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始まる前
ーーああ、こんなのありかよ。
車に轢かれる瞬間思ったのは、その一言だった。
ただ、すぐ前に横をすり抜けて行った中高生くらいの子供がいる事をどこか冷静な自分が気にかけていた。
別に自分はいいや、と諦めがついた。
いつの頃からかかけ間違えたボタンのように、少しずつ人生が狂っていた。
今では、恋人のいない歴＝年齢な中年のフリーター。
人様に迷惑をかけないように、必死に食い繋ぐ日々。
死ぬ勇気もないが、生きたいと願うほどの人生でもない。
ここで死ぬのが１番人様に迷惑をかけないかもしれない。
そうとすら思う。
だから、自分が死ぬのはいいのだ。
だが、目の前のこの子は、どうだろうか？
コンビニから部活仲間と出て来る所を目撃した。
随分とキラキラしていた。
きっと一軍だ。
帰宅部でぼっちだった三軍の俺とは違う。
羨ましい。
妬ましい。
口惜しい。
だが、だからって見捨てても良いのだろうか？
きっとこんな今更人生を立て直せないおっさんと違って、この子が死んだら沢山の人が泣くだろう。
家族
友人
仲間
それにもしもこれがニュースになれば、この子を知らないテレビの向こう側の多くの人が未来ある若者の死を嘆くことだろう。
キラキラした若者がこんな事故で死ぬのはあまりにももったいない。
そう思うと気付いたら身体が動いていた。
目の前の子供の腕を後ろに引っ張る。
まだ未熟な子供の身体は、土木系の日雇いもする大人の力に勝てずに後ろに吹っ飛んだ。
きっと火事場の馬鹿力もあったんだろう。
子供は、きちんと車の射程圏外となったようだ。
良かった。
ーードンッ！
身体に強い衝撃を受けて、視界が暗闇へ落ちた。
