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三下とそれぞれの思惑

 俺たちは部屋に戻り俺はベッドに飛び込む。


「疲れた…」


 丹逢は近くでぷかぷかと浮かんでいる。

 ………


「丹逢、幽霊って飛べたんだな」


「あ、そこのツッコミが入った。

 さっきからずっと浮かんでましたよ」


 少し怒ったようにふくれっ面になる。

 どうやら、気付かなかったのがいけなかったらしい。


「すまん」


「別にいいですけど、あなたしか私が見えないのでそうゆうのに気付いてもらえないと寂しくなります」


 それはそうだ。

 俺しか丹逢が見えない。

 それは丹逢にとって寂しいことなのかもしれない。


「わかった、今度から気をつける。

 とりあえず、琴吹について聞いていいか?」


「はい、紗香ちゃんを見てみたのですが、基本的にずっと引きこもってしまって中々、ベッドにすら出ようとしないんです」


 なるほどな。

 テンプレだな。


「それで、ずっと私の名前を言い続けているんです」


「やっぱり、お前が死んだから…」


「そう…ですよね…」


「落ち込むことは無い。

 お前が悪いわけじゃ無いからな」


 丹逢は少し外を見ていた。

 多分、死んでしまった悔しさがあるのだろう。


「そうか、親友を失うか…」


 俺は後藤が落ちた時のことを思い出していた。

 あいつは、今の所どうしてるのだろう?

 この時ばかりはあいつの役割通りになって欲しいと思う。


 とりあえず、今は琴吹のことを考えようか。

 俺達はこれから先のことを話し始めた。


 ******琴吹******


 誰か助けて欲しかった。

 壁から這い出てくる黒い人型のものは美由紀を貫く。

 私は見ることしか出来なかった。

 そうして、みんな殺されて、最後に私が…。


「やめて…誰か…誰か助けてよ…。

 起きてよ…美由紀…美由紀………死なないでよ…私一人置いてかないでよ…。

 誰か…誰か…助けて…」


 黒い人型のものはゆっくりと私に向かってくる。

 右手に携えた鎌を振りかぶり私の首を刈る…。


 キンッ


 と音が鳴る。

 私は死んでいない。

 どうやら助かったようだ。

 けど、私は死にたかった。

 私の友人である美由紀が死んでしまったことが悔やんでも悔やみきれないから…。

 私は美由紀の亡骸を見る。

 そして、私一人、何で助かったのだろう…。

 私はそっと、自分の持っていた武器で自分を…。














 私は目を覚ます。

 大量の汗でぐっしょりだった。

 しかし、今はそんなことどうだってよかった。


「また、この夢…」


 ずっと、見ている夢である。

 私はその夢を嘘だと言いたい。

 しかし、この前の遠征の時に私は見たのだ。

 目の前で殺された美由紀の姿を…。


「美由紀…何で死んじゃったの?」


 答えの出ない質問を虚空に投げかける。

 勿論、答えるものもいない。

 私はどうでもよかった。

 美由紀だけが、私の唯一の大切だった。

 周りから見たら今の私は酷い顔と姿をしているのだろう。


 それが、どうしたのだというのだろう?

 それをしたから美由紀は戻るのか?

 それをしたから美由紀が死んだという事実は変えられるのか?


 わたしの中でこんな考えが巡り続ける。


 コンコン


 部屋をノックする音が聞こえる。


「どうぞ…」


 返事だけしておく。

 一人になりたいが、何かあるのなら少しでも聞いて起きたい。


「失礼します。

 藍川 霞です」


 声が聞こえてくる。

 藍川さんが入ってきたようだ。

 こんなところに何の用だろう?

 故ノ河君に頼まれでもしたのかな?

 それとも、美由紀が死んだ時に近くにいたから謝りに来たのかな?


 ー放って置いてくれていいのに…ー


「琴吹さん、大丈夫ですか?

 ここ三日は出ていませんけど…」


 よく知ってらっしゃることで…。

 もう、美由紀が死んでから三日なのだ。

 早いのか遅いのか分からない…。

 実際、言われるまで気づかなかったのだから…。


「別に私の勝手でしょ?」


「そういきません。

 頼まれましたから」


「故ノ河から?」


 この子は故ノ河といつも一緒にいる。

 だから、あのお人好しの故ノ河から頼まれて嫌々、来てるのだろう。


「いいえ、違います。

 故ノ河とは最近会っていません」


 明確な拒絶の回答を彼女は口にした。

 本当のことなのだろう。

 よっぽど酷いやつではない限りこの人は嘘を吐かない。

 ならば、なぜここにきているのだろう?


「私は自分の意思でここにいます。

 確かに頼まれましたが、私なりのケジメでもあります」


「頼まれたって誰からよ」


 それを聞くと、彼女は答えにくそうにしながら言葉を紡ぐ。


「威堂 天津からです」


 直後、私は驚いた。

 彼がまさか私を気にかけるなんて思いもしなかった。

 でも、私は放って置いてほしい。

 心を許したくなかった。

 多分、あと一度許したらもう二度と私は失った時に壊れるかもしれない…。


「威堂君がですか?」


 わざと疑うように言う。

 しかし、それに臆することなく藍川は頷いた。


 ーやめてよ…もう期待させないでよ……もう…私に構わないで…期待したくない、もう・・失うことは嫌だー


「とりあえず、ご飯は食べてください」


 藍川は机に器を置いて、食べるように促してくる。

 優しさが痛かった。

 これ以上、構って欲しくない。

 私は一人でいたい。


「…………して」


「何ですか?」


 私の言葉が聞こえなかったのか藍川は聞き返す。


「一人にしてよ‼︎どこか行ってよ!もう、私に構わないで‼︎」


 私は叫ぶ、もう嫌になってひたすら叫ぶ。

 藍川は悲しそうな表情をした。


「わかりました。

 時折、ご飯は持っていきますから食べてください」


 と言って藍川はそっと部屋から出て行った。


「もう、何なの…」


 もうやめてよ、私をどうしたいの?

 私は様々な考えを巡らせる。

 あの時、自分が死んでいたらとか、何で威堂君は私を心配したのかとか統一性の無い考えが延々と繰り返される。


「美由紀…何で死んじゃったの?」


 最終的にここに辿り着いた。

 私はもう何もない…。


 ー期待してるのでは?ー


 心のどこかでそんな思考が浮かぶ。

 期待と言っても何を?


 ー助けてくれることを期待してるのでは?ー


 助けてくれる人なんていない…。

 私の友達はずっと美由紀一人だった。

 これ以上望むものなんて無かった。


 ーなら、あの時、威堂君に抱いた感情は?ー


 ただの憧れだ。

 それ以外の何者でもない。


 ーそれは期待だったのではー


 そうとも言えるかもしれない。

 でも、もう遅いことだ。


 ーでも、私を助けてくれたー


 それは偶々だ。

 私が偶々、生き残っただけだ。

 特別なものなんて何一つない。


 ーでも、また救ってくれるのではと期待してるー


 それもまた事実だろう。

 なら、私はこれ以上期待しない。

 もう、何もいらない。

 私に何も残っていない。

 もう、終わらせよう。

 こんな苦しいことなんて…。


「美由紀…今行くから」


 ******藍川******


「ごめんなさい、説得できませんでした」


 私は威堂に頭を下げる。

 少し前なら考えられなかったことだ。


「いや、元々出すことができないことも分かっていたし、悪いな。

 確か、木葉に頼まれていたことがあるんだろ?

 そんな中、何度も言うが悪いな」


 この人は少し前と比べて丸くなったというか、真面目になったというか…。

 威堂が変わったのは確かだ。

 私は心配してくれることが嬉しくてつい、笑ってしまった。


「やっぱり、あんたの笑顔はズルイな」


 威堂の口からそんなことが漏れる。

 よく、笑顔が可愛いと言われるがここまで反応に困る見られ方はあまりされない。

 ヒソヒソと言われるか直球のどちらかなのに、この人は恥ずかしがりながら言うものだからペースが崩される。

 私は彼への嫌悪は消えていた。

 好きかどうかと聞かれても悩むレベルだが、圧倒的に彼へ対する考えが変わったのは確かだ。


「それで、何で琴吹さんを説得したかったの?」


 私は何気なく聞いてみる。

 それは私にとって聞いておきたいと思っているから…。

 多分、彼がここまで気にするのが驚いているのだろう。

 それだけのはず…。


「ちょっとした償いだよ…」


 威堂は今まで以上にシュンとした表情で呟く。

 私は思わず黙ってしまった。

 彼には彼の事情があるのだろう。

 そこを突っ込む勇気は今の私には無い。

 しかし、琴吹さんに関しては少し気になる。

 木葉のお願いを丁寧にお断りをしてから様子をちょくちょく見よう。


 ******須田******


 強くなりたい。

 そう強く願ったのは何年前だっけ?

 俺は異世界召喚されて、勇者だと知った時はこれで守れると思った。

 俺は木葉のことが昔から好きだった。

 元の世界で俺は告白された方だが、その全てを断り続けていた。

 幼馴染の異性というのに何故か惹かれていた。

 それを守る勇者様という理想を俺は掲げて実のところ遠征は受けていた。

 最初の清水の反発を見た時は呆れしか無かった。

 しかし、よくよく考えてみると、威堂は石凪のグループにいたのだから当然の反応である。

 別に俺はあいつに対して特に嫌な感情は抱いていないので特には何も思わなかった。


 そして、あの時の俺は最初のうち、何も動けていなかった。

 イルデイクさんが貫かれた時、一番最初に動いたのは威堂だった。

 俺の中ではあいつは弱者のイメージしかなかった。

 しかし、それは違った。

 あいつは闇死神ダークリーパーの装甲を砕いて退かせたのだ。

 そして、イルデイクさんを連れてさがったところを見て俺は初めて動いた。


 そこから必死だった。

 重いし速い攻撃の数々を三人で分散して戦う。

 しかし、俺なんか眼中にないように威堂警戒されていた。

 その後も入り込む隙を伺えずに威堂一人で足止めした。

 俺は悔しかった。

 だから、俺はあいつの行動を観察した。

 あいつは決して正面から打ち合わずにひたすら受け流すか、避けていた。

 俺にはできない芸当だった。

 しかし、時折真正面から当たると押されたりしてるあたり、ステータスが弱いのは明白だった。

 それでも対等に渡り合うあの力があるのを羨んだ。

 それでも、守れないものだらけだった。


 俺達の目が届かない最前列で闇死神ダークリーパーはいた。

 俺は絶望した。

 しかし、あいつがまた何とかした。

 その状況で強さに酔った自分が馬鹿らしくなってきた。

 なぜなら、あいつは自分のできる最大限を常に活かしているのだ。


 俺はもう迷わない。

 いずれ追いつく障害だ。

 絶対に乗り越えてみせる。

 俺は遠征が終わり、そう決意した。


 ー『勇者の欠片』が生み出されました、それに伴い夢幻ファンタズムが解放されますー


 そして、その2日後の時だった。

 そんな声が聞こえた。

 俺は不思議に思った矢先、自然とステータスを見ていた。


 ーーーーーーーーーー

 須田 真斗 LV14

 職業 勇者

 MP∞

 str5670

 vit3570

 agi2690

 int3450

 men2760

 luk860


 スキル

『剣技LV3』

『ステップLV3』


 レアスキル

『体力増強LV3』

『筋力増強LV3』

『魔力操作改LV3』

『魔力増強LV3』


 ユニークスキル

『天動魔法LV1』

『天動剣LV1』

『身体回復【微】LV3』

『取得経験値倍加LV1』

『必要経験値減少LV1』

『勇気の印LV1』


 伝説レジェンドスキル

『勇者LV1』

『勇者の剣LV1』

『勇者の魔法LV1』


 夢幻ファンタズムスキル

『勇者の欠片』

 ーーーーーーーーーー


 夢幻ファンタズムスキルを見た時、俺は三文芝居を見てる気分だった。

 決意をすることにより、強くなる。

 理想の光景だ。


「ていうか、∞ってマジかよ…」


 でも、欲しかった強さが手に入ったことが俺は嬉しかった。

 俺は軽くスキップをすると一人の男性に目が止まる。


脚辛アシガラ先生、何してるんですか?」


 俺は軽く挨拶をする。

 先生達は遠征の時はいなかった。

 生徒と比べて殆どの先生が成長などが遅いため、俺達と同じくらい速い先生も訓練などは別で行われている。

 久しぶりに見た。

 彼は新人の英語の教師の脚辛アシガラ 幸助コウスケだ。

 黒髪で背は高めのとてもいい先生だ。


「須田くんか…」


 先生は元気なさそうに呟く。


「あの、どうしたんですか?」


「君は平気なんだね…」


「何がですか?」


 先生に対してそう言うしかなかった。

 俺には何のことかわからない。

 しかし、先生は思いつめた表情である。


「僕はあの時いなかったことが悔やまれる。

 僕には何かする力なんて無いのはわかってる。

 何か変わったわけでも無い!

 でも、僕には力が無いのがなによりも悔しい!」


 その瞬間、先生の言ってることが分かった。

 死んだ人達のことを言っているのだろう。

 俺はその時、初めて人の死を知った。

 俺はどこかまだ遊び気分があったのだろう。

 殺し合いと認識していても全てが呆気ない結果だった。

 いや、呆気ないで済まされる事じゃなかったのだ。


「先生…」


「済まない、取り乱したな。

 一番、苦しいのはその光景を見ていた君達のはずなのに…」


「いいえ、ありがとうございます。

 決意が出来ました」


 俺は心を入れ替える。

 絶対にもう誰も死なせない。

 俺はその場から立ち去る。


 ー強く…なりたいー


 それはこの世界に来て誰もが願っていることだ。

 決して俺だけでは無い

複雑でも何でもない思惑が溢れています。

読んで頂きありがとうございます。

面白いと思って頂けたなら幸いです。

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