三下はお話をする
あれから一週間の時が経っていた。
訓練を受ける時間だった。
カンッ、カンッ
と甲高い音が訓練所で響き渡る。
そう俺は今、他の人達の訓練を見て座っていた。
勿論、俺一人じゃない。
後藤 信二と体育座りしていた。
彼の役割は『成り上がり』だ。
それだけでわかる人はわかる。
要するにテンプレ属性である。
俺達二人は覚醒がまだとしてあまり訓練には参加させてもらえなかった。
まぁ、ある程度のことは教えてもらってるし、実はあまり差別らしい差別はされていない。
因みに石凪達を避けているためいじめられることはまだない。
「なぁ」
「なんだ?」
俺は暇になり、後藤に話しかけてみた。
「お前は変わるなよ」
「何がだよ…」
「ほら、成り上がりものの主人公って性格が変わる人が多いだろ?」
「それを言うならお前もだろ?」
「それもそうか…」
俺と後藤の話は途切れる。
かなり気まずい。
実際俺は彼とは違うのだから…。
彼とは違い俺は何も得せずして召喚したわけでない。
ましてや、何かを得るために何も得ないで召喚された訳では無い。
俺は『運命』に抗うために何かを得ているのだ。
形に見えぬだけで俺は持っている。
まぁ、それに気付いたのは今日なんだけどな…。
「とりあえず、日課に行きますか」
俺は立ち上がる。
その横の後藤も立ち上がり埃を払う。
日課とは俺達の参加できない訓練の間に王宮内の図書館でこの世界についての知識が載った本を読破することである。
最初の頃は(3()日前)御都合主義的な作用で読めるが、いかんせん日本語では無いものを読む違和感が読むのを結構邪魔して読むのが遅かった。
今となっては、日本にいた頃より読むのが早くなっている。
「天津、次それ読ませてくれ」
「分かった、信二そこのさっきまでお前が読んでたの…」
お互いに淡々と話すが、この時の俺達はお互いに名前呼びになっている。
何故か自然と…。
ここから先の訓練は参加しても意味が無いため俺達は自由時間になるまでの間、ここでずっと情報を仕入れていたのだった。
************
自由時間になり、俺は部屋にいた。
コンコン
とノックの音が響く。
俺はドアの前に立つ。
「誰だ?」
「木葉 瑠花です。
本日はお話があって参りました」
俺は一つ息を吐いて、渋々とドアを開ける。
「んで、何の用だ?
いくらまだ明るいと言っても男の部屋に来るのは不用心だろ」
「君は私に何かするの?」
木葉生徒会長は上目遣いでいたずらっぽく笑いながら問いかける。
正直言って、この人は色々とずるいと思う。
「しないけど、わからないぞ」
「そうだね、でも今回は少し大事な話があってきたの…」
途端に木葉生徒会長の雰囲気が真面目なものに変わる。
この人は普段はいたずらっ子みたいな顔しているが真面目なときは本当に雰囲気が変わる。
木葉生徒会長は部屋に入って勝手に椅子に座る。
「意外と片付いているんだね」
「まぁな」
木葉生徒会長は意外そうに部屋を見渡す。
「それで話は?」
「そうだったね」
忘れてたという表情で木葉生徒会長は舌を出す。
あざといが可愛いからいいだろう。
そして、仕切り直すように手を叩く。
「君、あの時気を遣ったでしょ?」
「なんのことだ?」
木葉生徒会長の声は厳しいものになっていた。
この時の木葉生徒会長の表情は普段からは想像つかない程、威厳のあるものになっていた。
「私個人であなたの言った名前の人を調べたんだけど、その半分が精神が安定してない人ばっかりだった。
それこそ、何かあればすぐに自殺してしまうくらい…」
概ね合っていた。
実は第一犠牲者より第二犠牲者の方が数が多い。
恐らく、第一犠牲者が死んだショックで自殺をした人間だと考えている。
大半の第二犠牲者が今、精神安定していない人が多いのである。
第一は今、張り切っている人が多い。
「それがどうかしたのか?」
「だって、その人達の名前を行った時、私に対して無意識だろうけど申し訳なさそうに見てたよね?」
鋭い、確かに木葉生徒会長の言った通りだ。
俺は彼女の役割『人柱』について黙っていた。
「やっぱり、知っているんだね…。
私がそのうち生贄、または人柱になることを…」
その瞬間俺の心は揺さぶられた。
俺の顔に出ていたのか?という疑問はもはやどうだっていい。
木葉生徒会長が何故、自分が『人柱』になることを知っているのか…。
「ど、どうして…?」
「そうだもん、だってこれは私が生まれた時から背負った運命だもん…」
俺は一瞬、ビクッとした。
今までの木葉生徒会長の話し方から見て俺と同じ可能性は捨てた。
けど、自然と怒りが湧いてしまった。
「『運命』?
馬鹿らしい…」
ギギギと拳を握っている。
「威堂くん?」
木葉生徒会長が心配そうに俺を見る。
俺は自分のしていることにハッと気がつき、落ち着ける。
「ごめんなさい、私が変なこと言うから…」
「いや、会長は悪くない。
俺がもっとしっかりしていれば…」
お互いに申し訳なさそうに謝る。
「いいの、私のデリカシーか無かっただけだから…」
「この話、もう辞めにしよう?
俺が言うのも何だが…」
「そ、そうだね。
今日のところは失礼しようかな?
あ、それと威堂くん、私のことは木葉または瑠花と呼ぶように…」
そう言って木葉生徒…木葉は立ち去った。
「はぁ、まさか…木葉が自分の未来を知ってるとは思わなかった」
俺は呼び捨てに言うことを恥ずかしがりながら呟く。
俺はふと机の上に置いておいたスマホを手に取り時間を見る。
本来なら携帯なんてもの使用すら出来ない。
しかし、俺はとある理由により充電ができるのだ。
ソーラー式充電機である。
まぁ、携帯があったってネットには繋がらない。
使う用途は時間確認とメモ、そしてある実験に今は使っている。
「この時間なら、おそらくあそこに…」
俺は立ち上がり、あることに行く。
俺が今から俺として生きるために諦めた自分を決別するために…。
************
「何の用だ?無能者」
その言葉と共に汚い笑いが聞こえる。
俺は今、石凪達と対面していた。
彼等は俺を見ると今の言葉を放ち、笑った。
まぁ、どうでもいい話だ。
「いや、ただ金輪際あんたと関わる気がないと言いに来た」
「んなことできると思ってるのか?
テメェの様な無能者は俺達くらいしか預かってくれねぇぜ」
相変わらず気持ち悪い。
そもそも、預かってもらうという前提が間違っている。
どうせ、こいつは話を聞かない。
だから、俺は決めていたことがある。
ー解析が完了しましたー
ー表示しますー
そんな無機質な声が聞こえる。
俺は俺は話を始めた時点で解析を行っていた。
彼等は7人で優位に立ったつもりだろう。
けど、甘いな。
ーーーーーーーーーー
石凪 数多 LV1
職業 魔剣士
MP130/130
str132
vit98
agi168
int198
men135
luk46
スキル
『剣技LV1』
『闇属性魔法LV1』
『火属性魔法LV1』
レアスキル
『空踏LV1』
ユニークスキル
『魂気法LV1』
ーーーーーーーーーー
確かにこいつは強いがユニークスキル『魂気法』は殺した敵の魂を利用して強くなったり特殊な技を使えるスキルである。
要するにまだ、こいつは弱いのだ。
ステータスに差はあるがそれはどうとでもなる。
「なぁ、一つ提案なんだが、勝負しないか?
勝った方の言うことを何でも聞く。
内容は武器ありのケンカをさ…」
「いいのか?」
下卑た目に変わり始める。
それはそうだろう。
俺は落ちこぼれ、こいつは優秀ではあるのだから…。
「いいぜ、俺から言いだしたことだ。
かかってこい、テメェが俺を屈服させるのが運命なら俺はそれを変えてやる」
「意味わかんねぇこと抜かしてんじゃねぇ!
今からお前は泣いて謝っても俺たちのサンドバッグだ。
一生な」
直後、石凪の子分達が俺を取り囲む。
「別に一対一とは言ってねぇぜ。
逃げられたら嫌だからな」
逃げる?
勘違いも甚だしい。
それはこちらのセリフだ。
お前は知らない。
ここに来てから、俺は今まで掛かっていた肉体の制限が取り外されていることに。
石凪達が一斉に飛びかかってくる。
俺は踏み出す、今まで遅れていた反応はダイレクトに行き、数々の『技』が石凪達を襲う。
************
「これから俺に一切関わるな!」
俺は大量に倒れた人の中で立っていた。
死体では無い、その殆どが立ち上がる気力を失ったもの達である。
「な、何なんだよ…動かねぇ…」
かろうじて意識が戻った石凪が呟く。
俺は溜息を吐く。
彼等には言ったはずだったのだ。
俺は昔から色々な格闘技や流派、武道を学んでいたと…。
しかし、彼等の愚かな行動で分かった。
確かにステータスは真正面からやったら絶対だが、技量がステータスを覆すほど圧倒的であればその限りでは無いと…。
因みに、俺には体が五テンポほど遅れるという体質なのだが、とあるスキルの影響でそれは取り払っていた。
ー夢幻スキル『身体制限解放』ー
これにはレベルが無く、俺の制限を取っ払う為だけに存在しているスキルだ。
故に、今まで以上の反応、反射速度で圧倒的…。
実質、今までの数倍の速度で動いている。
しかし、このスキルだけが恩恵な訳ない。
俺にはもっと、とんでもないスキルがあと一つある。
しかし、こんな雑魚相手に使う程俺はオープンなやつではない。
よく思う、ここまでやってもまだ『三下』なのだ。
この程度じゃ、運命は揺るがないみたいだ。
「おもしれぇ、そうじゃないと変え甲斐がない…」
俺はそう呟き、部屋に戻る。
************
「おう、いたいた」
とりあえず、部屋に戻ったらアレをしなくてはな…。
「おーい、聞いてますか?」
でも、今日疲れたからなぁ。
明日頑張ろう。
「威堂、返事してくれ」
「ん、故ノ河か何だ?」
「いや、さっきから声かけてたんだが…」
「そうか?
すまんな、今度からはしっかり名前を呼んでくれ」
俺に話しかけてきたのは故ノ河だった。
役割は『主人公』であり、完全なる努力タイプだった。
訓練の時なんて、火事場の馬鹿力で何度も立ち上がってくる大馬鹿者だからな。
いや、頭いいように見える脳筋か…。
「それで、何の用だ?」
「そうだ、今日訓練が終わる時いなかっただろ?」
そういえば、そうだな。
基本的には俺は後藤と訓練終わりに飯に行くか、風呂に行くかのどちらかしかない。
「それが?」
まさか、今更ながら怒られるとか?
俺は少し身震いする。
「いや、お前達に明日遠征だから、集合場所は城を出てすぐのところだとさ」
そういえば、近々あるとか言っていたような…。
まぁ、伝えてくれたのは素直に嬉しい。
木葉はって?
多分、あの人は素で忘れてることもある人だから…。
「ふーん、ありがとう助かった。
持ち物は?」
「初日に配布した皮の鎧と訓練用の剣でいいってさ」
「分かった」
俺が立ち去ろうとすると思い出したと言わんばかりに手を叩いて故ノ河は俺に話し始める。
「そうそう、当日パーティー組まねぇか?」
「何だ?美味しいものでも作るのか?」
「いや、そっちのパーティじゃないから…」
「分かってる、いいぞ。
しっかりと、お前の仲間には説得しておけよ」
お前の親友にまた敵意向けられる中で戦いたくないぞ。
「それこそ、分かってる」
そうして、俺と故ノ河は別れて、俺は部屋に戻った。
明日のためにも俺は疲れを癒すために倒れ込んだ。
******???******
私は高校になってから彼を見たくなかった。
小中とあったあの光が無くなり、堕落して行く姿を見たくなかった。
だからだろう、私が別の光に縋っていたのは…。
威堂 天津は私にとって特別だった。
しかし、それは中学までの話だった。
しかし、それは揺らぎ始めていた。
ふと、私は威堂を見かけて追いかけてみるとそこには石凪達がいた。
私は立ち去ろうと思った。
石凪は威堂から光を奪った。
そう思っていたかった故の行動だ。
もし、彼の口から自分から望んで自分がそれを喜んでやっているとは聞きたくない。
威堂が石凪と同じ考えだと聞きたくない。
立ち去ろうとした瞬間、私は聞いた。
「いや、ただ金輪際あんたと関わる気がないと言いに来た」
私は息を飲んだ。
私の足は止まり、自然と会話に耳を傾けていた。
そして、彼がとんでもないことを口走り始めた。
「なぁ、一つ提案なんだが、勝負しないか?
勝った方の言うことを何でも聞く。
内容は武器ありのケンカをさ…」
馬鹿じゃないの?
そんなことしたらあなたが…。
私は飛び出そうか考えて、よしと決意した瞬間だった。
「いいぜ、俺から言いだしたことだ。
かかってこい、テメェが俺を屈服させるのが運命なら俺はそれを変えてやる」
運命を変える…。
そう彼は確かに言ったのだ。
彼が高校生になってから一度も言っていないこの言葉を…。
私は揺らぎかけた。
今の立場であるか、それとも、また彼を好きになっていいのか…。
私はそっと立ち去る。
何故か彼が勝つような気がしたから…。
小学校の頃、一人だった私にこう言ったのだ。
『お前も一人か?
勿体ない、お前は可愛いのにな。
そうだ、俺も一人なんだ。
一人同士だし何か一緒に遊ばない?』
彼も一人だった。
しかし、彼は私とは違って一人だった人に話しかけて時折、『ぼっちの会』なんていうことをやっていた。
人数はまばらで必ず私と彼の二人はいた。
中学の時、私と彼はあまり話さなくなった。
彼には話す人が出来ていたが、彼だけがその場所では異質だった。
そうしていき、彼は必死で何かに対抗するように動くがそれら全てが後手に回り、当て馬のようだった。
けど、彼がいつも言っている言葉があった。
『それがどんな結末かなんて興味はない。
けど、嫌じゃないか?
だから俺は一人でも頑張るの…。
運命を変えてみせるために』
人からは厨二病だと蔑まれていたが、わたしには何か違って見えた。
何かを本気で変えようと頑張っているのだ。
多分、そこが私が惹かれてしまった部分だろう。
だから、今日は少し嬉しかった。
久々に彼のあの目と言葉を聞けたのだから…
次回は迷宮回です。
さて、パーティーは誰と組むのか…
今日中に更新できるといいな…
読んで頂きありがとうございます。
面白いと思って頂けたなら幸いです。