三下と始まり
「そうか…」
俺は現在、丹逢から各々の情報を教えてもらっていた。
琴吹は自殺を決意したようだ。
これは急がないといけない。
「とりあえず行くか」
「何か策はあるのですか?」
丹逢は心配そうに聞いてくる。
上手くいくか心配なのだろう。
「いや、無い」
ずっこけた、リアル(幽霊だけど)でずっこけるの初めて見た。
「そ、そんなんで…」
「予想した未来なんて当たらない」
俺は丹逢の言葉を遮るように言う。
「これは決意して行なう可能性が最も高いものだ。
元凶が明確なわけでもない。
だから、運命なんだよ…。
それを変えるには予想なんかしていたらダメなんだ。
運命を変えるには自分でもわからない程の予想外を作るんだよ。
単純な計算で導き出された答えは簡単に覆ってしまう。
運命は複雑で計算がほぼ不可能の中の可能性なんだ。
それを計算で変えるなんて運命どころか、その人に対しての冒涜だ」
俺はゆっくりと言葉を言い終えて部屋を出る。
丹逢は黙ったままだ。
「なぁ、丹逢…。
この運命は悲しいものだな…」
計算も何も意味を成さない。
それが運命…。
悲しい運命が目の前にあるなら変える。
ただそれだけだ。
「そうですけど…」
「だから、変えにいく。
もう一度前を向いて歩ける未来に…」
前がどこか分からない。
でも、信じる前はどこにだってある。
立ち止まってい続けることをやめる。
それが目的だ。
「ふふふ、威堂さんは所謂厨二…」
「それ以上は言うな‼︎」
「は、はい…」
それをここで言われたら立ち直れない。
少し怯えさせてしまったのは素直に悪いと思っているが、俺の心情的に仕方ないと割り切っておく。
******琴吹******
この日、私の人生は変わる。
遺書を書き、体も清めた。
ゆっくりと置いてあるナイフを手に取る。
ここで死ぬのは迷惑がかかる。
どうせならと思い、部屋を出る。
中庭に私は出た。
城の中で血に濡れても大丈夫な場所としてチョイスした。
時間は現在、真夜中で誰もここに来ることはない。
本来なら城の外で自殺をするつもりだったけど、城から出ることができないので諦めた。
「さてと、警備に見つかる前に始めよう」
私はナイフを取り出してゆっくりと自殺しやすいように持ち変える。
そして、ゆっくりと首に突きつける。
私は少しずつ、昔の記憶を思い出していく。
所謂、走馬灯だろうか?
懐かしくて寂しい記憶の数々…私は親友を二度失っている。
一人は美由紀もう一人は…。
思い出す。
何でもないような事から大事な事まで…。
中学の頃、助けられた事…。
少しだけ武道をかじっていた私はあの時の動けなくて悔しかった事…。
あの時は美由紀とすごかったなと言い合ったものだ。
高校に入って彼を見つけて観察していた。
しかし、あの時見たのとは変わっていた。何が変わったかは私には分からなかった。
でも、たしかにあの時の彼にあったものが彼には無かった。
でも、召喚された時、彼の雰囲気が変わった…いや、戻ったのかな?
あの時見た彼に…。
「ここに来てからも威堂君に助けてもらってばかりだな…」
自然と呟いていた。
心の何処かでまだ期待してるのだろう。
この状況を変えてくれることを…。
けれど、もう遅い。
親友二人の顔を思い出す。
「さよなら…そしてありがとう」
私はゆっくりナイフを動かし始める。
「させるかよ‼︎」
声が聞こえてくる。
でも、その距離だともう遅いんだ…。
ありがとう、最後の最後で期待に応えてくれて…。
意識が揺らいだ。
死んだからではない。
私は何故か自分の持っていたナイフを投げていた。
「ど、どうして?」
私は疑問に思った。
なぜ、私はナイフを投げているのだろう?
だって、私はナイフで自分を…。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッゴホッ…。
ハアハア、何とかなったみたいだな。
言った筈だぞ、させるかよってよ…」
威堂君は血を吐きながら私を見ていた。
彼が何かやったの?
おかしい、だって彼は…。
「全くあんたらは…。
そっか、分かった…いくぞ、琴吹。
また頼まれてしまったからな」
何をと問いたい。
でも、それ以上に私に彼は何をするのだろう。
何故か楽しみで仕方ない。
自殺をすることを諦めたわけではない。
でも、今を全力で楽しみたい。
******威堂******
俺は琴吹がナイフを自分の首に突きつけてるところを見る。
俺は直感的にやばいと思い、走り出す。
「さよなら」
琴吹が放った言葉はとても切なく、儚い。
どこか悲しい気持ちのこもった言葉だ。
「させるかよ‼︎」
何も俺はこの三日間遊んでいたわけではない。
リスクが高いが使うしかない。
『憑依の魔眼』
認識したものに憑依する魔眼だ。
使う相手によって効果時間などが変わる。
俺は琴吹に憑依して、ナイフを投げる。
目的を達成して『憑依の魔眼』の効果を切る。
直後、とんでもない衝撃に襲われる。
痛いというレベルのものではない。
これは死ぬ程苦しい。
「ど、どうして?」
俺はその疑問に答えるように言う。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッゴホッ…。
ハアハア、何とかなったみたいだな。
言った筈だぞ、させるかよってよ…」
琴吹が困惑する。
それも当然のことだ。
もし、俺が琴吹の立場なら、能力を持っていないのにどうして、と思う。
ふと、琴吹の後ろに何か見える。
あれは…霊?
『丹逢、あれについて分かるか?』
『憑依の魔眼』で動けなくなった俺の動作を支えるために俺に憑依している丹逢に問いかける。
『分かりません。
でも、こう言ってます。
私と同じように紗香ちゃんを助けてと』
「全くあんたらは…。
そっか、分かった…いくぞ、琴吹。
また頼まれてしまったからな」
俺は丹逢の補助を受けて立ち上がる。
思った以上に『憑依の魔眼』の反動が大きい。
そもそも、この魔眼は俺にはまだ早い。
憑依することによって一時的に自分の身体と魂を切り離すのでその分の反動が酷い。
血を吐く、動けなくなるなどと酷いものだった。
俺の体を動かす為に丹逢が今俺に憑依している。
要するに万全な状態じゃないのだ。
琴吹が笑う。
俺はこの世界で初めて琴吹の優しくて嬉しそうな笑顔を見たかもしれない。
「何の話か知らないけど、私としても決意を鈍らせる訳にはいかないの」
反動の時間はあと三時間は続くだろう。
その間までにどうにかして食い止めるしかない。
「なら、決意を変えるまでだ。
死んで終わる運命なんざ変えてやる」
「変えられるものなら」
俺達二人は向き合う。
『あの、私の存在忘れていませんよね?』
もちろん、忘れていない。
だから…
『行くぞ!
運命を変えに』
『はい!』
その瞬間、琴吹が動き出す。
俺は腕を交差させて琴吹のかかと落としをガードする。
スドン
そんな炸裂音とともに俺の両腕が折れる。
やっぱり、強い。
俺なんかより倍のステータスを持っているだけでこれほどにまで理不尽な暴力になるのか…。
ー解析結果が出ました。表示しますー
ーーーーーーーーーー
琴吹 紗香 LV13
職業 魔法騎士
MP795/795
str678
vit103
agi986
int655
men98
luk3
スキル
『剣技LV3』
『拳技LV3』
『槍LV1』
『槌LV1』
『弓LV1』
『魔力操作LV2』
レアスキル
『刀LV1』
『銃LV1』
『加速LV4』
『全属性魔法LV2』
ーーーーーーーーーー
ヤバイ、普通に強い。
召喚されただけでもここまで強いのか…。
正直、舐めていた。
でも、ろくに動くことが出来ないから今みたいに守るしか出来ない。
折れた骨を見る。
『促進の魔眼』
見つめたものの成長などを促す。
簡単に言ってしまえば、自然治癒能力を高めて体を治しているのだ。
ギリギリ、見合うレベルの魔眼なので同時使用や連続使用はあまりオススメできない。
『すまない、丹逢は痛くないか?』
『いえ、恐らく痛みなどは宿主に行くようです』
これは便利だ。
遠慮なく攻撃を受けることができる。
痛いのくらい我慢すればいいのだ。
タンッ
琴吹が後ろから現れる。
恐らく、『加速』の能力で後ろに回ったのだろう。
俺は『達人の魔眼』で何とかガードする。
ゴキッ
俺の腕に琴吹の拳かめり込む。
そのまま、もう片方の拳を琴吹は作り腹に叩き込む。
俺はもう片方の手で防ごうとするが、簡単には衝撃をゼロには出来ない。
俺は盛大に吹き飛ぶ。
俺の右腕からは血が垂れている。
左手の防ごうとした手は骨が粉々に砕かれている。
笑うしかない。
勝てるイメージが全く湧かない。
どう考えても負ける。
このままでは俺のSP切れと共に負ける。
悔しい。
琴吹が拳を振りかぶり殴りつけてくる。
いなそうと腕を振るが、俺の腕が逆に吹き飛び、俺は飛ばされる。
俺は倒れ込み、気絶寸前だ。
くそっ何なんだよ。
それは反則だろ…。
くそ、情けないな…。
悔しいな。
あれ、悔しい?
どうしてそんなことを…。
今、俺は倒れている…カッコ悪い。
それは当然だ。
でも、それを許容できるほど俺は聡明だったか?
だって、おれは『三下』だろ?
倒れて地に這いつくばるのは昔から慣れてるじゃないか。
何度だってその度に立ち上がって、何度でも壁に挑んで…学習能力無しに突っ込み続ける。
それが『三下』じゃないか。
無謀に主人公に挑む当て馬。
引き立てる中では、誰よりも諦めてはいけない存在じゃないか。
「これで決まりのようね」
琴吹は俺に背を向ける。
「まだだ‼︎」
『あの、威堂さんこれ以上は命に…』
「黙りやがれ‼︎」
俺は怒鳴る。
琴吹は明らかに目を見開く。
血だらけになりながら、ボロボロで腕が変な方向に曲がっている。
それでも立てる!
立てる限り、何度でも邪魔をしてやる。
「…んでなの?
何で立ち上がるの‼︎」
琴吹が叫ぶ。
琴吹の手に魔力が纏わり付く。
魔法の行使をするのだろう。
「来い!
焼かれようが、氷漬けにされようが、感電しようが立ってやるよ」
直後、無数の焦げ目が俺に付く。
琴吹の動きはさっきの比にならない。
俺は大きく飛ばされる。
壁に当たる寸前に足を地につけて踏ん張る。
焦げ目が付いた場所は火傷になっており、見るに耐えない姿になっていた。
「ハアハア…耐えたぞ」
俺は呟く。
『あなたは馬鹿ですか?
それで耐えたと言われも…』
そうかもな…。
でも、屈する訳にはいかないんだ。
俺はゆっくり歩き出す。
「何で…何で…まだ立ってるの?
こんなにボロボロで今にも倒れそうなのに…」
そうか…俺は今そういう姿なんだな。
無数の魔法の槍が俺を囲う。
火、水、氷、雷、土、風、光、闇の全ての槍が俺に向く。
俺は立ち止まる。
その瞬間、槍は放たれる。
しかし、全ての槍は俺には当たらなかった。
それは恐らく、琴吹の心の揺らぎから起きたミスだろう。
「どうしてあなたは私に期待をさせるのですか‼︎」
ズドンッ
腹を思いっきり殴られる。
俺は血を吐くが、その場に縋るように俺は琴吹の腕を掴む。
「まだだ…」
俺が呟いた言葉を聞いて琴吹は俺を蹴り上げる。
そのままかかと落としで俺を地面に叩きつける。
再び俺は血を吐き、意識が飛びかける。
「ハアハア、これだけやれば…。
死んでいないよね?」
少しだけ琴吹は後ろに下がる。
俺はそれに合わせて立ち上がる。
「嘘…でしょ…」
『それには同感です。
いくら、痛みに関係無く動けるとは言ってもここまでやらせるとは私も思いませんでした』
二人とも驚愕しているが、今の俺には関係無い。
というか、丹逢はどっちの味方だ?
両方か…。
「どうして、あなたは立ち上がるの‼︎」
琴吹の目には涙が流れていた。
辛いのだ。
俺だって辛い。
死にそうだ。
でも、諦める訳にはいかない。
「理念とかそんなもの一々考えるの面倒だろ?
俺は…行動原理なんてものは単純だと思うんだ…。
大層な理由なんか掲げちゃいねぇよ…。
ただ単純に俺は変えたいものがある。
それだけだ…」
意味がわからないという表情で琴吹は首を振る。
「正直、俺も理解できない…。
…でも…それでも…嫌なんだよ…これ以上…誰かを失うのが嫌なんだよ…」
琴吹の口が止まる。
そして、琴吹の動きが止まる。
「俺は…変えたい!
俺の人生よりも何よりも…助けることが出来る運命に変えたい!」
その言葉に誰もが静止した。
たった一つの存在を除いては…。
琴吹の後ろにいた幽霊は俺の目の前に来て笑う。
そして、俺の耳元で確かに言った。
『ありがとう、お兄さんかな?』
よくよく見るとその幽霊は幼い少女だった。
大体小3のくらいだろうか?
「いや、まだ変えていない」
『大丈夫、お兄さんなら出来るよ』
少女が微笑むと同時に俺に変化が訪れた。
力が湧き上がってくるのだ。
ーR1からR2に上がりました。それに伴い『領域の魔眼』と『契約の魔眼』、『叡智の魔眼』の解放がされましたー
一番区切りやすいポイントで切りました。
読んで頂きありがとうございます。
面白いと思って頂けたなら幸いです。