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戻りました。





「ん…」



目を開ければ、見慣れない懐かしい天井が目に入る。

矛盾しているようだが、ふとそう思ったのだ。


そう思いぼんやりとしていると、少しづつ頭が覚醒してくる。



「!?」



ガバッと布団をめくり起き上がる。

見慣れない懐かしい天井。

それは、年老いた父母が姉とマンション暮しをする時に手放した生まれ育った我が家だった。



「は?何で?どういうことだ??」



天国は?地獄は?

信仰厚い教徒などでは全くないが、あの世でも病院でもない、ましてや今では実家でもない家に居て、混乱する。



「誠!起きなさい!!」



そう言って扉を開けたのは、姉とよく似た容姿の女性。

だが、姉よりも若い。



「母さん」


「あら、起きてるじゃない。ほら、早く降りて来なさい。今日は合格発表の日でしょ!」


「合格、発表…?」



まだ寝ぼけてると思ったのは、母親は、わざとらしく溜息を吐く。



「もう、しっかりしない!今日は、高校受験の結果発表の日よ!早くご飯を食べて、結果を見てらっしゃい!」



それだけいうと母親は、部屋を出て行った。


ーー高校


ーー合格発表


その衝撃に唖然とする。


何が何だか分からない。


とりあえず確かなのは、同じ過去ならば、高校受験は少し背伸びした第1希望の高校にも合格しているはずだ。


混乱する中、錯乱する勇気もなく、記憶よりもかなり若い母親の言う通り、服を着替え、朝食を食べて、合否を確認するために高校に向かう。



ーーーーー




結果からいうと記憶通り合格していた。



「結果はどうだったの?」



家に帰れば、やきもきした様子で母親が聞いてきた。



「…合格してた」



嘘を吐く訳にもいかず、素直に答えるが、正直言いたくなかった。



「まぁ!良かったじゃない!」



母親は、とても嬉しそうだし、俺も前はとっても嬉しかったが、正直今回はあまり喜べない。



「お姉ちゃんと同じ学校は嫌だって言ってたものね」



そう、前回はちょうど思春期真っ盛りで、姉と同じ学校に行くというのがとても恥ずかしかったのだ。

それもあって頑張って勉強して、少し離れた進学校に入った。


今思うとそんなことしなきゃ良かったと思う。

確かに進学校に入学出来たが、受験勉強を努力してギリギリだったのだ。

授業なんかついていけるわけがない。

部活に入る余裕もなく、ひたすら勉強漬けの日々。

少しづつ分からない所が増えていく。

最後の方は赤点を回避するのに必死だった。

そんな傍らで、青春を謳歌している奴を見る度に、自尊心が削られていくのを感じていた。


アレをもう一度と言われると正直嫌である。


でも、母親は喜んでる…。


グラグラと天秤が揺れる。



「あ、おかえり」



天秤がもう一度同じ高校を選択しようとした時、声が聞こえた。

母親同様、若い姉が2階からちょうど降りてきた所だった。



「合格発表今日だったんでしょ?どうだったの?」


「あー…合格、したよ」



行くしかないが、気が向かないので、少し言い淀む。



「…ふーん。なら、同じ学校だね!」


「は?」



何を言い出したのだこの姉は。



「優子、何言ってるの?」



母親も困惑気味だ。



「だって、誠、なんか嫌そうだし、なら、私と同じで良くない?」


「え?」


「何年アンタの姉やってると思ってんのよ。それくらい分かるわよ」



優子の言葉に驚けば、優子はそう言って朗らかに笑ってみせた。



「あら、そうだったの?なんでまた…」


「あー、うん、受験勉強頑張ったつもりなんだけど、割りとギリギリっぽくて、授業ついてくの厳しそうなんだ…」



我儘を言ってるのが気まずくて、目を逸らしながらそう伝える。

確かに前はそうだったのだが、一応2回目なので、ついていける可能性もあるのに嫌だと言うのだ。



「授業ついてけなかったら、良い所行ってる意味ないよ。授業に遅れるくらいなら、うちの学校できちんと理解する方が絶対将来ためになるって」



優子の援護射撃に母親も心が揺らいだ。

確かに、ここらで有名な公立の進学校に合格した息子は誇らしいが、自分の見栄のために息子が行きたくもない学校に無理に入学させるなんて心苦しい。



「それもそうね。お父さんには、お母さんからも言っておくわね」


「あ、うん。…せっかく勉強させて貰ったのにごめんなさい」



子供は居なかったが、大人になり、お金を稼ぐ大変さを身に染みて体験したあと、自分に掛けられた塾代を考えると心が痛む。



「いいのよ。それも勉強よ」



そう言って笑う母親に、親の偉大さを感じた。





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