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さんしょくし!  作者: 赤井つばさ
一日目
9/33

第八話 救世主は友達ですか?

「・・・・・んん。」

 なんだろう。頭や身体が妙に重い。

 早く起きて、マイの朝食を食べないと。

 きっと、またごはんの大盛が出てくるんだろうな。

 そのうち、

『今日の朝食は、お米スープだよっ!

 お米のエキスが染み込んだ研ぎ汁に、カリカリ食感の炊く前のごはん粒を入れてみたよ!』

 とか言い出すんじゃないか。

 ご飯を追求した結果、一周回って原点回帰しそうだな。

 目を開けると周りが薄暗く、天井が見えた。

 上半身を起こして、伸びをしようと腕を上げようとするも上がらない。

「あれ?」

 腕が動かない。

 なんでだろう。デジャブを感じる。

 なんでだっけ・・・・・。

 寝起きのぼやけた思考を段々とはっきりとさせる。

「そうだ!糸使いの奴と戦って、その後、捕まって・・・。」

 途中から記憶があまりないが、ぼんやりとなら思い出せる。

 周りを見渡すと薄暗い部屋の真ん中のソファにいることが分かった。

 どこかマンションの一室だろうか。

 ドアが二つあり、一つは玄関で、もう一つは別の部屋だろうか。

 部屋の隅っこに天井まであるトーテムポールが置いてある。

 なんか、こっちを見られてるみたいで怖いな、、、

 トーテムポールの顔の半分を照らすこの部屋唯一の光源を見る。

「なんだよ、これ。」

 見た瞬間、血の気が引いた。

 壁一面を埋め尽くすようにモニターが置いてあり、街の風景を映している。

 そのモニターが置いてある机の前に人影が見えた。

 暗い部屋でも存在感のある金色の髪で、身長は、、、小学生ぐらいだろうか。

「起きましたか?」

 こちらが起きたことに気づいて、振り返り、モニターから俺のほうに視線を移す。

 振り返るとき、椅子の横のタイヤを回す。

 あれは、椅子じゃなくて、車いすだったのか。

 振り返ったことで、全身の姿が見えた。

 日本人とは違う金色の瞳に、整った鼻、肌はシルクのように白く、なめらかそうな肌。

 髪は瞳の色と同じ金色で、長い髪を二カ所リボンで留め、いわゆるツインテールの髪型だ。

 顔は幼く、保護欲を誘われる純粋なまんまるとした瞳が印象的だ、

 やっぱりーーーー

「間違いない、小学生だ。」

「え?」

「いや、何でもない。」

 つい、口に出してしまった。

 相手も桜色の血色の良さそうな小さな唇から戸惑いの声を漏らす。

 そりゃ、見るから小学生の女の子に『小学生だ』と言っても当たり前のこと過ぎて驚かれるよな。

 と、そこで少女が唇に黒くて細長い何か咥えているのに気づく。

「何咥えてるんだ?」

「え?ええと、これは、、、」

「これは?」

「昆布です。昆布を乾燥させたもの。」

 少女は、後ろの机の左端を指さす。

 そこには、黒、いや黒に限りなく近い緑色の昆布の山が積みあがっていた。

「昆布・・・好きなのか?」

「好き、というか私の生命活動を維持するために必要不可欠なもの、かな。」

「へ、へぇ。」

 さらっと言った言葉だが、

 すごく、すごおく、マイのごはんに対する思いと似た食べ物への愛をこの子から感じる。

「私は、緑色のチームです。この髪をまとめているリボンが緑色なのが証拠です。」

 確かに髪のリボンは、両方とも緑色だ。

 ん・・・?緑色?

 敵じゃんっ!

 ソファから降り、少女と向かい合って立つ。

 でも、子供相手を睨みつけるのは、気が引ける。

 ここは、さりげなく相手の意図を読み取るんだ。

「あの、一つ質問いいかな?」

「はい、」

 さりげなく、優しくーーー

「なんで俺を縛ったままにしているの?」

「あのあの、そんなに警戒しないでください。争う気は、ないです。」

 一発で俺の心を読まれたああぁぁ!

 子供の読心術恐るべし。

「本当は、全部糸を取ってあげたいんですけど、その糸がなかなか頑丈で、

 顔の糸を取り外すので精一杯だったので。」

 なるほど。

「あと、治癒系のおふだを張りやすかったので、首から下の糸には、お札を張らせてもらいました。」

 なるほど。なるほど。

「すみません。私の力不足で、手足を自由に動かせなくて。」

 と、もじもじと上目遣いで本当に申し訳なさそうな顔で言ってくる。

 うん、確信した。

「いや、大丈夫だよ。顔だけでも出してくれる努力をしてくれたことが凄いう嬉しいよ。」

 この子、絶対いい子だ。すごいいい子だ。天然記念物並みにいい子だ。確信した。

 完全に警戒を解き、すーはー、と一回深呼吸して肩の力を抜く。

「そう言ってもらえると、私嬉しいです。」

「あ、そうだ。自己紹介。俺の名前は、高梨朱雀。君の名前は?」

「私の名前は、ソリヴァサミナ=テラ=テトカレア=チンピョンシェロア=ケポラリラ=トキプニ=ケシナ=ホァチスです。気軽にホーチスって呼んでください。」

 想像以上に長い名前だな。

「えっと、どこかの貴族とかだったりする?」

「そう、ですね。そこそこ高い位の貴族らしいです。ロロが言ってました。」

「ロロ?」

「私のお世話係みたいな方です。とっても良い方ですよ。

 フルネームは、えっと・・・ロロス・・・ロロス・・・・忘れちゃいました。」

 忘れないであげてっ!その良い人が悲しむよ。

「それで、ホーチスちゃんは、ここで何やってたの?」

 腰を屈めて、視線を同じにする。子供と話すときの大事なコツだ。

「私は、ここで街を監視して、情報を集めてました。

「情報?」

「はい、だから朱雀さんのことも知ってますよ。」

「俺のこと?」

「朱雀さんには、妹さんがいらっしゃるんですよね。

 銀髪で、朱雀さんより背が低くて、ご飯が大好きな妹さん。」

 朱雀の頬に一筋の汗が流れる。

「そして、灰色のチームのリーダーですね。」

「最初から見てたのか。」

「運が良かったです。カメラを設置したすぐ後にあなたと赤チームが接触したので、朱雀さんを追跡することができました。」

「じゃあ、糸使いから俺を救ってくれたのは、君なのか?」

「本当は、ここから出ちゃいけないとロロに言われてたんだけど、、、、

 朱雀さんを見てたら、放っておけなくて。」

「敵なのにか?」

「敵かどうかは、会って、観察して、分析して初めて判断するものです!

 分析した結果、朱雀さんは、協力関係を結んで良いと思いました。」

「待って。協力関係って何?」

「言い換えれば、と、ともだち関係です。」

「友達?」

「そうです!友達です!私と朱雀さんは、良い友達になれます!」

「待て待て待て!リボンの色をよく見ろ!赤のモブ使いも言ってたが、違う色の人間が合えば戦闘だろ!」

「そんなぁー。」

 ホーチスちゃんは、シュンと顔を下に向け、トボトボと車いすを動かして隣の部屋に行く。

「さすがに言い過ぎたな。」

 ヒドイことを言ってしまった。

 純粋な子供に向かってガチになる大人なんて嫌いになるよな。

 それも友達になろうって言ってくれた子供に対して。

 これまで友達なんていなかったから、友達と言われて正直戸惑ってしまった。

 でも、そうだよな。せっかく友達になろうって言ってくれたんだ。

 友達に敵味方なんて関係ない!

 ホーチスちゃんの言うとおりだ!

 謝ろう。そして、友達になろう、と言おう。

 高梨朱雀、十五歳、初めての友達を作るんだ!

 きっと誠意を持ってこの気持ちを伝えれば、まだ間に合う。

 大丈夫。大丈夫だ!

 朱雀は、ホーチスちゃんが入っていった隣の部屋の扉の前に立つ。

 扉は、木でできた質素なものだ。

 腕を縛られているため、ドアノブを下におろせない。

 そのため、扉の前で部屋の中に話しかける。

「ホーチスちゃん、さっきは言い過ぎた。ごめん。

 突然、友達って言われて、ビックリしたんだ。

 俺は、ホーチスちゃんと本気で友達になりたい。

 だから、ホーチスちゃんさえよければ、俺と友達になってくれませんか。」

「・・・・・」

 反応がない。

 やっぱり嫌われたのか。

 でも、ここで諦めない。友達になるって決めたんだ!

 朱雀が黙ると部屋の中が静かになる。

 静かで少し孤独を感じる空間だ。こんな場所にあの子は、ずっといたのか。

 外に出たらいけないって、言われてたのか。

 見ることしかできなかったのか。

 なんて、寂しい場所なんだ、、、、。


 ガチャリ

 と、そこで扉がゆっくりと開く。

「ホーチスちゃーーー!」

 扉が開いた瞬間、朱雀は目を見開き、バックステップで扉から離れる。

 その刹那、朱雀のいた場所にモン〇ンの大剣並みにデカい包丁が振り下ろされ、コンクリの床に円形のヒビが入る。

「友達じゃないの・・・敵さんなの。」

 ガリガリ、ガリガリーーーーーーー

 身体より大きい凶器を地面に引きずりながら、見開かれた目でこちらに迫ってくる。

 この様子だと、俺が今話した言葉も聞こえていなかったのだろう。

「せっかく友達が出来ると思ったのに、私の孤独を埋めてくれる存在が出来たと思ったのに、、、、。君も私を否定するの?私は、また孤独になるの?ヤダよ。もう我慢の限界だよ。」

「違う!もう一人じゃない!俺がいるから!友達になろう!」

「友達になれると思ってた人が敵さんになっちゃたよ。誰も私と友達になってくれないんだ。どうすればいいの?ロロ?ロロ?ロロ!!」

 ダメだ。自分の世界に入ってしまってる。

 俺の声が全く届いてない。

 今の俺は、腕が縛られ、満足に動けない。

 仮に動けても足武装を出せば、敵対行動と見られて、さらにややこしくなる。

「友達、友達、友だちぃぃぃいいい。」

 目の前に迫ったホーチスちゃんは、巨大な包丁を振り下ろす。

 バンっという音と共に地面からコンクリの粉塵が上がり、部屋を舞う。

「聞いてくれ!ホーチスちゃん!俺には、君の気持がわかる!

 いや、正確には、孤独な気持ちが少し分かる!」

 恐らく一撃必殺の攻撃をかわしながら、届けと願いながら叫ぶ。

「俺は、ずっと学校で一人だった!

 誰も近くに寄ってこなかった。何もしてないのに変態扱いされた。

 校長には、投稿一日目で怒られるわ。トイレに行くのにも一苦労する!

 つらかった。いや、今でもつらいさ!」

 少しホーチスちゃんの目がこちらを見た。

 そして、ありったけの声を上げて叫ぶ。

 感情を全部さらけ出す。

 本気のこの思いを伝えるんだ。

「でも!でも、俺は、この生活に幸せを感じている!!!」

「・・・・・・・・。」

 ホーチスちゃんは、動きを止め、

「M!ドМ!変態!」

 と、今までで一番威力のある振り下ろしをしてきた。

「違う!違うんだ!そういう意味じゃなくてーー」

「マゾ、ドマゾ、マゾラーマ!」

 心なしか、攻撃の速度も上がってきている。

「聞いて!お願いだから!俺が幸せなのはーーー」

 背中と壁がぶつかり、部屋の隅に追いつめられる。

 もう巨大包丁は、振り上げられている。

 あれが振り下ろされたら一発リタイアだ。

 でも、これは、これだけは、この子に伝えなくちゃいけない。

 孤独になる気持ちを知っている者同士助けたいと思うから。

 この気持ちを伝えたいから。

 何よりーーー友達になりたいから。

「俺が幸せなのは、家に帰れば、たった一人の家族がご飯を作ってくれるから!

 だから、俺は、一人じゃないと感じたんだ。

 幸せを感じたんだ。

 人の温もりを忘れずに生きてこれたんだ!」

 誰も接してくれなかった生活。人と接しても冷たい態度をとられるだけだった。

 俺の心からどんどん温かさが奪われていった。

 でも、マイの作ってくれるごはんが俺に温もりを与えてくれた。

 愛情を感じられた。

 だから、俺の心は、凍結せずに済んだ。

 だから、もしホーチスちゃんも同じ気持ちなら、心が冷たくなっているなら、

 俺が友達になってあげたいんだ。

 ホーチスちゃんを大切に思う人がいるって俺と同じように感じてほしいんだ。

 だからーーーーー俺と友達になってください。」

 振り上げた腕は、止まり、そのまま振り下ろされた。

 そして、朱雀の足元の地面に新たな円形状のヒビが作られる。

「うぐ、うぐ、、、ええぇぇぇええん。」

 ホーチスちゃんが朱雀のお腹にに抱きついて顔をうずめる。

「いいの?友達だと思っていいの?」

「もちろん。これからも、何があってもずっとずうっと友達だ。」

「うぐっ、ありがとう、ううぅ、」

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、強く、力強く抱き着く。

「朱雀さんの温もりを感じます。」

「俺も感じるよ。ホーチスちゃんの温もり。」

「朱雀さん、いい匂いがします。」

「ホーチスちゃんもいい匂いがするよ。」

 ビクッとホーチスちゃんの身体が震え、ジト目で上を向いて

「変態。」

 今まで幾度となく言われ続けた冷たい言葉。

 冷たすぎて、冷たさすら感じなく練っていた言葉。

 でも、なんでだろう。

 今、この言葉から暖もりをーーー

「今、変態だと自分でも思ったよ。」

「変態な友達です。」

 涙を拭い、お互いに見つめあい、

「「・・・・っぷ、ははははははは!」」

 二人の笑い声が薄暗い部屋の中に響き渡る。


 しばらくして、笑い声が収まり、朱雀はソファに、ホーチスちゃんはその隣に

 もたれかかるように座っている。

「・・・あの、朱雀さん。」

「どうしたの?」

「えっと、朱雀さんのこと朱雀お兄さんって呼んでいいですか?」

「え?」

 お兄さん、だと?

 まぁ、この見た目で男らしく振る舞ってきて、自分でも自分が男だというの忘れてることもあるから、しょうがないっていえばしょうがないんだけど、、、、。

 いつもなら受け流して、男のままやり過ごすんだけど、

 ホーチスちゃんは初めての友達だ。

 真実を打ち明けても、離れていかないだろう。

「ごめん、俺―――。」

「そんな・・・・私の友情の証を 受け取ってもらえないなんて」

「おい待て、ナチュラルに右手を凶器に近づけないで」

「え?あ、ごめんなさい、つい。えへへ。」

 つい?

 そんな笑顔で言われても。

「友達ってお互いを親しみを込めた愛称で呼び合うらしいので、

 親しみを込めてお兄さんって呼びたかったのですが。

 嫌でしたか?」

「いや、嫌っていうわけじゃ人だ。ただ・・・」

 恐れるな、言うんだ。

「俺、男じゃないんだ。」

「えと、男気はあると思いますよ?」

「もっと根本的な、性別的に男じゃないんだよ。」

「え?」

「だから、お兄さんじゃなくてお姉さんなんだよね。」

「ええええええええええええ!!!」

 目を見開くホーチスちゃん。

「えと、えとえと、ちょっと身体触っていいですか?」

「うん、いいよ。でも触っても体つきも女の子っぽくないから、

 判断しにくいかも。特に胸とか。」

 ペタペタと糸の上から俺の身体を触るホーチスちゃん。

「私も胸ないので大丈夫です。仲間です。」

「そういう問題じゃ、アッ、どこ触ってるの!」

「男と女の決定的に違う場所です。」

「それはそうだけ、アッ!」

「たしかになさそうですね。でも、とてつもなく小さいあれだという可能性も。」

「ない!!」

「そうですね。友達が嘘をつくはずがないですよね。

 でも、今まで男だと思ってたので、今からお姉さんと呼ぶのもなんだか違和感があるので、

 やっぱりお兄さんでいいですか?」

「うん。」

「良かったです!でも、これだと私だけが愛称で呼ぶことになりますね。」

「そういえば、そうだね。」

「うーーん、じゃぁ、私のことは、ええと、ホーチス、ホーチス、、、、、

 あっ!スーちゃんっていうのは、どうですか!?」

「いいね!スーちゃん!!」

「じゃあ、早速、呼び合ってみましょう!!」

 二人とも背筋を伸ばして、スー、と深く息を吸い込み、

「すざく、、、お、おにい。。。さん。」

「スー、ちゃん。」

「「・・・・・・・・・」」

 ボンっという音と共に顔を真っ赤にしてうつむく二人。

 そして、噛み締めるように二人が呟く。






「「初めての・・・・友達。」」


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