っていた男に侮蔑の眼差しを向けられ、大切に守ってきた国民には手のひら返され、悪女だ魔女だとののしられる。そんな未来を想像したら笑えてくるよね!
一応、ライバル転生逆ざまぁを警戒して、あれこれ手をまわしたけど、無駄に終わった。あの女は一貫してゲームどおりの言動を繰り返し、婚約破棄され、冤罪で今日、断頭台に送られる。
私は今、王太子様の横に座り、処刑場を眺めている。
王太子様は私の嘘を信じて元婚約者様にご立腹である。
騙された、と完全に軽蔑した目で処刑場を冷たく見下ろしていた。
どんよりとして、今にも降り出したそうな空の下、処刑場にあの女が入ってくる。
捕えられ、一週間も牢に入っていたとは思えない。食事も水も満足に与えられなかったはずなのに、ぴっしりと背を伸ばし、真っ直ぐに歩いてくる。
腹立たしい。
下の処刑場付近の庶民の観客席からは、早く悪女を殺せ、とか、魔女を火あぶりにしろ、と野次がとんでいる。
次々に石が投げ込まれ、そのうちのいくつかはあの女に届いた。
傷口から血が落ちていくのが見える。
ああいい気味。
アンタが大切にしていた民なんてこんなものよ。あんたにどれほど救われていたのかなんて、あっさり忘れちゃう。
人間なんてそんなもの。怒りや恨みは死ぬまで忘れないくせに、恩は三日で忘れる生き物なのよ。そんな馬鹿どもを後生大事に守って、ほんと、アンタの人生つまんないままだったわね。
にやにやと歪みそうになる口元をどうにか抑え、表面上は恐ろしさに震え、そしてこんなことになってしまった罪悪感に押しつぶされそうです、と見せる。そうすれば男どもはこぞって私を慰める。
いい気味!
処刑台に上がったあの女は真っ直ぐにこちらを見ている。アンタの婚約者は私の肩を抱き、私に愛を囁いているわよ。どうよ!
けれどもあの女は静かに見ているだけ。その目に悲しみも、怒りも、何もない。ただ、凛とした強さだけがあった。
気に入らない。
そうだ。この断罪エンド、あの女は最後まで凛としていた。それも気に食わない。
「悪女、エスカリーテ! 最後に何か言う事があれば聞いてやろう!」
王太子が憎々しげに睨み付けながら最後の慈悲を与える。
これは、謝罪の言葉を聞いてやろう、という寛大な心を示しているらしい。
ゲームどおりなら、ここであの女は天に向かって両腕を広げる。罪人のくせに、抗わず、逃げもしない潔い態度だったから、とかいうバカみたいな理由で手足が自由って。まぁいいわ。どうせあの女は、言いたいこと言ったらさっさとギロチンで首を落とされるんだから。
あの女は案の定天に向かって両腕を広げた。
『主よ、わたくしは無実の罪にて貴方様の下へと参ります。どうぞわたくしの最後をお見守りください』
それがあの女の最後の言葉。
あの女はこれまでゲームと全く違わない言動をしていたから、どうせ今回も同じ。そう、高をくくっていた。
「主よ、わたくしは無実の罪にて貴方様の下へと参ります。どうぞわたくしの最後をお見守りください」
ほらね。
「……転生ヒロイン様、逆ハー断罪エンドおめでとう。同時に、破滅エンド、おめでとう」
にやり、と笑うあの女。
は!?
はぁ!?
あの女、今なんて言った!?
あいつも転生者なわけ!?
ハッ! でも今更関係ない! だって私が勝ったんだもの。私が勝ったから、あの女は死ぬの!
転生者による逆ざまぁも今更ありえない!
所詮は負け犬の遠吠えよ。気にする必要はない。
あの女はゲームどおり、処刑人が無理に歩かせようとする前に、自ら断頭台前に移動した。
その姿は、まるで玉座に向かう女王さながら。
野次を飛ばし、石を投げ込んでいた平民は、あまりの気高さにぽかんと口を開いたまま硬直している。それは、あの女が断頭台に頭を乗せてもなおらない。
攻略者達も彼女の堂々とした姿に、目を奪われていた。しかし、すぐに忌々しげに睨み付ける。最後の最後まで、と。
「執行しろ!」
王太子の号令と共に、あの女の体が固定され、刃を持ち上げていたロープが切られる。
鋭利な刃は、ごうっと音を立てて落ち、そのまま女の首も落とした。
これで、これで、逆ハー断罪エンディングが完成した。これから、私は王太子妃として幸せな道を歩むの。
そう思った時だった。
ぎゃぁああ、と悲鳴が聞こえた。
驚いて刑場を見ると、執行人が炎に包まれていた。必死に炎を払おうとするも、炎はあっという間に執行人を飲み込み、続けざまに処刑台のすべてを飲み込んでいく。あの女の死体以外の全てを。
何が起きたのか、理解ができなかった。
炎は、あの女の死体を守るように渦巻いている。
続いて空を覆う、今にも降り出しそうなぶ厚い雲からガァンガァンと雷が降り注ぐ。それは、街中と、王宮に落ちていた。処刑場の高い位置に座る私たちの目にははっきりと見える。
雷が、雨のように王国中に降り注いでいた。
何が起きているの?
呆然とする私たちをあざ笑うかのように、炎はあの女の死体を焼くこともなく、持ち上げた。恭しく捧げるように。導かれるように曇天が割れ、一筋の光があの女の首と胴に降り注いだ。
それは王国を破壊する雷ではない。
なんと言えばいいのか。とにかく綺麗な、清浄な光。
真っ直ぐにあの女の死体に降り注ぎ、あの女の死体は炎と共に光の中に消えていった。
何?
何なの?
何が起きているの?
こんなの知らない。
ゲームにはなかった。
どういうこと?
混乱する私の耳に、あの女が、無実だったんじゃ、という平民どもの弱腰な囁き声が聞こえてきた。
無実の罪で殺された、心優しき乙女。聖女を殺したから罰が当たったんじゃないか。そんな囁きが、下の平民層から、上の貴族層までさざ波のように広がっていく!
ありえない!
あの女はもう死んだ!
今更なかったことにはならない!
だいたい、私達を今更睨むなんて、悪しざまに言うなんて、この国の人間ならしてはいけない!
平民はあっさり手のひらを返して、悪女魔女と罵り、石を投げた!
貴族は邪魔な上位貴族を引きずりおろせるチャンスと、喜んで罪を私以上にでっち上げた!
誰も彼も罪人だ!
私達だけを悪しざまにののしるなんて、そんな体のイイ逃げは許さない!
「水だ!! 水が迫ってきている! 高い所に逃げろ!」
誰かが叫んだ。
刑場の上部を巡回している兵士の誰かだと思う。慌てて立ち上がり、縁の向こうを見た私達は、愕然とした。
この国の近くに川や海のような水源はない。地下水をくみ上げる以外に水を得る方法はない。だから、水害とは無縁の国だというのに、遠くから押し寄せるのは、間違いなく濁流。
恐ろしい勢いで迫ってきている。
最下層の刑場付近にいる平民たちには見えないが、近づいてくる音に恐怖を覚えたのだろう。慌てて走り出した。
兵士の言うとおり上に上がろうとする者。刑場の外へと逃げ出そうとする者。
まるで蜂の巣をつついたかのような大騒ぎ。
私は王太子の胸に縋り付く。
こんなの知らない。
こんなの知らない。
なんで……
なんで。
なんで!!
私は悪くない!
ああでもまって、あの女、最期になんて言った?
『転生ヒロイン様、逆ハー断罪エンドおめでとう。同時に、破滅エンド、おめでとう』
あの女!
あの女は知っていたんだ!
あの女はこうなるのを知っていた!
全部、全部全部あの女が悪い!
私が転生者だって知ってた!
私が逆ハー断罪エンドを目指してたって知ってた!
知ってて何もしなかった!
知ってて黙っていた!
全部全部あの女が悪いじゃない!
自分の命使ってざまぁ!?
馬鹿なんじゃない!?
私は生きる!
この水害で多少の平民が死ぬだろうけど関係ない。
私は生き残って、イケメン周りに侍らして、楽しく人生送るんだから!
命さえあれば私の勝ちよ!
到達した水が、刑場にぶち当たる。凄い衝撃だった。一階部分も、二階部分も、あっという間に水が入り込み、全てを攫っていった。
残ったのは、最上段にいた王族、上位貴族、それから、礼儀も何もかも殴り棄てて、上位貴族以上が入れる場所に逃げてきた下位貴族と、いくらかの平民。
全員、自然の起こした力の前にただただ呆然とするしかない。
でも勝った!
私は勝った!
水は三階以上に上がってこなかった!
私も、攻略者達も生きている。
あの女のあがきも終わりだわ。
私たちはこの後、傷ついた王国を立て直し、賢王とその夫を支えた心優しき王妃、そして二人を良く支えた臣下、と後世に謳われるようになるだけ。
ざまぁみろ!
ってか、いつの間にか雨降ってるじゃない。それも滝みたいなの。いやだ。水に襲われていないのに濡れてる。
「ねぇ、早く帰りましょう。気持ち悪いわ」
「あ、ああ」
「無理ですよ、マリア」
「この雨じゃ、水がひかねぇ」
「水、引かないと、帰れない」
「水、引かないと、戻れない」
「んー残念だけど、雨が止むまではここで軟禁だね」
はぁ!?
馬鹿なの!?
こんな雨をしのげない場所で、ずぶ濡れになりながら待てって!?
風邪ひくじゃん!
濡れて気持ち悪いし!
大体、雨が止むっていつ止むのよ!
トイレとか、ご飯とかどうするのよ!
つっかえない!
イライラいしても雨は止まないし、かといって、本性出したらまずそうだし。仕方ないから大人しくしていた。
そのまま三日。
三日も雨は止まなくて。
その間ずっと処刑場で足止め。
どうにかしようにも、二階部分まで飲み込んだ水は、相変わらず激しく渦巻いていて、流石の私もその中に入って行って、泳いで王宮へ、なんて無謀な事は思わない。てか、渦巻く水の中に死体が浮いていて気持ち悪い。あんな中を泳いでいくなんて絶対ありえない。
トイレがないからその場で垂れ流し。
双子の侍従が自らの手できれいにしてくれてたけど、最悪! あの双子にはもう金輪際触れてほしくないわね。
それにしてもあの女も、人前で垂れ流させて、よくも、とは思うけど、命をかけてこの程度の嫌がらせなんて、大したことはないわね。
それが、とても甘い考えだった、だなんて思いもしなかった。
何とか雨が止んで、王宮からの救援で城に戻った私達。
ってか、迎えが廃材で無理矢理作ったいかだとかありえなくない!?
いくら水源が近くにないからって、そんな甘い災害対策とかありえなくない!?
イライラしてながら王宮に帰り着く。
王宮は雷の雨が降り注いだせいであちこちが崩れ落ち、火災もあったのだろう。焦げていた。
半壊した王宮で、着替え、食事にありつき、ほっとしたのもつかの間。次なる災難が待っていた。
雨が、降らない。
あの後から、一度も雨が、降らない。
大地はあっという間に乾き、草木も次々干からび、人々は僅かな水を求めて殺しあう。
一人、また一人と倒れ、弱っていく。
最初の水害の被害者である、王国中の死体が渦をなす水に運ばれ、王都中にあふれかえっていて、人員が足りずに片づける暇もなく、あっという間に腐って、酷い臭いが王宮にも漂ってくる。
どうして。
どうして。
どうして。
どうしてこうなったの!?
だって、もうあの女の仕返しは終わったでしょう!?
雷降らして、水害起こして、もう十分でしょ!?
何で。
何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で!!!
何で私がこんな苦しい思いしているの!?
逆ハー断罪終了したなら、この後は障害も何もなく、イケメンといちゃいちゃして幸せ満喫するだけでしょう!?
どうしてこうなったのよ!!
この国から逃げ出そうとしても、国境付近に着くと、どこからともなく水が押し寄せ、あっという間に飲み込まれるらしい。
逃げ出すこともできず、干からびるか水に飲まれるか。
どうしてこうなったの。
あの処刑場で上まで逃げていて、僅かに生き残った国民は、あの女を殺したことを神が怒っているんだ、と言っている。
あの女は聖女で、無実だった。だから神が怒ってるんだって。
聖女を殺した王太子は無能と呼ばれ、聖女に無実の罪を被せた私は悪女、魔女と呼ばれる。
今更何言ってんの!?
あんたらだってあの処刑場で石を投げたじゃない!
国民はこぞってあの女を魔女だ悪女だって言ったじゃない!
今更、何言ってんのよ!
私たちが罪人だっていうなら、アンタ達だって罪人じゃない! 同罪でしょう!?
攻略者達も最近はなんだか私の言葉が嘘だったんじゃないかって疑ってる。でも今更だからね! アンタ達は私を信じた! 自分たちの婚約者を断頭台に送った! そして最後にあの女を殺したのよ!
私は悪くない!
今更手のひら返そうなんて許さない!
「ま、マリア、お、落ち着け!」
青褪める王太子。
はぁ?
落ち着けですって!?
あの女に本当に罪があったのか、とか聞いてきて??
勘違い? そんなわけないでしょう!?
アンタ達に私を疑う権利はない! だってあんた達はあの女に罵詈雑言投げつけ、信じもせず、言い分も聞かずに婚約破棄。投獄。一方的な裁判をして、殺したのよ!
私が言ったから?
ばっかじゃないの?
選んで行動したのはアンタ達でしょう!?
私は悪くないわよ!
自分たちで選んだ結果を私になすりつけようとしないで!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
どいつもこいつも自分で選んだくせに私を悪女呼ばわりしてぇえええええええええええっ!!!
◆◇◆◇◆◇◆◇
宰相子息以下、王太子の側近たちがやってきたとき、既に王太子の命はなかった。こと切れた王太子に延々とナイフを振り下ろし続ける少女を羽交い絞めにし、なんとか引き離す。
しかし、少女は暴れに暴れ、羽交い絞めにしようとした騎士団長子息は利き手の腱を切られてしまう。
双子の片割れは目を抉られ、宰相子息は指を落とされた。
もう一人の双子の片割れが、僅かに生き残った騎士を呼んでくるまでの間の出来事。
その後少女は乱心したとはいえ、王太子を殺害した罪で牢に繋がれた。
元攻略者の彼らは、彼女が追いつめられていたのは知っていた。
元王太子の婚約者の罪を告発したのは彼女。彼女がきっかけで死んだ。そのことで、生き残った人たちが、彼女が嘘をついたんじゃないかと追いつめていた。
もっと自分達が彼女を気にかけ、貴女のすべてを信じている、と伝えておけばあの優しい少女は追いつめられることもなく、狂うことはなかったかもしれない。そんな自責の念を持ちながら、乱心した彼女の姿から目をそらすようにひきこもる。結果、彼女に悪意あるものしか残らず、彼女は牢の中で忘れ去られた。
死ぬまで、水も食事も与えられることもなく。
設定
・悪役令嬢
王国を守護する神様に愛されていたので、神様めっちゃ怒った。
死後、神様に眷属として迎え入れられ、最終的に神様の花嫁になって溺愛される。
・悪役ヒロイン
悪役
自己中が服着てる系
・攻略対象
攻略されちゃった。
悪役ヒロインを心から愛している。最後の瞬間まで愛していた。
・国民
悪役令嬢にめっちゃ助けられてたのに、悪役ヒロインの流した、悪意のある噂にあっさり惑わされた。
・国王夫妻
空気。一応ずっといた。
悪役ヒロインの流した、悪意のある噂信じちゃった。
・悪役令嬢の家族
ダメ夫婦。
娘のことは駒だと思ってた。
危うくなったらあっさり切り捨てた。