タイムマシン
ああ、なんでこんなことになってしまったんだろう。
僕はあれからずっと、後悔をしている。
それは、5年前の出来事だった。
僕はその時20歳の大学生だった。
僕は彼女と付き合っていて、その日は付き合って2年目の記念日だった。
僕は彼女と付き合って2年目のお祝いをしようと、駅前で午後7時に待ち合わせる約束をしていた。
けれど僕はその日バイトが長引いてしまい、待ち合わせに間に合うことができなかった。
僕が待ち合わせの時間に間に合っていれば、あんなことにはならなかった。
彼女が死ぬことなんてなかったんだ…。
あの日、駅前に通り魔が現れた。
通り魔は駅前の彼女を含め多くの人々がいた待ち合わせスポットに現れ、無差別に人々を刺していった。
彼女は不運にも、突然現れた通り魔に刺され帰らぬ人となってしまった。
僕は、通り魔を恨んだ。あいつさえいなければ、あいつさえ現れなければ…。
でも、それと同じか…それ以上にあの時待ち合わせに遅れた自分を恨んだ。
僕がもし時間に間に合って、彼女と会えていれば、こんなことにはならなかったと。
その日からずっと、僕は後悔し続けている。
その後通り魔は裁判で死刑になり昨日執行された。
僕は、この怒りの矛先を自分に向けることしかできなくなった。
そして今日は彼女の命日。
僕はいてもたってもいられず、外へ飛び出し走り出した。
そんな時だった、僕がタイムマシンに出会ったのは…。
それは、僕が怒りに任せて走って走って今まで来たことがない住宅街に入り込んで、ふと休もうと入った公園のベンチの下に落ちていたチラシを拾い上げたときだった。
それは、ある広告みたいで、白い紙に黒いペンで
「あなたは過去に戻ってやり直したいと思ったことはありませんか。
そんなあなたにタイムマシンを貸しだし〼
住所 □□□町 △△△番地 ○○○」
と書いてあった。
最初は嘘だと思った、わけのわからない宗教団体の広告だと思った。
でも、なんだか気になって、広告の下にあった住所の場所に行ってみようと思った。
その時僕はもうどうにでもなれっていう気持ちだった。
別に嘘でもいいじゃないか、そんな気持ちで目的地を目指した。
書かれた住所の場所は、あるマンションの一室だった。
チャイムを押してみると、白衣を着たいわゆる博士みたいな人が出てきた。
博士は僕が持っていた紙を見ると、
「どうぞ、入ってください。」
と部屋に入れてくれた。
そして、応接室のような場所に通された。
そこは机が一つに、椅子が二つ置いてあるだけの簡素な部屋だった。
ただ、床や机の上には書類や本がたくさん積まれていて少し触れただけで崩してしまいそうだった。
僕が座ると、博士も座った。
僕は
「ここに書いてある、タイムマシンってのはなんなんですか。」
そう、チラシを指さしながらきいていた。
「その名のとおりタイムマシンです。過去に戻ることができるキカイです。」
博士は答えた。
「そんなものが、実在するんですか。そもそもそんなことが可能なんですか。」
僕は訊いた。
「まだまだ、技術としては未熟ですが可能です。私はタイムマシンを試してくれる被験者を探していたのです。ご覧になりますか。」
そういうと、博士は僕を隣の部屋につれていった。
僕はそこでタイムマシンを見た。でもそれはアニメや映画に出てくるタイムマシンのイメージとは大きく異なっていた。なぜなら、それは自転車のような形だったからである。
博士は言った。
「これが、タイムマシンです。このペダルをこげばこぐほど過去に戻ることができます。」
僕は、馬鹿らしくなって
「うそだろ、そんなことがあるわけがない。何がタイムマシンだ馬鹿らしい。」
と言った。
「わかりました。では、今の時刻はちょうど」
そう博士が言いかけたとき、僕のケータイのアラームが鳴りだした。それは彼女が死んだ時刻18:30を告げるものだった。
「そうですね。では、この部屋で自転車に乗って、少しの間こいでから出てきてください。」
そういうと、博士は何やらアラームのようなものをセットし部屋の扉を閉め、出て行ってしまった。
僕はその部屋の中で、一人になった。
馬鹿らしいと思いながらも、まあやるだけやってみるかと思い。
サドルにまたがり、ペダルをこぎ出した。
何分もそうやっていると、アラーム音が鳴りだした。
ケータイを開くと時間は18:40。騙されたと思った。
僕は部屋を出ると、一瞬視界が真っ白くなり、気が付くとそこは彼女と待ち合わせをしていた駅前だった。
僕は突然何が起こったのかわからず、歩いている人にぶつかりそうになり、道の端に避けた。
何気なく駅前にある大型ディスプレイを見ると、時刻が18:29を指していた。
そして、表示が18:30を指した時、聞き覚えのあるアラーム音が鳴った。
それは、自分のケータイからだった。
僕は、その後いそいで博士の家に向かった。
チャイムを押すと、わかっていたかのように博士が扉をあけ、僕を部屋の中に入れた。
そして
「わかっていただけましたか。」
と一言言った。
「5年前に、5年前に戻りたいんだ。」
気付くと僕はそんなことを口に出していた。
「そうですか、どうやら信じていただけたようですね。」
「あの自転車は、こげばこぐほど過去をさかのぼることができます。」
「ただし…」
そう博士が言っているのを僕は遮り、
「被験者をやる。だから、早く乗らせてくれ。」
そう言った。
博士は
「わかりました。では契約書にサインしてください。」
と膨大な束の紙を机の上に置いた。
一番上には名前を書く欄があり、そこにサインをすればよいことはすぐにわかった。
焦っていた僕は、中身を読もうともせずそこにサインした。
博士はそれを見ると満面の笑みで
「では、こちらにお入りください。」
と言い、僕は先ほどと同じ部屋に入った。
「はやく、はやくしてくれ。」
僕がせかすと
「では、ひとつだけ忠告を。あなたが目的の時間になるまでこの扉は開きません。」
そういうと、博士は先ほどと同じくアラームをセットし、先ほど受け取った契約書を置いて
扉を閉め、出ていった。
僕は、サドルにまたがり、ペダルをこぎ始めた。
何時間こいだだろうか、僕は少し疲れて休憩しようと思った。幸い部屋には膨大な携帯食料や水が置いてあった。
僕はそれを食べながら、ふと先ほどの契約書を見てみた。
パラパラとみていくと、タイムマシンの原理や説明がずらっと書いてあった。
どうやら原理としては時間を距離に変換し、それをこぎ進めるようだ。
そして、最後の方に注意書きの項目があった。
僕はそれを見て驚愕した。
・時間遡行は戻る時間の4倍の時間がかかります。
・この部屋の中で過ごす時間はあなたの体に刻み込まれていきます。
・時間遡行は未知のことが多いです、何が起こっても責任はおえません。
そこまで読んで僕は目を通すのをやめた。
そして前に自転車をこいだとき、この部屋でケータイを見たときは時間がたっていたのを思い出した。
そして、僕は博士の言葉と笑みを思いだした。
「あなたが目的の時間になるまでこの扉は開きません。」
うそだろ、僕は少なくとも20年もの間自転車をこぎ続けなきゃいけないっていうのか。
僕は絶望した。でもこがなきゃいけなかった。こがないと自転車も僕の人生も前にすすまないから。
それから僕は自転車をこぎ続けた。
最初は何日たっただろうかと考えることもあったが、次第にそんなことを考えるのもやめた。
僕は何回後悔をしたかわからない。でもそのたびに彼女を思い出して、自分を奮い立たせた。
唯一の救いは食べ物と水はかなりの量あることだった。
それでも、20年も持つかなんてわからないと思い節約をしながら食べた。
使い終わったペットボトルに用を足すのにも慣れていった。
こいでは休みこいでは休みを繰り返した。
そして、膨大な時間がたった。
膨大にあった食料もなくなりはじめ、もうだめかと思い始めたときだった。
ピピー、ピピーとどこかで聞き覚えのあるアラーム音がした。
それは、時間遡行終了の知らせだった。
僕ははっと気づいて、扉を開き外に出た。僕の視界に一瞬とてつもない光が襲い、目を閉じる。しばらくするとそれはおさまり、目を開けるとそこは、久々に見る駅前だった。
そして、目の前には…
彼女がいた。僕は走った。人々は奇怪なものを見るかのような目を僕に向けた。
それはそうだろう、20年間で僕の外見はだいぶ変わった。
でもそんなことはどうでもよかった。
やっと、やっと戻れたんだ。
僕は伝えなきゃいけない。彼女にここは危険だから逃げろって。
僕は彼女と話すことはできなかったが、結果としてそれはなされた。
僕が近づいて彼女に話しかけようとすると、彼女は逃げ出した。
僕のこの姿がよっぽど不快だったのだろう。
彼女と言葉を交わすことはできなかったことは残念だったが、でもこれでよかったんだ。そう思えた。
きっと、彼女はこれで殺されずに済む。
しばらくすると警察官がやってきた。よっぽど僕が不審者に見えて誰かが呼んだのだろう。
でも、これで通り魔事件も起こらない。
そう安堵した瞬間僕は気を失った。
目が覚めると、僕は公園のベンチで寝ていた。
よく見るとそれは、チラシを見つけた場所だった。
なんだ、夢だったのか。
そう思った僕の左手には紙が握られていた。
そこには
「あなたは、時間遡行に成功しました。」
「とても、よいデータを取ることができました。」
「契約書の記載通り、あなたは元の世界に戻りました。」
と書いてあった。
裏を見ると、それは契約書の最後のページだった。僕が見ていなかった注意書きの続きだった。
・時間遡行に成功すると、修正可能な短い時間内であればそのまま時は流れますが、長い時間だと時間軸のずれが生じてしまうため、体に刻まれた時間はタイムマシンに乗った時間に戻ります。そして、戻った時間ではあなたが過去でおこなったことを前提に時間が過ぎています。
僕が、文章を読み終わる瞬間、声が聞こえた。
それは、僕が最も聞きたかった彼女の僕を呼ぶ声だった。
今回は、タイムマシンについてのお話を書いてみました。
普通のタイムマシンでは面白くないので、実は自転車で膨大な時間がかかるという落ちにしてみました。
最後はハッピーエンドで終わりますが、僕自身ハッピーにするかかなり迷いました。
なので、もしかしたら終わりを変えたバージョンも投稿するかもしれません。
追記
4作目として結末が全く異なるものを投稿させていただきました。
(10月5日 6:00 「タイムマシン~another story~」にて)
こちらの方も、ぜひ読んでいただけるとありがたいです。
前作同様、今後の執筆に生かしていきたいので、感想等メッセージをいただけると、とてもありがたいです。