僕はヤンデレ化はしませんからね
前半は少年視点。後半は少女(元少年)視点。最後に第三者視点となってます。
恋愛的な何かを書きたかった。
医療技術の発達と、性に関するある権利問題から、16歳・・・義務教育を修めるまでの間に一度だけ、性別を選ぶ権利が子供達に与えれた世界。思春期を迎えた時、異性との違いを意識し始めた時、自分の体の成長に悩んだ時。少年は少女に、少女は少年に。多くは無いが、珍しくも無い割合で、別の性を子供達は選び。
そして、また思春期に、異性に、体と心の変化に、泣いて笑って悩んで恋をして、彼ら彼女らは生きて行く。
性転換を行う者の割合は、大体中学卒業の春、高校デビューに合わせて行う者が多い。8割はこのタイミングだ。
そして性転換を行った者の割合は、高校なら一クラスに一人は確実にいるくらいで、そう珍しくは無い。
そう、俺のクラスにも、中学卒業後に性別を変えた生徒が居る。
天野・詠。肩まで伸ばした髪に、タレ眼で柔和な顔のおっとりした雰囲気の少女。物静かで余り主張せず、何時もにこやかな微笑みを浮かべて人の話に相槌を返すだけ。男子の間では結構可愛いと人気は有るが、反応が暖簾に腕押しで掴みどころが無いなんて言われている。まぁ、その反応は男子にのみなんだが・・・。
彼女は、中学までは男子生徒で、俺・・・須尭・渓の幼馴染だ。
男の時も、やっぱり今みたいに何時もにこにこ笑って、物静かな奴だった。でも、中学まではその所為で『何時もへらへらして気持ち悪い。』『根暗。』と言われてアイツは虐められていた。
だからって訳じゃないが、アイツには俺以外にまともに話が出来る友達が居なくて、何時も何時も俺にくっついて歩いてた。
それは、アイツが女になっても変わらなくて・・・。
「渓君。」
放課後、クラスメイト達が帰宅する者、部活に向かう者、集まって駄弁る者にそれぞれ動き出す中、帰り支度を整えた俺に、聴き慣れない、でも聴き慣れた、女子にしては少しだけ低い声が耳に届く。
視線をやれば、そこに何時も通りに、にこやかに笑う詠の姿が有り・・・。
「あぁ・・・詠、一緒に帰るか?」
「うん!」
中学から変わらない、何時ものやりとり。アイツが声をかけて、俺が誘う。家が近いから、そうして何時も一緒に帰る。
いや、中学の頃は、虐められてたからアイツを一人にして置けなくて、俺から声をかけて誘っていた。
高校に上がって、アイツが女になって。確か、今はもう友達も居ると聞いたけど・・・。
だから、『友達と一緒に帰らないのか?』って聞いた事が有るが、『渓君と一緒が良い。』って返されて、その日から帰りにはアイツが俺に声をかけて来る様になった。そうしないと、置いて行かれる・・・とでも思ったのかな・・・。
アイツが中学の頃の虐めで負った心の傷は、とても深いのだろう。今は虐められていなくても、友達が出来たとしても、まだ他人が怖いのだろう。一人が怖いのだろう。
「・・・渓君?」
「んあ?どうした、詠?」
「難しい顔してた・・・何か悩み事?」
「あ・・・いや、何でも無いんだ、気にするな。」
顔に出てたか、いかんな。俺は顔に思った事が出やすいらしい・・・引き締めねば。
アイツは頼れる相手が俺しかいない、だから何時も傍に居る・・・それだけだ。
「ねぇ、渓君。渓君は、部活動・・・やらないの?」
「いや、参加は自由だしな、考えてないが・・・。」
「でも、渓君は昔から絵が上手かったよね。美術部とか楽しそうじゃない?」
「まぁ・・・確かに絵描きは趣味の一つだが。別にいいよ、部活に入ったら詠が一人になるだろ?」
「ん、大丈夫。僕は、渓君が好きな事して欲しいし、それを見てるのが好きなんだ。だから、待つのも平気。」
「いや、そこは一緒に美術部に入ろう・・・じゃないのか。」
「あ、そうだね・・・えへへ・・・。」
「っ!!」
くっ・・・危ない、落ち着け、俺。
アイツが女になってから、ふとした昔から変わらない仕草の一つ一つに、ドキッとさせられる事が増えて来た。今の、はにかむような笑顔もそうだ。・・・くっそ可愛い!
こういう時、アイツが異性なんだと認識させられる。そして、意識しそうになる。
でも、駄目だ。アイツは俺を頼ってくれているんだ。昔から変わらない、アイツが一人ぼっちにならない為の居場所として、俺が居るんだ。
もし、俺が異性を意識して、色々態度が変わったりよそよそしくなったらアイツは不安になるかもしれない。虐められてた記憶から、アイツはどうも男が怖いと言うか苦手みたいだし・・・。
そんな、アイツの信頼を裏切る様な事をする訳にはいかない。
だから、俺は常に平静を装い、今まで通りに・・・
「そう言えば渓君。お昼は何時も菓子パンだよね。」
「あぁ、おふくろが面倒臭がって弁当作らないからな。自分で作る気も無いし。」
「ふ~ん・・・。じゃあ、僕が作って上げようか?」
「え?・・・そういや、詠は毎日弁当持って来てるが、あれは自分で作ってるのか?」
「うん、昔から家事の手伝いしてたし、結構得意なんだよ?」
そう言えば、アイツの家って母子家庭で母親が仕事から帰るのが遅い事も多いんだっけか・・・。
だから、昔から2つ下の妹の面倒見たりしてるって言ってたな。
「んじゃ、お言葉に甘えて、明日の昼は頼もうかな。」
「任せてよ。頑張って美味しいの作るからね。楽しみにしててよ!」
「おう、出来れば食べられるレベルの物を頼むぜ!」
「何それ!酷いよ・・・。」
「はははは!冗談だ、悪い悪い。」
いやもうね、めっちゃ楽しみなんだよ、可愛い女の子の手作り弁当とか。
だがそこで素直に楽しみです!と返すのは俺らしく無いとちょっと捻くれたが・・・失敗した!
なんだよ、何ぷくーって頬ふくらませてるんだよ、可愛いからやめなさい!
あぁ、クソ、照れ隠しに勢いでアイツの頭をくしゃくしゃ撫でたら、髪がすげぇさらさらで手触りめっちゃいいし、アイツもアイツで『えへへ・・・。』って嬉しそうに笑いやがって、可愛いなおい。
はぁ・・・、こいつ自分が女の子の上、かなり可愛いって分かってんのかね・・・。
事情知ってる俺だから良いけど、他の男は色々勘違いするぞ・・・?
ああ、もうほっとけないなぁ、こいつは。俺が傍にいてやらないとな・・・。
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「渓君。」
放課後の教室で、帰り支度をしている少年に声をかける。
僕の声に気付いて、彼がこちらに振り向く。僕より頭一つ大きく、短く刈り上げた髪に太く力強い眉にツリ目で更に三白眼・・・ハッキリ言って気の弱い人なら泣き出しそうな強面。でも、本当はすっごく優しいって知ってる、僕、天野・詠の幼馴染の須尭・渓。
「あぁ・・・詠、一緒に帰るか?」
「うん!」
渓は何時も、僕と一緒に居てくれる。少し人見知りしてしまう僕は、中学に入ってから上手く人の輪に入れなくて一人ぼっちになっちゃって。
でも、渓だけは何時も僕の相手をしてくれた。だから僕は全然寂しく無かった。
高校に上がって、今度は上手く友達が出来たけど、でもやっぱり渓と一緒に居る時間が一番落ち着くんだ。
だから、学校では友達と過ごすけど、帰りは絶対一緒に。
でも・・・渓は一度、『友達と一緒に帰らないのか?』って聞いて来た。それって、渓は僕と一緒に帰るのが嫌って事なのかな?そんな事無いよね?『渓君と一緒が良い。』って言ったら、それからも一緒に帰ってくれるんだから。
そう思ってると、渓が眉間に皺を寄せて難しい顔をしてる。強面でその表情はダメだよ渓。
「・・・渓君?」
「んあ?どうした、詠?」
「難しい顔してた・・・何か悩み事?」
「あ・・・いや、何でも無いんだ、気にするな。」
ふ~ん・・・。なんだろう?絶対悩んでるよね。でも、僕に言えない事なのかな。
渓は優しいから、他人に心配かけない様に一人で抱え込んじゃうんだよね。出来れば僕には相談して欲しいな、力になりたいのに。今は無理でも、何時かきっと・・・。
その為に、もっと渓君と仲良くならないとね。渓君の興味ある事とか知りたいところだね。
「ねぇ、渓君。渓君は、部活動・・・やらないの?」
「いや、参加は自由だしな、考えてないが・・・。」
「でも、渓君は昔から絵が上手かったよね。美術部とか楽しそうじゃない?」
「まぁ・・・確かに絵描きは趣味の一つだが。別にいいよ、部活に入ったら詠が一人になるだろ?」
「ん、大丈夫。僕は、渓君が好きな事して欲しいし、それを見てるのが好きなんだ。だから、待つのも平気。」
「いや、そこは一緒に美術部に入ろう・・・じゃないのか。」
「あ、そうだね・・・えへへ・・・。」
渓君と一緒に部活動か・・・良いかも。僕はあんまり絵は得意じゃないけど、渓君に教えて貰って、一緒に一枚の絵を仕上げる・・・。その時、筆の動きを教える為に手を取られたり・・・。
うん、部活入ろう、そうしよう。
・・・あれ、でも待てよ。渓君って基本的に面倒見良いから、他に絵が苦手な子が居たらそっちにも手を貸して上げて、強面だけでホントは優しいって人気出ちゃって、モテたりなんかしたら。
よし、却下。放課後は渓君を独り占め出来る帰宅部で十分です。
となると、他に仲良くなる方法は・・・。あ、そう言えば。
「そう言えば渓君。お昼は何時も菓子パンだよね。」
「あぁ、おふくろが面倒臭がって弁当作らないからな。自分で作る気も無いし。」
「ふ~ん・・・。じゃあ、僕が作って上げようか?」
「え?・・・そういや、詠は毎日弁当持って来てるが、あれは自分で作ってるのか?」
「うん、昔から家事の手伝いしてたし、結構得意なんだよ?」
そう、僕は普段、同年代の子が遊んでる時にずっと家の手伝いをしてたから、家事全般は得意なんだ。まぁ、その所為で付き合いが悪くて友達が全然出来なかったんだけど・・・。けど、そのおかげで渓君が一緒に居てくれたから良いんだけどね。
「んじゃ、お言葉に甘えて、明日の昼は頼もうかな。」
「任せてよ。頑張って美味しいの作るからね。楽しみにしててよ!」
「おう、出来れば食べられるレベルの物を頼むぜ!」
「何それ!酷いよ・・・。」
「はははは!冗談だ、悪い悪い。」
もう、渓君は昔からそうだ。僕が気合を入れるとからかって。小学生の頃はそれで良く僕が空回ってたから仕方ないんだけどさ。
だから今もこうやって、世話の焼ける弟分を面倒見てるつもりなんだろうね・・・。
男の時と同じように、大きな手で僕の頭をくしゃくしゃに撫でてさ。うん、暖かいから好きだよ。
そう、僕は渓君が好きだよ。友達としてじゃない、ずっと傍に、隣に居たいんだ。
だから僕は女の子を選んだんだよ。
絶対、君の傍に居て見せるからね。
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私、麻生・和は、高校に入ってから出来たクラスメイトで友達・・・ほんわかした雰囲気の癒し系とか言われそうな少女、中学まで男子だったと言う天野・詠の話を聞いて、何となく頭が痛くなった気がして眉間を押さえる。
「どうしたの和ちゃん?」
目の前で如何にも無害そうな、ふんわりした笑顔の少女がこてんっと首を傾げる。
「いや・・・詠ってさ、一途っていや聞こえは良いけどさ・・・。うん、K君だっけ?ホントに好きなのね・・・。」
「うん、渓君はホントに優しくてね。この前も、先生に頼まれた宿題のノートを運ぶの、何も言わずに手伝ってくれたし、その前も・・・。」
「よしよし、優しいのは分かった。だからそれ以上、K君の日常を語らなくてよろしい。」
はにかみ笑顔で、眼を輝かせている様は恋する乙女で大変よろしいがね・・・。
K君とやらの一日の行動を起きてから寝るまでとか、休日の過ごし方とか、得意科目や好きなスポーツや好物だの個人情報を嬉しそうに語らないでくれまいか。
K君よ・・・君の知らないところで君に詳しい人間が出来つつあるぞ・・・。
「はぁ・・・あんたってさ、無害そうな顔して・・・ヤンデレ化しそうね。」
「え~、和ちゃんヒドイ。僕、そんなんじゃないよ~。」
心外だと言わんばかりに頬を膨らませる少女。おーおー、元男とは思えない可愛らしい事で。
でもさ、あんた、下手したらK君の交友関係・・・それこそ携帯のアドレスまで把握してたり、もっと色々知ってそうで怖いのよね・・・。聞けないけど・・・。
それにさ・・・。K君に他の女子が近づく時は必ず見てるよね。なんかセンサーついてるの?って位かならず気付くよね。その後、相手の女の子の事調べるよね。
私も、調べられたのがきっかけでアンタと話すようになったからね・・・。
「うん、やっぱり、あんたはヤンデレ化しそうじゃないわ。」
「そうだよ~。」
「既に病んでるわ。」
「え~・・・。」
拗ねる友達をなだめながら、私は彼女の思い人に胸の中でエールを送る。
K君、色々頑張れ。事件にならないようにな!
書き始めた時は、普通の純愛的なモノにしようと思ったのですが・・・。
何か書き進めて行く内にTS娘さんが病んで来た・・・。
なんでやろ・・・。